提督「龍驤は小さいよなぁ」龍驤「あ?」
1: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/19(月) 08:36:47.57 ID:/kOSYSxSO
提督「ん? よお龍驤、非番なのに朝早いな」
大鳳「おはようございます、龍驤さん」
龍驤「おはよう、大鳳、提督。お休みやからって生活リズム崩すなんてプロのやることじゃないわ。そんなことより今なんかウチのこと言っとったやろ」
提督「ん? ああ聞いてたのか」
龍驤「聞いてたのかーちゃうわ。朝っぱらからヒトの陰口言いよってからに」
提督「陰口って……まあ確かに気にする子は気にするかもな」
大鳳「あの、お気を悪くされましたら、ごめんなさい」
龍驤「いや大鳳は気にせんでもええよ。ていうか、気にする子は、って、大鳳かてそうやんか。提督にはデリカシーってもんがないんか」
大鳳「え」
提督「ん?」
提督「ん? よお龍驤、非番なのに朝早いな」
大鳳「おはようございます、龍驤さん」
龍驤「おはよう、大鳳、提督。お休みやからって生活リズム崩すなんてプロのやることじゃないわ。そんなことより今なんかウチのこと言っとったやろ」
提督「ん? ああ聞いてたのか」
龍驤「聞いてたのかーちゃうわ。朝っぱらからヒトの陰口言いよってからに」
提督「陰口って……まあ確かに気にする子は気にするかもな」
大鳳「あの、お気を悪くされましたら、ごめんなさい」
龍驤「いや大鳳は気にせんでもええよ。ていうか、気にする子は、って、大鳳かてそうやんか。提督にはデリカシーってもんがないんか」
大鳳「え」
提督「ん?」
2: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/19(月) 08:37:50.66 ID:/kOSYSxSO
雪風「予定を変更して龍驤さんのまな板でお送りしています!」
3: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/19(月) 08:38:37.10 ID:/kOSYSxSO
龍驤「?」
提督「……大鳳は、そこまで小さくないよな?」
龍驤「……は?」
大鳳「は、いえ、まあ、そこまで気にしたことはなかったですね……」
龍驤「え、いやいや。……まあ、いや」
大鳳「私、そんなに小さいですかね?」
提督「いや、見た感じ龍驤よりはデカいんじゃないか?」
龍驤「なっ!?」
大鳳「でも確かに、正規空母にしては小さいのかも……」
龍驤「ちょちょちょちょっち待てや! 今なんて!?」
大鳳「え、正規空母の中では小さいかも……?」
龍驤「いやその前! なんて言った!?」
提督「? いや、見た感じは大鳳の方がデカいだろ?」
龍驤「み、見たって……見たんか!?」
提督「いや、え? まあ、いつも見てるけど……」
大鳳「はい」
龍驤「っ……! …………そ、そうか……」
提督「?」
4: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/19(月) 08:39:25.50 ID:/kOSYSxSO
大鳳「あの、龍驤さん……?」
龍驤「や……な、なんでもない。ウチ、ちょっち用事思い出したから、もう行くわ」 タタッ
提督「なんだったんだ?」
大鳳「…………」
~~
龍驤「…………」
龍驤「(知らんかったわ……提督と大鳳がそんな関係やったなんて……)」
龍驤「(ウチは結構古参やし、練度ももうすぐ改二……かなり可愛がってもらってる方やと思ってたんけどな……)」
龍驤「(まあ、大鳳は装甲空母、ウチは唯の軽空母……同じような練度で同じような胸しとったら、大鳳を取るに決まっとる……)」
5: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/19(月) 08:40:27.92 ID:/kOSYSxSO
龍驤「はぁ……思ってたより、ダメージデカいわ……」
龍驤「(この鎮守府にはまだケッコン艦はおらんから、いずれは誰かが選ばれて、提督とそういう仲になるいうんはわかっとった)」
龍驤「(そのとき選ばれたいとは思っとる。でも逆に、誰が選ばれてもちゃんと諦めようとも思っとった)」
龍驤「(ウチらは艦娘……未練がましく、提督に縋るべきやない……)」
龍驤「(わかっとるけど……けど……)」
龍驤「思っとったより、好きやったんやなぁ……」 ポツリ
龍驤「(……嫌な女や、ウチ)」
龍驤「(今、必死に頭ん中で、自分より大鳳が劣ってるところ探しとる)」
龍驤「(胸も小さければ器も小さいって? 喧しい、アホ)」
龍驤「……良い天気やなぁ」
龍驤「(雨がふっとったら、もっと大声出して泣けるのにな……)」 グス…
13: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/19(月) 23:57:55.07 ID:/kOSYSxSO
~~
龍驤「…………」 トボトボ
龍驤「(今日お休みで良かったわ……こんなメンタルじゃあ轟沈確定や……)」
龍驤「(提督のこと考えとったらいつの間にかとっくにお昼過ぎとるし……未練タラタラなんてもんやないで)」
龍驤「はぁ……」 ガチャ
鳳翔「いらっしゃ――あら、龍驤? こんな時間に……?」
龍驤「もうお昼はお仕舞いか?」
鳳翔「……そうね。でも、取り敢えず座って」
龍驤「や、別にそこまでお腹減ってないから、ええよ」
鳳翔「龍驤」
龍驤「ん?」
鳳翔「お味噌汁、飲む?」
龍驤「せやから、ええて。お休みやったからお腹も別に減ってないし」
鳳翔「いいからほら、ここに座って」
龍驤「……じゃあ、頂くわ」
14: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/19(月) 23:58:25.39 ID:/kOSYSxSO
鳳翔「どうぞ、ご飯とおかずもすぐに出すから、ちょっと待ってね」 パタパタ
龍驤「ん……頂きます」 ズズ…
龍驤「ぁ……」 ポロ
鳳翔「…………」
龍驤「なんで、なみ、だ……」 ポロポロ
鳳翔「…………」
龍驤「ぃ、いや……はは、なんやろなー……グスッ、多分さっきまで外にいた、からグス……ぅ……多分、そのせいで……ぐ、ぅ……」 ポロポロ
鳳翔「泣きたいときは、ちゃんと泣いた方が良いのよ」 ギュ
龍驤「泣いて、へんよ、グス……ッなんでウチが……ぁ、ぅう……」 ポロポロ
鳳翔「…………」 ギュ
龍驤「ぅあぁ……! ぅうぐぅあああああ!! うわぁあああああああん!!」 ボロボロ
~~
15: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/19(月) 23:59:00.90 ID:/kOSYSxSO
~~
龍驤「……グスッ」
鳳翔「……落ち着いた?」
龍驤「ん……ごめん」 ゴシゴシ
鳳翔「ほら、擦らないの。濡れタオル作ってあげるから、ちょっと待って」 パタパタ
龍驤「うん……」
鳳翔「…………」 ジャー、キュ
龍驤「…………」 ボー
鳳翔「はい、これで冷やして」
龍驤「ん……ありがと」 ペタ
鳳翔「…………」
龍驤「…………」
16: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/19(月) 23:59:35.86 ID:/kOSYSxSO
鳳翔「…………提督のこと?」
龍驤「!」 ビクッ
鳳翔「ふふ、やっぱり」 クス
龍驤「……なんでわかんねん」
鳳翔「わかるわ。貴女と一番付き合いが長いのは、私だからね」
龍驤「……アンタは何考えてんのかイマイチわからんけどな」
鳳翔「ふふ、龍驤はわかりやすいから」
龍驤「うっさい……」
鳳翔「それで? 提督と喧嘩でもしたの?」
龍驤「するわけないやん……」
鳳翔「大好きだもんね」
龍驤「もーうっさい!」
17: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/20(火) 00:00:11.74 ID:9d7IgZnLO
鳳翔「ふふ、そんなに照れなくてもいいのに」 クスクス
龍驤「なんやねんもう……」
鳳翔「ふふ……」
龍驤「……提督とな、今朝会ったんやけど」
鳳翔「……うん」
龍驤「大鳳と一緒におって、ウチのが小さいだの何だのって言っとったんや」
鳳翔「ふうん?」
龍驤「そいでな、大鳳も同んなじぐらいやんかーってウチが言うたら、大鳳の方がデカい言うてな」
鳳翔「…………」
龍驤「……いつも見てるから、わかるんやって言われてな……そんで……」
鳳翔「…………」
龍驤「二人ともそんな仲やったんかーってな、一人でヘコんで……そんで、外で一人で泣いとった」
鳳翔「……そう」
18: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/20(火) 00:00:37.11 ID:9d7IgZnLO
龍驤「……なんか、泣いたらお腹空いた」
鳳翔「ん、じゃあ用意するわね」 パタパタ
龍驤「ごめんな、お味噌汁冷めてもうた」
鳳翔「良いのよ。温め直すから、こっちに頂戴?」
龍驤「ありがとう」
鳳翔「どういたしまして。お肉とお魚、どっち?」
龍驤「秋刀魚?」
鳳翔「ええ」
龍驤「じゃあお魚くれ」
鳳翔「はいはい、すぐに準備するからね」
龍驤「………………ありがと」 ボソ
鳳翔「ん?」
龍驤「なんでもなーい」
~~
24: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/21(水) 05:58:00.18 ID:kHZMPc+QO
~~
龍驤「――ん、ご馳走様」 パチン
鳳翔「お粗末様。本当にお腹空いてたのね」 クス
龍驤「せやから言うたやん」
鳳翔「良い食べっぷりだったわ」
龍驤「まあ、美味いから」
鳳翔「赤城さんみたいに」
龍驤「それは言い過ぎ……ていうか、なんか今日は意地悪やなぁ……」
鳳翔「ふふ、そうかしら」
龍驤「……そういえば、ふたりっきりで話すんも久しぶりやな」
鳳翔「そうね。……この鎮守府も、いつの間にか賑やかになったから」
龍驤「……そうやな」
25: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/21(水) 05:58:29.46 ID:kHZMPc+QO
龍驤「ん……もうこんな時間か」
鳳翔「あら、本当」
龍驤「そろそろお暇するわ。スッキリ……とまではいかへんけど、なんちゅーか、落ち着いたわ」 ガタ
鳳翔「また、いつでも来てね」
龍驤「ん」
鳳翔「…………それと」
龍驤「ん?」
鳳翔「ちゃんと、提督と話した方がいいわ」
龍驤「!」
鳳翔「最近はなかなか秘書艦も回ってこないし、時間はなかなか作れないかもしれないけど……」
26: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/21(水) 05:59:04.75 ID:kHZMPc+QO
龍驤「ん……わかった」
鳳翔「…………。……そう」
龍驤「じゃあ、また」 ガチャ
鳳翔「ええ」
>バタン
鳳翔「…………」
鳳翔「…………」 pi、pi、pi
prrrrr、prrrrrr――
~~
32: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 00:05:16.83 ID:nXbZwmONO
~~
龍驤「ん……」 パチ
龍驤「…………」 ムク
龍驤「…………」 ボー
>チュンチュン
龍驤「……朝か」
龍驤「今日は遠征やったな……引き継ぎの確認せんと……」 モゾ
龍驤「…………」
龍驤「(……嫌やなぁ、提督に会うの)」
龍驤「(でも、引き継ぎの書類は執務室やし……)」
龍驤「はぁ……」
>コンコンコン
龍驤「? はーい」
33: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 00:05:47.01 ID:nXbZwmONO
大鳳「あ、良かった。起きてましたか」 ガチャ
龍驤「……なんか用か?」 フイ、ゴソゴソ
龍驤「(あほ……今のはあかんやろ……いくらなんでも性格悪過ぎや)」
大鳳「……いえ、実は――――」
~~
龍驤「…………」
提督「龍驤、そっちのファイルとって」
龍驤「ん、こ……これか?」
提督「サンキュー」
龍驤「ん……」
龍驤「…………」
龍驤「(な、なんやこれ!?)」
龍驤「(なんでウチが秘書艦やっとんの!?)」
龍驤「(そもそも大鳳があんな事言い出すから……!)」
34: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 00:06:50.56 ID:nXbZwmONO
………
……
…
大鳳『実は、今日は翔鶴さんの装甲実装後の試運転で、演習に出るはずだったんですが……』
大鳳『昨夜、誤って磯風ご飯を口にしてしまったようで、明石さんによると今日は一日ダウンらしいんです』
大鳳『とは言っても演習の相手方には装甲空母が出ると伝えてありますし、相手からすると今日の演習はどうやら対装甲空母用の新戦術のテストが目的だそうなので、私が代理に出ることになってしまって……』
大鳳『それで、急で申し訳ないんですが、私の代わりに龍驤さんが秘書艦をしてもらえませんか?』
………
……
…
龍驤「(――――とか言われて、つい引き受けてしまったけど……)」
龍驤「(そもそもなんでウチやねん!?)」
龍驤「(提督と顔合わせんのも辛いってのにもー!)」 プルプルプルプル
35: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 00:07:21.61 ID:nXbZwmONO
提督「龍驤」
龍驤「は、はいぃっ!?」
提督「な、なんだ急に大声出して……さっきから筆が進んでいないようだが、大丈夫か?」
龍驤「へぁっ!? そ、そんなことないですよぉ!? ダイジョーブダイジョーブ!」
提督「そ、そうか……? ならいいが……」
龍驤「う、うん」
提督「…………」
龍驤「…………」
龍驤「(我ながらアホすぎる……助けてくれ鳳翔……)」
提督「……そういえば、龍驤とこうして書類仕事をするのも、随分久しぶりだな」
龍驤「そっ! そ……そうやんな」
36: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 00:08:07.26 ID:nXbZwmONO
提督「63日ぶりか」
龍驤「うん…………ってえぇっ!?」
提督「うん?」
龍驤「な、なんで憶えてんねん!?」
提督「そりゃあ憶えてるだろ」
龍驤「!」 ドキ
提督「なんたって龍驤はウチの大切な艦娘だし、それに――――」
龍驤「(えっえっ……! もしかしてコレは……!)」 ドキドキ
龍驤「(待って待って、こ、心の準備が……!)」 ドキドキ
37: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 00:16:03.25 ID:nXbZwmONO
提督「――――龍驤は少食だから、昼食代が安く済むからな」 ハハハ
龍驤「」 ゴンッ!!
提督「いやあ空母は大喰らいが多くてなぁ。その分執務のミスは少ないからまあ良いんだが……って、どうした?」
龍驤「……なんでも」
龍驤「(勝手にドキドキして恥ずかしすぎる……)」
龍驤「(そもそも、提督がウチに、とか……あるわけないやん)」
龍驤「(だって……だって提督は大鳳と……)」 ジワ
龍驤「(ぁ、やば、泣きそう……でも提督の前で泣くとかカッコ悪すぎる……)」 グ
龍驤「(だめだめ泣いたらあかんっ! あ、でももうムリ――――)」 ポロ
提督「そういうわけで、龍驤は何か昼に食べたいものあるか?」
38: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 00:16:55.36 ID:nXbZwmONO
龍驤「――――えっ!?」 ガバッ
提督「ん?」
龍驤「お、お昼……?」
提督「うん」
龍驤「(そう言えばそうやった! 提督はその日の秘書艦と必ず一緒にお昼ご飯食べるんや! ヤバい! ただ誘ってもらえただけやのにめっちゃ嬉しい!)」 アワワワワ
提督「……ていうか、泣いてるのか?」
龍驤「えっ!? あ、こ、これは欠伸!」 グシグシ
提督「ホントか? 嫌なら嫌とちゃんと言わないと……」
龍驤「嫌なわけない!!」 ガタンッ!!
提督「お、おう。それなら良いんだが……?」
龍驤「っ……うん」
龍驤「(お、思わず大声出してしまった……でもいきなりあんなこと言うから……)」
龍驤「(……提督とお昼ご飯……めっちゃ久しぶりやな……あかん、なんかソワソワしてまう)」ソワソワ
39: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 00:17:26.58 ID:nXbZwmONO
提督「それで?」
龍驤「へっ?」
提督「昼、何か食べたいものあるかって」
龍驤「え、や、そ、そんな急に言われても……」 アタフタ
龍驤「(ふ、普段なに食べとったっけ……? えーとお魚とお肉とお野菜とお米とお味噌汁と……って材料並べてどうすんねん!)」
提督「ま、すぐに思いつかないようなら、昼までに教えてくれ」
龍驤「う、うん……」
~~
52: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 17:46:09.97 ID:nXbZwmONO
~~
提督「よしっ、これで終わりだな」
龍驤「えっ!? も、もう終わったん!?」
提督「午前中の分な。龍驤もそれで最後だろ?」
龍驤「え……あ、ホンマや……」
龍驤「(や、ヤバい……お昼のこと考え過ぎてずっと上の空でやっとった……しかもまだ決まっとらんし!)」
提督「で、決まったか?」
龍驤「ぅえっ!? え、えと……」 アセッ
53: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 17:47:25.94 ID:nXbZwmONO
提督「ん?」
龍驤「(あぁあああそんな期待に満ちた顔で見つめんといてよぉ! ほ、鳳翔助けて……って、鳳翔?)」
龍驤「そ、そうやっ、炊き込みご飯!」 ティン
提督「炊き込み御飯?」
龍驤「うんうんっ、今鳳翔のトコで炊き込みご飯出してるんよ!」
提督「ふむ……じゃあ昼は鳳翔のところで良いか?」
龍驤「よっしゃ決まったらさっさと行こう! な!」
提督「わかったわかった。そんなに腹減ってたのか?」
龍驤「(これでやっと二人っきりの状態から解放される! 鳳翔ホンマにありがとう!)」
~~
54: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 17:47:52.90 ID:nXbZwmONO
==============================
本日
体調不良の翔鶴さんを看病するため
臨時休業とさせていただきます
鳳翔
==============================
55: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 17:48:19.42 ID:nXbZwmONO
龍驤「」
提督「ああ、そういうばそんなこと言ってたな」
龍驤「知ってたんかい……」
提督「いやあすっかり忘れてた、ははは」
龍驤「(鳳翔ぉおおおお!! なんてことしてくれてんねん!)」
提督「しかし、こうなっては仕方ないな」 グイ
龍驤「!」 ドキ
提督「炊き込みご飯、食べに行くか!」
龍驤「……へ?」
~~
56: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 17:48:46.08 ID:nXbZwmONO
ガヤガヤ
提督「街に出るのも久しぶりだなぁ」
龍驤「そ、そうやな」
提督「あれ、あそこのビル立て替えたのか? 前は無かったよな」
龍驤「そ、そうやな」
提督「コンビニも随分増えたな……100メートル以内に◯ーソンが二つあるぞ。どういうことだ?」
龍驤「そ、そうやな」
提督「商店街は健在か。でもシャッターが閉まってる店舗もあるな」
龍驤「そ、そうやな」
提督「……龍驤?」
龍驤「そ、そうやな」
提督「…………。……ツインテもふもふして良い?」
龍驤「そ、そうやな」
提督「……ダメだこりゃ」
57: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 17:49:16.34 ID:nXbZwmONO
龍驤「(ひ、人! ヒト! ひとが多い!)」
龍驤「(いや鎮守府も少なくはないけど、みんな女の子やしこんなに色んなオシャレな服着てないし!)」
ブォオオオン!!
龍驤「ひゃぁっ!?」 ビク
提督「お、おい大丈夫か?」
龍驤「(く、車や! あとバイク! めっちゃ速いやんけ!)」 ビクビク
提督「とりあえず行くぞ、ほれ」 ギュ
龍驤「ぎゃあっ!?」 ビクン!!
提督「ええっ!?」
龍驤「ななななななななに急にヒトの手ェ握っとんの!?」 ブンブン
提督「だって……今の調子じゃあ絶対迷子になるだろ?」 ブンブン
58: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 17:49:43.29 ID:nXbZwmONO
龍驤「そ、そうかもしれんけど……」
提督「はは店に着くまでの辛抱だから、な?」
龍驤「うぅ……」
龍驤「(ああああめっちゃ恥ずかしい! 前はここまで意識することなかったのになんで……)」 チラ
提督「ん?」
龍驤「」 ドキッ
提督「どうした?」
龍驤「べ、べつに……!」 プイ
提督「?」
龍驤「(あぁやっぱり……好きなんや……)」 ドキドキ
~~
66: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/29(木) 04:26:46.90 ID:JgKLiamfO
※オリキャラ発生(名無し)
~~
「いらっしゃい、お好きな席へ……ってお前か」
提督「やあ、久しぶりだな」
「まったくだ。高給取りなんだからちったぁウチの店の売り上げに貢献しやがれ」
提督「はは、なかなか時間が無くてな」
「わかってるさ。おかげで最近は魚の供給量も安定してる。……その子は? 嫁か?」
龍驤「!?」 ビクーン
提督「はは、ウチの可愛い部下だよ」
「はは、だろうな」
提督「ほれ、挨拶して」
龍驤「りゅ、龍驤や。こ、これでも立派な艦娘なんやで……」 ビクビク
67: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/29(木) 04:31:39.24 ID:JgKLiamfO
提督「そんで、こっちは軍学校時代の友人だ。今はただの定食屋だがな」
「よろしくな、嬢ちゃん」
龍驤「よ、よろしゅう……」 ビクビク
「……俺、なんか怖がらせるようなことしちまったか?」
提督「安心しろ、男に慣れてないだけだ」
「なんだそうか。それより注文がまだだったな、いつものでいいか?」
提督「ああ、龍驤にも同じのを頼む。あと、座敷に上げてもらっていいか?」
「あいよ、座敷は一番奥を使ってくれ。ちょっくら待っててくれな、嬢ちゃん」 スタスタ
龍驤「……はぁあ……」
提督「ははは、しかし意外だな。龍驤ならどんなのが相手でも物怖じしないと思ったが」
68: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/29(木) 04:32:17.57 ID:JgKLiamfO
龍驤「ウチもそう思うわ……でも今日はダメや」 グデー
提督「ふうん?」
龍驤「(昨日と今日でいろいろあり過ぎて頭ん中メチャメチャや……全部この――)」 チラ
提督「ここは昔ながらの定食屋でな米も釜で炊いてるんだがただ古臭いってわけじゃなくて最新技術で作られた調理器具を使うってのが創業以来のこだわりでそれこそが伝統だと言い換えることもできるだろう深海棲艦が現れた直後は丸一年漁獲ゼロで勿論この店も大打撃を受けたんだが先代の親父さんがウンタラカンタラ」 ペーラペラペーラ
龍驤「(――鈍感提督のせいやっ!)」 ゲシッ
提督「痛っ!? な、何するんだ龍驤……」
龍驤「なんでもなーい」
~~
69: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/29(木) 04:34:33.34 ID:JgKLiamfO
「お待たせさん。炊き込みご飯大盛り4人前ね」 ドン
龍驤「……え?」
「はは、艦娘が普通の女より大食らいってのは知ってんだ。このぐらい食うだろ?」
提督「おう、ありがとう。それにしてもよくわかったな?」
「龍驤っていえば正規空母だろ? 駆逐艦だって大の男の倍食うって話だし、こんぐらいペ口リといっちまうんじゃねえか?」
提督「まあな。でも残念、龍驤は軽空母だし、空母と一部の戦艦はこの3倍でも足りないぐらいだ」
「……マジかよ」
提督「ふふ……鎮守府の経費15%を占めているのが何だか聞きたいか……?」 フフフ
「ぞっとしない話だ……が、今度はその娘っ子どもみーんな連れてこいよ」
提督「俺を破産させるつもりか」
70: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/29(木) 04:35:09.39 ID:JgKLiamfO
「はっはっは! まあゆっくり食ってくれ、そのために座敷にしたんだろ?」
龍驤「!」
提督「ん……まあ。つーかそういうことは言うな」
「ははは、じゃあ、お勘定のときによんでくれ」
提督「ったく……」
龍驤「……提督」
提督「ん?」
龍驤「いや、その……ウチのためにって……」
提督「あー……まあな」
提督「ほら、艦娘の認知が広がっているとはいえ、世の中にはいろんやな奴がいるからな」
提督「見た目の何倍も食べる龍驤を見て、興味本位や悪意を持って近づいてくる奴がいないとも限らないし……そんな中じゃあ落ち着いて食べられないだろ?」
71: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/29(木) 04:35:39.58 ID:JgKLiamfO
龍驤「…………」
龍驤「(なんやねんもう……ズルいわこんなん……)」 ギュウ…
提督「……龍驤?」
龍驤「へっ?」
提督「いや、俯いちゃったから、大丈夫かなと」
龍驤「ぁ……べ、別にっ……!」 ワタワタ
提督「? そうか?」
龍驤「あ、あははー……あ、ほら、冷めてまう前にはよ食べんと!」
提督「ああ、そうだな」
「「いただきます」」
~~
80: ◆kquYBfBssLZl 2015/11/30(月) 05:29:36.74 ID:8CMlzmxPO
~~
龍驤「―――ごちそうさまでしたっ」 パチン
提督「食い切ったなぁ」
龍驤「べ、別にいいやろ。お腹減っとったんやから……」
提督「その小さな身体のどこにこれほどの容量があるのか……」
龍驤「もーええって!」
提督「はは。でも、美味かったろ?」
龍驤「それはそうやけど……」
提督「けど?」
龍驤「あ、い、いや! なんでもない!」
龍驤「(まだもう一人前ぐらいイケる……とか、恥ずかしいし……)」
提督「よし、じゃあそろそろ移動するか」
龍驤「そうやな、執務もまだ残っとることやし、そろそろ帰らんと……」
提督「ん? まだ帰らないぞ?」
龍驤「…………へ?」
~~
81: ◆kquYBfBssLZl 2015/11/30(月) 05:30:42.44 ID:8CMlzmxPO
提督「おお、ここだここ」
龍驤「こ、ここって……?」
提督「まあ、ショッピングモールだな」
龍驤「こ、これが……デッカいなあ……」
提督「ちなみに、店の名前読めるか?」
龍驤「え? えっと~……オイオイ?」
提督「残念、ハズレだ」 ケラケラ
龍驤「え!? じゃあなんて読むんや!? 他にどうにも読めんやろ!?」
提督「さ、じゃあ行くか」
龍驤「ちょ、なんて読むん!? なあ!」
~~
82: ◆kquYBfBssLZl 2015/11/30(月) 05:31:13.88 ID:8CMlzmxPO
提督「ふむ」 キョロキョロ
龍驤「…………」 ソワソワ
龍驤「(な、なんやここ……オシャレな服がいっぱいある……ウチ、こんな格好で恥ずかしいわ……)」 モジモジ
龍驤「(提督もなんでこんなトコに……だ、誰かにプレゼントでも買うんかな……)」
龍驤「(…………十分あり得るな……それこそ、大鳳とか……)」 シューン…
提督「ふん……いやこっちの方が……」
店員「いらっしゃいませ~、何かお探しですか~?」
提督「あ、すみません。この子に似合う服を2、3欲しいんですが」
店員「あ、それでしたらこちらの方に……」
龍驤「へぁあっ!!??」 ビクーン!!
店員「えっ!?」
提督「な、なんだ龍驤。急にデカイ声出すな」
龍驤「な、なんやそれ!? き、聞いてへんよ!?」 ワタワタ
提督「え? ああ、まあ、今初めて言ったからな……そんなに驚くことか?」
龍驤「おおお驚くわ!! ううウチなんかの為になんでそんなことすんねん! お昼ご馳走になっただけでも十分やのに!」 ダンダン!!
83: ◆kquYBfBssLZl 2015/11/30(月) 05:32:00.56 ID:8CMlzmxPO
提督「取り敢えず落ち着け」 ポン
龍驤「!」 ビク
提督「俺が龍驤に何かしてやりたいんだ、ダメか?」 ナデ
龍驤「ぅ……で、でもなんでこんな急に……」
提督「いやまあ、別に急でもないが……オシャレとかしてみたいだろ?」
龍驤「…………」 コクリ
提督「よし、じゃあいろいろ見て回るか」
龍驤「……うん」
店員「(急にイチャつき始めやがって……チッ)」
~~
84: ◆kquYBfBssLZl 2015/11/30(月) 05:32:26.37 ID:8CMlzmxPO
シャッ
龍驤「ど、どう……?」
提督「おお、ワンピースもイイな!」
店員「髪下ろしてみると、雰囲気も変わるでしょう?」
提督「そうですなあ」
龍驤「な、なんか落ち着かんわ……この服フワフワしとるし……」
提督「まあ、いつものは機能性と防御性能に特化してるからな。普通の服より重いんだ」
店員「でも、艦娘さんってこんなに可愛らしい子でもなれるんですね~。もっと哺乳類最強系女子みたいな女ばかりかと……」
提督「はっは、まあイメージというやつは先行するものですからな。艦娘なんてのは普通の女の子となーんにも変わりはしませんよ」
店員「ホントですよね~。じゃあ次はこっちなんかどうです?」
龍驤「あわわっ、そんないっぱい試着なんか……」
店員「試着ぐらいみんなしますよ! ほらほら、これはちょっと着るの難しいから、お姉さんが着替え手伝ってあげる!」
龍驤「ちょっ、て、提と」 シャッ
85: ◆kquYBfBssLZl 2015/11/30(月) 05:32:53.52 ID:8CMlzmxPO
店員『ほら脱いで脱いで』
龍驤『ぁちょっ、ど、どこさわってっひっ!』
店員『龍驤ちゃんほっそいねえ。ちゃんとご飯食べてるの?』
龍驤『う、ウチらは基本的に身体の形は変わらんから……』
店員『えっ!? じゃあいくら食べても太らないってこと!?』
龍驤『ま、まあ……』
店員『う、羨ましいー! このこのっ!』
龍驤『ひゃわぁっ!? あひ、ひゃっ! あは、ちょ、や、やめて~!』
キャッキャウフフ
提督「…………」
提督「(これはこれで……イイものだ……)」
~~
109: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 04:09:38.07 ID:pZ283hduO
「お待たせしましたっ!」
嬉々とした掛け声とともに、試着室のカーテンが勢いよく開かれる。
まず目に飛び込んできたのは真っ白なブラウス。
ボタンに沿うようにあしらわれたフリルが、可憐さを際立たせている。
臍の辺りから伸びるフレアスカートは、龍驤のイメージカラーとも言えるワインレッド。
膝頭のあたりまでしかないその丈は普段のミニスカートと大差無いが、その形状故か、普段よりも清楚に感じられる。
その下に伸びる脚は黒いストッキングによって覆われていて、シルエットがくっきり浮き出ていて、華奢な体躯を嫌でも思い出させる。
そして、いつもツインテールに結われている赤茶色の髪は、緩めの三つ編みに纏められて肩から前に垂れている。
既に何度目になるかわからないぐらい着せ替えショーだったが、私はこの日一番の感動を覚えていた。
「ほう……」
思わず、感嘆の声が漏れる。
龍驤はスカートの前の方を握り締めて、耳から首まで真っ赤に染まった顔を俯かせた。
なんと、髪型と服装次第で女というのはここまで変わるのか。
私がまじまじと観察していると、龍驤はますます顔を紅潮させて、遂にそっぽをむいてしまった。
110: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 04:10:33.62 ID:pZ283hduO
龍驤「そ、そんなに見たらあかんってぇ……!」 プルプル
提督「いやしかしだな」
店員「どうですかどうですかっ! 感想聞かせてあげてくださいっ!」 ガシッ
龍驤「な、なにすんねん!」
店員「だって龍驤ちゃんこうでもしないとちゃんと提督さんの話聞こうとしないでしょ?」 グググ…
龍驤「聞かんでええし提督も言わんでええんや! こ、このっ、離」
提督「かわいいぞ、龍驤」
龍驤「!!!!!」 ビクンッ!!!!
店員「きゃー! やっぱり私の見立ては正しかったのよ! だから言ったでしょ、清楚系の方が絶対可愛いって!」
提督「ええ、今までの物は活発な感じというか、ある意味龍驤らしい服装ばかりでしたが、コレは不意打ちでしたな。思わず見惚れてしまいました」
111: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 04:11:00.96 ID:pZ283hduO
店員「うふふふ、良かったわね龍驤ちゃん! ほらっ、自分も鏡でもう一回よーく見て……、……? 龍驤ちゃん?」
龍驤「」
提督「龍驤?」
龍驤「」
店員「……これって」
提督「……フリーズしてるな」
龍驤「」 プシュゥゥウウ…
~~
龍驤「――――はっ!?」 ガバッ
提督「おっ、ようやく起きたか」
112: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 04:21:08.98 ID:pZ283hduO
龍驤「!?」 ッブン!!
提督「いってえ!?」 ベシィッ!!
龍驤「あっ! ご、ごめん!」
提督「な、なにするんだいきなり……」
龍驤「だ、だってキミがウチの顔覗き込んどるから……」
提督「良いじゃないか別に」
龍驤「だからゴメンて。……ていうか、ここどこ?」
提督「ん? ああ、ホテルだよ」
龍驤「ふうん……」 キョロ
龍驤「…………」
113: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 04:21:43.29 ID:pZ283hduO
龍驤「…………は?」
提督「ん?」
龍驤「……………………キミ、今なんて?」
提督「ホテルだよ」
龍驤「」 ズザザッ!!
提督「えっ」
龍驤「けっ、ケダモノーーー!!!」 ピャー!!
提督「えぇっ!?」
龍驤「ヒトが気絶しとる間にこんなトコ連れ込みよって! キミは変態か! この変態! 変態!」
龍驤「わざわざ外に連れ出したんも、ウチのこと着せ替え人形にしたんもこの為かキミぃ! ケダモノやぁーーーっ!!!」
114: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 04:22:16.84 ID:pZ283hduO
提督「待て待て! 俺はそんなつもりは!」 アタフタ
龍驤「じゃあなんでウチはこんなトコにおるんや! 説明してみぃ!」 ガオーッ!!
提督「い、いや、龍驤が気絶したから、取り敢えずホテルにと思って……」
龍驤「ケダモノーーーっ!!!」 ペチーン!!
提督「へぶっ! だ、だから違うって! ここは龍驤が思うようなホテルじゃないから!」
龍驤「…………へ?」
~~
提督「…………」
龍驤『…………』
115: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 04:22:42.55 ID:pZ283hduO
提督「……おーい、龍驤ー」
龍驤『ウチは変態や……ほっといて』
提督「いや、トイレに籠られるといざという時に困るんだが……」
龍驤『キミが紛らわしい言い方するからや……普通のホテルなら普通のホテルって言わんとわからんやん……』
提督「ホテルと聞いて真っ先にラブホテルの方が思い浮かぶなんて、龍驤はえっちだなぁ」
<どんっ!!
提督「おお怖い」
龍驤『もぉおおおおーーー!!』
提督「まな板が牛になった!」
ドアバーン!!
116: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 04:23:09.90 ID:pZ283hduO
龍驤「言うたらあかんことを言ったな! キミのお尻に艦爆ブッこんだるから覚悟しとけよ!!」
提督「うおっ!? や、やめろ冗談……ぐあっ! や、やめろ! 勅令玉を光らせて目潰しに使うのはやめてくれっ!」
龍驤「待てやごらぁっ!!」
どたばた
~~
龍驤「ぜーっ……ぜーっ……!」
提督「はぁ、はぁ……り、陸上では俺の方が上手だったな……ふぅ……」
龍驤「ぎ、艤装さえっ……はぁっ……使えたら、っキミごとき……!」
提督「……ふふ」
117: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 04:23:37.56 ID:pZ283hduO
龍驤「な、なに笑っとんねん」
提督「いや……懐かしいな、その呼び方」
龍驤「へ?」
提督「ウチの鎮守府が騒がしくなってから……いや、俺が大佐になったぐらいの頃からかな。それまでは『キミ』って呼んでたのに、急に『提督』って呼ぶようになったじゃないか」
龍驤「……覚えとらん」 フイッ
提督「ま、別に良いけどな」
龍驤「ええんかい」
提督「ああ。……ていうか、暴れまわったせいで服も髪もメチャメチャになっちゃったな」
龍驤「ふく? ……あっ!? な、なんやこれ!」
提督「もう忘れたのか? さっき買ったじゃないか」
118: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 04:24:49.67 ID:pZ283hduO
龍驤「か、買った!?」
提督「そりゃあそうだろ。こんなに似合ってるのに勿体無いじゃないか」
龍驤「ふんっ!」 ペチコーン!!
提督「えっ」
龍驤「」 ムニムニ
提督「……急に変顔なんかしてどうした?」
龍驤「……顔の筋肉をマッサージしとるんや」
提督「お、おう」
龍驤「…………服直すから、ちょっち外出とって」
提督「ん、わかった」
119: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 05:23:32.81 ID:pZ283hduO
ガチャ、バタン
龍驤「…………」
龍驤「…………」 ポフン
龍驤「はぁああぁぁぁああああぁあぁ……」 ジタバタ
龍驤「なんなんや今日は……」
龍驤「ご飯食べたり、お店行ったり……」
龍驤「あっ!? そういえばウチがもともと着とった服は!?」
龍驤「…………」 チラ
龍驤「…………」 ピラピラ
龍驤「…………」
120: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 05:23:59.27 ID:pZ283hduO
龍驤「そ、そういえば髪、髪も整えんとな! 鏡、鏡……」
龍驤「お、おっと~、こ、こんなところに姿見が~」
龍驤「ってうわっ、ほんまにボッサボサやんか!」
龍驤「いっかい結い直した方が早いな……」 シュル
龍驤「…………」 ジ…
龍驤「…………」 ヒラ
龍驤「…………」 ヒラ
龍驤「……かわいいなぁ、この服」
龍驤「…………」
龍驤「……う、うん。まあ、も、もうちょっとぐらい着とってもええ、かな?」
龍驤「…………へへ」
126: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/13(土) 04:39:01.99 ID:lz0AVdmEO
~~
龍驤『もう入ってもええでー』
提督「お、じゃあ入るぞー」
ガチャ
提督「……おお」
龍驤「な、なんや」
提督「いや、やっぱり良いな、その服」
龍驤「そ、そう?」
提督「うん、かわいい」
龍驤「だっ、だからそういうこと言うのやめてって!」 ベシッ
127: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/13(土) 04:39:46.80 ID:lz0AVdmEO
提督「ぐぉっ!! ほ、本当のことなんだから別に良いだろ……」
龍驤「(い、今までそんなこと言ったことないくせにぃ……!)」
龍驤「(…………そうやんな。ウチが可愛いんじゃなくて、服が可愛いから言っとんのやろ)」 シューン…
提督「……ん? どうした、急にそんなシュンとして」
龍驤「…………別に」 プイ
提督「?」
龍驤「あーもーなんでもないっ! ほら、もうこんな時間やんか、はよ帰らんと大鳳やら大淀やらに怒られんで」
提督「ん? 何言ってんだ、まだ帰るわけないだろ」
龍驤「へ?」
提督「まあまあ。ほら、そろそろ行こうか」 グイ
128: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/13(土) 04:40:17.76 ID:lz0AVdmEO
龍驤「あっ、ちょ、ちょっちどこ行くん!?」
~~
「どうぞ、ごゆっくり」
提督「どうも」
龍驤「あわわわわ」
提督「はは、そんなに緊張するな」
龍驤「そ、そんなんムリや……!」
提督「大丈夫だって、普通のレストランと変わらないから」
龍驤「ドレスコードのあるレストランは普通のレストランじゃないやろ……!」
提督「まあまあ。ほら、なんでも好きなものを頼んで良いぞ」
129: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/13(土) 04:40:44.82 ID:lz0AVdmEO
龍驤「……メニューに値段が書いてないんやけど」
提督「金のことなら気にするな。給料はそこそこあるし、今日みたいに出かけることもほとんど無いから貯金はあるんだ」
龍驤「そんなこと言われても……」
龍驤「(うぅ……な、なんでそんなに落ち着いてるんやキミは……)」
龍驤「(こういうトコにもしょっちゅう来とんのかな……)」
龍驤「(誰と…………いや……)」 シュン…
提督「まあ、俺もこういう所に来るのは初めてだから、気持ちはわかるけどな」
龍驤「…………へ?」
提督「ん?」
龍驤「は、初めて?」
130: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/13(土) 04:45:03.38 ID:lz0AVdmEO
提督「ん? うん。まあ料亭とかならお偉いさんに連れて行かれたことはあるけど、こういう所は初めてだ」
龍驤「へ、へぇー」
提督「ふむ……そう考えてみると確かにどれが美味いかなんかもよくわからんな」 スッ
「はい」
提督「この中で一番オススメのメニューは?」
「はい。本日のオススメですと、こちらの―――」
龍驤「(初めて……はじめてなんか……本当に?)」
龍驤「…………」
龍驤「(……キミが何考えてんのか、ウチにはわからん……)」
131: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/13(土) 04:45:44.73 ID:lz0AVdmEO
~食後~
提督「乾杯」
龍驤「か、乾杯」
提督「……ん、いつものような清酒も美味いが、ワインも結構いけるな」
龍驤「……渋い」
提督「はは、そういえば、ワインは初めてだったな」
龍驤「うん。……でも、香りは良いと思う」
提督「そうだな。ん……まあ、慣れれば美味くなるさ」
龍驤「ふぅん……」
提督「ドイツ艦の連中に今度飲ませてもらうと良い。ビールもなかなかクセになるぞ」
132: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/13(土) 04:46:12.73 ID:lz0AVdmEO
龍驤「ビールって苦ぁいヤツやろ? イヤやわ」
提督「お子様だなぁ」
龍驤「うっさい」 プイ
提督「あはは」
龍驤「酔っ払い」
提督「酔ってない」
龍驤「酔っ払いは皆そういうわ。……キミ、お酒弱いんやから程々にしとき」
提督「まだグラス一杯だろ……そりゃあ、お前たち艦娘に比べたら弱いけどさ」
龍驤「…………」
提督「……どうした? さっきから、ちょっと様子が変だぞ」
133: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/13(土) 04:46:39.36 ID:lz0AVdmEO
龍驤「…………」
提督「…………」
龍驤「…………わからん」
提督「なにが」
龍驤「キミが、……キミがなに考えてんのか、ウチにはわからん」
提督「……今日のことか?」
龍驤「」 コクリ
提督「うーん……わからないか?」
龍驤「だって……変やろ、キミ」
提督「変?」
134: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/13(土) 05:06:15.48 ID:lz0AVdmEO
龍驤「急に出かけたり……なんか服とか買ったり……。仕事放り出すとか、普段なら絶対やらんのに……」
提督「…………」
龍驤「そもそも、よく考えたら秘書艦の交代もおかしかったんや。翔鶴の代わりなら瑞鶴の方が適任やし……ウチが大鳳と変わる理由なんか無かったやろ……」
提督「…………」
龍驤「だって……だって……」
龍驤「キミは、大鳳と……その、好き合っとるんやろ……?」
提督「へ?」
龍驤「え?」
提督「俺と……誰が愛し合ってるって?」
龍驤「え、えっ、だ、だから大鳳と……!」
提督「……身に覚えが無いんだけど」
龍驤「えっ……」
145: ◆kquYBfBssLZl 2016/04/11(月) 15:57:58.85 ID:lg3PbuwIO
~~
龍驤『…………』
提督「…………」
龍驤『…………』
提督「(……今度は布団に籠城されてしまった)」
提督「龍驤ー、いい加減出てこいよー」 モフ
龍驤『…………』
提督「はぁ……」
龍驤『……ウチはもうあかん……このまま化石になる……』
提督「ちょっとした勘違いじゃないか。そんなに恥ずかしがることないって」
龍驤『ちょっとどころじゃないわ……ウチのこの2日間は一体何やったんや……』
提督「まあ、妄想逞しいとも言えるが……」
~~
龍驤「――――へ?」
提督「いや、大鳳だろ? あいつと俺は別に懇ろなわけじゃないぞ」
龍驤「う、嘘つかんでもええよ……昨日聞いたし……」
提督「昨日?」
龍驤「だ、だから……いつも、その……大鳳のお胸……見とるんやろ……?」
提督「ええっ!? そ、そんな話してたか!?」
龍驤「き、キミが自分で言っとったやん! ウチと大鳳のを比べたらウチの方が小さいって! 大鳳のはいつも見とるから知ってるって!」
146: ◆kquYBfBssLZl 2016/04/11(月) 15:58:26.55 ID:lg3PbuwIO
提督「えっ……」
龍驤「へ?」
提督「……ぷふっ」
龍驤「!?」
提督「あっははは、ふは、あははははっ!」
龍驤「な、なに笑っとんねん!」 ガタッ
提督「はは、いやすまん、なるほどな」
龍驤「はあ?」
提督「あのときにな、小さいって言ってたのは……」
ギュ
龍驤「ふへ?」
提督「龍驤、お前の手のことだ」
龍驤「…………へ?」
提督「屁じゃない、手」
龍驤「うっさい……………………ってことは……大鳳とは……」
提督「ああ。龍驤が想像していたような、いやらしいことはしてないぞ」ニッコリ
龍驤「!!!」
~~
龍驤『恥ずかしすぎるっ……!!』 プルプル
提督「いや悪かったよ、俺も変なこと言って」
147: ◆kquYBfBssLZl 2016/04/11(月) 15:58:52.50 ID:lg3PbuwIO
提督「(その後レストランを飛び出し、部屋に追いついたときには、ベッドの上に大きな大福が出来上がっていましたとさ)」
龍驤『キミは悪くない……ウチが……変態ドスケベなウチが悪いんや……』 グスッ
提督「そこまで言ってないだろ……」
龍驤『言ってなくても思っとるんやろどうせー! もうイヤやぁー!』 ギャアギャア
提督「もーいいから出てこいって! そんなこと思ってないって!」 グイグイ
龍驤『嘘やん! そんなん絶対嘘!』 グイー
提督「はぁ……全く……」
龍驤『ウチは化石になるんや……放っておいてや……』
提督「はいはい……」
龍驤『…………』
龍驤『…………』
龍驤『…………』
龍驤『…………?』
シーン…
龍驤『…………』
龍驤『…………化石になったるからなー』
龍驤『…………』
シーン…
龍驤『…………おーい、ホントになるで?』
龍驤『…………』
148: ◆kquYBfBssLZl 2016/04/11(月) 15:59:19.25 ID:lg3PbuwIO
シーン…
龍驤『…………』
龍驤「」ヒョコ
提督「馬鹿めかかったな!!」 ガバァッ!
龍驤「きゃあっ!?」
提督「おらっ! てこずらせやがって、この、出てこい!」 グイグイ
龍驤「きゃあーー!! きゃー! ぎゃああああああ!!」
提督「デケー声出すんじゃねえっ! 誰か来たらどうすr」
『お客様!? どうされましたお客様!?』 ドンドン
提督「」
龍驤「」
~~
龍驤「キミのせいでめっちゃ怒られたやんか……」
提督「すまん……」
龍驤「キミにウチの気持ちがわかるか……? 初対面のボーイさんに『そういうプレイです!』って言い訳せなあかんウチの気持ちが……」
提督「すまん……」
龍驤「もうええわ……昨日も今日ももうなんかいろいろあり過ぎて疲れたし……」 ポスッ
提督「…………」
龍驤「なんでこんなホテルなんかにおるのかもわからんけど……大鳳とは、そういう仲ではないんやよな……?」
提督「そうだ、大鳳とはなんでもない」
149: ◆kquYBfBssLZl 2016/04/11(月) 15:59:53.16 ID:lg3PbuwIO
龍驤「そうか……」
提督「ああ……」
龍驤「…………」
提督「……なあ」
龍驤「んー……?」
提督「ちょっと……テレビでも見ないか?」
龍驤「ん? ああ、まあ、ええけど……?」 ムク
提督「何か見たいものあるか?」 pi
龍驤「うーん……ウチもキミもあんまりテレビ見いひんからなあ。何が面白いのかとか、そもそもどんな番組があるのかもわからん」
提督「俺はルームサービス頼んでくるから、なんか適当に選んどいてくれ」 ポイ
龍驤「はーい。……うーん、バラエティ、ドラマ、ニュース、アニメ……やっぱお笑いかな?」 pi、pi、pi
龍驤「うわ、なんか知らん間にアニメめっちゃ増えとるやん……夜中にやっても子どもは寝とるやろ……」
龍驤「…………」pi
龍驤「(ルームサービスか……さっきレストラン飛び出してきたし、やっぱり悪いことしたな)」pi
龍驤「(戻ってきたらちゃんと謝ったらんとな……)」pi
「龍驤」
龍驤「ん? もう注文終わっ――」 クル
ギュ
提督「…………」 ギュー
龍驤「――へ……?」
150: ◆kquYBfBssLZl 2016/04/11(月) 16:02:11.98 ID:lg3PbuwIO
それは、あまりに唐突なことで。
ただ、彼の体温が自分の顔のすぐ横にあることだけはわかった。
清潔な服の匂いと、そして、少し汗ばんだ彼の匂い。
おそらく、自分をこのホテルまで運ぶ際に流した汗だろう。
そこに思い至って、胸の中心が引き絞られるような感覚に襲われる。
そうしているうちに、自分の頬に感じていた温もりが離れた。
見上げると、彼の顔が見える。
瞬間、漸く、自分が抱きしめられていたのだと気がつく。
「ぁ…………」
何か言おうとして、しかし声にはならなかった。
困惑と、驚愕と、羞恥と、それら以上の喜びが頭の中をぐるぐると掻き乱す。
気持ちが次々と溢れては消え、形にできない。
彼の顔を見つめたまま口をパクパクさせていると、繋がっていた視線が不意に途切れる。
恥ずかしそうに鼻の頭を掻きながら、自身の胸の真ん中あたりを指差して、こう言った。
「それを今日、一番に渡したかったんだ」
回らない頭で、無意識的に胸元に手を伸ばす。
薬指の端に何かが当たる感触と同時に、小さな金属音。
視線を下げると、そこには。
「指……輪……?」
ネックレスに通された、銀色のリングが二つ。
大きなものと、小さなもの。
茫然と眺めていると、彼が目の前に跪く。
そして、その大きな掌で、小さな手を包み込む。
「龍驤、本当はこんなことは口に出すべきじゃないんだけどな」
151: ◆kquYBfBssLZl 2016/04/11(月) 16:02:40.10 ID:lg3PbuwIO
彼の瞳が、真っ直ぐに心を射抜いて、逸らせない。
「お前が出撃するとき、遠征に行くとき、傷付くとき、俺は、誰よりもお前が心配なんだ」
「龍驤は、大丈夫、なんて言うけれど、お前が海に出ている間、俺はいつでも胸が張り裂けそうだ」
「もしもお前が沈んだら、もしもお前が帰ってこなかったら、もしも、もしも、お前の笑顔が二度と見られないんじゃないかと思うと、死にそうだ」
「港から遠ざかっていく背中を見送りながら、何度、この身と代われたらと願ったか」
その苦しそうな表情に、視界が潤む。
「龍驤、だから、コレをお前に渡す」
「帰ってきてくれ。いつでも、あの笑顔を見せてくれ」
「MVPなんていらないから、お前の笑顔と、この指輪を持って、帰ってきてくれ」
彼の手に、力が篭る。
「お前の練度が最高になったとき、この指輪を、改めてお前に渡すために」
駆逐艦よりもずっと非力な筈のその掌に、誰にも負けない、強い力が篭る。
「龍驤」
嗚呼、どうしてこの人は。
「お前が好きだ」
こんなにも愛しいのだろう。
「この指輪を、受け取ってくれ」
彼の言葉に、想いに――
「はいっ……!」
私も、応えたい。
~~
170: ◆kquYBfBssLZl 2016/07/18(月) 11:19:45.04 ID:QIRxfVJLO
~~
提督「落ち着いたか?」
龍驤「うん……」
提督「急に泣きだすから焦ったぞ」
龍驤「えへへ……嬉し涙やし、堪忍してや」 ニヘ
提督「そ、そうか」 ドキ
龍驤「?」
提督「」 ジー
龍驤「ちょ、ちょっち待って! 今目ぇ赤くなってるから見んといてっ」 グイ
提督「ぅべっ。別に良いじゃないか、嬉し涙なんだろ?」
龍驤「それとこれとは別やん! 目ぇ腫れてんのなんて格好悪くてイヤやわ」
提督「見せたくないと言われると見たくなる人間のサガ~」 グイ
龍驤「ちょちょっ、や、やめてってほんまに! あっ!」 グラ
ポスッ
提督「あ」
ドサ
龍驤「――――」
提督「…………」
龍驤「……お、押し倒されたー……なんちて、はは……」
提督「…………」
龍驤「な、なんか喋ってよ……ちょっち、怖いで」 ドキドキ
提督「龍驤」
龍驤「は、はいっ?」 ビク
提督「愛してる」
龍驤「――――」
171: ◆kquYBfBssLZl 2016/07/18(月) 11:20:33.74 ID:QIRxfVJLO
熱くて柔らかいものが、唇に触れる。
呼吸が止まる。
心臓が止まる。
時間が止まる。
世界中の何もかもが止まって、意識がその熱に集中する。
名残惜しそうに離れるそれは、彼の唇。
彼の顔が目の前にあって、その真剣な眼差しに射抜かれて、胸の中心が引き絞られる。
この二日間で幾度も感じたそれではなく、温かく、優しい感情。
二度目の口付け。
思わず、身体が強張る。
彼の瞼は閉じられることはなく、こちらの反応を堪能しているようにも見える。
「怖い?」
三度目の口付けを交わして、彼の硬い指先が目尻に触れる。
濡れた感触に、自身の視界が潤んでいることにようやく気付いた。
彼の表情に、少しだけ不安が宿る。
よく見れば、耳が赤い。
「幸せだから」
彼の頬を両手で包みこんで、彼を引き寄せて、今度は自分から。
長く、長く、離さないように。
愛おしさをそのまま伝えるために、優しく、柔らかく、温かく、熱く、強く、唇を押し付けて。
唇から全身に彼の熱が伝わって、心地良い。
苦しくなって、唇を離す。
軽く息切れするのを見て、彼が笑う。
「鼻で息すれば、苦しくないよ」
「……息当たるやん」
嘘、思いつかなかっただけ。
でも、なんだか自身より余裕な彼に負けたくなくて、そっぽを向く。
「んっ!?」
その隙をついて、首筋に熱。
小さな音を立てて、彼の唇が吸い付く。
172: ◆kquYBfBssLZl 2016/07/18(月) 11:21:11.38 ID:QIRxfVJLO
咄嗟に首筋を隠して、彼を振り向く。
「きゅ、急にそういうことするの禁止っ――あっ……!」
今度は反対側に。
はしたない声が出て、顔が熱くなる。
「っひ……!?」
そのまま、熱が線となって首筋を駆け上がる。
最後にトドメとばかりに、耳朶を喰まれる。
「な、舐めた! 今っ舐めたやろ! う、ウチの首っん!」
黙らせるように、唇を塞がれる。
彼が離れると同時に瞼を開くと、意地悪そうな彼の顔。
にやにやと笑って、明らかにこちらの反応を面白がっている。
睨んでやると、声を漏らして笑い出した。
「意地悪」
「龍驤が可愛いから、つい」
「なんやねん……もう」
楽しそうに笑う彼を見て、まあいいか、と赦してしまう。
これが鈴谷が言っていた、ちょろい、というやつだろうか。
でも、まあいいや。
今、生まれてから一番幸せだから。
「どうしたら許してくれる?」
彼が、優しい声で問いかける。
別にもう許してるけど、せっかくだから何かおねだりしてみようか。
とは言っても、この雰囲気でできるおねだりって、何だ?
…………。
「……ちゅーして」
「ぶはっ!」
「あっ!」
噴き出す彼に、流石にカチンとくる。
ヒトがしおらしくしてれば……!
彼の腕を引き寄せて、勢いをそのままに、体勢を入れ替える。
173: ◆kquYBfBssLZl 2016/07/18(月) 11:22:38.17 ID:QIRxfVJLO
「押し倒されたー」
「う、うるさいっ! お仕置きやっ!」
先程、彼にされたのと同じことをしてやる。
首筋に吸い付いて、反対側も。
そのまま首を舐めあげて、耳朶を甘噛みしてやる。
これでどうだ、と反応を見るべく彼の顔を覗き込むと、未だににやにやと笑っていた。
「今のがお仕置き?」
引き寄せられて、啄むように唇を喰む。
「ご褒美の間違いじゃないの」
そして、唇の端、頬、目尻、額、鼻の頭、顔中に口付けの雨を降らせてくる。
彼の唇が触れるたびに身体から力が抜けて、最後に耳に口付けをされたとき、遂に彼の上に倒れこむ。
「……ずるい」
「ん?」
「ウチだけドキドキして、余裕無いの、なんかズルいわ……」
彼がまた噴き出して、一緒に抱き起こされる。
彼の胸の辺りに耳を押し当てられて、ようやく気付いた。
「俺も、結構余裕無いかも」
高鳴る鼓動が聞こえる。
ちら、と見上げると、そっぽを向いて鼻の頭を掻く彼の耳が、赤く染まっている。
また胸が引き絞られるような感覚がして、思わず口元がにやけてしまう。
なるほど、面白くて、とか、可笑しくて、じゃなくて。
愛おしくて、笑ってしまうなんてことも、あるんだ。
「……ね」
「ん?」
「好き」
「俺もだ」
そう言って、笑って、唇を合わせた。
~~
174: ◆kquYBfBssLZl 2016/07/18(月) 11:23:16.90 ID:QIRxfVJLO
龍驤「ただいまぁ~」 フラフラ
鳳翔「あら、おかえりなさい」
龍驤「うへへへへ、鳳翔きいてきいて」
鳳翔「はいはい、今お水出してあげるから」
龍驤「うふ、うへへっ……きゃー!」
鳳翔「もう、うるさいっ。ほら、これ飲みなさい」
龍驤「んくっ……これ見て!」 チャリーン
鳳翔「あら? ……あら、あらあら~、良かったじゃない」
龍驤「プロポーズされたった!」 フンス
鳳翔「おめでとう、龍驤」
龍驤「うん!」
鳳翔「それで、どこまでいったの?」
龍驤「えっとなー、街でなー、お洋服買ってもらってなー、あっ、この服! この服!」
鳳翔「はいはいそれは見ればわかるから」
龍驤「そんで、ホテル行って……あっ! えっちな方じゃないよ! 高級な方!」
鳳翔「はいはい」
龍驤「そこでプロポーズされて~……帰ってきた!」
鳳翔「……うん?」
龍驤「へ?」
鳳翔「……それで?」
175: ◆kquYBfBssLZl 2016/07/18(月) 11:23:49.30 ID:QIRxfVJLO
龍驤「……今、鳳翔の部屋に居るけど?」
鳳翔「違うわよ。どこまでいったの?」
龍驤「? 今言ったやん?」
鳳翔「…………何もしなかったの?」
龍驤「? ……へっ!?」
鳳翔「したのね? されたのね?」 ズイ
龍驤「な、なんもない! なんもないって!」
鳳翔「嘘おっしゃい。顔が真っ赤よ」
龍驤「うぐっ……」
鳳翔「ん? どうなの?」
龍驤「…………ちゅーした」
鳳翔「…………は?」
龍驤「ふ、二人で一晩、ちゅっちゅしとった/////」 カァアア…
鳳翔「…………」
龍驤「/////」 テレテレ
鳳翔「セ○クスは?」
龍驤「…………はぁっ!!?」
鳳翔「えっちしてないの!? 」 バンッ!
龍驤「ひぃっ!?」 ビクッ
鳳翔「ダメよ龍驤! 危機感が足りないわよ!」
龍驤「な、なんっ、鳳翔怖い……」
鳳翔「貴女ねえ、この鎮守府にどれだけ女性がいると思ってるの?」
龍驤「159人……」
鳳翔「具体的な数は聞いてないのよ! そんな中で男の人が一人でどれだけ毎日毎時毎分毎秒我慢してるのかってことよ!」
龍驤「が、我慢?」
鳳翔「男の人はね、いつでもえっちしたくてしょうがないのよ」
龍驤「ええっ!?」
鳳翔「龍驤、貴女はね、提督に選ばれたのよ。つまり……」
龍驤「つまり?」
鳳翔「もう提督は、龍驤意外とはえっちできないってことなの!」
176: ◆kquYBfBssLZl 2016/07/18(月) 11:25:41.20 ID:QIRxfVJLO
龍驤「うへへへへへ」 ニヨニヨ
鳳翔「喜ぶところじゃないっ!」 バンッ!
龍驤「ひっ」
鳳翔「男の人はいつでもえっちがしたい……でもいろんな娘達からのアプローチも躱して我慢してきた……そしてようやく手に入れたお嫁さん……でもそのお嫁さんもさせてくれない……そして近づいてくる魔の手……我慢の限界……」
龍驤「あ……あ……」 プルプル
鳳翔「ああ、昨夜しておかなかったから、龍驤がさせてあげなかったから……哀しくも提督は、他の娘と……」
龍驤「いやぁあああああああ!!」 ガクガク
鳳翔「いい? 次にチャンスがあったら、押し倒して無理やりにでも提督をスッキリさせてあげるのよ?」 ポン
龍驤「あわわ、あわわわわわ……」 コクコク
~~
177: ◆kquYBfBssLZl 2016/07/18(月) 11:26:08.00 ID:QIRxfVJLO
提督「…………鳳翔、龍驤になんか言ったろ」
鳳翔「磯風ちゃんに調理場を貸してまでお膳立てしてあげたのに、どっかの玉無しが据え膳放り投げて帰ってくるからでしょ」
提督「……スミマセンデシタ」
178: ◆kquYBfBssLZl 2016/07/18(月) 11:28:52.25 ID:QIRxfVJLO
以上で終わりです。
長らく間が空いてしまって申し訳ない。
エ口エ口させる予定だったんですが、あまり時間をかけすぎてもアレだし、するとしたらR板の方にそのうち立てようかなと思います。気が向いたら。
お付き合いいただきお疲れ様でした。
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445211407/
雪風「予定を変更して龍驤さんのまな板でお送りしています!」
3: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/19(月) 08:38:37.10 ID:/kOSYSxSO
龍驤「?」
提督「……大鳳は、そこまで小さくないよな?」
龍驤「……は?」
大鳳「は、いえ、まあ、そこまで気にしたことはなかったですね……」
龍驤「え、いやいや。……まあ、いや」
大鳳「私、そんなに小さいですかね?」
提督「いや、見た感じ龍驤よりはデカいんじゃないか?」
龍驤「なっ!?」
大鳳「でも確かに、正規空母にしては小さいのかも……」
龍驤「ちょちょちょちょっち待てや! 今なんて!?」
大鳳「え、正規空母の中では小さいかも……?」
龍驤「いやその前! なんて言った!?」
提督「? いや、見た感じは大鳳の方がデカいだろ?」
龍驤「み、見たって……見たんか!?」
提督「いや、え? まあ、いつも見てるけど……」
大鳳「はい」
龍驤「っ……! …………そ、そうか……」
提督「?」
4: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/19(月) 08:39:25.50 ID:/kOSYSxSO
大鳳「あの、龍驤さん……?」
龍驤「や……な、なんでもない。ウチ、ちょっち用事思い出したから、もう行くわ」 タタッ
提督「なんだったんだ?」
大鳳「…………」
~~
龍驤「…………」
龍驤「(知らんかったわ……提督と大鳳がそんな関係やったなんて……)」
龍驤「(ウチは結構古参やし、練度ももうすぐ改二……かなり可愛がってもらってる方やと思ってたんけどな……)」
龍驤「(まあ、大鳳は装甲空母、ウチは唯の軽空母……同じような練度で同じような胸しとったら、大鳳を取るに決まっとる……)」
5: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/19(月) 08:40:27.92 ID:/kOSYSxSO
龍驤「はぁ……思ってたより、ダメージデカいわ……」
龍驤「(この鎮守府にはまだケッコン艦はおらんから、いずれは誰かが選ばれて、提督とそういう仲になるいうんはわかっとった)」
龍驤「(そのとき選ばれたいとは思っとる。でも逆に、誰が選ばれてもちゃんと諦めようとも思っとった)」
龍驤「(ウチらは艦娘……未練がましく、提督に縋るべきやない……)」
龍驤「(わかっとるけど……けど……)」
龍驤「思っとったより、好きやったんやなぁ……」 ポツリ
龍驤「(……嫌な女や、ウチ)」
龍驤「(今、必死に頭ん中で、自分より大鳳が劣ってるところ探しとる)」
龍驤「(胸も小さければ器も小さいって? 喧しい、アホ)」
龍驤「……良い天気やなぁ」
龍驤「(雨がふっとったら、もっと大声出して泣けるのにな……)」 グス…
13: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/19(月) 23:57:55.07 ID:/kOSYSxSO
~~
龍驤「…………」 トボトボ
龍驤「(今日お休みで良かったわ……こんなメンタルじゃあ轟沈確定や……)」
龍驤「(提督のこと考えとったらいつの間にかとっくにお昼過ぎとるし……未練タラタラなんてもんやないで)」
龍驤「はぁ……」 ガチャ
鳳翔「いらっしゃ――あら、龍驤? こんな時間に……?」
龍驤「もうお昼はお仕舞いか?」
鳳翔「……そうね。でも、取り敢えず座って」
龍驤「や、別にそこまでお腹減ってないから、ええよ」
鳳翔「龍驤」
龍驤「ん?」
鳳翔「お味噌汁、飲む?」
龍驤「せやから、ええて。お休みやったからお腹も別に減ってないし」
鳳翔「いいからほら、ここに座って」
龍驤「……じゃあ、頂くわ」
14: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/19(月) 23:58:25.39 ID:/kOSYSxSO
鳳翔「どうぞ、ご飯とおかずもすぐに出すから、ちょっと待ってね」 パタパタ
龍驤「ん……頂きます」 ズズ…
龍驤「ぁ……」 ポロ
鳳翔「…………」
龍驤「なんで、なみ、だ……」 ポロポロ
鳳翔「…………」
龍驤「ぃ、いや……はは、なんやろなー……グスッ、多分さっきまで外にいた、からグス……ぅ……多分、そのせいで……ぐ、ぅ……」 ポロポロ
鳳翔「泣きたいときは、ちゃんと泣いた方が良いのよ」 ギュ
龍驤「泣いて、へんよ、グス……ッなんでウチが……ぁ、ぅう……」 ポロポロ
鳳翔「…………」 ギュ
龍驤「ぅあぁ……! ぅうぐぅあああああ!! うわぁあああああああん!!」 ボロボロ
~~
15: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/19(月) 23:59:00.90 ID:/kOSYSxSO
~~
龍驤「……グスッ」
鳳翔「……落ち着いた?」
龍驤「ん……ごめん」 ゴシゴシ
鳳翔「ほら、擦らないの。濡れタオル作ってあげるから、ちょっと待って」 パタパタ
龍驤「うん……」
鳳翔「…………」 ジャー、キュ
龍驤「…………」 ボー
鳳翔「はい、これで冷やして」
龍驤「ん……ありがと」 ペタ
鳳翔「…………」
龍驤「…………」
16: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/19(月) 23:59:35.86 ID:/kOSYSxSO
鳳翔「…………提督のこと?」
龍驤「!」 ビクッ
鳳翔「ふふ、やっぱり」 クス
龍驤「……なんでわかんねん」
鳳翔「わかるわ。貴女と一番付き合いが長いのは、私だからね」
龍驤「……アンタは何考えてんのかイマイチわからんけどな」
鳳翔「ふふ、龍驤はわかりやすいから」
龍驤「うっさい……」
鳳翔「それで? 提督と喧嘩でもしたの?」
龍驤「するわけないやん……」
鳳翔「大好きだもんね」
龍驤「もーうっさい!」
17: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/20(火) 00:00:11.74 ID:9d7IgZnLO
鳳翔「ふふ、そんなに照れなくてもいいのに」 クスクス
龍驤「なんやねんもう……」
鳳翔「ふふ……」
龍驤「……提督とな、今朝会ったんやけど」
鳳翔「……うん」
龍驤「大鳳と一緒におって、ウチのが小さいだの何だのって言っとったんや」
鳳翔「ふうん?」
龍驤「そいでな、大鳳も同んなじぐらいやんかーってウチが言うたら、大鳳の方がデカい言うてな」
鳳翔「…………」
龍驤「……いつも見てるから、わかるんやって言われてな……そんで……」
鳳翔「…………」
龍驤「二人ともそんな仲やったんかーってな、一人でヘコんで……そんで、外で一人で泣いとった」
鳳翔「……そう」
18: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/20(火) 00:00:37.11 ID:9d7IgZnLO
龍驤「……なんか、泣いたらお腹空いた」
鳳翔「ん、じゃあ用意するわね」 パタパタ
龍驤「ごめんな、お味噌汁冷めてもうた」
鳳翔「良いのよ。温め直すから、こっちに頂戴?」
龍驤「ありがとう」
鳳翔「どういたしまして。お肉とお魚、どっち?」
龍驤「秋刀魚?」
鳳翔「ええ」
龍驤「じゃあお魚くれ」
鳳翔「はいはい、すぐに準備するからね」
龍驤「………………ありがと」 ボソ
鳳翔「ん?」
龍驤「なんでもなーい」
~~
24: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/21(水) 05:58:00.18 ID:kHZMPc+QO
~~
龍驤「――ん、ご馳走様」 パチン
鳳翔「お粗末様。本当にお腹空いてたのね」 クス
龍驤「せやから言うたやん」
鳳翔「良い食べっぷりだったわ」
龍驤「まあ、美味いから」
鳳翔「赤城さんみたいに」
龍驤「それは言い過ぎ……ていうか、なんか今日は意地悪やなぁ……」
鳳翔「ふふ、そうかしら」
龍驤「……そういえば、ふたりっきりで話すんも久しぶりやな」
鳳翔「そうね。……この鎮守府も、いつの間にか賑やかになったから」
龍驤「……そうやな」
25: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/21(水) 05:58:29.46 ID:kHZMPc+QO
龍驤「ん……もうこんな時間か」
鳳翔「あら、本当」
龍驤「そろそろお暇するわ。スッキリ……とまではいかへんけど、なんちゅーか、落ち着いたわ」 ガタ
鳳翔「また、いつでも来てね」
龍驤「ん」
鳳翔「…………それと」
龍驤「ん?」
鳳翔「ちゃんと、提督と話した方がいいわ」
龍驤「!」
鳳翔「最近はなかなか秘書艦も回ってこないし、時間はなかなか作れないかもしれないけど……」
26: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/21(水) 05:59:04.75 ID:kHZMPc+QO
龍驤「ん……わかった」
鳳翔「…………。……そう」
龍驤「じゃあ、また」 ガチャ
鳳翔「ええ」
>バタン
鳳翔「…………」
鳳翔「…………」 pi、pi、pi
prrrrr、prrrrrr――
~~
32: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 00:05:16.83 ID:nXbZwmONO
~~
龍驤「ん……」 パチ
龍驤「…………」 ムク
龍驤「…………」 ボー
>チュンチュン
龍驤「……朝か」
龍驤「今日は遠征やったな……引き継ぎの確認せんと……」 モゾ
龍驤「…………」
龍驤「(……嫌やなぁ、提督に会うの)」
龍驤「(でも、引き継ぎの書類は執務室やし……)」
龍驤「はぁ……」
>コンコンコン
龍驤「? はーい」
33: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 00:05:47.01 ID:nXbZwmONO
大鳳「あ、良かった。起きてましたか」 ガチャ
龍驤「……なんか用か?」 フイ、ゴソゴソ
龍驤「(あほ……今のはあかんやろ……いくらなんでも性格悪過ぎや)」
大鳳「……いえ、実は――――」
~~
龍驤「…………」
提督「龍驤、そっちのファイルとって」
龍驤「ん、こ……これか?」
提督「サンキュー」
龍驤「ん……」
龍驤「…………」
龍驤「(な、なんやこれ!?)」
龍驤「(なんでウチが秘書艦やっとんの!?)」
龍驤「(そもそも大鳳があんな事言い出すから……!)」
34: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 00:06:50.56 ID:nXbZwmONO
………
……
…
大鳳『実は、今日は翔鶴さんの装甲実装後の試運転で、演習に出るはずだったんですが……』
大鳳『昨夜、誤って磯風ご飯を口にしてしまったようで、明石さんによると今日は一日ダウンらしいんです』
大鳳『とは言っても演習の相手方には装甲空母が出ると伝えてありますし、相手からすると今日の演習はどうやら対装甲空母用の新戦術のテストが目的だそうなので、私が代理に出ることになってしまって……』
大鳳『それで、急で申し訳ないんですが、私の代わりに龍驤さんが秘書艦をしてもらえませんか?』
………
……
…
龍驤「(――――とか言われて、つい引き受けてしまったけど……)」
龍驤「(そもそもなんでウチやねん!?)」
龍驤「(提督と顔合わせんのも辛いってのにもー!)」 プルプルプルプル
35: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 00:07:21.61 ID:nXbZwmONO
提督「龍驤」
龍驤「は、はいぃっ!?」
提督「な、なんだ急に大声出して……さっきから筆が進んでいないようだが、大丈夫か?」
龍驤「へぁっ!? そ、そんなことないですよぉ!? ダイジョーブダイジョーブ!」
提督「そ、そうか……? ならいいが……」
龍驤「う、うん」
提督「…………」
龍驤「…………」
龍驤「(我ながらアホすぎる……助けてくれ鳳翔……)」
提督「……そういえば、龍驤とこうして書類仕事をするのも、随分久しぶりだな」
龍驤「そっ! そ……そうやんな」
36: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 00:08:07.26 ID:nXbZwmONO
提督「63日ぶりか」
龍驤「うん…………ってえぇっ!?」
提督「うん?」
龍驤「な、なんで憶えてんねん!?」
提督「そりゃあ憶えてるだろ」
龍驤「!」 ドキ
提督「なんたって龍驤はウチの大切な艦娘だし、それに――――」
龍驤「(えっえっ……! もしかしてコレは……!)」 ドキドキ
龍驤「(待って待って、こ、心の準備が……!)」 ドキドキ
37: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 00:16:03.25 ID:nXbZwmONO
提督「――――龍驤は少食だから、昼食代が安く済むからな」 ハハハ
龍驤「」 ゴンッ!!
提督「いやあ空母は大喰らいが多くてなぁ。その分執務のミスは少ないからまあ良いんだが……って、どうした?」
龍驤「……なんでも」
龍驤「(勝手にドキドキして恥ずかしすぎる……)」
龍驤「(そもそも、提督がウチに、とか……あるわけないやん)」
龍驤「(だって……だって提督は大鳳と……)」 ジワ
龍驤「(ぁ、やば、泣きそう……でも提督の前で泣くとかカッコ悪すぎる……)」 グ
龍驤「(だめだめ泣いたらあかんっ! あ、でももうムリ――――)」 ポロ
提督「そういうわけで、龍驤は何か昼に食べたいものあるか?」
38: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 00:16:55.36 ID:nXbZwmONO
龍驤「――――えっ!?」 ガバッ
提督「ん?」
龍驤「お、お昼……?」
提督「うん」
龍驤「(そう言えばそうやった! 提督はその日の秘書艦と必ず一緒にお昼ご飯食べるんや! ヤバい! ただ誘ってもらえただけやのにめっちゃ嬉しい!)」 アワワワワ
提督「……ていうか、泣いてるのか?」
龍驤「えっ!? あ、こ、これは欠伸!」 グシグシ
提督「ホントか? 嫌なら嫌とちゃんと言わないと……」
龍驤「嫌なわけない!!」 ガタンッ!!
提督「お、おう。それなら良いんだが……?」
龍驤「っ……うん」
龍驤「(お、思わず大声出してしまった……でもいきなりあんなこと言うから……)」
龍驤「(……提督とお昼ご飯……めっちゃ久しぶりやな……あかん、なんかソワソワしてまう)」ソワソワ
39: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 00:17:26.58 ID:nXbZwmONO
提督「それで?」
龍驤「へっ?」
提督「昼、何か食べたいものあるかって」
龍驤「え、や、そ、そんな急に言われても……」 アタフタ
龍驤「(ふ、普段なに食べとったっけ……? えーとお魚とお肉とお野菜とお米とお味噌汁と……って材料並べてどうすんねん!)」
提督「ま、すぐに思いつかないようなら、昼までに教えてくれ」
龍驤「う、うん……」
~~
52: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 17:46:09.97 ID:nXbZwmONO
~~
提督「よしっ、これで終わりだな」
龍驤「えっ!? も、もう終わったん!?」
提督「午前中の分な。龍驤もそれで最後だろ?」
龍驤「え……あ、ホンマや……」
龍驤「(や、ヤバい……お昼のこと考え過ぎてずっと上の空でやっとった……しかもまだ決まっとらんし!)」
提督「で、決まったか?」
龍驤「ぅえっ!? え、えと……」 アセッ
53: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 17:47:25.94 ID:nXbZwmONO
提督「ん?」
龍驤「(あぁあああそんな期待に満ちた顔で見つめんといてよぉ! ほ、鳳翔助けて……って、鳳翔?)」
龍驤「そ、そうやっ、炊き込みご飯!」 ティン
提督「炊き込み御飯?」
龍驤「うんうんっ、今鳳翔のトコで炊き込みご飯出してるんよ!」
提督「ふむ……じゃあ昼は鳳翔のところで良いか?」
龍驤「よっしゃ決まったらさっさと行こう! な!」
提督「わかったわかった。そんなに腹減ってたのか?」
龍驤「(これでやっと二人っきりの状態から解放される! 鳳翔ホンマにありがとう!)」
~~
54: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 17:47:52.90 ID:nXbZwmONO
==============================
本日
体調不良の翔鶴さんを看病するため
臨時休業とさせていただきます
鳳翔
==============================
55: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 17:48:19.42 ID:nXbZwmONO
龍驤「」
提督「ああ、そういうばそんなこと言ってたな」
龍驤「知ってたんかい……」
提督「いやあすっかり忘れてた、ははは」
龍驤「(鳳翔ぉおおおお!! なんてことしてくれてんねん!)」
提督「しかし、こうなっては仕方ないな」 グイ
龍驤「!」 ドキ
提督「炊き込みご飯、食べに行くか!」
龍驤「……へ?」
~~
56: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 17:48:46.08 ID:nXbZwmONO
ガヤガヤ
提督「街に出るのも久しぶりだなぁ」
龍驤「そ、そうやな」
提督「あれ、あそこのビル立て替えたのか? 前は無かったよな」
龍驤「そ、そうやな」
提督「コンビニも随分増えたな……100メートル以内に◯ーソンが二つあるぞ。どういうことだ?」
龍驤「そ、そうやな」
提督「商店街は健在か。でもシャッターが閉まってる店舗もあるな」
龍驤「そ、そうやな」
提督「……龍驤?」
龍驤「そ、そうやな」
提督「…………。……ツインテもふもふして良い?」
龍驤「そ、そうやな」
提督「……ダメだこりゃ」
57: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 17:49:16.34 ID:nXbZwmONO
龍驤「(ひ、人! ヒト! ひとが多い!)」
龍驤「(いや鎮守府も少なくはないけど、みんな女の子やしこんなに色んなオシャレな服着てないし!)」
ブォオオオン!!
龍驤「ひゃぁっ!?」 ビク
提督「お、おい大丈夫か?」
龍驤「(く、車や! あとバイク! めっちゃ速いやんけ!)」 ビクビク
提督「とりあえず行くぞ、ほれ」 ギュ
龍驤「ぎゃあっ!?」 ビクン!!
提督「ええっ!?」
龍驤「ななななななななに急にヒトの手ェ握っとんの!?」 ブンブン
提督「だって……今の調子じゃあ絶対迷子になるだろ?」 ブンブン
58: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/22(木) 17:49:43.29 ID:nXbZwmONO
龍驤「そ、そうかもしれんけど……」
提督「はは店に着くまでの辛抱だから、な?」
龍驤「うぅ……」
龍驤「(ああああめっちゃ恥ずかしい! 前はここまで意識することなかったのになんで……)」 チラ
提督「ん?」
龍驤「」 ドキッ
提督「どうした?」
龍驤「べ、べつに……!」 プイ
提督「?」
龍驤「(あぁやっぱり……好きなんや……)」 ドキドキ
~~
66: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/29(木) 04:26:46.90 ID:JgKLiamfO
※オリキャラ発生(名無し)
~~
「いらっしゃい、お好きな席へ……ってお前か」
提督「やあ、久しぶりだな」
「まったくだ。高給取りなんだからちったぁウチの店の売り上げに貢献しやがれ」
提督「はは、なかなか時間が無くてな」
「わかってるさ。おかげで最近は魚の供給量も安定してる。……その子は? 嫁か?」
龍驤「!?」 ビクーン
提督「はは、ウチの可愛い部下だよ」
「はは、だろうな」
提督「ほれ、挨拶して」
龍驤「りゅ、龍驤や。こ、これでも立派な艦娘なんやで……」 ビクビク
67: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/29(木) 04:31:39.24 ID:JgKLiamfO
提督「そんで、こっちは軍学校時代の友人だ。今はただの定食屋だがな」
「よろしくな、嬢ちゃん」
龍驤「よ、よろしゅう……」 ビクビク
「……俺、なんか怖がらせるようなことしちまったか?」
提督「安心しろ、男に慣れてないだけだ」
「なんだそうか。それより注文がまだだったな、いつものでいいか?」
提督「ああ、龍驤にも同じのを頼む。あと、座敷に上げてもらっていいか?」
「あいよ、座敷は一番奥を使ってくれ。ちょっくら待っててくれな、嬢ちゃん」 スタスタ
龍驤「……はぁあ……」
提督「ははは、しかし意外だな。龍驤ならどんなのが相手でも物怖じしないと思ったが」
68: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/29(木) 04:32:17.57 ID:JgKLiamfO
龍驤「ウチもそう思うわ……でも今日はダメや」 グデー
提督「ふうん?」
龍驤「(昨日と今日でいろいろあり過ぎて頭ん中メチャメチャや……全部この――)」 チラ
提督「ここは昔ながらの定食屋でな米も釜で炊いてるんだがただ古臭いってわけじゃなくて最新技術で作られた調理器具を使うってのが創業以来のこだわりでそれこそが伝統だと言い換えることもできるだろう深海棲艦が現れた直後は丸一年漁獲ゼロで勿論この店も大打撃を受けたんだが先代の親父さんがウンタラカンタラ」 ペーラペラペーラ
龍驤「(――鈍感提督のせいやっ!)」 ゲシッ
提督「痛っ!? な、何するんだ龍驤……」
龍驤「なんでもなーい」
~~
69: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/29(木) 04:34:33.34 ID:JgKLiamfO
「お待たせさん。炊き込みご飯大盛り4人前ね」 ドン
龍驤「……え?」
「はは、艦娘が普通の女より大食らいってのは知ってんだ。このぐらい食うだろ?」
提督「おう、ありがとう。それにしてもよくわかったな?」
「龍驤っていえば正規空母だろ? 駆逐艦だって大の男の倍食うって話だし、こんぐらいペ口リといっちまうんじゃねえか?」
提督「まあな。でも残念、龍驤は軽空母だし、空母と一部の戦艦はこの3倍でも足りないぐらいだ」
「……マジかよ」
提督「ふふ……鎮守府の経費15%を占めているのが何だか聞きたいか……?」 フフフ
「ぞっとしない話だ……が、今度はその娘っ子どもみーんな連れてこいよ」
提督「俺を破産させるつもりか」
70: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/29(木) 04:35:09.39 ID:JgKLiamfO
「はっはっは! まあゆっくり食ってくれ、そのために座敷にしたんだろ?」
龍驤「!」
提督「ん……まあ。つーかそういうことは言うな」
「ははは、じゃあ、お勘定のときによんでくれ」
提督「ったく……」
龍驤「……提督」
提督「ん?」
龍驤「いや、その……ウチのためにって……」
提督「あー……まあな」
提督「ほら、艦娘の認知が広がっているとはいえ、世の中にはいろんやな奴がいるからな」
提督「見た目の何倍も食べる龍驤を見て、興味本位や悪意を持って近づいてくる奴がいないとも限らないし……そんな中じゃあ落ち着いて食べられないだろ?」
71: ◆kquYBfBssLZl 2015/10/29(木) 04:35:39.58 ID:JgKLiamfO
龍驤「…………」
龍驤「(なんやねんもう……ズルいわこんなん……)」 ギュウ…
提督「……龍驤?」
龍驤「へっ?」
提督「いや、俯いちゃったから、大丈夫かなと」
龍驤「ぁ……べ、別にっ……!」 ワタワタ
提督「? そうか?」
龍驤「あ、あははー……あ、ほら、冷めてまう前にはよ食べんと!」
提督「ああ、そうだな」
「「いただきます」」
~~
80: ◆kquYBfBssLZl 2015/11/30(月) 05:29:36.74 ID:8CMlzmxPO
~~
龍驤「―――ごちそうさまでしたっ」 パチン
提督「食い切ったなぁ」
龍驤「べ、別にいいやろ。お腹減っとったんやから……」
提督「その小さな身体のどこにこれほどの容量があるのか……」
龍驤「もーええって!」
提督「はは。でも、美味かったろ?」
龍驤「それはそうやけど……」
提督「けど?」
龍驤「あ、い、いや! なんでもない!」
龍驤「(まだもう一人前ぐらいイケる……とか、恥ずかしいし……)」
提督「よし、じゃあそろそろ移動するか」
龍驤「そうやな、執務もまだ残っとることやし、そろそろ帰らんと……」
提督「ん? まだ帰らないぞ?」
龍驤「…………へ?」
~~
81: ◆kquYBfBssLZl 2015/11/30(月) 05:30:42.44 ID:8CMlzmxPO
提督「おお、ここだここ」
龍驤「こ、ここって……?」
提督「まあ、ショッピングモールだな」
龍驤「こ、これが……デッカいなあ……」
提督「ちなみに、店の名前読めるか?」
龍驤「え? えっと~……オイオイ?」
提督「残念、ハズレだ」 ケラケラ
龍驤「え!? じゃあなんて読むんや!? 他にどうにも読めんやろ!?」
提督「さ、じゃあ行くか」
龍驤「ちょ、なんて読むん!? なあ!」
~~
82: ◆kquYBfBssLZl 2015/11/30(月) 05:31:13.88 ID:8CMlzmxPO
提督「ふむ」 キョロキョロ
龍驤「…………」 ソワソワ
龍驤「(な、なんやここ……オシャレな服がいっぱいある……ウチ、こんな格好で恥ずかしいわ……)」 モジモジ
龍驤「(提督もなんでこんなトコに……だ、誰かにプレゼントでも買うんかな……)」
龍驤「(…………十分あり得るな……それこそ、大鳳とか……)」 シューン…
提督「ふん……いやこっちの方が……」
店員「いらっしゃいませ~、何かお探しですか~?」
提督「あ、すみません。この子に似合う服を2、3欲しいんですが」
店員「あ、それでしたらこちらの方に……」
龍驤「へぁあっ!!??」 ビクーン!!
店員「えっ!?」
提督「な、なんだ龍驤。急にデカイ声出すな」
龍驤「な、なんやそれ!? き、聞いてへんよ!?」 ワタワタ
提督「え? ああ、まあ、今初めて言ったからな……そんなに驚くことか?」
龍驤「おおお驚くわ!! ううウチなんかの為になんでそんなことすんねん! お昼ご馳走になっただけでも十分やのに!」 ダンダン!!
83: ◆kquYBfBssLZl 2015/11/30(月) 05:32:00.56 ID:8CMlzmxPO
提督「取り敢えず落ち着け」 ポン
龍驤「!」 ビク
提督「俺が龍驤に何かしてやりたいんだ、ダメか?」 ナデ
龍驤「ぅ……で、でもなんでこんな急に……」
提督「いやまあ、別に急でもないが……オシャレとかしてみたいだろ?」
龍驤「…………」 コクリ
提督「よし、じゃあいろいろ見て回るか」
龍驤「……うん」
店員「(急にイチャつき始めやがって……チッ)」
~~
84: ◆kquYBfBssLZl 2015/11/30(月) 05:32:26.37 ID:8CMlzmxPO
シャッ
龍驤「ど、どう……?」
提督「おお、ワンピースもイイな!」
店員「髪下ろしてみると、雰囲気も変わるでしょう?」
提督「そうですなあ」
龍驤「な、なんか落ち着かんわ……この服フワフワしとるし……」
提督「まあ、いつものは機能性と防御性能に特化してるからな。普通の服より重いんだ」
店員「でも、艦娘さんってこんなに可愛らしい子でもなれるんですね~。もっと哺乳類最強系女子みたいな女ばかりかと……」
提督「はっは、まあイメージというやつは先行するものですからな。艦娘なんてのは普通の女の子となーんにも変わりはしませんよ」
店員「ホントですよね~。じゃあ次はこっちなんかどうです?」
龍驤「あわわっ、そんないっぱい試着なんか……」
店員「試着ぐらいみんなしますよ! ほらほら、これはちょっと着るの難しいから、お姉さんが着替え手伝ってあげる!」
龍驤「ちょっ、て、提と」 シャッ
85: ◆kquYBfBssLZl 2015/11/30(月) 05:32:53.52 ID:8CMlzmxPO
店員『ほら脱いで脱いで』
龍驤『ぁちょっ、ど、どこさわってっひっ!』
店員『龍驤ちゃんほっそいねえ。ちゃんとご飯食べてるの?』
龍驤『う、ウチらは基本的に身体の形は変わらんから……』
店員『えっ!? じゃあいくら食べても太らないってこと!?』
龍驤『ま、まあ……』
店員『う、羨ましいー! このこのっ!』
龍驤『ひゃわぁっ!? あひ、ひゃっ! あは、ちょ、や、やめて~!』
キャッキャウフフ
提督「…………」
提督「(これはこれで……イイものだ……)」
~~
109: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 04:09:38.07 ID:pZ283hduO
「お待たせしましたっ!」
嬉々とした掛け声とともに、試着室のカーテンが勢いよく開かれる。
まず目に飛び込んできたのは真っ白なブラウス。
ボタンに沿うようにあしらわれたフリルが、可憐さを際立たせている。
臍の辺りから伸びるフレアスカートは、龍驤のイメージカラーとも言えるワインレッド。
膝頭のあたりまでしかないその丈は普段のミニスカートと大差無いが、その形状故か、普段よりも清楚に感じられる。
その下に伸びる脚は黒いストッキングによって覆われていて、シルエットがくっきり浮き出ていて、華奢な体躯を嫌でも思い出させる。
そして、いつもツインテールに結われている赤茶色の髪は、緩めの三つ編みに纏められて肩から前に垂れている。
既に何度目になるかわからないぐらい着せ替えショーだったが、私はこの日一番の感動を覚えていた。
「ほう……」
思わず、感嘆の声が漏れる。
龍驤はスカートの前の方を握り締めて、耳から首まで真っ赤に染まった顔を俯かせた。
なんと、髪型と服装次第で女というのはここまで変わるのか。
私がまじまじと観察していると、龍驤はますます顔を紅潮させて、遂にそっぽをむいてしまった。
110: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 04:10:33.62 ID:pZ283hduO
龍驤「そ、そんなに見たらあかんってぇ……!」 プルプル
提督「いやしかしだな」
店員「どうですかどうですかっ! 感想聞かせてあげてくださいっ!」 ガシッ
龍驤「な、なにすんねん!」
店員「だって龍驤ちゃんこうでもしないとちゃんと提督さんの話聞こうとしないでしょ?」 グググ…
龍驤「聞かんでええし提督も言わんでええんや! こ、このっ、離」
提督「かわいいぞ、龍驤」
龍驤「!!!!!」 ビクンッ!!!!
店員「きゃー! やっぱり私の見立ては正しかったのよ! だから言ったでしょ、清楚系の方が絶対可愛いって!」
提督「ええ、今までの物は活発な感じというか、ある意味龍驤らしい服装ばかりでしたが、コレは不意打ちでしたな。思わず見惚れてしまいました」
111: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 04:11:00.96 ID:pZ283hduO
店員「うふふふ、良かったわね龍驤ちゃん! ほらっ、自分も鏡でもう一回よーく見て……、……? 龍驤ちゃん?」
龍驤「」
提督「龍驤?」
龍驤「」
店員「……これって」
提督「……フリーズしてるな」
龍驤「」 プシュゥゥウウ…
~~
龍驤「――――はっ!?」 ガバッ
提督「おっ、ようやく起きたか」
112: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 04:21:08.98 ID:pZ283hduO
龍驤「!?」 ッブン!!
提督「いってえ!?」 ベシィッ!!
龍驤「あっ! ご、ごめん!」
提督「な、なにするんだいきなり……」
龍驤「だ、だってキミがウチの顔覗き込んどるから……」
提督「良いじゃないか別に」
龍驤「だからゴメンて。……ていうか、ここどこ?」
提督「ん? ああ、ホテルだよ」
龍驤「ふうん……」 キョロ
龍驤「…………」
113: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 04:21:43.29 ID:pZ283hduO
龍驤「…………は?」
提督「ん?」
龍驤「……………………キミ、今なんて?」
提督「ホテルだよ」
龍驤「」 ズザザッ!!
提督「えっ」
龍驤「けっ、ケダモノーーー!!!」 ピャー!!
提督「えぇっ!?」
龍驤「ヒトが気絶しとる間にこんなトコ連れ込みよって! キミは変態か! この変態! 変態!」
龍驤「わざわざ外に連れ出したんも、ウチのこと着せ替え人形にしたんもこの為かキミぃ! ケダモノやぁーーーっ!!!」
114: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 04:22:16.84 ID:pZ283hduO
提督「待て待て! 俺はそんなつもりは!」 アタフタ
龍驤「じゃあなんでウチはこんなトコにおるんや! 説明してみぃ!」 ガオーッ!!
提督「い、いや、龍驤が気絶したから、取り敢えずホテルにと思って……」
龍驤「ケダモノーーーっ!!!」 ペチーン!!
提督「へぶっ! だ、だから違うって! ここは龍驤が思うようなホテルじゃないから!」
龍驤「…………へ?」
~~
提督「…………」
龍驤『…………』
115: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 04:22:42.55 ID:pZ283hduO
提督「……おーい、龍驤ー」
龍驤『ウチは変態や……ほっといて』
提督「いや、トイレに籠られるといざという時に困るんだが……」
龍驤『キミが紛らわしい言い方するからや……普通のホテルなら普通のホテルって言わんとわからんやん……』
提督「ホテルと聞いて真っ先にラブホテルの方が思い浮かぶなんて、龍驤はえっちだなぁ」
<どんっ!!
提督「おお怖い」
龍驤『もぉおおおおーーー!!』
提督「まな板が牛になった!」
ドアバーン!!
116: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 04:23:09.90 ID:pZ283hduO
龍驤「言うたらあかんことを言ったな! キミのお尻に艦爆ブッこんだるから覚悟しとけよ!!」
提督「うおっ!? や、やめろ冗談……ぐあっ! や、やめろ! 勅令玉を光らせて目潰しに使うのはやめてくれっ!」
龍驤「待てやごらぁっ!!」
どたばた
~~
龍驤「ぜーっ……ぜーっ……!」
提督「はぁ、はぁ……り、陸上では俺の方が上手だったな……ふぅ……」
龍驤「ぎ、艤装さえっ……はぁっ……使えたら、っキミごとき……!」
提督「……ふふ」
117: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 04:23:37.56 ID:pZ283hduO
龍驤「な、なに笑っとんねん」
提督「いや……懐かしいな、その呼び方」
龍驤「へ?」
提督「ウチの鎮守府が騒がしくなってから……いや、俺が大佐になったぐらいの頃からかな。それまでは『キミ』って呼んでたのに、急に『提督』って呼ぶようになったじゃないか」
龍驤「……覚えとらん」 フイッ
提督「ま、別に良いけどな」
龍驤「ええんかい」
提督「ああ。……ていうか、暴れまわったせいで服も髪もメチャメチャになっちゃったな」
龍驤「ふく? ……あっ!? な、なんやこれ!」
提督「もう忘れたのか? さっき買ったじゃないか」
118: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 04:24:49.67 ID:pZ283hduO
龍驤「か、買った!?」
提督「そりゃあそうだろ。こんなに似合ってるのに勿体無いじゃないか」
龍驤「ふんっ!」 ペチコーン!!
提督「えっ」
龍驤「」 ムニムニ
提督「……急に変顔なんかしてどうした?」
龍驤「……顔の筋肉をマッサージしとるんや」
提督「お、おう」
龍驤「…………服直すから、ちょっち外出とって」
提督「ん、わかった」
119: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 05:23:32.81 ID:pZ283hduO
ガチャ、バタン
龍驤「…………」
龍驤「…………」 ポフン
龍驤「はぁああぁぁぁああああぁあぁ……」 ジタバタ
龍驤「なんなんや今日は……」
龍驤「ご飯食べたり、お店行ったり……」
龍驤「あっ!? そういえばウチがもともと着とった服は!?」
龍驤「…………」 チラ
龍驤「…………」 ピラピラ
龍驤「…………」
120: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/07(日) 05:23:59.27 ID:pZ283hduO
龍驤「そ、そういえば髪、髪も整えんとな! 鏡、鏡……」
龍驤「お、おっと~、こ、こんなところに姿見が~」
龍驤「ってうわっ、ほんまにボッサボサやんか!」
龍驤「いっかい結い直した方が早いな……」 シュル
龍驤「…………」 ジ…
龍驤「…………」 ヒラ
龍驤「…………」 ヒラ
龍驤「……かわいいなぁ、この服」
龍驤「…………」
龍驤「……う、うん。まあ、も、もうちょっとぐらい着とってもええ、かな?」
龍驤「…………へへ」
126: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/13(土) 04:39:01.99 ID:lz0AVdmEO
~~
龍驤『もう入ってもええでー』
提督「お、じゃあ入るぞー」
ガチャ
提督「……おお」
龍驤「な、なんや」
提督「いや、やっぱり良いな、その服」
龍驤「そ、そう?」
提督「うん、かわいい」
龍驤「だっ、だからそういうこと言うのやめてって!」 ベシッ
127: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/13(土) 04:39:46.80 ID:lz0AVdmEO
提督「ぐぉっ!! ほ、本当のことなんだから別に良いだろ……」
龍驤「(い、今までそんなこと言ったことないくせにぃ……!)」
龍驤「(…………そうやんな。ウチが可愛いんじゃなくて、服が可愛いから言っとんのやろ)」 シューン…
提督「……ん? どうした、急にそんなシュンとして」
龍驤「…………別に」 プイ
提督「?」
龍驤「あーもーなんでもないっ! ほら、もうこんな時間やんか、はよ帰らんと大鳳やら大淀やらに怒られんで」
提督「ん? 何言ってんだ、まだ帰るわけないだろ」
龍驤「へ?」
提督「まあまあ。ほら、そろそろ行こうか」 グイ
128: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/13(土) 04:40:17.76 ID:lz0AVdmEO
龍驤「あっ、ちょ、ちょっちどこ行くん!?」
~~
「どうぞ、ごゆっくり」
提督「どうも」
龍驤「あわわわわ」
提督「はは、そんなに緊張するな」
龍驤「そ、そんなんムリや……!」
提督「大丈夫だって、普通のレストランと変わらないから」
龍驤「ドレスコードのあるレストランは普通のレストランじゃないやろ……!」
提督「まあまあ。ほら、なんでも好きなものを頼んで良いぞ」
129: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/13(土) 04:40:44.82 ID:lz0AVdmEO
龍驤「……メニューに値段が書いてないんやけど」
提督「金のことなら気にするな。給料はそこそこあるし、今日みたいに出かけることもほとんど無いから貯金はあるんだ」
龍驤「そんなこと言われても……」
龍驤「(うぅ……な、なんでそんなに落ち着いてるんやキミは……)」
龍驤「(こういうトコにもしょっちゅう来とんのかな……)」
龍驤「(誰と…………いや……)」 シュン…
提督「まあ、俺もこういう所に来るのは初めてだから、気持ちはわかるけどな」
龍驤「…………へ?」
提督「ん?」
龍驤「は、初めて?」
130: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/13(土) 04:45:03.38 ID:lz0AVdmEO
提督「ん? うん。まあ料亭とかならお偉いさんに連れて行かれたことはあるけど、こういう所は初めてだ」
龍驤「へ、へぇー」
提督「ふむ……そう考えてみると確かにどれが美味いかなんかもよくわからんな」 スッ
「はい」
提督「この中で一番オススメのメニューは?」
「はい。本日のオススメですと、こちらの―――」
龍驤「(初めて……はじめてなんか……本当に?)」
龍驤「…………」
龍驤「(……キミが何考えてんのか、ウチにはわからん……)」
131: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/13(土) 04:45:44.73 ID:lz0AVdmEO
~食後~
提督「乾杯」
龍驤「か、乾杯」
提督「……ん、いつものような清酒も美味いが、ワインも結構いけるな」
龍驤「……渋い」
提督「はは、そういえば、ワインは初めてだったな」
龍驤「うん。……でも、香りは良いと思う」
提督「そうだな。ん……まあ、慣れれば美味くなるさ」
龍驤「ふぅん……」
提督「ドイツ艦の連中に今度飲ませてもらうと良い。ビールもなかなかクセになるぞ」
132: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/13(土) 04:46:12.73 ID:lz0AVdmEO
龍驤「ビールって苦ぁいヤツやろ? イヤやわ」
提督「お子様だなぁ」
龍驤「うっさい」 プイ
提督「あはは」
龍驤「酔っ払い」
提督「酔ってない」
龍驤「酔っ払いは皆そういうわ。……キミ、お酒弱いんやから程々にしとき」
提督「まだグラス一杯だろ……そりゃあ、お前たち艦娘に比べたら弱いけどさ」
龍驤「…………」
提督「……どうした? さっきから、ちょっと様子が変だぞ」
133: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/13(土) 04:46:39.36 ID:lz0AVdmEO
龍驤「…………」
提督「…………」
龍驤「…………わからん」
提督「なにが」
龍驤「キミが、……キミがなに考えてんのか、ウチにはわからん」
提督「……今日のことか?」
龍驤「」 コクリ
提督「うーん……わからないか?」
龍驤「だって……変やろ、キミ」
提督「変?」
134: ◆kquYBfBssLZl 2016/02/13(土) 05:06:15.48 ID:lz0AVdmEO
龍驤「急に出かけたり……なんか服とか買ったり……。仕事放り出すとか、普段なら絶対やらんのに……」
提督「…………」
龍驤「そもそも、よく考えたら秘書艦の交代もおかしかったんや。翔鶴の代わりなら瑞鶴の方が適任やし……ウチが大鳳と変わる理由なんか無かったやろ……」
提督「…………」
龍驤「だって……だって……」
龍驤「キミは、大鳳と……その、好き合っとるんやろ……?」
提督「へ?」
龍驤「え?」
提督「俺と……誰が愛し合ってるって?」
龍驤「え、えっ、だ、だから大鳳と……!」
提督「……身に覚えが無いんだけど」
龍驤「えっ……」
145: ◆kquYBfBssLZl 2016/04/11(月) 15:57:58.85 ID:lg3PbuwIO
~~
龍驤『…………』
提督「…………」
龍驤『…………』
提督「(……今度は布団に籠城されてしまった)」
提督「龍驤ー、いい加減出てこいよー」 モフ
龍驤『…………』
提督「はぁ……」
龍驤『……ウチはもうあかん……このまま化石になる……』
提督「ちょっとした勘違いじゃないか。そんなに恥ずかしがることないって」
龍驤『ちょっとどころじゃないわ……ウチのこの2日間は一体何やったんや……』
提督「まあ、妄想逞しいとも言えるが……」
~~
龍驤「――――へ?」
提督「いや、大鳳だろ? あいつと俺は別に懇ろなわけじゃないぞ」
龍驤「う、嘘つかんでもええよ……昨日聞いたし……」
提督「昨日?」
龍驤「だ、だから……いつも、その……大鳳のお胸……見とるんやろ……?」
提督「ええっ!? そ、そんな話してたか!?」
龍驤「き、キミが自分で言っとったやん! ウチと大鳳のを比べたらウチの方が小さいって! 大鳳のはいつも見とるから知ってるって!」
146: ◆kquYBfBssLZl 2016/04/11(月) 15:58:26.55 ID:lg3PbuwIO
提督「えっ……」
龍驤「へ?」
提督「……ぷふっ」
龍驤「!?」
提督「あっははは、ふは、あははははっ!」
龍驤「な、なに笑っとんねん!」 ガタッ
提督「はは、いやすまん、なるほどな」
龍驤「はあ?」
提督「あのときにな、小さいって言ってたのは……」
ギュ
龍驤「ふへ?」
提督「龍驤、お前の手のことだ」
龍驤「…………へ?」
提督「屁じゃない、手」
龍驤「うっさい……………………ってことは……大鳳とは……」
提督「ああ。龍驤が想像していたような、いやらしいことはしてないぞ」ニッコリ
龍驤「!!!」
~~
龍驤『恥ずかしすぎるっ……!!』 プルプル
提督「いや悪かったよ、俺も変なこと言って」
147: ◆kquYBfBssLZl 2016/04/11(月) 15:58:52.50 ID:lg3PbuwIO
提督「(その後レストランを飛び出し、部屋に追いついたときには、ベッドの上に大きな大福が出来上がっていましたとさ)」
龍驤『キミは悪くない……ウチが……変態ドスケベなウチが悪いんや……』 グスッ
提督「そこまで言ってないだろ……」
龍驤『言ってなくても思っとるんやろどうせー! もうイヤやぁー!』 ギャアギャア
提督「もーいいから出てこいって! そんなこと思ってないって!」 グイグイ
龍驤『嘘やん! そんなん絶対嘘!』 グイー
提督「はぁ……全く……」
龍驤『ウチは化石になるんや……放っておいてや……』
提督「はいはい……」
龍驤『…………』
龍驤『…………』
龍驤『…………』
龍驤『…………?』
シーン…
龍驤『…………』
龍驤『…………化石になったるからなー』
龍驤『…………』
シーン…
龍驤『…………おーい、ホントになるで?』
龍驤『…………』
148: ◆kquYBfBssLZl 2016/04/11(月) 15:59:19.25 ID:lg3PbuwIO
シーン…
龍驤『…………』
龍驤「」ヒョコ
提督「馬鹿めかかったな!!」 ガバァッ!
龍驤「きゃあっ!?」
提督「おらっ! てこずらせやがって、この、出てこい!」 グイグイ
龍驤「きゃあーー!! きゃー! ぎゃああああああ!!」
提督「デケー声出すんじゃねえっ! 誰か来たらどうすr」
『お客様!? どうされましたお客様!?』 ドンドン
提督「」
龍驤「」
~~
龍驤「キミのせいでめっちゃ怒られたやんか……」
提督「すまん……」
龍驤「キミにウチの気持ちがわかるか……? 初対面のボーイさんに『そういうプレイです!』って言い訳せなあかんウチの気持ちが……」
提督「すまん……」
龍驤「もうええわ……昨日も今日ももうなんかいろいろあり過ぎて疲れたし……」 ポスッ
提督「…………」
龍驤「なんでこんなホテルなんかにおるのかもわからんけど……大鳳とは、そういう仲ではないんやよな……?」
提督「そうだ、大鳳とはなんでもない」
149: ◆kquYBfBssLZl 2016/04/11(月) 15:59:53.16 ID:lg3PbuwIO
龍驤「そうか……」
提督「ああ……」
龍驤「…………」
提督「……なあ」
龍驤「んー……?」
提督「ちょっと……テレビでも見ないか?」
龍驤「ん? ああ、まあ、ええけど……?」 ムク
提督「何か見たいものあるか?」 pi
龍驤「うーん……ウチもキミもあんまりテレビ見いひんからなあ。何が面白いのかとか、そもそもどんな番組があるのかもわからん」
提督「俺はルームサービス頼んでくるから、なんか適当に選んどいてくれ」 ポイ
龍驤「はーい。……うーん、バラエティ、ドラマ、ニュース、アニメ……やっぱお笑いかな?」 pi、pi、pi
龍驤「うわ、なんか知らん間にアニメめっちゃ増えとるやん……夜中にやっても子どもは寝とるやろ……」
龍驤「…………」pi
龍驤「(ルームサービスか……さっきレストラン飛び出してきたし、やっぱり悪いことしたな)」pi
龍驤「(戻ってきたらちゃんと謝ったらんとな……)」pi
「龍驤」
龍驤「ん? もう注文終わっ――」 クル
ギュ
提督「…………」 ギュー
龍驤「――へ……?」
150: ◆kquYBfBssLZl 2016/04/11(月) 16:02:11.98 ID:lg3PbuwIO
それは、あまりに唐突なことで。
ただ、彼の体温が自分の顔のすぐ横にあることだけはわかった。
清潔な服の匂いと、そして、少し汗ばんだ彼の匂い。
おそらく、自分をこのホテルまで運ぶ際に流した汗だろう。
そこに思い至って、胸の中心が引き絞られるような感覚に襲われる。
そうしているうちに、自分の頬に感じていた温もりが離れた。
見上げると、彼の顔が見える。
瞬間、漸く、自分が抱きしめられていたのだと気がつく。
「ぁ…………」
何か言おうとして、しかし声にはならなかった。
困惑と、驚愕と、羞恥と、それら以上の喜びが頭の中をぐるぐると掻き乱す。
気持ちが次々と溢れては消え、形にできない。
彼の顔を見つめたまま口をパクパクさせていると、繋がっていた視線が不意に途切れる。
恥ずかしそうに鼻の頭を掻きながら、自身の胸の真ん中あたりを指差して、こう言った。
「それを今日、一番に渡したかったんだ」
回らない頭で、無意識的に胸元に手を伸ばす。
薬指の端に何かが当たる感触と同時に、小さな金属音。
視線を下げると、そこには。
「指……輪……?」
ネックレスに通された、銀色のリングが二つ。
大きなものと、小さなもの。
茫然と眺めていると、彼が目の前に跪く。
そして、その大きな掌で、小さな手を包み込む。
「龍驤、本当はこんなことは口に出すべきじゃないんだけどな」
151: ◆kquYBfBssLZl 2016/04/11(月) 16:02:40.10 ID:lg3PbuwIO
彼の瞳が、真っ直ぐに心を射抜いて、逸らせない。
「お前が出撃するとき、遠征に行くとき、傷付くとき、俺は、誰よりもお前が心配なんだ」
「龍驤は、大丈夫、なんて言うけれど、お前が海に出ている間、俺はいつでも胸が張り裂けそうだ」
「もしもお前が沈んだら、もしもお前が帰ってこなかったら、もしも、もしも、お前の笑顔が二度と見られないんじゃないかと思うと、死にそうだ」
「港から遠ざかっていく背中を見送りながら、何度、この身と代われたらと願ったか」
その苦しそうな表情に、視界が潤む。
「龍驤、だから、コレをお前に渡す」
「帰ってきてくれ。いつでも、あの笑顔を見せてくれ」
「MVPなんていらないから、お前の笑顔と、この指輪を持って、帰ってきてくれ」
彼の手に、力が篭る。
「お前の練度が最高になったとき、この指輪を、改めてお前に渡すために」
駆逐艦よりもずっと非力な筈のその掌に、誰にも負けない、強い力が篭る。
「龍驤」
嗚呼、どうしてこの人は。
「お前が好きだ」
こんなにも愛しいのだろう。
「この指輪を、受け取ってくれ」
彼の言葉に、想いに――
「はいっ……!」
私も、応えたい。
~~
170: ◆kquYBfBssLZl 2016/07/18(月) 11:19:45.04 ID:QIRxfVJLO
~~
提督「落ち着いたか?」
龍驤「うん……」
提督「急に泣きだすから焦ったぞ」
龍驤「えへへ……嬉し涙やし、堪忍してや」 ニヘ
提督「そ、そうか」 ドキ
龍驤「?」
提督「」 ジー
龍驤「ちょ、ちょっち待って! 今目ぇ赤くなってるから見んといてっ」 グイ
提督「ぅべっ。別に良いじゃないか、嬉し涙なんだろ?」
龍驤「それとこれとは別やん! 目ぇ腫れてんのなんて格好悪くてイヤやわ」
提督「見せたくないと言われると見たくなる人間のサガ~」 グイ
龍驤「ちょちょっ、や、やめてってほんまに! あっ!」 グラ
ポスッ
提督「あ」
ドサ
龍驤「――――」
提督「…………」
龍驤「……お、押し倒されたー……なんちて、はは……」
提督「…………」
龍驤「な、なんか喋ってよ……ちょっち、怖いで」 ドキドキ
提督「龍驤」
龍驤「は、はいっ?」 ビク
提督「愛してる」
龍驤「――――」
![]() 【中古】艦これアーケード 龍驤/りゅうじょう 中破 ホロ【カード】[34]【福山店】 |
171: ◆kquYBfBssLZl 2016/07/18(月) 11:20:33.74 ID:QIRxfVJLO
熱くて柔らかいものが、唇に触れる。
呼吸が止まる。
心臓が止まる。
時間が止まる。
世界中の何もかもが止まって、意識がその熱に集中する。
名残惜しそうに離れるそれは、彼の唇。
彼の顔が目の前にあって、その真剣な眼差しに射抜かれて、胸の中心が引き絞られる。
この二日間で幾度も感じたそれではなく、温かく、優しい感情。
二度目の口付け。
思わず、身体が強張る。
彼の瞼は閉じられることはなく、こちらの反応を堪能しているようにも見える。
「怖い?」
三度目の口付けを交わして、彼の硬い指先が目尻に触れる。
濡れた感触に、自身の視界が潤んでいることにようやく気付いた。
彼の表情に、少しだけ不安が宿る。
よく見れば、耳が赤い。
「幸せだから」
彼の頬を両手で包みこんで、彼を引き寄せて、今度は自分から。
長く、長く、離さないように。
愛おしさをそのまま伝えるために、優しく、柔らかく、温かく、熱く、強く、唇を押し付けて。
唇から全身に彼の熱が伝わって、心地良い。
苦しくなって、唇を離す。
軽く息切れするのを見て、彼が笑う。
「鼻で息すれば、苦しくないよ」
「……息当たるやん」
嘘、思いつかなかっただけ。
でも、なんだか自身より余裕な彼に負けたくなくて、そっぽを向く。
「んっ!?」
その隙をついて、首筋に熱。
小さな音を立てて、彼の唇が吸い付く。
172: ◆kquYBfBssLZl 2016/07/18(月) 11:21:11.38 ID:QIRxfVJLO
咄嗟に首筋を隠して、彼を振り向く。
「きゅ、急にそういうことするの禁止っ――あっ……!」
今度は反対側に。
はしたない声が出て、顔が熱くなる。
「っひ……!?」
そのまま、熱が線となって首筋を駆け上がる。
最後にトドメとばかりに、耳朶を喰まれる。
「な、舐めた! 今っ舐めたやろ! う、ウチの首っん!」
黙らせるように、唇を塞がれる。
彼が離れると同時に瞼を開くと、意地悪そうな彼の顔。
にやにやと笑って、明らかにこちらの反応を面白がっている。
睨んでやると、声を漏らして笑い出した。
「意地悪」
「龍驤が可愛いから、つい」
「なんやねん……もう」
楽しそうに笑う彼を見て、まあいいか、と赦してしまう。
これが鈴谷が言っていた、ちょろい、というやつだろうか。
でも、まあいいや。
今、生まれてから一番幸せだから。
「どうしたら許してくれる?」
彼が、優しい声で問いかける。
別にもう許してるけど、せっかくだから何かおねだりしてみようか。
とは言っても、この雰囲気でできるおねだりって、何だ?
…………。
「……ちゅーして」
「ぶはっ!」
「あっ!」
噴き出す彼に、流石にカチンとくる。
ヒトがしおらしくしてれば……!
彼の腕を引き寄せて、勢いをそのままに、体勢を入れ替える。
173: ◆kquYBfBssLZl 2016/07/18(月) 11:22:38.17 ID:QIRxfVJLO
「押し倒されたー」
「う、うるさいっ! お仕置きやっ!」
先程、彼にされたのと同じことをしてやる。
首筋に吸い付いて、反対側も。
そのまま首を舐めあげて、耳朶を甘噛みしてやる。
これでどうだ、と反応を見るべく彼の顔を覗き込むと、未だににやにやと笑っていた。
「今のがお仕置き?」
引き寄せられて、啄むように唇を喰む。
「ご褒美の間違いじゃないの」
そして、唇の端、頬、目尻、額、鼻の頭、顔中に口付けの雨を降らせてくる。
彼の唇が触れるたびに身体から力が抜けて、最後に耳に口付けをされたとき、遂に彼の上に倒れこむ。
「……ずるい」
「ん?」
「ウチだけドキドキして、余裕無いの、なんかズルいわ……」
彼がまた噴き出して、一緒に抱き起こされる。
彼の胸の辺りに耳を押し当てられて、ようやく気付いた。
「俺も、結構余裕無いかも」
高鳴る鼓動が聞こえる。
ちら、と見上げると、そっぽを向いて鼻の頭を掻く彼の耳が、赤く染まっている。
また胸が引き絞られるような感覚がして、思わず口元がにやけてしまう。
なるほど、面白くて、とか、可笑しくて、じゃなくて。
愛おしくて、笑ってしまうなんてことも、あるんだ。
「……ね」
「ん?」
「好き」
「俺もだ」
そう言って、笑って、唇を合わせた。
~~
174: ◆kquYBfBssLZl 2016/07/18(月) 11:23:16.90 ID:QIRxfVJLO
龍驤「ただいまぁ~」 フラフラ
鳳翔「あら、おかえりなさい」
龍驤「うへへへへ、鳳翔きいてきいて」
鳳翔「はいはい、今お水出してあげるから」
龍驤「うふ、うへへっ……きゃー!」
鳳翔「もう、うるさいっ。ほら、これ飲みなさい」
龍驤「んくっ……これ見て!」 チャリーン
鳳翔「あら? ……あら、あらあら~、良かったじゃない」
龍驤「プロポーズされたった!」 フンス
鳳翔「おめでとう、龍驤」
龍驤「うん!」
鳳翔「それで、どこまでいったの?」
龍驤「えっとなー、街でなー、お洋服買ってもらってなー、あっ、この服! この服!」
鳳翔「はいはいそれは見ればわかるから」
龍驤「そんで、ホテル行って……あっ! えっちな方じゃないよ! 高級な方!」
鳳翔「はいはい」
龍驤「そこでプロポーズされて~……帰ってきた!」
鳳翔「……うん?」
龍驤「へ?」
鳳翔「……それで?」
175: ◆kquYBfBssLZl 2016/07/18(月) 11:23:49.30 ID:QIRxfVJLO
龍驤「……今、鳳翔の部屋に居るけど?」
鳳翔「違うわよ。どこまでいったの?」
龍驤「? 今言ったやん?」
鳳翔「…………何もしなかったの?」
龍驤「? ……へっ!?」
鳳翔「したのね? されたのね?」 ズイ
龍驤「な、なんもない! なんもないって!」
鳳翔「嘘おっしゃい。顔が真っ赤よ」
龍驤「うぐっ……」
鳳翔「ん? どうなの?」
龍驤「…………ちゅーした」
鳳翔「…………は?」
龍驤「ふ、二人で一晩、ちゅっちゅしとった/////」 カァアア…
鳳翔「…………」
龍驤「/////」 テレテレ
鳳翔「セ○クスは?」
龍驤「…………はぁっ!!?」
鳳翔「えっちしてないの!? 」 バンッ!
龍驤「ひぃっ!?」 ビクッ
鳳翔「ダメよ龍驤! 危機感が足りないわよ!」
龍驤「な、なんっ、鳳翔怖い……」
鳳翔「貴女ねえ、この鎮守府にどれだけ女性がいると思ってるの?」
龍驤「159人……」
鳳翔「具体的な数は聞いてないのよ! そんな中で男の人が一人でどれだけ毎日毎時毎分毎秒我慢してるのかってことよ!」
龍驤「が、我慢?」
鳳翔「男の人はね、いつでもえっちしたくてしょうがないのよ」
龍驤「ええっ!?」
鳳翔「龍驤、貴女はね、提督に選ばれたのよ。つまり……」
龍驤「つまり?」
鳳翔「もう提督は、龍驤意外とはえっちできないってことなの!」
176: ◆kquYBfBssLZl 2016/07/18(月) 11:25:41.20 ID:QIRxfVJLO
龍驤「うへへへへへ」 ニヨニヨ
鳳翔「喜ぶところじゃないっ!」 バンッ!
龍驤「ひっ」
鳳翔「男の人はいつでもえっちがしたい……でもいろんな娘達からのアプローチも躱して我慢してきた……そしてようやく手に入れたお嫁さん……でもそのお嫁さんもさせてくれない……そして近づいてくる魔の手……我慢の限界……」
龍驤「あ……あ……」 プルプル
鳳翔「ああ、昨夜しておかなかったから、龍驤がさせてあげなかったから……哀しくも提督は、他の娘と……」
龍驤「いやぁあああああああ!!」 ガクガク
鳳翔「いい? 次にチャンスがあったら、押し倒して無理やりにでも提督をスッキリさせてあげるのよ?」 ポン
龍驤「あわわ、あわわわわわ……」 コクコク
~~
177: ◆kquYBfBssLZl 2016/07/18(月) 11:26:08.00 ID:QIRxfVJLO
提督「…………鳳翔、龍驤になんか言ったろ」
鳳翔「磯風ちゃんに調理場を貸してまでお膳立てしてあげたのに、どっかの玉無しが据え膳放り投げて帰ってくるからでしょ」
提督「……スミマセンデシタ」
178: ◆kquYBfBssLZl 2016/07/18(月) 11:28:52.25 ID:QIRxfVJLO
以上で終わりです。
長らく間が空いてしまって申し訳ない。
エ口エ口させる予定だったんですが、あまり時間をかけすぎてもアレだし、するとしたらR板の方にそのうち立てようかなと思います。気が向いたら。
お付き合いいただきお疲れ様でした。
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445211407/
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Entry ⇒ 2016.07.18 | Category ⇒ 艦隊これくしょん | Comments (0) | Trackbacks (0)
提督「深海棲艦との接触を図れ……?」
1:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:10:08 ID:.xHnwryA
大本営『うむ』
提督「撃滅しろという事ですか?」
大本営『違う』
大本営『連中と何とか話し合える様にしろ、という事だ』
提督「……へ?」
大本営『もっとぶっちゃけると、異文化コミュニケーション取れるようになれって事』
提督「はあ!?」
大本営『検討を祈る』
提督「ちょ!? 無理ですよ!? いくらなんでも!!」
提督「……切りやがった」
大本営『うむ』
提督「撃滅しろという事ですか?」
大本営『違う』
大本営『連中と何とか話し合える様にしろ、という事だ』
提督「……へ?」
大本営『もっとぶっちゃけると、異文化コミュニケーション取れるようになれって事』
提督「はあ!?」
大本営『検討を祈る』
提督「ちょ!? 無理ですよ!? いくらなんでも!!」
提督「……切りやがった」
2:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:11:03 ID:.xHnwryA
提督「これまでも無茶な作戦に従ってきたけど」
提督「今回は飛びっきりだ……」
提督「どないせいっちゅうねん!」
提督「ったく……」
コン コン
提督「入れ」
ガチャ
電「失礼します、司令官さん」
提督「どうした?」
電「え、えと……装備の事なのですが」
提督「ああ……明石に頼んで+6にしておいたぞ」
提督「工廠に行って受け取るといい」
電「ありがとうございます、司令官さん」
3:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:11:34 ID:.xHnwryA
電「……ところで、ご機嫌ナナメの様なのですが」
電「どうしたのですか?」
提督「うーん……大本営から飛び切り無茶な命令が来てな」
―――――――――――
電「深海棲艦との対話……」
提督「もうホント無茶だよ……大本営は現場を知らなさ過ぎる」
提督「どうすればいいのか……」
電「…………」
電「あ、あのっ! 司令官さん!」
提督「ん?」
4:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:12:19 ID:.xHnwryA
電「電は素晴らしい試みだと思います!」
提督「へ?」
電「いずれ戦争が終わるとしても、相手を滅ぼしてしまうのは良くない事だと思うのです」
提督「…………」
電「電も出来るだけ協力します!」
電「何でも言ってください! 司令官さん!」
提督「ノリノリだな……」
提督「とはいえ、どうすればいいのか……」
電「それはもう何でもやってみるのです!」
電「いつか、きっと答えてくれると思うのです!」
提督「う、うーん……」
提督「じゃ、じゃあ、やってみるか……」
5:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:14:15 ID:.xHnwryA
提督「というわけで」
提督「かなり無茶な作戦だと思うが、協力してくれ」
響「了解」
雷「本当にそんな事出来るの?」
暁「レディでも出来る事と出来ない事があるわ……」
電「頑張るのです!」
提督「……正直、何をどうしたらいいのかも良く分からん」
提督「手探りでぶっつけ本番になるが、危なくなったらすぐ撤退」
提督「これだけは鉄則な」
第六駆逐隊「はい」
提督「では、気は進まないが出撃」
6:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:15:03 ID:.xHnwryA
―――――――――――
提督「とりあえずイ級やらロ級やらの駆逐艦クラスは話が通じなさそうなので」
提督「空母のヲ級、軽巡のタ級、戦艦のワ級あたりに狙いをつけてやってみる」
提督「先ずは基本」
提督「モールス信号」
雷「分かったわ」
ピピピッ プー ピピピッ
暁「…………」
提督「どうだ?」
雷「……反応なし」
提督「そうか……」
7:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:15:39 ID:.xHnwryA
提督「では次」
提督「手旗信号」
響「了解」つ(旗)
サッ サッ ササッ サッ
(ワレ 敵意 ナシ)
響「…………」つ(旗)
ドォンッ! ドォンッ!
暁「敵艦発砲!」
電「か、回避なのです!」
―――――――――――
提督「やっぱりダメか……」
8:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:16:11 ID:.xHnwryA
提督「次、発行信号」
暁「分かったわ! レディに任せなさい!」
パッ パッ パパッ パッ
(ワレ 敵意 ナシ)
暁「…………」
ブロロロロロロン…
響「敵機、発艦を確認」
電「か、回避なのです!」
―――――――――――
提督「次……かなり危ないんだけど」
提督「本当にいいのか? 電」
電「覚悟の上なのです!」
提督「……分かった」
9:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:16:48 ID:.xHnwryA
提督「白旗を掲揚!」
電「はい!」つ(白旗)
提督「敵意が無い事を示すために武装を外したが……」
提督「危ないと思ったらすぐに引き返して来るんだぞ?」
電「大丈夫なのです!」つ(白旗)
電「行って来ます!」つ(白旗)
提督「…………」
暁「…………」
雷「…………」
響「…………」
10:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:17:28 ID:.xHnwryA
響「あ……」
暁「めちゃくちゃ撃たれてる……」
提督「電ー! 戻って来ーい!」
雷「助けに行くわ!」
―――――――――――
電「すみません、司令官さん……」
提督「いや、謝る必要なんて無い」
提督「深海棲艦がジュネーブ協定を知ってるかどうかも怪しいし……」
提督「ともかく、今日はここまでにしておこう」
第六駆逐隊「はい……」
11:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:18:23 ID:.xHnwryA
―――――――――――
提督「はあ……まいった」
提督「どうすりゃいいんだよ……」
コン コン
提督「ん? どうぞ」
ガチャ
那珂「提督! 話は聞きました!」
那珂「どうして那珂ちゃんに相談してくれなかったんですか!?」
提督「いや、どうしてと言われても……」
提督「何か名案があるのか?」
那珂「当たり前ですよ!」
那珂「こういう任務こそ、艦隊のアイドル!」
那珂「那珂ちゃんの出番ですよ!」
12:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:19:05 ID:.xHnwryA
提督「なるほど……歌か」
提督「確かに効果があるかもしれないな」
提督「よし、那珂の案を採用しよう」
那珂「やったぁ!」
提督「何か必要なものがあれば言ってくれ」
那珂「先ずは時間ですね」
那珂「川内型の三人で歌いたいので、練習期間が欲しいです」
提督「演習名目で許可しよう」
提督「他には?」
那珂「う~ん……そうですね」
那珂「やっぱりいい音が欲しいです!」
13:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:19:44 ID:.xHnwryA
提督「音か……」
提督「随伴艦にスピーカーでも積ませるか?」
那珂「できれば生演奏が欲しいところですね」
那珂「こう、ギターとか持って」
提督「さすがにドラムとかは無理だと思うぞ……」
提督「というか、楽器の使える艦娘が居るのか?」
那珂「あ~……確かに居なさそうですね」
提督「スピーカーで決まりだな」
提督「なら正規空母か戦艦クラスを随伴させよう」
那珂「ありがとうございます!」
那珂「さあ~て、忙しくなるぞぉ~!」
那珂「それじゃ提督! 失礼しまぁーす!」
提督「期待してるぞ」
14:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:20:32 ID:.xHnwryA
―――――――――――
提督「よし、それでは」
提督「第二次、深海棲艦接触作戦を敢行する」
提督「みんな、頼むぞ」
那珂「はい! 任せてください!」
川内「夜戦もいいけど、こういうのも悪くないね」
神通「せ、精一杯頑張りますっ」
赤城「やれやれ。 私達は荷物(スピーカー)持ちですか」
加賀「艦載機を搭載できないなんて……不安です」
伊勢「その為の私です」
伊勢「いざという時は、私が盾になります」
15:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:21:06 ID:.xHnwryA
―――――――――――
提督「作戦開始!」
那珂「深海棲艦のみんな!」
那珂「艦隊のアイドル! 那珂ちゃんだよー!」
ドォンッ! ドォンッ!
那珂「きゃああああっ!」
提督「さ、作戦中止!」
那珂「!」
那珂「待って! 待ってください!」
提督「し、しかし!」
那珂「この程度は予想してます!」
16:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:22:13 ID:.xHnwryA
那珂「行くよ、みんな!」
川内「分かってるわ!」
神通「大丈夫ですっ」
赤城「ミュージック、スタート」
加賀「ポチッとな」
♪~♪~♪~
那珂「まーもるもせーむるもくーろがーねのー」
川内「うーかべるしーろぞたーのみーなるー」
神通「うーかべるそのしろひーのもーとのー」
提督「ちょっと待て!!」
提督「何で軍艦○ーチなんだ!?」
伊勢「カ○ラック対策ですかね?」
17:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:22:56 ID:.xHnwryA
ドォンッ! ドォンッ!
那珂「きゃあああああああああっ!」
提督「ダメッ! それチョイスしちゃいけない歌!」
提督「向こうからしたら、攻めて来る印象しかない!」
那珂「くっ……!」
那珂「こうなったら!」
那珂「赤城さん! 加賀さん!」
赤城「はい。 例の曲ね?」
加賀「了解」
♪~♪~♪~
那珂「覚えていーまs」
ドォンッ! ドォンッ!
18:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:23:46 ID:.xHnwryA
―――――――――――
提督「ダメだったか……」
川内「すみません……」
神通「お力になれず……」
那珂「最後まで歌いたかった……」
提督「伝説のあの歌ですら効果なし」
提督「この方法も無理の様だな……」
赤城「…………」
赤城「……あの、提督」
提督「ん?」
赤城「こんな方法はどうでしょう?」
19:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:24:52 ID:.xHnwryA
―――――――――――
提督「なるほど、食い物か」
赤城「はい」
赤城「食は文化の基本」
赤城「深海棲艦といえど、美味しい食べ物で必ず何らかの反応があると思います」
提督「よし。 ではさっそく間宮や伊良湖と共同で」
提督「深海棲艦が喜びそうな食べ物を選定してくれ」
赤城「分かりました」
―――――――――――
提督「……おい、赤城」
赤城「は、へいほふ」 モグモグ ゴクン
赤城「すみません、提督」
赤城「何か御用でしょうか?」
20:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:25:24 ID:.xHnwryA
提督「いや、あれから一週間、何の連絡もよこさないから」
提督「その後の進展はどうなったのかと思って……」
赤城「現在も選定中です」
提督「おい」
提督「どう見てもメニューを片っ端から食ってる様にしか見えないんだけど!?」
赤城「気のせいです」
赤城「あ、間宮さん」
赤城「うな重と牛ひれ肉のステーキを」
提督「俺でもたまにしか食べないメニューを!?」
提督「つーか、いくらくらい食べたんだ!?」
間宮「……このくらいです」
提督「」
提督「ぎゃあああああああああっ!?」
21:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:26:10 ID:.xHnwryA
―――――――――――
提督「…………」
提督「……えー、それでは」
提督「第三次、深海棲艦接触作戦を敢行する」
加賀「はい」
蒼龍「はい」
飛龍「はい」
翔鶴「はい」
瑞鶴「はい」
祥鳳「はい」
22:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:26:44 ID:.xHnwryA
提督「なお、作戦立案をしてくれたのは赤城だが」
提督「深海棲艦に接触する前に肝心の物資を」
提督「食い尽くす恐れがあるので本作戦には不参加とした」
空母6隻(あー……)
提督「では、少々馬鹿馬鹿しく思えるだろうが」
提督「健闘を期待する」
空母6隻「了解です」
提督「頼むぞ」
23:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:27:23 ID:.xHnwryA
―――――――――――
加賀「第一次、物資投下部隊、発艦」
蒼龍「発艦!」
飛龍「了解、発艦」
翔鶴「同じく、発艦します」
瑞鶴「発艦!」
祥鳳「発艦!」
ブロロロロロロロ…
加賀「……予定空域に到達」
加賀「物資を投下してください」
妖精さん「らじゃー」
|||
落下傘
\|/
物資
24:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:27:57 ID:.xHnwryA
ヒューン…
タ級「……?」
ワ級「??」
加賀「……戸惑っている感じですね」
提督「上手く行ってくれるといいが……」
べチャ ブチャッ
タ級「…………」
ワ級「…………」
加賀「あ」
提督「あ」
25:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:28:42 ID:.xHnwryA
ドォンッ! ドォンッ!
蒼龍「敵艦発砲!」
提督「て、撤退! 撤退だ!」
―――――――――――
提督「今回も失敗か……」
加賀「致し方ないかと」
加賀「こちらも食べ物で顔面○ャワーをしてしまうとは」
提督「か、加賀!」///
加賀「?」
加賀「どうかしましたか?」
提督「…………」
提督「し、知らないみたいだから言っておくが」///
提督「その……が、顔面シャ○ーって、余り人前で使わない方がいいぞ」///
加賀「……? 分かりました」
26:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:29:40 ID:.xHnwryA
―――――――――――
提督「はあ……」
提督(万策尽きた……)
提督(どうしたもんかなぁ……)
提督(…………)
ジリリリンッ ジリリリンッ
提督「ん?」
ガチャ
提督「はい。こちら海軍鎮守府、執務室」
提督「あ、これは大本営の……はい、はい」
提督「…………」
提督「……は?」
27:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:30:12 ID:.xHnwryA
大本営『君には公金横領罪の嫌疑がかけられている』
提督「」
提督「ま、待ってください!」
提督「私にはまったく身に覚えがありません!」
大本営『こちらで調べた結果、用途不明の名目で』
大本営『多大な資金流用がなされているが?』
提督「用途不明の名目?」
大本営『例えば』
大本営『深海棲艦交流用物資購入費等だ』
提督「!」
提督「そ、それはそちらの命令で!」
大本営『大本営は、貴君にその様な事をしろと命令した覚えは無い』
28:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:30:55 ID:.xHnwryA
提督「!?」
提督(…………)
提督(……そうか)
提督(そういう……事か……!)
提督(大本営は最初から俺をハメるつもりだったのか!!)
大本営『申し開きはこちらで受けよう』
大本営『すでに憲兵がそちらへ向かっている』
大本営『皇国軍人なら、無様な抵抗などを見せるなよ』 ククク…
ブッ… ツー ツー
提督「…………」
提督「くそっ……」
29:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:31:29 ID:.xHnwryA
大本営「……これでいい」
大本営「貴様は優秀だった」
大本営「だが……優秀すぎた」
大本営「一介の艦隊司令官では収まらぬほどの武勲を立てた」
大本営「…………」
大本営「それ故に……」
大本営「我々に恐れを抱かせたのだ」
大本営「ククク……」
大本営「まあ、良くやってくれたよ」
大本営「これで貴様の出番は終りだ」
大本営「ゆっくり休みたまえ」
30:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:32:24 ID:.xHnwryA
後日
俺は軍法会議にかけられた。
大本営は、俺の言う命令は一切下してないとし
俺の言い分はまったく聞き入れられず……
極刑こそ免れたものの
単身、旧式の艦船で深海棲艦と戦う事を命じられた。
……まあ事実上の死刑か。
ただ、艦むす達にはお咎め無しというのはホッとした。
31:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:33:00 ID:.xHnwryA
鎮守府には大本営直属の新しい司令官が
後任として来る事が決まっており
艦むす達は突然の交代劇にいぶかしがるものの……
俺は、逆らう事は止める様に言っておいた。
…………
結局……
俺がやってきた事は……何だったのだろう……
32:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:33:56 ID:.xHnwryA
―――――――――――
提督「…………」
電「…………」
赤城「…………」
DQN提督「これが貴様に用意された」
DQN提督「旧式の艦船だ」
提督「…………」
電「きゅ、旧式とか、そんなレベルじゃないのです!」
電「どう見ても7,7ミリ機銃を乗せただけの小型漁船なのです!」
提督「やめるんだ、電」
電「で、でも!」
サッ(敬礼)
提督「確かに受領しました」
提督「精一杯、お国の為に頑張ってまいります」
33:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:34:31 ID:.xHnwryA
DQN提督「ああ。 頑張ってくれたまえ」
DQN提督「期待している」
DQN提督「ククク……」
スタ スタ スタ…
提督「…………」
提督「じゃ……行って来る」
電「司令官さん……」
赤城「提督……」
赤城「せめて、外洋に出るまでお見送りを」
提督「必要ない」
提督「……連中の本意を見抜けなかった俺がマヌケだったんだ」
34:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:35:12 ID:.xHnwryA
提督「今後は……時と場合にもよるが」
提督「命令書を受領するまで行動しない方がいい」
提督「俺からの、最後の教訓だ」
電「司令官さんっ……」 グスッ
赤城「了解です……肝に銘じておきます」
提督「達者でな……」
ザザザザザザ…
金剛「テイトクー!」
金剛「待って……待ってクダサーイ!」
金剛「金剛も一緒にっ、一緒にっ!」
霧島「金剛お姉さまっ! 昨日、みんなで決めたじゃないですか!」
霧島「提督の意見を尊重するって!」
金剛「でもっ……でもっ!!」
35:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:36:01 ID:.xHnwryA
霧島「提督は私達の事も考えての行動なんです!」
霧島「お願いだから、お姉さま……堪えて……堪えてくださ……」
金剛「……っ」
金剛「テイトク――!!」
―――――――――――
提督「…………」
提督「……機銃の試射でもするか」
ガチン☆
提督「……壊れてるし」
提督「あっても邪魔だな。 海中投棄」
ボチャン!
36:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:36:38 ID:.xHnwryA
提督「はー……」
提督「…………」
提督「…………」
提督「…………」
提督「…………」
提督「……待ってるとなかなか来ないものだな」
提督「…………」
提督「…………」
提督「…………」
提督「…………」
提督「……できれば、苦しまずに逝きたいな」
提督「…………」
37:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:37:12 ID:.xHnwryA
ザザザザザザ…
提督「!」
提督「…………」
提督「……おいでなすったか」
提督「1、2……タ級3にル級2」
提督「お、潜水カ級まで居る」
提督「こんなオンボロ漁船1隻に豪勢なメンツだな」
…………
提督「……じゃ、サクッとやってくれ」
提督「覚悟は決めている」
38:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:37:51 ID:.xHnwryA
ザザザザザザ…
39:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:38:26 ID:.xHnwryA
―――――――――――
DQN提督「おい、加賀!」
DQN提督「こんな単純な任務に命令書は必要ないだろ!」
加賀「規則ですので」
加賀「任務は命令書が届き次第、取り掛かります」
DQN提督「貴様ァ……いちいち手間を取らせおって」
DQN提督「他の艦むす共々なぜ、こうも反抗的なのだ!」
加賀「規則ですので」
DQN提督「もういい! 下がれ!」
加賀「失礼します」
パタン…
DQN提督「まったく……」
40:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:39:19 ID:.xHnwryA
ジリリリンッ ジリリリンッ
DQN提督「ん? 電話か……」
ガチャ…
DQN提督「いったい誰だ。 ここは海軍鎮守府……」
DQN提督「!」
DQN提督「こ、これは、大本営の!」
DQN提督「し、失礼しました!」
DQN提督「はっ……はっ……」
DQN提督「は、はい。 それにつきましては今しばらくお時間をいただきたく」
DQN提督「い、いえ! 決してその様な……」
DQN提督「幾人か、艦むすで反抗的な者が居りまして」
41:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:40:04 ID:.xHnwryA
大本営『言い訳はいらん』
大本営『貴様が着任してから、ロクな報告がされておらん事が問題なのだ』
大本営『深海棲艦を殲滅しろとまでは言わんが』
大本営『何かで結果を出せ』
大本営『でないと貴様を推挙した私の立場が危ういのだ』
DQN提督「はっ……吉報をお待ちください」
大本営『ふん……今度こそそれを早く聞かせろ』
ブッ… ツー ツー
DQN提督「…………」
DQN提督「クソッ!」
DQN提督「軽く言いやがって!」
42:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:40:52 ID:.xHnwryA
DQN提督「…………」
DQN提督(だが……大本営の言う事ももっともだ)
DQN提督(何とかせねば……)
DQN提督(…………)
DQN提督(しかし、最近の深海棲艦どもの動き……何か妙だ)
DQN提督(以前は数に物を言わせ、物量攻撃を仕掛けていたが)
DQN提督(ここのところ、組織的な動きをする部隊が存在する)
DQN提督(しかも以前はがむしゃらに攻めていた連中だったのに)
DQN提督(その部隊に限ってなのか……)
DQN提督(損害が増えそうになると撤退していく)
DQN提督(…………)
DQN提督(この戦い方……まるで……)
DQN提督(……まさかな)
43:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:41:27 ID:.xHnwryA
―――――――――――
DQN提督「よし、各自、命令書は渡ったな?」
艦むす艦隊「はい」
DQN提督「今作戦は一大決戦である」
DQN提督「皇国のため、奮戦努力せよ!」
艦むす艦隊「了解です」
DQN提督「出撃!」
44:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:42:08 ID:.xHnwryA
―――――――――――
ザザザザザザ…
加賀「間もなく作戦海域です」
赤城「各員、警戒態勢」
赤城「索敵機を飛ばします」
金剛「了解ネー」
霧島「…………」
電「はあ……」
響「電。作戦中。 ため息は良くない」
電「ご、ごめんなさい、なのです」
霧島「仕方ありませんよ」
霧島「あのDQN提督が着任してから、あまり休みがありませんし」
45:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:42:53 ID:.xHnwryA
金剛「ホント……ボキャブラリーの無い、つまらないお人ネー」
金剛「金剛が心にテイトクと決めた人は、前のお方だけデース……」
霧島「お姉さま……」
赤城「!」
赤城「索敵に感あり!」
金剛「!」
霧島「!」
加賀「第一次攻撃隊、発艦準備」
赤城「……待って」
電「え?」
響「どうした?」
46:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:43:51 ID:.xHnwryA
赤城「深海棲艦の艦隊なのは間違いないのだけど……」
赤城「発行信号を飛ばしてるって、索敵機が言ってきてるわ」
金剛「!?」
霧島「深海棲艦が!?」
電「どういう……事なのです?」
加賀「……それで?」
加賀「発行信号の内容は?」
赤城「…………」
赤城「ワレ 敵意 ナシ」
電「!」
電「ま……まさか……ううん」
電「もしかしたら!」
47:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:44:27 ID:.xHnwryA
―――――――――――
鎮守府
DQN提督「」
DQN提督「な、何だと!?」
DQN提督「大淀、今の話は本当なのか!?」
大淀「はい……」
大淀「原因は不明ですが」
大淀「派遣した艦むすの実に7割と連絡が取れなくなりました」
DQN提督「し、信じられん……」
大淀「残存艦艇も捜索、および偵察を行ったそうですが」
大淀「戦闘の痕跡すら見つけられず、まさに忽然と消えてしまったかの様だと……」
48:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:45:33 ID:.xHnwryA
DQN提督「…………」
DQN提督(……まずい事になった)
DQN提督(今回の作戦は全艦隊の3割もの艦むすを動員したのに)
DQN提督(それらのほとんどが未帰還……その上)
DQN提督(目的の泊地を奪取出来なかった)
DQN提督(クソッ! いったい何がどうなっているんだ!?)
大淀「DQN提督。 いかがなさいますか?」
DQN提督「!」
DQN提督「そ、そうだな……」
DQN提督「ま、まずは、残存の艦むす達に話を聞こう」
大淀「分かりました」
49:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:46:14 ID:.xHnwryA
―――――――――――
翌日
鎮守府 執務室
DQN提督「…………」
DQN提督(気が重い……胃が痛い……気持ち悪い……)
DQN提督(…………)
DQN提督(どの艦むすも予定してた通りに進み、合流できなかったと言う者ばかり)
DQN提督(第一、なぜ深海棲艦どもは、そんな艦むす達を襲わなかったんだ……)
DQN提督(…………)
DQN提督(分からん……)
DQN提督(何が起こっているんだ……)
50:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:46:45 ID:.xHnwryA
DQN提督(…………)
DQN提督(…………)
DQN提督(…………)
DQN提督「……それにしても大淀の奴」
DQN提督「今日はやけに遅いな」
DQN提督「寝坊でもしたのか?」
DQN提督(…………)
DQN提督(…………)
DQN提督(…………)
DQN提督「……呼びに行くか」
DQN提督「はあ……」
51:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:47:44 ID:.xHnwryA
―――――――――――
DQN提督(…………)
DQN提督(…………)
DQN提督(…………)
DQN提督(……どういう……事だ……)
DQN提督(鎮守府が……鎮守府が!)
DQN提督「もぬけの殻になっているだとぉッ!?」
DQN提督「…………」
DQN提督「大淀に間宮……伊良湖はおろか」
DQN提督「工廠の人間まで……居なくなるなんて……」
DQN提督「…………」
52:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:48:21 ID:.xHnwryA
DQN提督「ハハ……ウへへへ……」
DQN提督「お終いだ……ウヒヒ……もう何もかも……」
DQN提督「俺は……おしまいだぁ……ハハハ……」
DQN提督「ハハハハハ!」
DQN提督「ウヒヒヒッ! アハハハはハハハハハ!」
DQN提督「アヒャヒャヒャヒャヒャ!」
DQN提督「はっははあははははっはははははははははっ!!」
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
―――――――――――
53:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:48:59 ID:.xHnwryA
―――――――――――
南方海域 某泊地
金剛「テイトクー!」
金剛「ここがミー達のパラダイスネー?」
提督「地獄かもしれんぞ」
金剛「金剛はテイトクと一緒なら、どこでもパラダイスネー!」///
タ級「離レロ。 ソコハ私ノ場所」
金剛「ホワット? 後から来ても遅いネー」
タ級「ナラバ戦ッテ奪ウマデ」
提督「止めろ、タ級」
提督「……いや、今は桜、だったな」
54:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:49:47 ID:.xHnwryA
タ級「……私ハ椿ダ」
タ級「マダ見分ケガツカナイノカ?」
提督「す、すまん……」
タ級「……今夜、一緒二寝テクレタラ許ス」///
金剛「私が許さないヨ!?」
電「……さすが司令官さんなのです」
響「天然ジゴロ」
霧島「響、なぜそんな言葉を知っているの……」
赤城「とりあえず、後で爆撃しておきましょう」
加賀「私も手伝います」
55:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:50:35 ID:.xHnwryA
電「それにしても武器を海に捨てる事が」
電「深海棲艦にとって降伏の意思表示だったなんて……」
響「ケガの功名」
霧島「そこから深海棲艦と対話していく所が凄いですね」
赤城「ましてや、深海棲艦側の中に味方を作るなんて」
赤城「どんなお話をしたのかしら……?」
電「名前までプレゼントしているのです」
響「タ級、ル級、駆逐棲姫、ヲ級に北方棲姫……」
響「ざっと見たところ、深海棲艦側は40~50人くらい居る」
56:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:53:13 ID:.xHnwryA
加賀「おまけに敵側に裏切り行為をさせるなんて……」
加賀「まあ……私達もその裏切り者なのだけど」
電「今後はどうなるのでしょう?」
霧島「難しい問題です……」
霧島「とりあえず、ある程度の補給線を確保してから」
霧島「私達を引き入れたのは、さすが、ですが……」
赤城「これからは、第三勢力として」
赤城「日本、深海棲艦と戦うか、共に歩んでいくか、という選択になるでしょうね」
加賀「…………」
加賀「でも……きっと……あの人なら」
赤城「ええ」
赤城「きっと、提督なら」
赤城「艦むすも深海棲艦も共に暮らせる未来を紡いでいけると――」
57:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:53:59 ID:.xHnwryA
金剛「テイトク! 今夜は私と寝るネー!」
タ級「私トダ」
ほっぽ「ポ!」
駆逐棲姫「アタシヨ」
提督「ちょ、お前ら、離れ……」///
電「…………」
響「…………」
霧島「…………」
赤城「…………」
加賀「…………」
58:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:54:44 ID:.xHnwryA
赤城「とりあえず」
赤城「爆撃しますか」 ニコッ
加賀「流星改で行きましょう」 ニコッ
提督「」
おしまい
59:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:55:53 ID:.xHnwryA
この提督はモゲていいと思う。
お粗末様~
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1468815008/
提督「これまでも無茶な作戦に従ってきたけど」
提督「今回は飛びっきりだ……」
提督「どないせいっちゅうねん!」
提督「ったく……」
コン コン
提督「入れ」
ガチャ
電「失礼します、司令官さん」
提督「どうした?」
電「え、えと……装備の事なのですが」
提督「ああ……明石に頼んで+6にしておいたぞ」
提督「工廠に行って受け取るといい」
電「ありがとうございます、司令官さん」
3:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:11:34 ID:.xHnwryA
電「……ところで、ご機嫌ナナメの様なのですが」
電「どうしたのですか?」
提督「うーん……大本営から飛び切り無茶な命令が来てな」
―――――――――――
電「深海棲艦との対話……」
提督「もうホント無茶だよ……大本営は現場を知らなさ過ぎる」
提督「どうすればいいのか……」
電「…………」
電「あ、あのっ! 司令官さん!」
提督「ん?」
4:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:12:19 ID:.xHnwryA
電「電は素晴らしい試みだと思います!」
提督「へ?」
電「いずれ戦争が終わるとしても、相手を滅ぼしてしまうのは良くない事だと思うのです」
提督「…………」
電「電も出来るだけ協力します!」
電「何でも言ってください! 司令官さん!」
提督「ノリノリだな……」
提督「とはいえ、どうすればいいのか……」
電「それはもう何でもやってみるのです!」
電「いつか、きっと答えてくれると思うのです!」
提督「う、うーん……」
提督「じゃ、じゃあ、やってみるか……」
5:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:14:15 ID:.xHnwryA
提督「というわけで」
提督「かなり無茶な作戦だと思うが、協力してくれ」
響「了解」
雷「本当にそんな事出来るの?」
暁「レディでも出来る事と出来ない事があるわ……」
電「頑張るのです!」
提督「……正直、何をどうしたらいいのかも良く分からん」
提督「手探りでぶっつけ本番になるが、危なくなったらすぐ撤退」
提督「これだけは鉄則な」
第六駆逐隊「はい」
提督「では、気は進まないが出撃」
6:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:15:03 ID:.xHnwryA
―――――――――――
提督「とりあえずイ級やらロ級やらの駆逐艦クラスは話が通じなさそうなので」
提督「空母のヲ級、軽巡のタ級、戦艦のワ級あたりに狙いをつけてやってみる」
提督「先ずは基本」
提督「モールス信号」
雷「分かったわ」
ピピピッ プー ピピピッ
暁「…………」
提督「どうだ?」
雷「……反応なし」
提督「そうか……」
7:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:15:39 ID:.xHnwryA
提督「では次」
提督「手旗信号」
響「了解」つ(旗)
サッ サッ ササッ サッ
(ワレ 敵意 ナシ)
響「…………」つ(旗)
ドォンッ! ドォンッ!
暁「敵艦発砲!」
電「か、回避なのです!」
―――――――――――
提督「やっぱりダメか……」
8:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:16:11 ID:.xHnwryA
提督「次、発行信号」
暁「分かったわ! レディに任せなさい!」
パッ パッ パパッ パッ
(ワレ 敵意 ナシ)
暁「…………」
ブロロロロロロン…
響「敵機、発艦を確認」
電「か、回避なのです!」
―――――――――――
提督「次……かなり危ないんだけど」
提督「本当にいいのか? 電」
電「覚悟の上なのです!」
提督「……分かった」
9:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:16:48 ID:.xHnwryA
提督「白旗を掲揚!」
電「はい!」つ(白旗)
提督「敵意が無い事を示すために武装を外したが……」
提督「危ないと思ったらすぐに引き返して来るんだぞ?」
電「大丈夫なのです!」つ(白旗)
電「行って来ます!」つ(白旗)
提督「…………」
暁「…………」
雷「…………」
響「…………」
10:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:17:28 ID:.xHnwryA
響「あ……」
暁「めちゃくちゃ撃たれてる……」
提督「電ー! 戻って来ーい!」
雷「助けに行くわ!」
―――――――――――
電「すみません、司令官さん……」
提督「いや、謝る必要なんて無い」
提督「深海棲艦がジュネーブ協定を知ってるかどうかも怪しいし……」
提督「ともかく、今日はここまでにしておこう」
第六駆逐隊「はい……」
11:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:18:23 ID:.xHnwryA
―――――――――――
提督「はあ……まいった」
提督「どうすりゃいいんだよ……」
コン コン
提督「ん? どうぞ」
ガチャ
那珂「提督! 話は聞きました!」
那珂「どうして那珂ちゃんに相談してくれなかったんですか!?」
提督「いや、どうしてと言われても……」
提督「何か名案があるのか?」
那珂「当たり前ですよ!」
那珂「こういう任務こそ、艦隊のアイドル!」
那珂「那珂ちゃんの出番ですよ!」
12:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:19:05 ID:.xHnwryA
提督「なるほど……歌か」
提督「確かに効果があるかもしれないな」
提督「よし、那珂の案を採用しよう」
那珂「やったぁ!」
提督「何か必要なものがあれば言ってくれ」
那珂「先ずは時間ですね」
那珂「川内型の三人で歌いたいので、練習期間が欲しいです」
提督「演習名目で許可しよう」
提督「他には?」
那珂「う~ん……そうですね」
那珂「やっぱりいい音が欲しいです!」
13:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:19:44 ID:.xHnwryA
提督「音か……」
提督「随伴艦にスピーカーでも積ませるか?」
那珂「できれば生演奏が欲しいところですね」
那珂「こう、ギターとか持って」
提督「さすがにドラムとかは無理だと思うぞ……」
提督「というか、楽器の使える艦娘が居るのか?」
那珂「あ~……確かに居なさそうですね」
提督「スピーカーで決まりだな」
提督「なら正規空母か戦艦クラスを随伴させよう」
那珂「ありがとうございます!」
那珂「さあ~て、忙しくなるぞぉ~!」
那珂「それじゃ提督! 失礼しまぁーす!」
提督「期待してるぞ」
14:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:20:32 ID:.xHnwryA
―――――――――――
提督「よし、それでは」
提督「第二次、深海棲艦接触作戦を敢行する」
提督「みんな、頼むぞ」
那珂「はい! 任せてください!」
川内「夜戦もいいけど、こういうのも悪くないね」
神通「せ、精一杯頑張りますっ」
赤城「やれやれ。 私達は荷物(スピーカー)持ちですか」
加賀「艦載機を搭載できないなんて……不安です」
伊勢「その為の私です」
伊勢「いざという時は、私が盾になります」
15:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:21:06 ID:.xHnwryA
―――――――――――
提督「作戦開始!」
那珂「深海棲艦のみんな!」
那珂「艦隊のアイドル! 那珂ちゃんだよー!」
ドォンッ! ドォンッ!
那珂「きゃああああっ!」
提督「さ、作戦中止!」
那珂「!」
那珂「待って! 待ってください!」
提督「し、しかし!」
那珂「この程度は予想してます!」
16:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:22:13 ID:.xHnwryA
那珂「行くよ、みんな!」
川内「分かってるわ!」
神通「大丈夫ですっ」
赤城「ミュージック、スタート」
加賀「ポチッとな」
♪~♪~♪~
那珂「まーもるもせーむるもくーろがーねのー」
川内「うーかべるしーろぞたーのみーなるー」
神通「うーかべるそのしろひーのもーとのー」
提督「ちょっと待て!!」
提督「何で軍艦○ーチなんだ!?」
伊勢「カ○ラック対策ですかね?」
17:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:22:56 ID:.xHnwryA
ドォンッ! ドォンッ!
那珂「きゃあああああああああっ!」
提督「ダメッ! それチョイスしちゃいけない歌!」
提督「向こうからしたら、攻めて来る印象しかない!」
那珂「くっ……!」
那珂「こうなったら!」
那珂「赤城さん! 加賀さん!」
赤城「はい。 例の曲ね?」
加賀「了解」
♪~♪~♪~
那珂「覚えていーまs」
ドォンッ! ドォンッ!
18:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:23:46 ID:.xHnwryA
―――――――――――
提督「ダメだったか……」
川内「すみません……」
神通「お力になれず……」
那珂「最後まで歌いたかった……」
提督「伝説のあの歌ですら効果なし」
提督「この方法も無理の様だな……」
赤城「…………」
赤城「……あの、提督」
提督「ん?」
赤城「こんな方法はどうでしょう?」
19:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:24:52 ID:.xHnwryA
―――――――――――
提督「なるほど、食い物か」
赤城「はい」
赤城「食は文化の基本」
赤城「深海棲艦といえど、美味しい食べ物で必ず何らかの反応があると思います」
提督「よし。 ではさっそく間宮や伊良湖と共同で」
提督「深海棲艦が喜びそうな食べ物を選定してくれ」
赤城「分かりました」
―――――――――――
提督「……おい、赤城」
赤城「は、へいほふ」 モグモグ ゴクン
赤城「すみません、提督」
赤城「何か御用でしょうか?」
20:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:25:24 ID:.xHnwryA
提督「いや、あれから一週間、何の連絡もよこさないから」
提督「その後の進展はどうなったのかと思って……」
赤城「現在も選定中です」
提督「おい」
提督「どう見てもメニューを片っ端から食ってる様にしか見えないんだけど!?」
赤城「気のせいです」
赤城「あ、間宮さん」
赤城「うな重と牛ひれ肉のステーキを」
提督「俺でもたまにしか食べないメニューを!?」
提督「つーか、いくらくらい食べたんだ!?」
間宮「……このくらいです」
提督「」
提督「ぎゃあああああああああっ!?」
21:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:26:10 ID:.xHnwryA
―――――――――――
提督「…………」
提督「……えー、それでは」
提督「第三次、深海棲艦接触作戦を敢行する」
加賀「はい」
蒼龍「はい」
飛龍「はい」
翔鶴「はい」
瑞鶴「はい」
祥鳳「はい」
22:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:26:44 ID:.xHnwryA
提督「なお、作戦立案をしてくれたのは赤城だが」
提督「深海棲艦に接触する前に肝心の物資を」
提督「食い尽くす恐れがあるので本作戦には不参加とした」
空母6隻(あー……)
提督「では、少々馬鹿馬鹿しく思えるだろうが」
提督「健闘を期待する」
空母6隻「了解です」
提督「頼むぞ」
23:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:27:23 ID:.xHnwryA
―――――――――――
加賀「第一次、物資投下部隊、発艦」
蒼龍「発艦!」
飛龍「了解、発艦」
翔鶴「同じく、発艦します」
瑞鶴「発艦!」
祥鳳「発艦!」
ブロロロロロロロ…
加賀「……予定空域に到達」
加賀「物資を投下してください」
妖精さん「らじゃー」
|||
落下傘
\|/
物資
24:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:27:57 ID:.xHnwryA
ヒューン…
タ級「……?」
ワ級「??」
加賀「……戸惑っている感じですね」
提督「上手く行ってくれるといいが……」
べチャ ブチャッ
タ級「…………」
ワ級「…………」
加賀「あ」
提督「あ」
25:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:28:42 ID:.xHnwryA
ドォンッ! ドォンッ!
蒼龍「敵艦発砲!」
提督「て、撤退! 撤退だ!」
―――――――――――
提督「今回も失敗か……」
加賀「致し方ないかと」
加賀「こちらも食べ物で顔面○ャワーをしてしまうとは」
提督「か、加賀!」///
加賀「?」
加賀「どうかしましたか?」
提督「…………」
提督「し、知らないみたいだから言っておくが」///
提督「その……が、顔面シャ○ーって、余り人前で使わない方がいいぞ」///
加賀「……? 分かりました」
26:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:29:40 ID:.xHnwryA
―――――――――――
提督「はあ……」
提督(万策尽きた……)
提督(どうしたもんかなぁ……)
提督(…………)
ジリリリンッ ジリリリンッ
提督「ん?」
ガチャ
提督「はい。こちら海軍鎮守府、執務室」
提督「あ、これは大本営の……はい、はい」
提督「…………」
提督「……は?」
27:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:30:12 ID:.xHnwryA
大本営『君には公金横領罪の嫌疑がかけられている』
提督「」
提督「ま、待ってください!」
提督「私にはまったく身に覚えがありません!」
大本営『こちらで調べた結果、用途不明の名目で』
大本営『多大な資金流用がなされているが?』
提督「用途不明の名目?」
大本営『例えば』
大本営『深海棲艦交流用物資購入費等だ』
提督「!」
提督「そ、それはそちらの命令で!」
大本営『大本営は、貴君にその様な事をしろと命令した覚えは無い』
28:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:30:55 ID:.xHnwryA
提督「!?」
提督(…………)
提督(……そうか)
提督(そういう……事か……!)
提督(大本営は最初から俺をハメるつもりだったのか!!)
大本営『申し開きはこちらで受けよう』
大本営『すでに憲兵がそちらへ向かっている』
大本営『皇国軍人なら、無様な抵抗などを見せるなよ』 ククク…
ブッ… ツー ツー
提督「…………」
提督「くそっ……」
29:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:31:29 ID:.xHnwryA
大本営「……これでいい」
大本営「貴様は優秀だった」
大本営「だが……優秀すぎた」
大本営「一介の艦隊司令官では収まらぬほどの武勲を立てた」
大本営「…………」
大本営「それ故に……」
大本営「我々に恐れを抱かせたのだ」
大本営「ククク……」
大本営「まあ、良くやってくれたよ」
大本営「これで貴様の出番は終りだ」
大本営「ゆっくり休みたまえ」
30:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:32:24 ID:.xHnwryA
後日
俺は軍法会議にかけられた。
大本営は、俺の言う命令は一切下してないとし
俺の言い分はまったく聞き入れられず……
極刑こそ免れたものの
単身、旧式の艦船で深海棲艦と戦う事を命じられた。
……まあ事実上の死刑か。
ただ、艦むす達にはお咎め無しというのはホッとした。
31:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:33:00 ID:.xHnwryA
鎮守府には大本営直属の新しい司令官が
後任として来る事が決まっており
艦むす達は突然の交代劇にいぶかしがるものの……
俺は、逆らう事は止める様に言っておいた。
…………
結局……
俺がやってきた事は……何だったのだろう……
32:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:33:56 ID:.xHnwryA
―――――――――――
提督「…………」
電「…………」
赤城「…………」
DQN提督「これが貴様に用意された」
DQN提督「旧式の艦船だ」
提督「…………」
電「きゅ、旧式とか、そんなレベルじゃないのです!」
電「どう見ても7,7ミリ機銃を乗せただけの小型漁船なのです!」
提督「やめるんだ、電」
電「で、でも!」
サッ(敬礼)
提督「確かに受領しました」
提督「精一杯、お国の為に頑張ってまいります」
33:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:34:31 ID:.xHnwryA
DQN提督「ああ。 頑張ってくれたまえ」
DQN提督「期待している」
DQN提督「ククク……」
スタ スタ スタ…
提督「…………」
提督「じゃ……行って来る」
電「司令官さん……」
赤城「提督……」
赤城「せめて、外洋に出るまでお見送りを」
提督「必要ない」
提督「……連中の本意を見抜けなかった俺がマヌケだったんだ」
34:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:35:12 ID:.xHnwryA
提督「今後は……時と場合にもよるが」
提督「命令書を受領するまで行動しない方がいい」
提督「俺からの、最後の教訓だ」
電「司令官さんっ……」 グスッ
赤城「了解です……肝に銘じておきます」
提督「達者でな……」
ザザザザザザ…
金剛「テイトクー!」
金剛「待って……待ってクダサーイ!」
金剛「金剛も一緒にっ、一緒にっ!」
霧島「金剛お姉さまっ! 昨日、みんなで決めたじゃないですか!」
霧島「提督の意見を尊重するって!」
金剛「でもっ……でもっ!!」
35:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:36:01 ID:.xHnwryA
霧島「提督は私達の事も考えての行動なんです!」
霧島「お願いだから、お姉さま……堪えて……堪えてくださ……」
金剛「……っ」
金剛「テイトク――!!」
―――――――――――
提督「…………」
提督「……機銃の試射でもするか」
ガチン☆
提督「……壊れてるし」
提督「あっても邪魔だな。 海中投棄」
ボチャン!
36:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:36:38 ID:.xHnwryA
提督「はー……」
提督「…………」
提督「…………」
提督「…………」
提督「…………」
提督「……待ってるとなかなか来ないものだな」
提督「…………」
提督「…………」
提督「…………」
提督「…………」
提督「……できれば、苦しまずに逝きたいな」
提督「…………」
37:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:37:12 ID:.xHnwryA
ザザザザザザ…
提督「!」
提督「…………」
提督「……おいでなすったか」
提督「1、2……タ級3にル級2」
提督「お、潜水カ級まで居る」
提督「こんなオンボロ漁船1隻に豪勢なメンツだな」
…………
提督「……じゃ、サクッとやってくれ」
提督「覚悟は決めている」
38:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:37:51 ID:.xHnwryA
ザザザザザザ…
39:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:38:26 ID:.xHnwryA
―――――――――――
DQN提督「おい、加賀!」
DQN提督「こんな単純な任務に命令書は必要ないだろ!」
加賀「規則ですので」
加賀「任務は命令書が届き次第、取り掛かります」
DQN提督「貴様ァ……いちいち手間を取らせおって」
DQN提督「他の艦むす共々なぜ、こうも反抗的なのだ!」
加賀「規則ですので」
DQN提督「もういい! 下がれ!」
加賀「失礼します」
パタン…
DQN提督「まったく……」
![]() 【中古】艦これアーケード/正規空母/ホロ仕様/艦これアーケード Ver1.0 加賀(ホロ)【02P09Jul16】【画】 |
40:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:39:19 ID:.xHnwryA
ジリリリンッ ジリリリンッ
DQN提督「ん? 電話か……」
ガチャ…
DQN提督「いったい誰だ。 ここは海軍鎮守府……」
DQN提督「!」
DQN提督「こ、これは、大本営の!」
DQN提督「し、失礼しました!」
DQN提督「はっ……はっ……」
DQN提督「は、はい。 それにつきましては今しばらくお時間をいただきたく」
DQN提督「い、いえ! 決してその様な……」
DQN提督「幾人か、艦むすで反抗的な者が居りまして」
41:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:40:04 ID:.xHnwryA
大本営『言い訳はいらん』
大本営『貴様が着任してから、ロクな報告がされておらん事が問題なのだ』
大本営『深海棲艦を殲滅しろとまでは言わんが』
大本営『何かで結果を出せ』
大本営『でないと貴様を推挙した私の立場が危ういのだ』
DQN提督「はっ……吉報をお待ちください」
大本営『ふん……今度こそそれを早く聞かせろ』
ブッ… ツー ツー
DQN提督「…………」
DQN提督「クソッ!」
DQN提督「軽く言いやがって!」
42:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:40:52 ID:.xHnwryA
DQN提督「…………」
DQN提督(だが……大本営の言う事ももっともだ)
DQN提督(何とかせねば……)
DQN提督(…………)
DQN提督(しかし、最近の深海棲艦どもの動き……何か妙だ)
DQN提督(以前は数に物を言わせ、物量攻撃を仕掛けていたが)
DQN提督(ここのところ、組織的な動きをする部隊が存在する)
DQN提督(しかも以前はがむしゃらに攻めていた連中だったのに)
DQN提督(その部隊に限ってなのか……)
DQN提督(損害が増えそうになると撤退していく)
DQN提督(…………)
DQN提督(この戦い方……まるで……)
DQN提督(……まさかな)
43:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:41:27 ID:.xHnwryA
―――――――――――
DQN提督「よし、各自、命令書は渡ったな?」
艦むす艦隊「はい」
DQN提督「今作戦は一大決戦である」
DQN提督「皇国のため、奮戦努力せよ!」
艦むす艦隊「了解です」
DQN提督「出撃!」
44:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:42:08 ID:.xHnwryA
―――――――――――
ザザザザザザ…
加賀「間もなく作戦海域です」
赤城「各員、警戒態勢」
赤城「索敵機を飛ばします」
金剛「了解ネー」
霧島「…………」
電「はあ……」
響「電。作戦中。 ため息は良くない」
電「ご、ごめんなさい、なのです」
霧島「仕方ありませんよ」
霧島「あのDQN提督が着任してから、あまり休みがありませんし」
45:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:42:53 ID:.xHnwryA
金剛「ホント……ボキャブラリーの無い、つまらないお人ネー」
金剛「金剛が心にテイトクと決めた人は、前のお方だけデース……」
霧島「お姉さま……」
赤城「!」
赤城「索敵に感あり!」
金剛「!」
霧島「!」
加賀「第一次攻撃隊、発艦準備」
赤城「……待って」
電「え?」
響「どうした?」
46:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:43:51 ID:.xHnwryA
赤城「深海棲艦の艦隊なのは間違いないのだけど……」
赤城「発行信号を飛ばしてるって、索敵機が言ってきてるわ」
金剛「!?」
霧島「深海棲艦が!?」
電「どういう……事なのです?」
加賀「……それで?」
加賀「発行信号の内容は?」
赤城「…………」
赤城「ワレ 敵意 ナシ」
電「!」
電「ま……まさか……ううん」
電「もしかしたら!」
47:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:44:27 ID:.xHnwryA
―――――――――――
鎮守府
DQN提督「」
DQN提督「な、何だと!?」
DQN提督「大淀、今の話は本当なのか!?」
大淀「はい……」
大淀「原因は不明ですが」
大淀「派遣した艦むすの実に7割と連絡が取れなくなりました」
DQN提督「し、信じられん……」
大淀「残存艦艇も捜索、および偵察を行ったそうですが」
大淀「戦闘の痕跡すら見つけられず、まさに忽然と消えてしまったかの様だと……」
48:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:45:33 ID:.xHnwryA
DQN提督「…………」
DQN提督(……まずい事になった)
DQN提督(今回の作戦は全艦隊の3割もの艦むすを動員したのに)
DQN提督(それらのほとんどが未帰還……その上)
DQN提督(目的の泊地を奪取出来なかった)
DQN提督(クソッ! いったい何がどうなっているんだ!?)
大淀「DQN提督。 いかがなさいますか?」
DQN提督「!」
DQN提督「そ、そうだな……」
DQN提督「ま、まずは、残存の艦むす達に話を聞こう」
大淀「分かりました」
49:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:46:14 ID:.xHnwryA
―――――――――――
翌日
鎮守府 執務室
DQN提督「…………」
DQN提督(気が重い……胃が痛い……気持ち悪い……)
DQN提督(…………)
DQN提督(どの艦むすも予定してた通りに進み、合流できなかったと言う者ばかり)
DQN提督(第一、なぜ深海棲艦どもは、そんな艦むす達を襲わなかったんだ……)
DQN提督(…………)
DQN提督(分からん……)
DQN提督(何が起こっているんだ……)
50:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:46:45 ID:.xHnwryA
DQN提督(…………)
DQN提督(…………)
DQN提督(…………)
DQN提督「……それにしても大淀の奴」
DQN提督「今日はやけに遅いな」
DQN提督「寝坊でもしたのか?」
DQN提督(…………)
DQN提督(…………)
DQN提督(…………)
DQN提督「……呼びに行くか」
DQN提督「はあ……」
51:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:47:44 ID:.xHnwryA
―――――――――――
DQN提督(…………)
DQN提督(…………)
DQN提督(…………)
DQN提督(……どういう……事だ……)
DQN提督(鎮守府が……鎮守府が!)
DQN提督「もぬけの殻になっているだとぉッ!?」
DQN提督「…………」
DQN提督「大淀に間宮……伊良湖はおろか」
DQN提督「工廠の人間まで……居なくなるなんて……」
DQN提督「…………」
52:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:48:21 ID:.xHnwryA
DQN提督「ハハ……ウへへへ……」
DQN提督「お終いだ……ウヒヒ……もう何もかも……」
DQN提督「俺は……おしまいだぁ……ハハハ……」
DQN提督「ハハハハハ!」
DQN提督「ウヒヒヒッ! アハハハはハハハハハ!」
DQN提督「アヒャヒャヒャヒャヒャ!」
DQN提督「はっははあははははっはははははははははっ!!」
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
―――――――――――
53:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:48:59 ID:.xHnwryA
―――――――――――
南方海域 某泊地
金剛「テイトクー!」
金剛「ここがミー達のパラダイスネー?」
提督「地獄かもしれんぞ」
金剛「金剛はテイトクと一緒なら、どこでもパラダイスネー!」///
タ級「離レロ。 ソコハ私ノ場所」
金剛「ホワット? 後から来ても遅いネー」
タ級「ナラバ戦ッテ奪ウマデ」
提督「止めろ、タ級」
提督「……いや、今は桜、だったな」
54:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:49:47 ID:.xHnwryA
タ級「……私ハ椿ダ」
タ級「マダ見分ケガツカナイノカ?」
提督「す、すまん……」
タ級「……今夜、一緒二寝テクレタラ許ス」///
金剛「私が許さないヨ!?」
電「……さすが司令官さんなのです」
響「天然ジゴロ」
霧島「響、なぜそんな言葉を知っているの……」
赤城「とりあえず、後で爆撃しておきましょう」
加賀「私も手伝います」
55:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:50:35 ID:.xHnwryA
電「それにしても武器を海に捨てる事が」
電「深海棲艦にとって降伏の意思表示だったなんて……」
響「ケガの功名」
霧島「そこから深海棲艦と対話していく所が凄いですね」
赤城「ましてや、深海棲艦側の中に味方を作るなんて」
赤城「どんなお話をしたのかしら……?」
電「名前までプレゼントしているのです」
響「タ級、ル級、駆逐棲姫、ヲ級に北方棲姫……」
響「ざっと見たところ、深海棲艦側は40~50人くらい居る」
56:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:53:13 ID:.xHnwryA
加賀「おまけに敵側に裏切り行為をさせるなんて……」
加賀「まあ……私達もその裏切り者なのだけど」
電「今後はどうなるのでしょう?」
霧島「難しい問題です……」
霧島「とりあえず、ある程度の補給線を確保してから」
霧島「私達を引き入れたのは、さすが、ですが……」
赤城「これからは、第三勢力として」
赤城「日本、深海棲艦と戦うか、共に歩んでいくか、という選択になるでしょうね」
加賀「…………」
加賀「でも……きっと……あの人なら」
赤城「ええ」
赤城「きっと、提督なら」
赤城「艦むすも深海棲艦も共に暮らせる未来を紡いでいけると――」
57:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:53:59 ID:.xHnwryA
金剛「テイトク! 今夜は私と寝るネー!」
タ級「私トダ」
ほっぽ「ポ!」
駆逐棲姫「アタシヨ」
提督「ちょ、お前ら、離れ……」///
電「…………」
響「…………」
霧島「…………」
赤城「…………」
加賀「…………」
58:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:54:44 ID:.xHnwryA
赤城「とりあえず」
赤城「爆撃しますか」 ニコッ
加賀「流星改で行きましょう」 ニコッ
提督「」
おしまい
59:以下、名無しが深夜にお送りします 2016/07/18(月) 13:55:53 ID:.xHnwryA
この提督はモゲていいと思う。
お粗末様~
http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read.cgi/internet/14562/1468815008/
Entry ⇒ 2016.07.18 | Category ⇒ 艦隊これくしょん | Comments (0) | Trackbacks (0)
【艦これ】加賀「……文化的生活?」
1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 12:50:51.34 ID:BgcXyfkQ0
注意
・設定などの知識不足があると思います。
・オリジナル設定が少なからずあります。
・初投稿です。
よろしくお願いします。
2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 12:51:52.43 ID:BgcXyfkQ0
鎮守府が見渡せる丘
加賀「……なぜ私がこんな場所に……」
加賀「ついこの間まで最前線の真っ只中でバッタバッタと深海棲艦をなぎ倒す活躍をしていたはず……」
加賀「それが、少し意見を述べただけでこんな辺鄙な鎮守府に飛ばされるなんて……」
加賀「不幸だわ……」
加賀「……いえ加賀、こんな所でも私の実力出せば評価されるはず、前線の鎮守府に舞い戻ることだってまだ夢ではない」
加賀「正当に評価をされさえすれば私はこんな所にいる艦娘ではないんだから」グッ
注意
・設定などの知識不足があると思います。
・オリジナル設定が少なからずあります。
・初投稿です。
よろしくお願いします。
2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 12:51:52.43 ID:BgcXyfkQ0
鎮守府が見渡せる丘
加賀「……なぜ私がこんな場所に……」
加賀「ついこの間まで最前線の真っ只中でバッタバッタと深海棲艦をなぎ倒す活躍をしていたはず……」
加賀「それが、少し意見を述べただけでこんな辺鄙な鎮守府に飛ばされるなんて……」
加賀「不幸だわ……」
加賀「……いえ加賀、こんな所でも私の実力出せば評価されるはず、前線の鎮守府に舞い戻ることだってまだ夢ではない」
加賀「正当に評価をされさえすれば私はこんな所にいる艦娘ではないんだから」グッ
3:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 12:52:49.53 ID:BgcXyfkQ0
パシャッ
加賀「……なに?」
男性「いやー、珍しいね。こんな別嬪さんがこんなところに」
加賀「……あなた、民間の方かしら。軍部施設の周辺に近づくのは誉められることじゃないわよ」
男性「え? ああ、大丈夫大丈夫、俺、ちゃんと許可貰ってる人だから」
加賀「許可を貰ってるからって……いえ、もういいわ勝手にして」
男性「……じゃああんたはどうなんだよ」
加賀「私?」
男性「あんたみたいな別嬪さんが軍部施設になんのようなんだ?」
加賀「……私は艦娘よ。今日からここに所属するの」
男性「へぇ、艦娘か。じゃあ、今日からって時に、何でそんな辛気くさい顔してんのよ」
加賀「……来たくなかったのよ、こんな所には」
男性「……へぇ」
加賀「ここの鎮守府は、ロクな戦績も残せないくらい出撃も敵勢力もいないような土地なの。艦娘にとっては左遷よ」
男性「なるほど、俺はいいとこだと思うんだけどね。ここは」
男性「緑も豊かだし、海も穏やかだし、平和だし」
加賀「民間人にとってそうかもしれないけど、艦娘として生きる私にとっては戦わなければ生きる意味すら危うい土地よ」
男性「生きる意味ねぇ」
加賀「ここで意地でも功績を上げて、また前線に戻ってやるのよ。絶対に……」
4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 12:53:44.09 ID:BgcXyfkQ0
男性「……ふぅん」
加賀「……こんなこと、あなたに話す事じゃなかったわね」
男性「いや、いいのいいの。つまり、早くこんな辺鄙な鎮守府から出て行きたいってこったろ?」
加賀「ええそうよ。……一航戦の誇りのために」
男性「……まっ、どんな気持ちにしたって今日が門出だろ。一枚撮ってもいいかい?」
加賀「……別にいいけど、悪用しないでしょうね」
男性「しないしない。じゃあ、海をバックにして撮ろうか、ポーズは何でも構わないから」
加賀「なんでもいいから撮るなら撮りなさい」
男性「……そんな仏頂面でいいの?」
加賀「いつもこんな顔よ」
男性「まぁいいか……」
パシャッ
加賀「満足かしら。じゃあ私は行くから、さようなら」スタスタ
男性「写真はどうする? 鎮守府に届けようか」
加賀「いらないわ」スタスタ…
男性「あっそ」
男性「……なるほどね、あれが加賀か。また厄介そうなのが来たもんだね」
…………
5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 12:54:47.00 ID:BgcXyfkQ0
鎮守府内
大淀「……いつもは普通に執務室にお連れしまして提督にご挨拶と業務連絡を行うのですが」
加賀「……どういうこと?」
大淀「いえ、その、なんと言いますか……」
加賀「歯切れが悪いわね。あなた秘書艦でしょう、もっとしっかりして欲しいのだけれど」
大淀「すみません。……えっと、つまり、ここの鎮守府はたぶんこれまで加賀さんがいらっしゃった鎮守府とかなり……というか全く違うというか」
加賀「鎮守府によって業務形態が異なることなんて承知しているわ」
大淀「いえ、業務形態どころか、その……ここはとにかく特殊でして、全体的に緩い……と言いますか自由といいますか……」
大淀「提督も自由な方でして……たびたびどこかにふらっと消えてしまいまして……。いまもまだ戻られていないのですが」
加賀(前の鎮守府ではここのことを『艦娘の墓場』とか呼んでいたけど、本当に相当酷いみたいね)
大淀「もちろん! お仕事はキチンとする方なんですよ! それは安心してください!」
加賀(ふらっとどこかへ消える人が『お仕事はキチンとする方』なわけがないわ)
加賀「……はあ」
加賀「ねえ、ここは本当に鎮守府として機能しているの?」
大淀「えっ! も、もちろんですよ! すこーし特殊ですが、艦娘の仲もいいですし、提督はお優しい方ですし……」
加賀「私が前にいた鎮守府は艦娘の仲はそれほど良くなかったし、提督も優しくはなかった、けど戦果はここの比にならないくらいあげていたわ」
大淀「ああ、たしか加賀さんの前の所属は前線のエリート鎮守府でしたね……」
加賀「この国のために働いているのだから、仲良くおてて繋いでというのも結構だけれど、戦果をキチンとあげることこそ鎮守府としては重要なことだと思うけれどね」
大淀「……す、すみません」
加賀「いいのよ、私は。どんなに緩くても、ここの提督が私を正当に評価してくれればまた前線へと戻れるのだろうし」
大淀「そ、そうですか」
加賀「……」
大淀「えーと……、あっ、そしたら提督を待つ間に鎮守府の中を案内しますね」
加賀「ええ、このまま待っているのも時間の無駄だし、そうするわ」
6:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 12:55:52.79 ID:BgcXyfkQ0
スタスタ
加賀「……」
大淀「……」
加賀「ねえ」
大淀「は、はい!」
加賀「……歩いていて目にはいるのだけれど、美術品が多くないかしら、ここ」
大淀「あー……、そうかもしれませんね」
加賀「額に入った立派な絵画とか、陶磁器とか……提督の趣味かしら」
大淀「提督の趣味、かもしれませんが……」
加賀「『かも』?」
大淀「提督はここの艦娘全員のことを気遣ってくれていますから、飾っているのでしょう」
加賀「……そう」
加賀(芸術鑑賞でも推進してるのかしら。……平和ボケしてるわね、艦娘も提督も)
スタスタ
大淀「この先にあるのが食堂です。調理場も食堂のものを使ってもかまいませんよ」
……
大淀「あそこが訓練場と、弓道場です。その近くには運動場もあります」
……
大淀「こちらは修理ドッグになります。隣接する大浴場は六時から二十二時までになりますので気をつけてください」
……
大淀「工廠は少し離れたところにありますので、また改めて利用する際に案内しますね」
加賀「……私はとくに工廠へ行く用はないのだけれど」
大淀「あら、そうですか? 結構たくさんの娘が使ってますから、勝手によく使う施設だと思ってしまいました。すみません」
加賀「いいけど」
加賀(工廠をたくさんの娘が使う? 明石とか夕張がたくさんいるのかしら、ここ)
……
大淀「これくらいですね。もっと細かく案内するのはまた時間があるときの方がよさそうですね」
加賀「……」
加賀(まだなにがあるって言うのよ。というか、案内された場所もそこまで重要な場所と感じないのだけれど)
大淀「それでは、提督が戻られたという連絡がありましたので、早速執務室に行きましょう」
7:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 12:56:41.08 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……」
スタスタ…
加賀(ここがどんな場所であろうと提督には好印象を与えないと。とにかく不満は漏らさないように……)
加賀(この鎮守府がどんなに糞でも、それを出してはダメ。提督に気に入られないと……私は一航戦として前線へ舞い戻るのよ)
コンコン
大淀「大淀です。加賀さんを連れてきました」
??「おっ、来たね」ガチャッ
大淀「わっ、提督! なんでそちらから開けるんですか!」
??「いやね、そろそろだと思って扉の前で待ってたんだ」
大淀「ビックリさせないでください! 加賀さんもいるんですから!」
加賀「」
大淀「……加賀さん?」
加賀「……えっ」
男性「ん? ああ、さっきぶりだね加賀さん」
加賀「な、なんで、あなたが……」
提督「私がここの鎮守府を治めています、提督です。どうぞ、今後よろしく」
………
8:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 12:57:32.71 ID:BgcXyfkQ0
執務室
提督「……連絡事項は以上だ。なにか質問はあるか?」
加賀「……なんで、先程は民間人の振りをしていたんでしょうか」
提督「いや、あれは加賀さんが勝手に勘違いしただけでしょ」
加賀「……」
提督「それに、俺はあそこで趣味の写真撮影をするって許可を大淀にとってたし、嘘は吐いてないぞ」
加賀「くっ」
提督「……『提督に悪印象を与えた、もうキャリアアップの道はない』って顔してるね」
加賀「……ええ、あの丘で正直な気持ちを話してしまいましたから」
提督「へっへっへっ、まあそうだよな」
大淀「て、提督、そんな意地悪やめてください」コソコソ
提督「おっと失礼」
提督「まあ加賀さん、実際は正直に話してくれて嬉しかったし、それで加賀さんに悪い印象を抱いたとかはないから安心してよ」
加賀「……」
提督「まったく信用してない顔だな」
加賀「……前の鎮守府でも、正直な意見をそこの提督に述べました。その結果、いまここにいます」
提督「なるほどね」
提督「なんだっけ、加賀さんは『戦いこそが艦娘の生きる意味』って考えてるんだよね」
加賀「はい。私たちは深海棲艦と戦うために生まれた兵器です。戦うことこそが生きる意味であり、義務であると考えています」
提督「……そうか」
大淀「……」
9:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:00:04.25 ID:BgcXyfkQ0
提督「まあ、その考えも否定はしないよ俺は。軍人としては正しいとも思う」
提督「でも、俺はここで、ここの鎮守府で一つの方針を持って運営させてもらってる」
提督「君たち艦娘に『文化的生活』を送ってもらいたい、ということだ」
加賀「文化的生活?」
提督「ああ。君は先程自分のことを『兵器』だと言ったけどね、俺は君たちを俺と同じ『人間』だと思ってる」
加賀「……」
提督「艦娘だって色々なことを感じて、考えて、発信する力を持っているんだ。なのに戦いだけに明け暮れてしまうというのは勿体ないと思う」
加賀「……ですが、私たちが戦わなければだれが戦うというんですか? それでは人間は深海棲艦に侵略されてしまいますよね。人間では深海棲艦に太刀打ちできない、だからこそ艦娘は戦わなければならない」
提督「もちろんそうだな」
提督「だが俺は艦娘にも、戦い以外にも生きがいを探して欲しいと考えている。そんな『戦うことこそが生きる意味』というのは、人間として悲しすぎる」
加賀「ですから、そんな甘い考えでは人間は滅びてしまうと言っているのです」
提督「それはそうだ。だから、戦うことは俺以外に任せるって言ってんだ」
加賀「……ふざけてるんですか?」
10:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:01:02.81 ID:BgcXyfkQ0
提督「いや」
提督「君が前にいた鎮守府を筆頭に、全国には深海棲艦を殲滅してやろうと躍起になっている鎮守府なんてごまんとある。だから無理して戦う仕事はそっちに任せちまう」
提督「ここの鎮守府の仕事は国を守ることじゃない。深海棲艦を滅ぼすことでもない。ただ、ここの鎮守府を守ることだけだ」
加賀「そんなの……軍としてあるまじき」
提督「だが、ここがあるおかげでここら一帯の地域は深海棲艦の脅威から守られていることになっている。だからこそ軍はここを手放さない」
提督「それに、もともとそこまで敵が多い地域でもない、だから俺は望んでここに来た。そしてここに来た艦娘の事だけを考えてる」
加賀「そんな姿勢、軍人として恥ずかしくないの?」
提督「恥ずかしくないさ。少し前までに別の場所でもう嫌と言うほど戦ったからな、いまは好きなことやらせてもらう」
提督「それに、この世の全ての艦娘を導こうなんざ考えてないさ。俺一人にそんな力はないよ」
提督「俺の手が届くだけ、この鎮守府だけ、俺は艦娘たちに戦い以外の生きがいを見つけてもらおうとしてる」
加賀「国費を犠牲にしたエゴだわそんなの、許されることじゃない」
提督「国費は国民に使うべきだろう? 俺にとっては艦娘だって国民だ」
加賀「……なるほど。だから、ここは『艦娘の墓場』なのね」
加賀「ここは戦いから逃げた、腑抜けた艦娘にお似合いの場所だわ」
大淀「加賀さんっ!!」バンッ!
提督「大淀」
大淀「っ!! ……失礼、いたしました」
提督「すまんね。加賀さん」
加賀「……いえ、私も口が過ぎました」
11:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:02:47.04 ID:BgcXyfkQ0
加賀「でも、私はここにいるべき艦娘ではない、それはわかったでしょう」
提督「ああ、そうかもしれない。だが君は現在、一年間はこの鎮守府に所属することになっている」
提督「だから一年、いや半年でもいい、実際にここにいてくれないか。それでも君の意志がいまと変わらない物だったら、その時は俺が大本営へと推薦状を書こう」
加賀「……そんなこといいのかしら」
提督「それなりに上へは顔が利く。君を再び前線へと戻れるようにしよう」
加賀「……わかったわ」
提督「よし」
加賀「でも、私がここにいる限り深海棲艦との戦いに手を抜くつもりはないから」
提督「……了解した」
提督「だが、加賀さん」
加賀「……何かしら」
提督「この鎮守府にいる限り、君もなにか戦い以外に『やりたいこと』を見つけるようにしてくれ。意識するだけでもいい」
提督「戦うためだけに生まれたなんてこと、言うな」
加賀「……善処するわ」
………
12:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:05:12.67 ID:BgcXyfkQ0
加賀「失礼します」
提督「ああ。そうだ、加賀さんの部屋まで案内しよう」
加賀「別にそんな――」
ガチャッ
パシャッ
加賀「きゃっ」
青葉「どうもー!」
提督「おお、青葉か」
青葉「新しい方が来たとのことでしたので、これは激写するしかないと思いましてね」パシャッパシャッ
加賀「な、なに。なんですか!?」
提督「青葉、加賀が困ってるぞ」
青葉「あっ、ごめんなさい。ちょっとふざけようと思っただけですので」ペコリ
提督「それにな青葉、もう俺がちゃーんと加賀さんの写真は撮ったから大丈夫だ」
青葉「えーっ、どこでですか!? ていうかどのタイミングで!?」
提督「加賀さんがここにくる前に、裏の丘のところで」
青葉「おー! いいロケーションじゃないですか! あとで見せてくださいね!」
提督「もちろんだ」
青葉「楽しみにしてますからねー。あっそうそう、はい提督、この前の写真現像したの持ってきましたよ」スッ
提督「ああ、いつもありがとうな」
青葉「いえいえ。それでは用もすみましたので、青葉失礼します」ビシッ
青葉「あっ、加賀さん、これからよろしくお願いしますね、あと先ほどは失礼いたしました」
加賀「え、ええ」
青葉「それでは!」タッタッタッタ…
……
13:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:06:06.45 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……なんだか台風みたいね」
提督「ああ、青葉な。アイツは元気だからな。いつもあっちこっち走り回って写真撮ってるんだ」
加賀「……そう」
提督「もともと俺も趣味でカメラいじってたけど、少し青葉に勧めてみたら俺よりハマりやがった」
加賀「……」
提督「ここでの行事の写真撮ったりもしてくれるけど、風景写真とかも上手でな」
提督「ふと『撮りたいっ!』って思って撮ったらしい風景写真とか……あっほら、この写真だ」
加賀「……この写真」
加賀(廊下に飾ってある写真はあの娘が撮った物だったのね……)
提督「これ、新聞社の写真コンテストに初めて出して銀賞とってよ、新聞にも小さくだけど載ったんだぜ」
加賀「……そう。別に興味ないわ」スタスタ
提督「そっか、あっじゃあこれはどうだ」スタスタ
加賀「……これ?」
提督「ああ、この絵、まるで売り物みたいだろ」
加賀「そう、ね」
加賀(高価な絵画かと思ってたのだけれど)
提督「これは駆逐艦の時雨が描いたんだ。執務室から見た海らしい」
加賀「これは、たしかに見事ね」
提督「さっき青葉に貰った写真な。先月、この絵の授賞式に出席した時のなんだ」
提督「時雨と俺と記録係の青葉とで行って、久々に晴れ着着てさ。時雨と青葉も綺麗なドレス着てな」
提督「時雨もなんか偉い美術家の人と話したりしてて、俺なんか蚊帳の外よ」
加賀「へぇ……」
提督「時雨は結構絵画コンテストの常連だったりするから、色々注目されてるらしい」
加賀「……それで、その時雨の練度はいくつなのかしら?」
提督「……絵の練度は155だ」
加賀「戦力としては?」
提督「……この間やっと20になったくらい」
……
14:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:07:11.64 ID:BgcXyfkQ0
スタスタ
加賀「確かにすごいと思うわ。私には出来ないことをしていると思う」
加賀「でも、私の物差しは戦うことなの。戦力として使い物にならなければ、艦娘としては必要ないわ」
提督「……手厳しいね、加賀さんは」
加賀「先ほどから思ってはいたけど、ここは出撃はちゃんとしているの? 遠征は?」
提督「最低限はしてるね。加賀さんには耐えられないかもしれないけど」
加賀「そう、しているという事実があるならいいわ」
提督「加賀さん、絵とか興味ある?」
加賀「あると思うの?」
提督「さあ、それはやってみなくちゃ分からないだろ」
加賀「はあ……。ないわよ、全然」
加賀「見るのは楽だけど、描きたいとは毛ほどにも思いません」
提督「残念、まあそんな簡単に生きがいが見つかるとは俺も思ってはいないけどね」
加賀「何のために生きるか、なんてあなたに決められたくないわ」
提督「俺は決めないさ。決められるように選択肢を増やしてやるのが俺の仕事」
加賀「……そう」
提督「あれ、『あなたの仕事は戦う事でしょ』とか言わないのか」
加賀「……そういうことは思っても口に出さないものよ
提督「おっと、すまない」
提督「っと、加賀。ここがお前の部屋だ」
加賀「案内、ありがとうございました」
提督「ここら一角は正規空母の部屋がだから、もし分からないことでもあればお隣さんにでもきいてくれ。それがダメなら俺とか大淀にきけ」
加賀「はい」
提督「あと、仕事してるとき以外は基本的に自由時間だから、謀反以外なら鎮守府で何してもいいからな」
加賀「はい」
提督「それじゃあ」
加賀「……提督」
提督「ん?」
加賀「半年間、よろしくお願いします」
提督「……ああ、これからよろしく」
15:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:07:55.12 ID:BgcXyfkQ0
賀の自室
加賀「……はあ」
加賀「……一人一部屋なのね」
加賀(前の鎮守府じゃ他の艦娘と相部屋だったわよね、たぶん。誰と一緒だったかは覚えてないけれど)
ポスッ
加賀「ベッドにただただ寝転がるなんて、久々な気がする……」
加賀(部屋なんて出撃と入渠の合間に使った覚えしかないわ……)
加賀「部屋というより、ただ睡眠をとる場所でしかなかったわね」
加賀「……こんな広い部屋を貰っても、どう使えばいいかも分からないわ……」
加賀「……生きがい、ってやつに使えばいいのかしら」
加賀「……」
加賀「艦載機でも置けばいいのかしら」
加賀「……」
加賀「……馬鹿らしい」
コンコンッ
加賀「誰?」
16:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:08:47.81 ID:BgcXyfkQ0
??「あ、あの! 隣の部屋の翔鶴です! 挨拶をと思いまして」
加賀「……ふぅ」
ガチャッ
翔鶴「あっ、始めまして。同じ正規空母……ですよね? 翔鶴型一番艦の翔鶴と申します。こんな所なので色々慣れないことも多くなると思いますが、分からないことがあればなんでも聞いてください!」
加賀「……加賀型一番艦の加賀よ。よろしく」
翔鶴「……」
加賀「……」
翔鶴「……えっと」
加賀「別に無理して話題を探さなくてもいいのよ」
翔鶴「そ、そんな! その、私、加賀さんとお話ししてみたいと思っていたんです!」
加賀「……はあ。それで、何を話すの」
翔鶴「えっと……あの、あっ!」
翔鶴「か、加賀さんは、甘い物は好きですか?」
加賀「ええ、嫌いではないわ」
翔鶴「よかった!」ニコ-!
翔鶴「私、お菓子づくりが好きで……これ、パウンドケーキ作ったんです! お近づきの印にどうぞ!」ニコニコ
加賀「えっ、ええ、ありがとう……。これ一個丸々……頂いていいのかしら」
翔鶴「もちろんです! 加賀さんのために作ったんですから!」
加賀(一人で食べるには多いわね……)
翔鶴「あっ、もしよろしければ今度感想を教えてくれれば嬉しいです! まだまだ修行中ですので!」
加賀「……」
加賀「ねえ、私も一つ聞きたいのだけれど」
翔鶴「? はい」
17:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:09:14.64 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……その、お菓子づくりは、あなたにとっての生きがいなのかしら」
翔鶴「えっ。んーっと、そうですね……生きがい、とまで言うのはオーバーかも知れないのですが……」
翔鶴「……でも、きっと、お菓子づくりが出来なくなったら、すごく悲しいかなと思いますね」
加賀「……そう」
翔鶴「えっと、今のでちゃんと答えになりましたか?」
加賀「ええ、十分よ」
翔鶴「ふぅ、よかった」
加賀「あと、もう一つ聞きたいのだけれど。その、赤城はこの鎮守府にいるかしら」
翔鶴「赤城さんですか? ええ、いらっしゃいますよ。お部屋はここの斜め向かいの所にありますけど」
翔鶴「いまでしたらたぶん、弓道場にいらっしゃるかと」
加賀「……そう。ありがとうね。翔鶴」
翔鶴「いえいえ」
加賀「今日からよろしく。あと、ケーキごちそうさま」
翔鶴「はい! それでは」
バタンッ
加賀「……」
加賀「何もないところからパウンドケーキが生まれたわ……」
加賀「……弓道場、行ってみましょう」
加賀(赤城さん。『ここの赤城さん』はどんな方なんでしょう)
…………
18:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:10:05.23 ID:BgcXyfkQ0
弓道場
キ-…ヒュッ パンッ!
赤城「……」
スッ
赤城「……ふぅ」
赤城「あら?」
加賀「……赤城さん」
赤城「あなたが今日着任した加賀さんね。提督から話は聞いてるわ」
加賀「はい。前線の鎮守府から転任しました」
赤城「よろしくお願いしますね、加賀さん」ニコッ
加賀「こたらこそ、よろしくお願いします」ペコリ
赤城「どうですか? この鎮守府は、面白い所でしょう? ふふっ」
加賀「……ええ、これまでの経験も殆ど役に立たなそうです」
赤城「そうですか。……ところで」クンクン
赤城「翔鶴さんのケーキですかぁ……美味しいんですよねぇ」
加賀「……食べますか?」
赤城「あらあら、なんだか催促してしまったみたいですみません」
加賀(してると思うのですが)
赤城「……私の部屋で食べましょうか。金剛さんから頂いた美味しい紅茶もありますし」
赤城「そこでお話、しましょう」ニコッ
加賀「……はい」
赤城「少し待っててください。着替えてきます」テクテクテク
加賀「……どこでもあまり変わらないわね。赤城さんは」
加賀「食いしん坊な所は」
…………
19:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:10:46.38 ID:BgcXyfkQ0
赤城の自室
パクッ モキュモキュ ゴクン
赤城「ふわぁ……、やっぱり練習後の甘い物は格別ですねぇ!」ピカー!
加賀「赤城さんが輝いている……」
赤城「それも翔鶴さんお手製が味わえるなんて、幸運ですぅ」モキュモキュ
加賀「……確かに美味しいですね。気分が高揚するのも頷けます」
赤城「そうですねぇ」モムモム ピカーッ
加賀「バナナの風味とクルミの食感……と、この香りは僅かにシナモンでしょうか」
赤城「おいひいですねぇ」モムモム
加賀「紅茶も、美味しいです」
赤城「おいしいケーキにおいしい紅茶……犯罪的です」
加賀「……ふぅ」ピカーッ
赤城「うふふ、加賀さんも食べることが好きなんですねぇ」
加賀「そうですね……補給は大切ですから」
赤城「こんな補給だったら私、いつでも大歓迎ですよ。加賀さん!」
加賀「え、ええ、そうですね」
加賀(「また貰ったら一緒に食べましょう!」という目だわ。明らかな要求と欲望の目……)
20:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:11:19.52 ID:BgcXyfkQ0
赤城「ふぅ……。それで、加賀さんは何が聞きたいんですか?」
加賀「え?」
赤城「着任してすぐに、わざわざ弓道場にまで来て……それこそ翔鶴さんにでも聞いたんですよね。私ならあそこにいるって」
加賀「……はい」
赤城「あんまり弓道場なんて使う艦娘はいませんからね」
加賀「えっと、他の空母の方は使わないんですか?」
赤城「空母の発艦訓練は大体訓練場か、演習場を使いますよ」
加賀「へぇ、そうなんで……」チラッ
加賀「……」
加賀「ああ……なるほど」
赤城「あら、わかりましたか?」
赤城「こほん」
赤城「えー、あちらに見えますのは『全日本弓道大会』成人の部、三位入賞の賞状でございます」
加賀「……」
赤城「えー、窓際に見えますのは『元日、近所の神社で流鏑馬の騎手を勤めた際に提督と撮った写真』でございます」
赤城「そしてあちらが……」
加賀「弓道、ですか」
赤城「……何がです?」
加賀「赤城さんは」
赤城「私は弓道じゃないですよ。赤城さんですよ?」
加賀「……」
赤城「……冗談ですよ?」
21:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:11:55.09 ID:BgcXyfkQ0
加賀「それで、赤城さんは弓道が『生きがい』なのかしら」
赤城「うーん、そうですねぇ。生きがい、というのも少し仰々しいですねぇ」
加賀「……でも、それは戦うことよりも大切なんですよね。その、赤城さんにとって」
赤城「そう、ですねぇ……」
赤城「……加賀さんは、何が大切なの?」
加賀「私は、ただ戦うだけです」
赤城「そう」ニコッ
赤城「……」
加賀「……」
赤城「……」
加賀「……あの」
赤城「私もね、加賀さんとたぶん同じ。他の鎮守府からここへ来て、当時は戦うことこそ全てだと思っていました」
赤城「艦娘は、戦いにこそ己あり。ってところですかね」
加賀「私と同じ、です」
赤城「ええ」ニコッ
赤城「でも、ここに……この鎮守府に来た理由はきっと、加賀さんとは違います」
加賀「それは、どういういことですか」
赤城「ふふっ……」
赤城「……不良品なんですよ、私」
22:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:12:41.18 ID:BgcXyfkQ0
加賀「そんな……。赤城さんは、私なんかよりも」
赤城「……それは、前の鎮守府にいた赤城さんですよね?」
加賀「それ、は」
赤城「加賀さん、これだけは覚えておいてください」
赤城「艦娘も十人十色、いろいろな方がいるんです。それは艦種だけではなく個性という部分で、ね」
加賀「……」
赤城「私は、確かに戦うことに存在意義を見いだしていました。ですが、それは理想、戦いたくても戦えない艦娘なんです。私」
加賀「意味がわかりません。私達には戦う術が備わっています。それに軍が兵器である私たちを使わないはずがない。そうですよね?」
加賀「弓道で、これだけ力が発揮できるんです。そんな、赤城さん……いえ、あなたが、戦えないなんて」
赤城「……私は攻撃することができないんです。敵に」
加賀「そんな」
赤城「いえ、それでは語弊がありますね」
赤城「生き物に攻撃することが、恐ろしいんです」
加賀「深海棲艦は敵です。それに、アレを生き物と言えるかどうか」
赤城「信じられないと思います」
赤城「でも、生まれてからずっとです。生き物と認識してしまうと、もう……」
赤城「手も足も……震えてしまって、頭も真っ白になって……。全く動けなくなってしまうんです」
加賀「それでは、あなたは本当に」
赤城「役立たず、ですよ」
23:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:13:26.79 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……」
赤城「……戦いこそ己の存在意義。なのに、戦うことができない。できることは一部の遠征のみです。こんな不良債権、置きたい鎮守府なんてありません」
加賀「……解体とか、考えなかったんですか?」
赤城「ふふっ、やっぱり加賀さんと私、考え方が似てるのかもしれませんね」
赤城「左遷されたとき、『なんでこんな自分を解体しないのか』『早く解体して欲しい』……そう思っていました」
赤城「戦いを求める心と、戦えない体……もうそのズレで、私の精神は参っていたんです」
加賀「では、今のあなたがあるのは……」
加賀「提督、ですか」
赤城「……はい」ニコッ
赤城「提督は、私のこの『ズレ』を個性だと仰ってくれました」
赤城「そして、どんなことがあろうと私を解体しないと」
赤城「……それに」チラッ
加賀「なるほど……それで弓道ですか」
赤城「はい」
赤城「あの方は、精神的にボロボロで、無気力だった私のために尽くしてくれました」
24:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:14:31.15 ID:BgcXyfkQ0
…………
提督『赤城、芸術系はどうだ!? なんだか惹かれるものなんか感じないか?』
赤城『……』
…
提督『そしたらゲームはどうだ! これだったら擬似的に戦うことだって』
赤城『……ごめんなさい』
提督『そっ、かぁ……まぁ、気長に探そう! お前の好きなこと』
赤城『……提督』
…
提督『赤城! スポーツだ! お前は運動神経はいいんだからスポーツだったらできるかもしれない!!』
赤城『スポーツ、ですか……?』
提督『おっ、良い反応だな。種類も沢山あるし、赤城がハマるのもあるかもしれない』
赤城『そう、でしょうか……』
提督『とりあえずやれるものからやっていこう。琴線に触れなくても、やってみることは無駄なことじゃない』
赤城『……はい』
…
赤城『てい、とく……』
提督『……凄いじゃないか、赤城』
赤城『これが、弓道ですか……』
提督『どうだ?』
赤城『わかり、ません』
赤城『でも……なんだかいい感じです』
提督『そうか……。よし! 鎮守府に弓道場を造るか』
赤城『えっ! そんな、私なんかのために。というか、まだ続けたいと思ったわけでは……』
提督『じゃあ、他のものにチャレンジすればいい。だが、弓道場は建てる』
赤城『えっ、ええっ!』
提督『これから来る娘の中にも弓道が好きな娘がいるかもしれないだろ。先行投資だよ先行投資!』
赤城『そ、それって……その弓道場って! 私も使っていいんですよね!?』
提督『ふぅん』ニヤニヤ
提督『ふっ、もちろんだよ』
赤城『……やった』
…………
25:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:16:07.47 ID:BgcXyfkQ0
赤城「弓道をやっている自分と、そんな私を楽しそうに見ている提督と……。なんだか不思議な、でも心地良い時間でした」
赤城「それにあれからずっと私は、弓道という拠り所を見つけてから生きるのが楽しいんです」
加賀「……そういう物なのでしょうか」
赤城「それは、分からない」
加賀「……」
赤城「でも私は、弓道をしている時間が好き、弓道をしているときの自分も好き、それに弓道に出会ってからの自分が好き……」
赤城「何もできないボンクラの人生を、かけがえのないものにしてくれたのは弓道と、提督なの」
加賀「……羨ましい、かもしれません」
赤城「そう?」
加賀「はい……。でも、今の私は『戦い』こそが生きがいです。その気持ちは今でも変わりません」
赤城「……ふふっ」
赤城「良いと思うわ。それでも」
赤城「だって、それは加賀さんだけの物だもの」
加賀「あの、あなたが当初持っていた『戦い』への気持ちは、どうなったのでしょうか」
赤城「んー……そうですねぇ」
加賀「……捨てる、のですか?」
赤城「……そんなことはないわ」
26:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:17:03.50 ID:BgcXyfkQ0
赤城「私だって、弓道の大会に出たいと思ったし、他の人と競いたいとも思った」
赤城「負けたくないとも思ったし、……三位で終わってしまった時は悔しいとも思ったわ」
赤城「私は『戦い』を諦めるつもりもない、その志を捨てるつもりも」
赤城「ただ『戦い』が生きる意味とは思わない」
赤城「私にとって弓道と生きる中で『戦い』があるの」
加賀「弓道と生きる中での『戦い』、ですか」
赤城「他者との戦い、自分との戦い……私は負けたくないわ」
赤城「私は、理想を抱きながらも海で戦えなかった自分に、負けない生き方をしたい」
赤城「私がどんなに艦娘として出来損ないでも、何もできない過去の自分よりも、人間として誇りを持った生き方をしていきたい」
赤城「そう、思っているわ」
加賀「……」
赤城「……ごめんなさいね。なんだか、熱くなってしまって……」
加賀「いえ……」
加賀「個人的には、あなたは良い生き方をしている、と思います」
赤城「な、なんだか恥ずかしいですけど……あ、ありがとうございます、加賀さん」
加賀「やはり、どんなに違っていても……赤城さんは、赤城さんです」
加賀「……前の鎮守府の赤城さんは、私より練度も高かったのですが」
赤城「あ、あはは……それは、許してくださいよ。加賀さん」
27:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:17:39.16 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……そろそろ部屋に戻って休むわ。貴重なお話、ありがとうございます」
赤城「いえ、いいんですよ。またいつでも来てください。部屋か弓道場にいつもいますから……えっと遠征中以外」
加賀「……ふふっ、わかりました。赤城さん」
赤城「ああっ、老婆心ながら一言アドバイスを」
加賀「はい?」
赤城「……無理して見つけなくてもいいんですよ。『戦い』が生きがいでも、それは加賀さんが決めることです。私や提督が決めることではありません」
赤城「たとえあなたがこの鎮守府を去ってしまうことになったとしても、それが間違っているわけではありません」
赤城「加賀さんは私とは違うんですから。……ここでしか生きていけない訳ではないんです」
赤城「あなたは私の生き方を羨ましいと言ってくれましたが、過去の私にとっては加賀さんのほうが羨ましかったと思います」
赤城「私は、加賀さんが納得できる選択ができることを願ってます……」ペコッ
加賀「……ありがとうございます、赤城さん」
ガチャ…
バタン
赤城「私ことを羨ましいって……」
赤城「加賀さん、あなたは……」
…………
28:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:18:16.83 ID:BgcXyfkQ0
加賀の自室
加賀「赤城さん……。赤城さんに頼ってよかった。やはり、彼女はいつも的確なアドバイスをくれる」
加賀「……いえ、いくら同じ『赤城』でも、重ねてしまうのは良くないわ」
加賀「ここの赤城さんも優しくてよかった」
ポスッ
加賀「……ベッド、やけに柔らかい気がする」
加賀(なんでかしら。ベッドの感触なんて、これまで一度も考えたことなんてなかったのに……)
加賀「何か、変わっているのかしら。私も」
……
赤城『……無理して見つけなくてもいいんですよ。『戦い』が生きがいでも、それは加賀さんが決めることです。私や提督が決めることではありません』
赤城『私は、加賀さんが納得できる選択ができることを願ってます……』
……
加賀「……私は、艦娘です。艦娘は、戦うために生まれた。それは覆しがたい事実であり、義務なんです」ボソッ
加賀「……今日は色々なことがありすぎたわ……少し、休んで……ふわぁ」
加賀「……スー…スー…」
29:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:18:46.49 ID:BgcXyfkQ0
…………
次の日
大淀「昨日は案内できませんでしたが、ここが談話室になります」
加賀「談話室……一体、何のための場所なの?」
大淀「あれ? 他の鎮守府にはないんですか?」
加賀「たぶん。前の鎮守府には無かったか、ほとんど利用されなかったか、どちらかね」
大淀「へぇ、そうなんですか……。いい部屋だと思うんですけど」
加賀「それで、何をする場所なの?」
大淀「あっ、失礼しました」
大淀「そうですね、具体的な用途は説明し辛いのですが……あっ」
龍驤「おー、大淀さんに……えっと、だれや?」
大淀「昨日来た加賀さんです」
龍驤「ほー、加賀やんかー……。またけったいな体つきしてんなぁ」
加賀「けったい?」
龍驤「あーええのええの、気にせんといて」テクテク
龍驤「あっ、大淀さん、テレビみてもええ?」
大淀「大丈夫ですよ」
龍驤「ほな、遠慮なく」ピッ
大淀「龍驤さん、いま加賀さんに談話室の説明をしていたんですけど、その、なんて説明すれば良いか分からなくて……」
龍驤「えっ、あー、そなんや」
龍驤「えーっと、加賀やん。談話室っちゅーのは、謀反以外ならなんでもしてもええっちゅー部屋や」
龍驤「これで分かるやろ」
大淀「少し大雑把過ぎると思いますが」
30:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:19:33.83 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……昨日、提督も同じことを言ってたわ。『謀反以外なら~』と」
龍驤「あら、ウチが提督のネタパクったのバレてしもた」
大淀「まあ、えーっと、複数人でお話ししたり、テレビを見たりする場所、という認識でいいですかね」
加賀「……いつも誰かがいる場所って事ね」
大淀「まあ、そうですね。特にする事のない方は大体ここにいるという感じです」
加賀(いつも誰かが暇している鎮守府というのもどうかと思うけどね)
龍驤「そんな難しい顔すなや」
加賀「……えっ?」
龍驤「この鎮守府はよくも悪くも特殊や。それに艦娘同士のつながりも強い、って趣味仲間みたいなものも多いけどな」
龍驤「そういうのの交流の場としてここがあるんよ」
大淀「……確かに、そうですね」
龍驤「ここで『ああ、あいつあんな趣味があるんやなー』とか『あいつら仲ええんやー』とか、発見もあってつながりも増えてくって感じやな」
加賀「……作戦会議とかにも使うのかしら」
龍驤「ぷっ、加賀やん真面目すぎ」
龍驤「そんなん会議室でも使ったらええて。ここでの会話なんて世間話みたいなもんばっかや」
龍驤「……ま、そういう話をする人がおってもええと思うで。なに話してもええんやからな」
加賀「……そう」
龍驤「……ここでみーんなが仲良くする姿を見るのが、うちの生きがいや」
加賀「……」
31:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:20:49.65 ID:BgcXyfkQ0
大淀「確かに、龍驤さんは大体ここにいらっしゃいますね。いっそのこと談話室の責任者になるのはどうでしょう」
龍驤「アホ。こういうのは責任が伴わないのがええんや」
大淀「はあ、そういうものですか」
龍驤「そういうもんや」
龍驤「うちはみんなと同じ目線で、みんなと一緒に楽しみたいんや」
加賀「……龍驤、あなたは艦娘として何をしているの?」
龍驤「おっ? なんやなんや、喧嘩腰やなぁ」
加賀「艦娘なのに平和ボケして、本分を忘れているわけではないわよね」
龍驤「平和ボケって……随分な言い草やな」
加賀「でもそうでしょう? あなたは何のために存在しているというの? 私から見ると、ろくな生きがいもなくフラフラと無責任な生活を送っているように見えるのだけれど」
龍驤「うっ……本当のことやから言い返せへん」
加賀「赤城さんは生きがいを見つけて、今も自分を高め続けているわ」
加賀「あのような方のためこの鎮守府があるのだと、思っていたのだけれど」
龍驤「まー、せやな」
加賀「……ねえ、あなたは何をしているの?」
龍驤「……」
大淀「オロオロ」
大淀「あ、あの」オロオロ
大淀「か、加賀さん」ヒソヒソ
32:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:21:39.52 ID:BgcXyfkQ0
加賀「何かしら、私はいま龍驤と」
大淀「その、龍驤さんはなんですけど……」ヒソヒソ
加賀「ただの惰性で鎮守府にいるとしか思えないわ」
大淀「あの、何もしていないわけではなくてですね」ヒソヒソ
加賀「……はっきり言ったらどうなの?」
大淀「す、すみません……。それで加賀さん、龍驤さんはですね」ヒソヒソ
加賀「ええ」
大淀「提督と一緒に、一からこの鎮守府を支えてくれている方なんです」ヒソヒソ
大淀「それに他の鎮守府から艦娘をスカウトしているのも、主に龍驤さんです」
加賀「なるほど、つまり」
加賀「えっ」ピタッ
大淀「この鎮守府の艦娘事情が成り立っているのは龍驤さんのお力も大きいんです」ヒソヒソ
龍驤「……あー、なんか水戸黄門が正体を明かした時みたいやな、たははは……」
加賀「……えっと」
龍驤「はは……はぁ」
龍驤「まあ、そういうこっちゃ、加賀やん」
龍驤「加賀やんの言うとこの、ウチの『生きがい』っちゅーのは、まあ赤城みたいなどーしよもなくなってしもた艦娘をここに連れてきてやることかな」
加賀「そ、そう……」
33:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:22:42.42 ID:BgcXyfkQ0
龍驤「どや、加賀やんの思う生きがいとして立派なもんやろ?」
加賀「……ええ。うん……十分」
加賀「ごめんなさい。何も聞かずに責めてしまって」
龍驤「あー、ええんやええんや。ウチかて加賀やんと同じ艦娘や。そんな畏まらんといてぇな」
加賀「……そうね」
龍驤「切り替えはやっ!」
龍驤「もうちょい遠慮とかあってもええと思うんやけどなぁ」ボソボソ
加賀「ねえ、龍驤」
龍驤「あん? なんや?」
加賀「私は、『戦い』こそが艦娘の存在意義だと思っているわ。それに対して、あなたはどう思うかしら」
龍驤「知るかっ!」
加賀「えっ」
龍驤「そんな存在意義とか、そんなん個人の勝手や。ウチが口出しすることやない」
龍驤「別に『戦い』こそが生きがいでも、それはええと思うわ」
加賀「そう、ですか」
龍驤「……でも、一つ言っとくけどな。ウチ自身はそんなこと全く思ってへんよ」
龍驤「艦娘だって、やりたいことをやってええと思う。まあウチらの場合は最初っからやらなあかん仕事は決まってるけどな」
龍驤「それでも人間と同じ。仕事とプライベートは分けたらええんや」
龍驤「仕事人間なんて性に合わへんから、ウチはプライベートの方を大切にしとる。それだけ」
加賀「なるほど、私の考えには否定的なのね」
龍驤「加賀やんを否定するわけやないで。ウチの信条が加賀やんの考えと逆ってだけや」
34:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:23:12.52 ID:BgcXyfkQ0
加賀「龍驤、あなたはハッキリしてるのね」
龍驤「……別に、アホやから深く考えられないだけや」
龍驤「うちの考え方って、艦娘として生まれた時から変わってたみたいで」
龍驤「いつの間にか他の艦娘からハブにされてたところを、提督に引っ張り出されただけや」
龍驤「一から支えたいうても、ウチはただ最初からここにいたってだけ……」
加賀「そうかもしれないわね」
龍驤「慰めるくらいしてや、加賀やん」
加賀「ただ、あなたみたいに考え方が良くも悪くもブレないのは、いいと思うわ」
龍驤「……そうかな」
加賀「ええ」
龍驤「……って、なに新入りに励まされてんねん!!」
大淀「龍驤さん!?」
龍驤「なんか知らんけど腹立ってきたわ。ほれ、シッシッシ、これからウチのプライベートタイムや、邪魔せんといて」
大淀「えっと、行きましょうか、加賀さん」
加賀「ええ」
龍驤「あっ、加賀やん!」
加賀「……なにかしら」
龍驤「あんたのその仏頂面、この鎮守府にいる間に治るとええなぁ!」
加賀「……余計なお世話」
龍驤「アホ! ここはそんな余計なお世話でできてる鎮守府や! 逃げられると思わんようにな」
加賀「……ふふ」
大淀「ふふっ」ニコッ
龍驤「せいぜい楽しむことやな、ここの生活を」
加賀「……そうね」
…………
35:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:23:52.72 ID:BgcXyfkQ0
…………
数ヶ月後
加賀「……提督、今度の出撃の事ですけど」
提督「ん? ああ」
加賀「ここの方針として、出撃の目的は迎撃が主になっています」
加賀「しかし、それではキリがありません。少し無理をしてでも先に進めた方が」
提督「……」
加賀「? 提督?」
提督「……いや、ここに来てからしばらく経つけど、加賀さんは変わんないねぇ」
加賀「……そうかしら、それなりにここの鎮守府にも慣れたと思うのだけど」
提督「数ヶ月間、毎度毎度出撃について話をしてくる艦娘なんて、ここじゃ加賀さんだけだしなぁ」
加賀「ここの鎮守府が異常なのよ」
加賀「それに、私にとって出撃し、敵を倒すことが生きがいだから」
提督「……そう言って、他の何にもチャレンジしないじゃない」
加賀「疑いない生きがいが『戦う』ということなの」
提督「……ふぅん」
36:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:24:21.33 ID:BgcXyfkQ0
加賀(私は、逃げたのかもしれない)
加賀(自分が変わってしまう可能性から)
加賀(新たな生きがいを見つけることから)
加賀(何も考えずに戦ってさえいれば、私は前にいた前線の鎮守府へ戻れる)
加賀(あそこへ戻れば再び自分は戦うことこそが必要になる)
加賀(私を私たらしめるのは『戦うこと』)
加賀(戦い、戦果を挙げることが私の生きがいなのだ)
加賀(私の中心は戦うことでなくてはならない)
加賀(そうしないと、私は変わらなくてはいけなくなる)
加賀(変わることは、怖い)
…………
38:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:39:43.11 ID:BgcXyfkQ0
弓道場
赤城「加賀さん、肩の力を抜いて、矢と的だけに集中してください」
赤城「精神を落ち着かせて、自分の中で調和を保つんです」
加賀(赤城さんの指導はやや抽象的です)
赤城「心の中の海を凪の状態にするんです。そうすれば自ずと無駄な力が抜けます」
赤城「周囲を無視するんです。世界を自分と的以外消し去るつもりで」
赤城「息を軽く吸って……緊張しないように」
ヒュッ パンッ
赤城「わぁ、やっぱり上手です。加賀さん」
加賀「赤城さんの指導のおかげですよ」
加賀(嘘です。なんとなく発艦するときと同じ感覚でやりました)
赤城「……加賀さん嘘吐かなくていいんですよ」
加賀「えっ」
赤城「この前、第六駆逐艦隊の子達にも教えたのですけど……」
赤城「指導が抽象的すぎて分からない、と……」
加賀「……はぁ」
加賀「仕方がないですよ。赤城さんの弓道の腕は先天的なものですから」
赤城「ううっ、すみません。役立たずで」
加賀「……」
加賀(赤城さんの弓道のセンスは物凄い。一度訓練場で発艦訓練をしたときは他を抜いて圧倒的だった)
加賀(出撃にも演習にも生かせないのですが)
39:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:41:37.39 ID:BgcXyfkQ0
加賀「赤城さんはこれからどうしますか」
赤城「んーっと、そうですね……少し練習していこうと思っていたのですけど」
加賀「鳳翔さんの所に行きませんか?」
赤城「あっ、行きます!」
加賀「じゃあ、着替えてから行きましょう」
赤城「はい!」
…………
食堂
鳳翔「それで、どうですか、調子の方は」
加賀「……相変わらずです」
鳳翔「そうですか」
加賀(鳳翔さんの生きがいは料理らしい。彼女はここの鎮守府で建造され、そのままここで働いている)
加賀「食堂に来て、鳳翔さんの料理が出てくると安心します」
鳳翔「あら、ありがとうございます」
赤城「ここには優秀な調理師がいてくれてとっても嬉しいです!」モグモグ
鳳翔「そうだ、また新しい料理を作ってみたので、食べてみてくれませんか?」
加賀「……さすがです」
40:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:42:54.98 ID:BgcXyfkQ0
赤城「この前、レシピ本出版してましたよね?」
鳳翔「そうなんですが……こう、インスピレーションが止まらなくて……うふふ」
加賀「……」
赤城「凄いですねぇ。私は食べることしかできないですが、その分野に関してなら鳳翔さんのお力になりたいと常々思ってます」フンスッ
加賀「……やっぱり食いしん坊ですね」
鳳翔「クスクス、また作りすぎてしまったときは呼びますからね」
赤城「まかせてください!」
加賀(『また』?)
鳳翔「ふんふんふーん♪」トントントントン
加賀「……鳳翔さんの手際を見ていると、いつも感心してしまいます」
鳳翔「あら、ありがとうございます。でも、慣れれば加賀さんだってこれくらい出来るようになると思うわ」
加賀「……いえ、私も食べるの専門なので」
鳳翔「あらあら、それは残念」ニコニコ
加賀「……鳳翔さんは出撃するときとか、何を考えていますか?」
鳳翔「そうですね……今晩の食事はどうしようとか、ふと新しいレシピを思いついたりとか……ですかね」
加賀「ふふっ、どうなんでしょうねそれは」
鳳翔「そうですね、戦っているときは大体集中しますけど、それ以外ははもっぱらそんな感じです。不真面目ですよね」クスクス
赤城「……」モグモグ
加賀「あっ、ごめんなさい」
赤城「いえいえ、別にもう気にしてませんから」
赤城「前はそういうお話は苦手でしたけど、今は全く平気ですので」ニコッ
加賀「そう」ニコッ
鳳翔「ふふっ、仲良しですね。お二人とも」
赤城「勿論ですよ!」
加賀「あ、赤城さん……」
鳳翔「羨ましいです」
41:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:43:52.92 ID:BgcXyfkQ0
鳳翔「お二人はお酒はお飲みになりますか?」
加賀「いえ、私は」チラッ
赤城「じゃあ、私は一口だけ頂きます」
鳳翔「はい」
トポトポトポ…
赤城「ありがとうございます」
コクリ
赤城「……ふぅ」
赤城「……」
赤城「……鳳翔さん、私も聞いてみたいと思ってたことがあるんですが、いいですか?」
鳳翔「ええ、構いませんよ」
赤城「その、失礼なことを言ってしまうかもしれませんが、ただの酔っ払いの戯れ言程度に思ってください」
鳳翔「ふふっ、はい」
赤城「……ふぅ」
赤城「……鳳翔はここで建造されて、ずっとここの鎮守府ですよね」
鳳翔「はい」
赤城「正直言って、ここは特殊過ぎる場所です。海で戦うことよりも、違うことをする事を推奨しています」
加賀「……」
赤城「その中で、思ったことはありませんか? 戦うために作られたとも言える私達が、戦う機会が少ないこの鎮守府に居ることに、居心地の悪さみたいなのを」
加賀「……私たちは外から来ていますから。ここで生まれた方はどう考えているのか、興味あります」
鳳翔「う、うーん。そうですねぇ……」
42:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:44:51.80 ID:BgcXyfkQ0
鳳翔「居心地の悪さ、というのは感じたことはありませんね」
鳳翔「それに、そもそも『他の鎮守府の当たり前』が私には分かりません」
赤城「……なるほど」
鳳翔「赤城さんたちが私の考えが分からないのと同じく、私には赤城さんたちの感覚が分かりません」
鳳翔「私が血気盛んな方じゃないからかもしれないですが……」
鳳翔「私は戦うこと自体に意味を見出してはいません。ただ単にその仕事を持って生まれただけのこと」
鳳翔「赤城さんは『海で戦うこと』から『弓道』へ、生きがいと言えるものがシフトした……んですよね?」
赤城「えっと、まあ大まかに言いますと、そんな感じですね」
鳳翔「私にとっては、元々『海で戦うこと』が生きがいであった時期はないんです」
鳳翔「私の生きがいは、生まれてからずっと『美味しいものを作って、食べてくれる方に喜んで貰うこと』。それに私の喜びはあります」
加賀「……」
加賀(きっと、前の私なら鳳翔さんの考え方を批判していたかもしれないわね……)
赤城「なるほど、そうですか……」
鳳翔「あの、こんな答えでいかがでしょう? 上手く答えになったでしょうか……?」
赤城「はい! 大満足です! 不躾な質問、失礼しました」ペコッ
鳳翔「ああ、よかった」ホッ
43:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:45:35.68 ID:BgcXyfkQ0
赤城「……加賀さん」コソッ
赤城「これも、個性……なんですね」
加賀「……ええ、そうかもしれません」
加賀「赤城さん」
赤城「はい?」
加賀「ありがとうございます。私が聞きにくいことを聞いてくれて」
赤城「ふふっ、何のことです?」
鳳翔「……あと、あの、ここだけの話なのですが」
赤城「はい」
鳳翔「……提督は、私たち艦娘の本分である『戦い』をおざなりにする方針を、独りよがりなのではないかと、深く悩んだようです」
鳳翔「前に提督に、随分酔っていらっしゃった時なんですけど」
鳳翔「私たちに『戦い』という選択肢を与えなくてごめん。……と、空言で謝られたことがあります」
赤城「……そうですか」
鳳翔「あの人は、本当にお優しい方です」クスッ
赤城「……ええ、それは十分知っています」ニコッ
加賀「……」
加賀(『戦い』……。生きがい……。)
加賀(……私も、考えるときがきたのかもしれません)
…………
44:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:46:16.82 ID:BgcXyfkQ0
加賀の自室
加賀(生きがい……)
加賀(ここに来る前までは『戦う』ことが生きがい……)
加賀(いえ、艦娘はすべからく『戦う』ことを生きる意義として存在するべきだと、そう思っていた)
加賀「……そういう環境に、身を置いていたからかしら」
加賀(これまで上役も、周囲の艦娘もそう考えていたから、いつの間にか私もそれが当然だと思っていただけかもしれない)
加賀(……戦いたくとも戦えない赤城さん)
加賀(……戦うことに疑問を抱いた龍驤)
加賀(……戦いを義務としない環境に産まれた鳳翔さん)
加賀(色々な艦娘が居る、ということを、ここでは思い知らされた)
加賀「……でも、それでも、私が生きるためには……私が私として生きるためには……」
加賀(私が誇れるものは『戦う』ことだ)
加賀(『戦う』ことでしか私に誇れることはない)
…………
45:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:47:13.93 ID:BgcXyfkQ0
コンコン
加賀「どうぞ」
ガチャッ
翔鶴「し、失礼します」
加賀「何の用かしら」
翔鶴「あの、実は加賀さんに頼みたいことがあるのですけど……」
加賀「?」
46:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:48:05.31 ID:BgcXyfkQ0
……
瑞鶴「……」ムスッ
加賀「……」
翔鶴「その……瑞鶴がここで建造されてからイマイチ馴染めていないようでして」
翔鶴「そのことを赤城さんに相談したら、加賀さんならこの問題にぴったりだと」
加賀「……赤城さん」ゲンナリ
翔鶴「あ、あと、赤城さんから伝言で……」
翔鶴「『加賀さんのためにもなりますから』とのことなんですが」
加賀「はあ……分かりました」
翔鶴「そうですか! ありがとうございます!」
翔鶴「ほら、瑞鶴!」
瑞鶴「……あんがと」ムスー
加賀「イラッ」
翔鶴「では、よろしくお願いします。加賀さん」
加賀「えっ」
翔鶴「はい?」
加賀「あの、あなたはどこへ?」
翔鶴「私、これから遠征なんです。夜には帰りますので。それでは!」
タッタッタッ
加賀「あ……」
加賀「……」
瑞鶴「……」ムスッ
加賀「……よろしく」
47:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:49:16.46 ID:BgcXyfkQ0
…………
瑞鶴「だから、あたしは誰にも協力して貰わなくていいって言ってるの!」
加賀「そんなこと言っても、頼まれたのだから仕方ないでしょう」
瑞鶴「じゃあ放っておいてよ! 翔鶴姉には口裏合わせておくわ!」
瑞鶴「……私は、私一人で解決するんだから」
加賀「はあ……。そう、なら勝手にして」
瑞鶴「えーえー勝手にするわよ、一航戦の協力なんて誰が借りるもんですか!」ズンズン
ドンッ
??「おっと」
瑞鶴「きゃっ」
加賀「あら、提督」
提督「よう、加賀さんに……大丈夫か、瑞鶴」
瑞鶴「いったた……提督さん? もう、もっと気をつけなさいよ!」
提督「ああ、ごめんごめん」
加賀「今のは、あなたが私に悪態を吐いていて、前を見ていなかったからぶつかったのよ」
提督「なるほど、そうだったか。なら今度から気をつけろよ、瑞鶴」
瑞鶴「……わかったわよ……ごめんなさい」
提督「分かればいいんだ。……おっとそうだ、瑞鶴に聞きたいことがあったんだが」
瑞鶴「……何かしら」
提督「自分のやりたいことが見つからなくて焦ってる、って本当か?」
瑞鶴「なっ!?」
加賀(なるほど、そういう事)
瑞鶴「だ、誰よ! バラしたの!!」
提督「この前、翔鶴がそう話してたんだが」
48:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:50:10.63 ID:BgcXyfkQ0
提督「……反応を見る限り、本当らしいな」
瑞鶴「くっ!!」
加賀「……その相談だったわけね」
提督「ん? どういうこと?」
加賀「翔鶴が私に協力してほしい、と」
提督「……へぇ、加賀さんに、ねぇ……」
瑞鶴「そ、その事について、いま頑張って探してるわ! 提督さんは心配しないで!」
提督「……まあ、そう簡単に見つかるものじゃない、気長に探してればそのうち見つかるさ」
提督「加賀さんと一緒に、色々試してみたらどうだい」
提督「加賀さんも、結構良い経験になるんじゃないかな」
瑞鶴「ううっ」
加賀(良い経験……)
加賀「……わかりました」
提督「うん、それじゃ、よろしく頼むよ、加賀さん」
加賀「ほら、行くわよ、五航戦」
瑞鶴「ず、瑞鶴よ! ちゃんと名前で呼びなさいよ」
加賀「はいはい」
……
49:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:51:06.37 ID:BgcXyfkQ0
青葉「あれ? それで、なんで青葉の所へ真っ先に?」
加賀「あなたなら、誰が何をやっているのか把握していると思ったからよ」
青葉「うーん、そうですかねぇ」
加賀「記録係でしょ。ここに転任してから、あちこちにあなたが出現している所を見たわ」
青葉「まあ、そうですね……」
青葉「うん、せっかく加賀さんが青葉を訪ねてくれたんです。青葉、全力で協力しますね!」
加賀「ありがとうね」
瑞鶴「その……ありがとう」
青葉「いえいえ~、瑞鶴さんともあまりお話する機会がなかったので、青葉としても仲良くできてうれしいです!」
加賀「……あなた、本当に馴染めていないのね」
瑞鶴「い、忙しくて、話しかけるタイミングがなかっただけよ」
加賀「本当かしら」
青葉「まあまあ」
青葉「こほんっ、それでは! 皆さんのご趣味拝見ツアーに、レッツゴー!!」
……
50:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:52:37.54 ID:BgcXyfkQ0
鎮守府 外
畑
加賀「……畑?」
青葉「まず、扶桑さんと山城さんです」
扶桑「あら、あらあら、青葉さんに加賀さん、瑞鶴さん、ようこそいらっしゃい」
扶桑「やましろー、加賀さんたちが来てくれたわよー」
「ハーイ ネエサマー」
タッタッタッ
山城「……ふう、いらっしゃいませ!」
扶桑「ごめんなさいね、雪風は遠征で今日いないのだけれど……」
青葉「いえいえ」
加賀「あなたたちの『生きがい』について話を聞かせてほしいの」
扶桑「『生きがい』? えーっと……、それは趣味みたいなことでいいんですか?」
加賀「ええ、構いません」
加賀「この子が建造されたばかりでやりたいことっていうのがハッキリしていないらしいの」
山城「なるほど」
51:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:53:13.92 ID:BgcXyfkQ0
扶桑「そうねぇ」
山城「見れば分かるとおり、私たちはちょっとした農業をやってるわ」
瑞鶴「……ここの畑、扶桑さんたちが使ってたんだ」
扶桑「まあ元々は家庭菜園程度だったのだけど」
山城「提督が『だったら畑を作ろう』っていいだしてね。全く、管理するこっちの身にもなって欲しいわ」
扶桑「山城、提督は私たちのためにと思って作ってくれたのよ。そんなこと言ってはだめ」
山城「うっ、ごめんなさい。姉様」
扶桑「あの、勘違いしないで欲しいのだけど、私たちはこの畑を渋々管理してるわけではないですからね」
加賀「ええ、分かっているわ」
青葉「それに、たまに提督と一緒に作業していることもありますよね」
扶桑「ああ、ふふっ」
山城「……別にいいって言ってるのに、手伝いに来るんだから」
扶桑「なんとなく、半ば無理やり畑を作ったことに負い目でも感じてるんだと思うわ」
山城「……畑仕事は好きって何度も何度も言ってるのにね」
52:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:54:34.88 ID:BgcXyfkQ0
瑞鶴「あら? このトマトって」
扶桑「ええ、食堂の方で出してる物よ」
加賀「私たちの食料も作っているのね」
青葉「いつも美味しくいただいてますよ!」
山城「そ、そりゃあ、私と雪風が品種改良させたんだから、美味しいに決まってるわ!」
扶桑「私たちが愛情いっぱい育てた野菜が美味しく食べてもらえるのは、本当にやっててよかったと思うわ」
扶桑「こういう改良は家庭菜園ではできないから、そういう努力もできるし楽しいわよ」
瑞鶴「……なるほど、やりがいもあるわけね」
扶桑「あそこには私と雪風が品種改良をしたトウモロコシがあってね」
山城「あっ、じゃあ、あそこには私と雪風が育てたキュウリもあって……」
扶桑「そっちには私と雪風がいま頑張って世話をしてるジャガイモが」
山城「向こうの方に作ってるビニールハウスでは今度雪風と私とでイチゴを作ってみようとしてて」
加賀「……あの」
扶桑山城「ギクッ」
瑞鶴「なんか、雪風の携わったの多くない?」
53:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:55:18.31 ID:BgcXyfkQ0
扶桑「そ、そんな事は」
山城「ない……こともないわ」
青葉「……そういえば、雪風さんが来てくれるまで、大変そうでしたね」
扶桑「そうだったわね」ドヨーン…
山城「忘れました」ハイライトオフ
扶桑「蒔く種蒔く種全て土に帰ってしまったわ」
山城「雪風は私たちにとっての豊穣の神様よ」
加賀「なるほど」
青葉「あ、あはは」
瑞鶴「美味しい野菜の裏にそんな悲しい過去があったのね……」
扶桑「……ですが、雪風が来てくれた今は、楽しく、元気に農業生活を送っているわ」
山城「それに雪風と一緒にいると不幸なことが起こらなくて助かってるのよ」
扶桑「本当に。不幸なことが起こらないなんて、幸運だわ……」
加賀(マイナスがゼロになっただけでプラスではないわ)
青葉「では、次に行ってみましょう」
……
54:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:59:04.64 ID:BgcXyfkQ0
工廠
青葉「次は島風さんにでも会いに行きましょうか」
加賀「島風って……ここ、工廠なのだけど」
瑞鶴「どういうこと?」
加賀「他の鎮守府にいる島風は、おおよそ工廠に居るような艦娘ではないわ」
瑞鶴「へぇ、そうなの」
青葉「あー、まあ行けば分かりますよ」
テクテクテク
明石「あら? 青葉じゃない。それに加賀さんに瑞鶴さん? どういう面子よ」
青葉「島風さんに会いに来たんですけど」
明石「島風なら第一工作室に居ると思うわ」
加賀「工作室なんてあるのね」
明石「あー、馴染みありませんか」
明石「まあここは特殊ですからね」
加賀「よくわかってるわ」
ガチャッ
島風「ふぅ、疲れた~」
青葉「おっ、あちらから現れましたね」
島風「んぅ、なに~」ボヤー
青葉「おやおや、なんだかお疲れなご様子ですね」
明石「あっ、もしかして、島風昨日からずっと使ってたの?」
島風「うん、カスタマイズしだしたら熱中しちゃって」
明石「ほどほどにしてくださいね。無理して体壊したらここの責任者である私が提督に怒られるんだから」
島風「ごめんなさ~い」ボヤボヤ
55:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:59:56.00 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……!!」
島風「ふわあ……ん? 加賀さん?」
瑞鶴「なに驚いてんのよ」
加賀「なぜ島風が眼鏡を掛けているの……」
島風「あー、細かい作業してたから」
加賀「それに落ち着いてる……」
島風「疲れてるからねぇ」
加賀「私の知っている島風じゃない……」
青葉「おお、加賀さんがシマカゼギャップを感じている」
瑞鶴「島風は一体なにしてたの?」
島風「あれ、瑞鶴さん。お話しするの初めてね」
島風「私は、コレ、やってるんだ」
瑞鶴「これは?」
青葉「ミニ四駆、ですね」
島風「そう、速さを追究する中で出会ったの!」
瑞鶴「これは随分と趣味らしい趣味ね」
青葉「でも度々大会とかも開かれてますから、結構奥が深いみたいですよ」
56:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:01:26.86 ID:BgcXyfkQ0
島風「ミニ四駆はね、バランスを考えた造型や、重さの調整、モーターの回転速度を加味して初めて安定的に速度が出せるの」
島風「コースに適した最高のパフォーマンスが出来る機体を作ることが大事なのよ!」
島風「本当の速さを出すためはがむしゃらに速く走るだけではダメ。自分のことだけではなく、周囲の環境に目を向けて調整することで初めて最適化されたスピードが出る」
島風「ミニ四駆が私に教えてくれたの!」
加賀「私の知っている島風じゃないわ!!」
島風「昨日はそういう計算と実際にカスタマイズしてたから寝るの忘れちゃって」メガネクイッ
瑞鶴「……んー、私には向いてなさそうね」
明石「そうですか? 私もたまに弄ってますけど面白いですよ」
島風「明石さんは次の大会にでも出さないの?」
明石「島風の機体ほどガチじゃないからねぇ」
島風「んー、楽しいと思うんだけどなぁ」
青葉「今度の大会は記録係としてついて行きましょうか?」
島風「いいよ、そこまで大きな大会でもないし、軽い調整のつもりだから」
加賀「島風が技術者の顔をしているわ……。私の知っている島風より精神年齢がだいぶ高いし……」
島風「……これ馬鹿にされてるのかな?」
青葉「微妙ですね」
島風「むー、まあいいや。ふわあ……、大会のためにも明日の出撃頑張んなきゃ」
島風「私これから寝るね、おやすみ~」
テクテクテク
加賀「……なんだか凄いショッキングな出会いでした」
明石「まあ、あんな島風は他にいませんよね」
青葉「ま、気を取り直して、次行ってみましょう」
……
57:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:02:31.64 ID:BgcXyfkQ0
……
鎮守府 廊下
テクテクテク
青葉「んー……」
加賀「どうかしたの?」
青葉「……あの、青葉が言うのも嫌みとか、自慢っぽくなっちゃって嫌なんですけど」
瑞鶴「なになに」
青葉「……少し、聞いて欲しいんですが」
青葉「加賀さんの言うところの『生きがい』っていうのは、ここの鎮守府の艦娘ほとんどに有ると思います」
青葉「ですが、間違って欲しくはないんですが、『生きがい』でも『得意なこと』ではないんですよ」
加賀「……なるほど、『生きがい』が結果と必ずしも結びつくことではないと」
青葉「はい」
瑞鶴「えっ、でも赤城さんは弓道上手だし、翔鶴姉はお菓子作るの上手よ?」
青葉「赤城さんのような弓道の天才は特別です。あそこまで上手になれる人はそうそういません」
青葉「……『好き』と『得意』は、確かに結びつくものではあります」
加賀「好きこそものの上手なれ、ということね」
青葉「その通りです。好きなことであればそれこそある程度までは上達することができるでしょう」
青葉「ですが、やはり才能の壁というのは艦娘にも、人間にもあります」
58:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:03:44.00 ID:BgcXyfkQ0
青葉「先ほどの島風さんも、ミニ四駆の大きな大会で入賞したことはありません」
青葉「扶桑さんたちが作っている野菜だって、この鎮守府でおいしく食べられていますが、世間で評価されるようなものではありません」
青葉「興味のない人よりはとても上手ですが、高いレベルで見れば平凡と見なされることなんてざらです」
加賀「そう、ね」
瑞鶴「……なんか嫌ね」
加賀「嫌?」
瑞鶴「そうよ! もしやるんならトコトンやりたいし評価されたいでしょ!」
青葉「その瑞鶴さんの考え方も正しいと思います」
加賀「じゃあ、あなたは自分の得意分野を探しているのかしら?」
瑞鶴「そうよ! ……あれ? そうなのかな」
青葉「ふふっ、別に『得意だから好き』でもいいと思いますよ」
青葉「評価されないから違うことを始める艦娘だっています。周囲の評価や結果が『生きがい』のモチベーションとなることは決して悪いことじゃありません」
瑞鶴「そう……そうよね」
青葉「ですがその考えに固執して、そうではない人を否定してはいけません」
加賀「得意ではない、評価されない……でも自分がそれを好きだからやってる、という人?」
青葉「はい」
59:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:05:09.40 ID:BgcXyfkQ0
瑞鶴「そんなの当たり前じゃない! 人それぞれなんだし」
加賀(『当たり前』と、そう言えるのはここの鎮守府で生まれたからこそね)
瑞鶴「それに好きだからこそ評価されるために頑張る、っていうのもあるでしょ」
青葉「そうです」
青葉「『得意だから好き』でも『好きだから得意になりたい』でもいいし、『ただ自分がやりたい』というのでもいいんです」
青葉「周囲の評価や結果なんて、要素の一つでしかない……ということです」
青葉「……何となく、瑞鶴さんたちの『やりたいこと』を考える一つの指針になれば……と思い、言ってみた次第です」
瑞鶴「なるほどね」
瑞鶴「……うん、なんか色々考えることが出来そうだわ! ありがとう、青葉!」
青葉「ああっ、いえいえ! なんか偉そうにすみません」
加賀「……」
60:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:05:35.38 ID:BgcXyfkQ0
加賀(……私は周りに評価されたくて戦っていたの?)
加賀(いえ、違うわ。戦うことは義務であり、評価されるようなことではない)
加賀(義務……)
加賀(私は戦わなければいけなかった。だから戦っていた……)
加賀(やらなければいけないことは、『生きがい』? 生きるために戦うことは『生きがい』だったの?)
「――さん!」
「加賀さん!」
青葉「あの、加賀さん!」
加賀「……えっと、なに?」
青葉「どうしたんですか? ぼーっとして」
加賀「んっ……いいえ。なんでもないわ。少し考え事をしていただけだから」
青葉「そうですか?」
瑞鶴「そんなことより、次にいくわよ!」
加賀「……なんだか元気になったわね、あの子」
……
61:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:07:00.60 ID:BgcXyfkQ0
廊下
青葉「さて、次に訪ねるのは特に世間的に評価がされているわけではない方々です」
瑞鶴「いわゆる『好きだからやっている』人ね」
青葉「はい。ですが腕は確かで、趣味を生きがいとしてやっています」
加賀「趣味……」
瑞鶴「ここら辺は個人の部屋よね。インドアなのかしら」
青葉「まあ、会えば分かりますよ」
青葉「っと、ここの部屋だ」
コンコン
??「誰?」
青葉「青葉です」
ガチャッ
浜風「青葉さん? ……と、加賀さんに瑞鶴さん?」
浜風「大所帯で……あの、私、何かしでかしました?」
青葉「いえいえ、そういうわけでは」
加賀「あなたの趣味についてお話を聞いてみたいと思って」
浜風「私の趣味……ですか? 別にいいですよ、仲間が増えるのは嬉しいことです」
浜風「とりあえず入ってください。何もお構いできませんが」
青葉「おじゃましまーす」
瑞鶴「お、おじゃましま……す……」
加賀「……これは、また」
瑞鶴「なに、これ……竿にルアーと、大量の魚拓?」
浜風「はい。趣味で釣りをやってまして」
62:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:08:00.43 ID:BgcXyfkQ0
加賀(……これは、趣味のレベルなの?)
浜風「今度の休みには九州の方にまで行ってみようと思っています」
青葉「今は何をしていたんですか?」
浜風「道具の整備をしていました」
瑞鶴「うわぁ、凄い。これ全部釣り用具なの?」
浜風「はい。正式に提督からお給料を貰い、調達しました」
浜風「瑞鶴さんが手に持っているのはルアーですね。擬似獲という奴です」
瑞鶴「へえ、なんか聞いたことあるかも」
加賀「竿も、こうやって見ると色々種類があるのね」
浜風「川用、海用、大型や小型用などなど、場所や用途の数だけありますからね」
浜風「あっ、その竿はさわらないで!!」
加賀「えっ、あ」ビクッ
浜風「あっ……コホンッ、失礼いたしました」
浜風「その竿はこの前やっとの思いで手に入れた物で、下手に触れて欲しくないといいますか……いえ、別に加賀さんが壊すと思ったわけではなくてですね」
浜風「その、今度の九州でお披露目するまでは私もあまり触らないで眺めていようと思っていまして……」
瑞鶴「つまり最初に触るのは自分だっ! ……ってことね」
浜風「お恥ずかしながら……その通りです」
加賀「いえ、私も素人なのに不用意でした。すみません」
浜風「いえいえ」
63:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:08:57.91 ID:BgcXyfkQ0
コンコン
??「ハマちゃんいるー? 入るよー」
ガチャッ
鈴谷「ハマちゃん今度の海釣りの話だけど……って、なんだか賑やかね」
青葉「おじゃましてます」
瑞鶴「ていうか、もしかして鈴谷さんも浜風と同じ?」
鈴谷「ん? 同じって?」
加賀「あなたも釣りが生きがいなの?」
鈴谷「そだよー。ハマちゃん程ガチじゃないけどね」
浜風「スーさん、青葉さんたちは釣りについて聞きたいらしい」
鈴谷「おやおや、鈴谷さんをご指名かい? 仕方ないなぁ、それじゃあまず道具の選び方から」
加賀「いえ、私たちはそんな詳しく釣りについて聞きたい訳ではないの」
鈴谷「あれ? そうなの?」
瑞鶴「釣りのどういうところが鈴谷さんたちを魅力したのか聞きたいわ」
鈴谷「魅了したって、んー、だったらハマちゃんに聞いた方がいいかな」
64:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:09:41.58 ID:BgcXyfkQ0
浜風「やっぱり、時間ですね。釣りをしている時間」
鈴谷「あー、そうだ。鈴谷もハマちゃんにそう言われて始めてみたんだ」
瑞鶴「あれ? 鈴谷さんが釣りを始めたのは浜風の影響が強いの?」
鈴谷「うん、ハマちゃんに誘われてーどっぷりハマっちゃったんだ」
浜風「きっかけは私だったかもしれないけど、スーさんがここまで釣りを好きになってくれるとは思わなかったわ」
鈴谷「まーねー……」
鈴谷「鈴谷、ここに転任してからしばらく無気力女子だったからね」
加賀「あなたも他の鎮守府から?」
鈴谷「そう。前にいた鎮守府が解体されてね、所属してた艦娘は散り散りに他の鎮守府に飛ばされちゃったんだ」
加賀「……そう」
鈴谷「でも別にそこの鎮守府に愛着とか無かったし、ほとんど大切にされてた記憶もないしね」
鈴谷「ここに来た当初は『無理して出撃しなくていいの? ラッキー』って思って部屋でゴロゴロしてたんだ」
瑞鶴「……えっ、他の鎮守府の出撃ってそんなにハードなの」ボソッ
加賀(瑞鶴はここ以外の鎮守府ではやっていけなそうね)
65:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:10:44.90 ID:BgcXyfkQ0
鈴谷「まあでもね、それでも時間ばっかりが余ってね。ふと『あたし何やってんだろー』って思うようになって……」
鈴谷「色々手出してはやめてを繰り返しながら趣味探ししてたんだ」
鈴谷「それでも『これだ!』ってのが無くて、テンションだだ下がりで歩いてるとき、ハマちゃんに会ったんだ」
鈴谷「こうやって釣りをしている時間がいいんだ、って言われて。始めてみたらハマっちゃって。ほんと、ハマちゃんには感謝よ」
青葉「たしか、浜風さんはここを出身でしたよね」
浜風「はい。元々、気づいたら海にいて、さまよってるところをここに拾って貰ったの」
瑞鶴「浜風はなんで釣りをするようになったの?」
浜風「……特に理由はないのですけど、なんとなく、始めてみたのが釣りでしたね」
浜風「のんびり釣りをしながら考え事をしたり、水面を見たり、海では波の音を聴いてみたり……」
浜風「それでいて夢中になると色々面白くてですね。釣り上げたときの達成感とかも、やっぱり夢中になる要因でしたね」
瑞鶴「へぇ……」
浜風「釣りをしている時間、すべてが好きです」
浜風「その時間を過ごすことが、私の幸せです」
加賀「……そう」
66:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:11:25.63 ID:BgcXyfkQ0
浜風「あの……噂で聞いたのですが、加賀さんは私たちが戦うために生まれた存在だから、戦うことを第一に考えるべきだと思っているというのは本当ですか?」
加賀「……そうね」
加賀「いささか言葉は乱暴に伝わっているようだけど、概ねその通りよ」
浜風「なるほど」
鈴谷「へー、加賀さんて真面目なんだね。やっぱり」
浜風「……私、加賀さんに伝えておきたいのですが」
浜風「もしも、『戦わなくてもいい』と言われれば、私は好きなだけ趣味に時間を割きます」
浜風「ですが、『今後一切、釣りをしてはいけない』と言われたら」
浜風「私は解体されてもいいと思っています」
加賀「……」
67:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:12:31.47 ID:BgcXyfkQ0
浜風「馬鹿みたいかもしれませんが、私にとって趣味はそれだけ大きな存在なんです」
浜風「私たち艦娘が生まれた理由は『戦うこと』かもしれません。ですが、私が生きる意味は『戦うこと』にありません」
浜風「個人的な考えですが、生きる上で重要なのは『戦うこと』でも、それこそ『釣り』みたいな趣味に没頭することでもない」
浜風「ただ私が私らしく生きるということ、です」
加賀「……そういう考えも、あっていいと思うわ」
浜風「そうでしょうか?」
加賀「きっと、ここに来た当初の私ならあなたを叱咤していたかもしれないけど」
加賀「今は、そうは思わない。考えを強制するつもりはないわ」
浜風「……そうですか」
加賀「ありがとう。あなたの意見が聞けて良かったわ」
青葉「……あー……では、そろそろおいとましましょうか。鈴谷さんも浜風さんと話すこともあるでしょうし」
瑞鶴「そ、そうね」
青葉・瑞鶴(なんかシリアスな空気になっちゃったし)
………
68:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:14:31.79 ID:BgcXyfkQ0
談話室
青葉「どうですか、色々回ってみて」
瑞鶴「……うーん、なんか色々聞けたのは良かったけど、やっぱり『これだ!』っていうのはなかったかなぁ」
加賀「……」
青葉「加賀さんはどうでした?」
加賀「色々と興味深かったわ」
青葉「ほぉ、それはよかったです」
加賀「……改めて、思い知ったんだけれど」
瑞鶴「なに?」
加賀「……何も難しくはない、『人それぞれ』ということなのね」
瑞鶴「はあ? どういうことよ」
加賀「……私が生まれた……前に所属していた鎮守府ではそんなこと言ってられなかったわ」
加賀「ここではどんな事でも『人それぞれ』であることが容認される」
瑞鶴「当たり前じゃないの?」
加賀「……いいえ、そうではないの」
瑞鶴「それって……どーゆうこと?」
加賀「他と違ったことをすることは許されない。『加賀』ならば空母として決められた働きをしなければならない」
69:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:16:57.38 ID:BgcXyfkQ0
加賀「『瑞鶴』ならば『瑞鶴』の働きをしなければならない」
加賀「『私』ではない『加賀』として……『艦娘』として、ということよ」
瑞鶴「うーん、なんか難しいわね。『私』は『瑞鶴』よね?」
青葉「……青葉、なんとなくわかります。つまり、個性はあってはならない、そんな環境だったんですよね」
加賀「ええ」
瑞鶴「んー……?」
加賀「……単純に言ってしまうと」
加賀「趣味なんてものは必要ない。ただ『戦え』ということよ」
瑞鶴「えっ、厳しすぎじゃない、その鎮守府」
加賀「いえ、多くの鎮守府はこのような考え方で動いているわ」
瑞鶴「……ここの鎮守府が珍しいの?」
加賀「ええ」
瑞鶴「そう、なんだ……」
瑞鶴「そっか、私は幸せなのかな」
加賀「この環境を『幸せ』と感じるのは、あなたがここ以外知らないからかもしれないわ」
瑞鶴「……何よ。経験が足りないってことかしら」
70:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:18:00.73 ID:BgcXyfkQ0
加賀「そうではないわ。仕方のないことよ」
加賀「あなたがこの鎮守府で『幸せ』と感じるならば、ここでの生活が充実しているに他ならないのだから」
瑞鶴「ふーん、そう……」
青葉「……難しいですよね。そういう認識って、ちょっとやそっとじゃ捉えられない物ですから」
加賀「……青葉はここで生まれたの?」
青葉「はい。でも、少し前に色んな方にお話を聞く機会がありまして、聞いているうちに色々考えるところがあったといいますか」
加賀「……口振りからして他の鎮守府から来たのかと思っていたわ」
青葉「そうですね……。その、青葉も趣味探しに結構悩んだ口でしてね、てへへ」
加賀「なるほどね。今の私たちと同じ経験があったのね」
青葉「そういうことです」
瑞鶴「……ねえ、加賀さん」
加賀「何かしら」
瑞鶴「加賀さんはここの鎮守府にいて『幸せ』なの?」
加賀「え……」
71:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:19:08.51 ID:BgcXyfkQ0
瑞鶴「その『認識』ってやつ、加賀さんは他の鎮守府も知ってるんでしょ?」
瑞鶴「だったら、加賀さんにとってここでの生活は『幸せ』?」
加賀「……『幸せ』?」
加賀「どう、なのかしら」
瑞鶴「比べるのは難しい?」
加賀「そう、ね。ここも良いところもあるけど、その、前の鎮守府にもいいところがあったから……」
青葉「……」
加賀(……『幸せ』)
加賀(私は『幸せ』なのかしら)
加賀(私の『幸せ』って……)
加賀(私の『幸せ』は、何なのかしら)
加賀「……そうね」
加賀「私も、覚悟を決めないといけないわ」
……
72:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:20:17.69 ID:BgcXyfkQ0
その後・加賀と別れて
青葉「……瑞鶴さん」
瑞鶴「ん?」
青葉「趣味探しって難しいですよね。それものめり込むほどの趣味って」
青葉「突然向こうからやってきたり。自分を見つめていくうちに見つかったり。とにかくぶつかっていった末に見つかったり……」
青葉「瑞鶴さんは、なんでそんなに躍起になっているんですか?」
瑞鶴「……」
瑞鶴「それが、私がここにいる意味だから」
青葉「意味? どういうことです?」
瑞鶴「ここにいる為には何か趣味がないと、そう思ってたの」
青葉「……ふふっ、お馬鹿さんですね」
瑞鶴「な、なによ、お馬鹿さんて」
青葉「意味がなくても居ていいんですよ、ここには」
青葉「意味を探すために、ここは……この鎮守府はあるんですから」
瑞鶴「……そう、そっか」
青葉「私たちには、存在する意味があるんです。みんな、どこかに」
青葉「そんな大切なものを焦って探すなんて、勿体ないですって!」
瑞鶴「……そうよね。うん!」
青葉「いつか、見つかります。青葉たちはその意味を探すために生まれたんですよ。この鎮守府に」
………
73:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:21:33.56 ID:BgcXyfkQ0
後日
執務室
提督「……なるほどね」
加賀「よろしいでしょうか」
提督「大まかなところ、今回の作戦指揮権を加賀さんに委ねる、とそういうことだよね」
加賀「はい」
提督「……ふぅん」
加賀「……」
提督「それは加賀さんの中で必要なことなのかい」
加賀「はい」
提督「ここに残るか残らないか、というのに関係があるのかい」
加賀「……はい」
提督「なるほどね」
提督「……うん、許可しよう」
加賀「……ありがとう、ございます」ペコリ
提督「君はたぶんここで最も戦闘経験の豊富な艦娘だし、知識もあるだろうから」
提督「次の作戦、旗艦として頑張ってくれ」
加賀「ええ。私が指揮するのだから、失敗はあり得ないわ」
提督「ああ、期待してる」
加賀「では」ペコリ
74:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:22:56.78 ID:BgcXyfkQ0
スタスタ ガチャッ パタン
提督「……」
大淀「……提督、よろしかったのですか?」
提督「なにがだ?」
大淀「その、加賀さんに指揮権を与えたことです」
提督「……ああ」
提督「きっと、『必要なこと』なんだろう。彼女が『戦うため』に存在するためには」
提督「戦場で、確かめなければならないのさ」
……
75:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:38:01.92 ID:BgcXyfkQ0
加賀「私は、『戦いたい』のか……、いえ『戦わなければいけない』……そのはず」
加賀「それを確かめなければ」
加賀「私は『戦うため』の存在であることを、海で確かめないと」
加賀「そこに、私の『幸せ』は、あるはずだから」
………
76:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:39:45.88 ID:BgcXyfkQ0
出撃前
出撃港
加賀「……」
ザザー ザザー……
龍驤「あー……随分な天気やな」
雷 「ひと雨来そうね……ちゃんと洗濯物取り込んでくれるかしら」
電 「響ちゃんがいるから大丈夫なのです」
龍驤「少しくらい暁のことも信用してやってやれや……」
榛名「雨……榛名の心も雨模様です……」
龍驤「えっと、どないしたん?」
北上「応募してたチケットが抽選で漏れたんだってさ」
龍驤「チケットォ? なんの」
北上「さあ、あたしは興味ないし」
榛名「楽しみにしていた、大好きな……大好きな女優さんの舞台だったんです……っ!」
北上「ヤフオクで買えばいいんじゃないの?」
榛名「そうなんです! そうなんですけど!」
榛名「定価の2倍3倍出さないといけないんです……また霧島に頼らないと」
龍驤「おいおい、なんや物騒な……」
77:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:44:09.52 ID:BgcXyfkQ0
ピンポンパンポーン
提督『あー、あー、聞こえるか』
提督『えーっと、本日の作戦も例のごとく近郊海域での深海棲艦の撃退です。皆さん怪我がないように頑張りましょう』
龍驤「やっぱ、緊張感のない放送やなあ」
提督『出撃する艦娘は加賀、龍驤、榛名、北上、雷、電。両隣を見て互いにきちんといるか確認してください。いない場合はすぐに知らせること』
雷「遠足みたいね」
提督『なお、今日の作戦の指揮権は旗艦である加賀さんに一任しておりますので、他の皆さんは加賀さんの指示にしたがってください』
提督『連絡は以上。改めて言うが、なるべく無理はしないように』
プツッ
龍驤「……ふぅ、さってと、ほな行こか、加賀やん」
加賀「……ええ」
加賀「出るわ」
……
78:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:45:02.30 ID:BgcXyfkQ0
加賀(ここに来てから何度目かの出撃。撃退作戦といっても、あちらからやってくるのを迎撃するだけの楽な作戦なのだけれど)
加賀(……温い。温すぎるわ)
加賀(こんなものは戦いじゃない。本当の戦いの激しさとは比べものにならない)
加賀(これは鎮守府を守るためだけの戦い。前まで私のしていた戦いは敵を殲滅する事)
加賀(だからこそ)
加賀「進撃します」
北上「ええっ」
龍驤「……はあ」
榛名「……了解です」
電「私、進撃するの初めてなのです」
雷「私も」
79:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:45:59.42 ID:BgcXyfkQ0
提督「……」
提督『……加賀、聞こえるか』
加賀「はい」
提督『進撃せずに帰還しろ、俺たちは進行してまで深海棲艦を倒す必要はない』
加賀「……進撃しなければ、深海棲艦は居なくなりません」
提督『そんな建前は別にいい』
提督『新劇の判断をしたのには、別の理由がある。そうだろ?』
加賀「……」
提督『なぜ必要にない進撃するんだ』
加賀「……戦わなければ、分からないんです」
加賀「戦うことで……私は満足できる。それを確かめたいんです」
提督『……はあ、加賀さんの考えは尊重したい』
提督『だが、自分のために他の艦娘までも危険に晒すのか?』
加賀「舐めないでください。こんな海域だったら私がいれば無傷で制圧できます」
加賀「それだけの力は、私にはありますので」
提督『……わかった。指揮権はお前にある。お前の指揮で行動しろ』
加賀「はい」
提督『ただし、一人でも沈む可能性がある場合はすぐに帰還すること。いいな』
加賀「了解です」
提督『……頼んだぞ』
加賀「……」
80:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:46:57.35 ID:BgcXyfkQ0
ポツッ ポツポツッ
龍驤「……降ってきてもうた」
加賀「陣形を崩さないよう、私が先頭を進むから付いて来て」
北上「……ちぇっ、運がなかったなぁ。今日出撃だったのは」
榛名「……」
電「こんなところまで来るのは初めてです……」
雷「雨が強くなりそうね……電、視界に気をつけて。私や加賀さんを見失わないようにしなさい」
電「うん……」
81:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:47:36.38 ID:BgcXyfkQ0
龍驤「……なあ、加賀やん」
加賀「無駄口は叩かないで」
龍驤「いや、せやけどな」
龍驤「……雨が降ってる日は、深海棲艦の動きが活発になるから、気をつけなきゃアカンで」
加賀「そんな迷信は聞いたこと無いわ」
龍驤「そりゃ、ここの鎮守府だけのことやからな」
龍驤「ここに提督と来たときにな、過去の記録を見たんやけど」
龍驤「度々居るはずのない深海棲艦との戦闘記録が残ってるんや。それも、雨の日に限って」
加賀「……そんな」
龍驤「別に加賀やんの指示に反対するっちゅうわけやない。ただ頭に入れといてな」
加賀「ええ……」
82:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:48:20.49 ID:BgcXyfkQ0
ザー! ゴロゴロ……
加賀「カミナリ……」
加賀「……さすがに帰還することも考えなくちゃダメね」
ドーンッ!!
加賀「何っ!?」
榛名「敵による雷撃を確認しました!」
雷「……潜水艦よ!!」
加賀「くっ! 隊列を組み直して、龍驤は偵察機を」
龍驤「もうやっとるわ!」
加賀「いいわ。北上と駆逐艦は潜水艦へ雷撃」
北上「おっけー」
雷「わかったわ!」
電「やるのです!」
龍驤「加賀やん! 敵艦隊を見つけたわ!」
龍驤「敵、潜水艦2艦、駆逐艦3艦確認……なんやて!?」
加賀「どうかしたの?」
龍驤「空母も1艦確認……やと」
加賀「……わかったわ」
加賀「北上、駆逐艦は潜水艦へ、龍驤と榛名は敵駆逐艦を」
龍驤「空母は」
加賀「私がやるわ」
………
83:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:49:04.35 ID:BgcXyfkQ0
ザァー……
龍驤「……一時はどうなるかと思ったけど、皆無事で万々歳や」
榛名「……榛名は大丈夫じゃないです」
北上「かすり傷でしょ。大丈夫大丈夫」
榛名「敵の駆逐艦に傷を負わされるとは、榛名の戦艦としてのプライドは中破同然です……」
電「だ、大丈夫? お姉ちゃん」
雷「電こそ!」
電「う、うん……でも、あんな戦闘は初めてだったのです」
雷「初めてで潜水艦撃破したんだから凄いわ! あとで暁や響に自慢できるわね!」
電「うん!」
龍驤「雷と電も平気そうやな……さて、あとは加賀やんやな」
電「加賀さん、やっぱり格好良かったのです!」
雷「空母を一撃で倒しちゃうんだもの!」
龍驤「ああ、せやったな。ところでその加賀やんは?」
雷「あっちにいるわ。何か考え事でもしてるのかしら……呼んでくるわ!」
84:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:49:45.84 ID:BgcXyfkQ0
ザァー……
加賀「……」
加賀(久々に、『戦った』と感じられた)
加賀(以前は毎日、出撃の度にこんな戦いばかりしていたはずなのに。それがもう懐かしく感じた)
加賀(前はそれで充実していた……そう思っていた)
加賀(何か……進行して、戦うことで何か感じることが出来る。だから今日は提督に指揮権を貰ったのに)
加賀「……何も、感じなかった」ボソッ
加賀「……戦うことが私の『幸せ』だと、思っていたはずなのに」ブツブツ
加賀「戦うことで、自分はより『戦いたい』と思うと思ったのに」ブツブツ
加賀「私には『戦うこと』しかないと思っていたのに」ブツブツ
加賀「なのに」
加賀「……戦ったところで、何も感じなかった」
加賀「……もっと戦いたいと思わなかった」
加賀「……深海棲艦を滅ぼさなければならないと思わなかった」
加賀「……居たから倒しただけ、あちらから攻撃してきたから」
加賀「……」
加賀「……私はこれまで、『幸せ』ではなかったの?」
加賀「私は、戦うことで『幸せ』にはなれない」
85:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:51:08.89 ID:BgcXyfkQ0
ザァー…… …ブゥーン ゴロゴロ… ピシャァーーーー!!
雷「加賀さーん……っ!! 加賀さん!!」
加賀「……えっ?」
ド――ン!!
86:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:54:03.68 ID:BgcXyfkQ0
………
『いいか? お前等は戦うために生まれたんだ』
『海へ出て、私の言われた通りに動き、深海棲艦どもを海から無くすために戦うんだ』
『そして、そのために君の役割は』
『『沈むこと』だ』
『君が敵の攻撃を引き受けることによって、他の艦への被害を最小限に保ち、より先の海域まで進めるのだ』
『君は『沈むため』に生まれたんだ。わかるね?』
「ふざけないでください」
『……なんだ、お前は』
「そんなものはあなたの力不足なだけです。沈まなければならないのは、あなたがそのような拙い作戦しか立てられないからです」
『貴様……艦娘の分際で私に意見するつもりか』
「真実を言ったまでです」
「私は……私たちは、『沈むため』に生まれたのではありません」
「私たちには、生きる理由があります。あるはずです」
………
87:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:04:00.56 ID:BgcXyfkQ0
加賀(全てが無音に感じた)
加賀(鎮守府に帰ったとき、私と榛名は小破、雷だけが大破して一人では動けない状態になっていた)
加賀(心配した提督が雷をすぐにドックへと運び入れた。電はずっと小さく泣いていた)
加賀(何もかもが遠くに見えた)
加賀(雲に紛れた敵艦載機は、最期に私に突っ込んできたようだった。直撃を免れたのはギリギリで盾になってくれた雷のおかけだった)
加賀(その場で意識を失って、私はすぐに目を覚ましましたが、雷はそのまま。鎮守府のドックに入るまで気を失ったままでした」
加賀「それから、私たちは雷を連れて帰還した次第です。今回の作戦での失態についての報告は以上になります」
提督「……なるほど」
加賀「……」
提督「加賀さんに指揮権を与えたのは俺だ。今回の『事故』の責任は俺にもある。すまなかった」
提督「それで、加賀さん。雷が大破してまで完遂させた作戦で、君はなにか見つけることができたか?」
88:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:05:23.35 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……何も見つかりませんでした」
提督「……そうか」
加賀「……」
提督「……」
加賀「……『戦い』に、私は何かを見つけることが出来ませんでした」ポロッ
加賀「わたしが、これまでやってきたことは何だったんでしょうか」ポロポロ
加賀「ヒクッ わ、わたしの、唯一の取り柄だとおもっていた戦闘でも、ヒクッ 雷に助けて貰わなければ、私が大破していたような結果です」ポロポロ
加賀「もっと冷静に考えれば、進撃する必要なんてなかった……ヒックッ 龍驤の忠告を聞いていれば、深海空母に遭遇することなんてなかった……」ポロポロ
加賀「わたし、は、ヒクッ 自信を持っていた戦いで……ヒック、生きる意味だと思っていた戦いも、ロクにできないんです」ポロポロ
加賀「私、わたしは……何のために、これまで生きてきたのか、よくわからなくなってしまいました」ポロポロ
提督「……加賀さん」
提督「疲れているんだ。今日は休んで、落ち着いたら雷の所へ行ってあげなさい」
加賀「ヒック は、はい……」
提督「それに、どんなことがあっても、加賀さんの居場所はここにある」
提督「今後のことを考えるのは、ゆっくりでいいから」
加賀「……はい」
……
89:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:07:39.39 ID:BgcXyfkQ0
次の日
ドック
雷「もー、みんな気にしないでってば」
暁「はいはい、気にしてないから、いまは大人しくしていなさい雷」
響「珍しくお姉さんしてるね、暁」
暁「め、珍しくもなにもお姉さんなんだから!」
雷「うー……、私のことは気にしないで、行ってくれて良かったのに」
電「そんなことできないです! 行くならみんな揃って、なのです!」
暁「あったりまえじゃない!」
雷「むぅ……なんだか気を使われるのは慣れないわね……」
響「慣れなくても受け入れるんだ」
雷「……はーい」
……
90:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:08:40.50 ID:BgcXyfkQ0
ドック入り口の物陰
加賀「……何と言って中に入ればいいんでしょう」
鳳翔「あら? 加賀さん。どうしたんですか、こんな所で?」
加賀「鳳翔さん……ええっと、その……」
鳳翔「? ああ、雷ちゃんのお見舞いですか」
加賀「お見舞い……いえ、まあお見舞い……でもあると思うんですが……」
鳳翔「だったら、中に入ったらどうです。そんな入り口の物陰に隠れていないで」
加賀「そ、それはそうなんですが……その」
加賀「……どんな顔して、なんと声を掛けて入るべきかと思って、それで……」
鳳翔「……謝りたいんじゃないんですか?」
加賀「それは、はい……そうなのですけど……。えっ? なぜ鳳翔さんがそのことを?」
鳳翔「知ってますよ。加賀さんが無理に進撃したせいで雷ちゃんが大破してしまったんでしょう? 提督にお聞きしたんです」
加賀「うぐっ……え、ええ、その通りです」
鳳翔「加賀さん、私少し怒っているんですよ?」ニコニコ
加賀(怖い……)
91:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:09:44.28 ID:BgcXyfkQ0
鳳翔「自分の無茶のせいであなたに従った娘が大破したこと、キチンと考えてください」
鳳翔「……加賀さんにも色々あるのは分かります。ですが、まだ未熟な娘を巻き込まないであげてくださいね」
加賀「はい……。あの作戦は完全に私の不手際でした」
鳳翔「……いえ、私の方が練度も経験も少ないのに、偉そうなことを言ってすみませんでした」
加賀「いいえ、優しくされるよりはいいわ」
鳳翔「ありがとうございます」ニコッ
加賀「鳳翔さんもお見舞いですか?」
鳳翔「ええ」
加賀「それは?」
鳳翔「これですか? これはお弁当ですよ雷ちゃんたちの」
加賀「お弁当?」
鳳翔「はい。今日、第六駆逐艦隊は時雨さんと一緒に鎮守府の裏の丘でスケッチをする予定だったので、持って行くお弁当を頼まれていたんです」
加賀「……なるほど」
鳳翔「でも雷ちゃんの入渠が長引くようなので、スケッチは中止したそうですよ」ニコニコ
加賀「うっ……ごめんなさい」
92:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:10:18.56 ID:BgcXyfkQ0
鳳翔「ふふっ、意地悪なことを言ってすみません」ニコニコ
鳳翔「それで、持って行く予定だったお弁当はもう昨日から下拵えをしてしまっていたので、どうせなら雷ちゃんたちに食べて貰おうと思って」
加賀「……なんだか、ほとほと私は周囲をかえりみずに進撃したのだと、思い知らされるわ」
鳳翔「そうお思いになれるなら、いいんですよ」
加賀「ですが、雷は許してくれるでしょうか」
加賀「なんだかそう考えていると中に入りにくいんです」
鳳翔「まあ、ふふっ。そんなに気負いしなくても大丈夫ですよ」
鳳翔「第六駆逐艦隊の娘たちはみんな優しいいい子ですから」
加賀「……そう、でしょうか」
鳳翔「そうですよ! はい」トンッ
加賀「えっ? あっ……」
……
93:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:11:01.87 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……」
加賀「あの、」
加賀「お、お見舞いと……その、謝罪と、助けて貰った感謝をといいますか」
雷「えっ? 謝罪?」
加賀「あの、ですから、あなたを大破させてしまったことで」
雷「そんなこと謝らなくってもいいのよ!」
雷「旗艦を守るなんて当然じゃない! むしろ私や電が無傷で加賀さんが大破していたら、それこそ問題よ」
加賀「そう、でしょうか」
雷「そうよ!」
電「そうなのです!」
加賀「……なら」
加賀「守ってくれて、ありがとう」ペコッ
雷「わわっ、頭も下げなくていいから」
鳳翔「まあまあ。受け取ってあげてください」
雷「えー……な、なんかくすぐったいわね」
暁「えーっと、つまりどういうことなの?」
響「一種のケジメ、ってことだね」
94:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:12:45.63 ID:BgcXyfkQ0
鳳翔「あっ、これ皆さんで食べてください。頼まれていたお弁当、持ってきました」
雷「そう! 鳳翔さん聞いて! 今日は私抜きでもスケッチ行ってきなさいって言ってるのに暁達が」
暁「雷を置いていくわけないわ」
雷「って言って聞かないの!」
鳳翔「まあ、仲良しですね」
電「気を使われたって、みんなで行かなきゃ楽しくないのです!」
響「今日は休もう。鳳翔さん、お弁当ありがとう」
暁「あとで雷と一緒に食べるわ」
電「せっかく作って貰ったのです。いただきます、なのです」
鳳翔「はい、入れ物はあとで返してくれればいいですから」
雷「洗って返すわ」
暁「……あの、鳳翔さん」
鳳翔「ん? どうかしました?」
暁「その、今度、改めてまたスケッチに行くときもお弁当作ってくれない、かしら」
鳳翔「ええ、もちろんいいですよ。……あっ」チラッ
加賀「?」
鳳翔「雷ちゃん、ちょっと……」
ゴニョゴニョ
雷「えっ、いいのかしらそんなこと」
鳳翔「大丈夫ですよ」
加賀(……何かしら)
95:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:13:25.76 ID:BgcXyfkQ0
雷「……えっと、こほん」
雷「あの、加賀さん」
加賀「はい?」
雷「えーっと、もし私達に申し訳ないと思っているなら」
雷「今度、私たちと一緒にスケッチに行くこと、いい?」
加賀「……」
雷「……」
加賀「……そんなことでいいのなら」
雷「やったぁ!」
電「加賀さんと一緒、楽しみです!」
加賀「ふふっ」
鳳翔「よかったですね」
加賀「ええ」
鳳翔「それで、ですね加賀さん」
加賀「? なにかしら」
鳳翔「私のお願いも聞いてくれませんか」
加賀「……ええ、もう何でも聞いてあげるわ。今だったら」
鳳翔「じゃあ――」
…………
96:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:14:52.38 ID:BgcXyfkQ0
夜
食堂
赤城「お弁当を作るんですか?」
加賀「……」
赤城「加賀さんが?」
鳳翔「ええ」ニコニコ
赤城「それは、なんと」
加賀「……なにか言いたいことがありますか?」
赤城「いえいえ」
鳳翔「まあ、私もお手伝いしますので……。あっ、赤城さん、シメにお茶漬けでも作りますか?」
赤城「あ、お願いします」
鳳翔「よかったです。赤城さんに食べてもらえれば残ったご飯全部無くなります」
加賀(明らかにシメのお茶漬けで食べる量じゃない……)
赤城「それで、私も食べられるんですか? 加賀さんのお料理」
加賀「残念ですが、作るのは第六駆逐艦隊のためのお弁当だけですので」
赤城「あらあら、それは残念です」
鳳翔「でも、加賀さん、どういう風の吹き回しですか? 随分快く雷ちゃんたちのお願いも聞いて」
加賀「それは、あの……お詫びですから」
97:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:16:21.92 ID:BgcXyfkQ0
鳳翔「それだけですか……? なにか心境の変化とかあったんじゃないですか?」
加賀「心境の変化……?」
赤城「……」
加賀「……そう、ですね」
加賀「……」
鳳翔「……あー、すみません。私、提督にお夜食を持って行く約束があったので、少し外します」タッタッタ
赤城「……」
加賀「……」
赤城「何かあったんですね」
加賀「……すみません。まだ上手く切り替えが出来てませんでした」
加賀「鳳翔さんにも気を使って貰って、申し訳ないですね」
赤城「……話せますか? 何があったのか」
加賀「……いえ、そんな」
赤城「切り替えが、上手くできていないんですよね。何を、どう切り替えるつもりなんですか?」
加賀「……」
赤城「……別に言いたくないなら仕方がありません」
赤城「でも、言っていただければ……少し軽くなると思いますよ」
加賀「……そう、でしょうか」
赤城「はい」
加賀「……」
98:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:17:45.92 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……昨日の出撃で、ですね。その、何と言いますか」
加賀「私はこれまで『戦うこと』が『生きがい』だと思っていたんです」
加賀「『生きがい』というものがどういうものなのか、なんとなくここの鎮守府の人たちを見て理解したつもりでした」
赤城「……どういうものだと加賀さんは思いますか?」
加賀「……出来なくても生きてはいける、でも出来なくなったら悲しいもの」
加賀「夢中になれるもの。自分自身の拠り所になれるもの。やっている自分が好きになれる、認められるもの……」
加賀「自分が『幸せ』だと感じるもの」
加賀「色々です。『生きがい』にも人それぞれの有り様がありました」
赤城「……そうですね。一概にできるような単純な物じゃないです」
加賀「……私はそれらの『生きがい』が羨ましかったのかもしれません」
加賀「だからこそ、これまでの自分がやってきた『戦うこと』こそが私の『生きがい』だと思った。そう思いたかったんです」
加賀「私にも『生きがい』があるんだと」
加賀「確固たる自分があるんだと」
加賀「思いたかったんです」
99:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:18:54.03 ID:BgcXyfkQ0
加賀「それを確認するために、昨日の出撃で進撃し、能動的に戦いの場へと自分を連れて行ったんです」
加賀「そこで、完璧に戦うことが出来たら……。戦いの中で充実した自分を見つけられたら。戦うことで自分は幸せであると感じられたら」
加賀「『戦うことこそが私の生きがいだ』と、断言できたかもしれません」
赤城「……なるほど」
赤城「逆に、加賀さんにとって『戦うことこそが生きがい』ではなかったということを、確認してしまったんですか」
加賀「……はい」
加賀「……私には『生きがい』なんて無かったんです」
加賀「私には確固たる『私』なんてなかったんです」
加賀「前の鎮守府では『加賀』としての存在でしかなかったから、ただがむしゃらに戦っていました」
加賀「だからでしょう。いつの間にか正規空母の『加賀』の持つ役割が、『私』の『生きがい』だと錯覚していたんです」
赤城「……」
100:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:21:43.67 ID:BgcXyfkQ0
加賀「でも『加賀』は『加賀』です。『私』ではない」
加賀「……私は『私』の生きる意味を見つけたい。そう思ったんです」
赤城「……なるほど」
加賀「ですから、ここで戦い以外の『生きがい』を探そうと、そう思って色々やろうと思ったんです」
赤城「……そう思ったはいいけど、上手くその意識に対応出来ないと。そういうことですか」
加賀「……はい」
加賀「で、でも大丈夫です。今はそれほど時間が無かっただけで、そのうち……この考え方に慣れるものと思いますから」
加賀「心配しないでください……」
赤城「……」
赤城「加賀さん」
加賀「……はい」
赤城「私は『赤城』です。でも、『赤城』の持っている役割を果たすことが出来ません」
加賀「……ですが、赤城さんには確固たる『自分』があります」
101:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:22:26.65 ID:BgcXyfkQ0
赤城「……そうですね。今の私に満足していない、そういうわけではありません。でも」
赤城「加賀さん、私はあなたが羨ましいんです」
加賀「……赤城さん?」
赤城「自分自身の『生きがい』を探すこと、それはいいことです。でもあなたは同時に、『加賀』としての役割をこなすこともできる」
赤城「私のようなものは、どうしても捨てなくちゃならなかった。存在できなかったんです」
赤城「私には『赤城』として生きることは、頑張ってもできなかった。だから、『私』しか存在できなかったんです」
赤城「確固たる『自分』がある、というのも現在だから言えることです」
赤城「『赤城』としての役割をこなせず、同時に『私』すらも手放そうとしていたところを助けて貰ったんです」
赤城「そこで『私』は『私』でしかないと思うしかなかった」
赤城「でも、加賀さん」
加賀「……はい」
赤城「あなたは『加賀』としての存在を捨てる必要なんて無いんですよ」
102:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:23:26.63 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……ですが」
赤城「あなたは『加賀』であり、『加賀さん』であることも出来るんです」
赤城「あなたは『加賀』であることを否定しなくていいんです」
赤城「あなたは『加賀』を否定しなくてはいけないと思っているようですが、そんなことはありません」
赤城「無理してまで『加賀』であることを否定しなくてもいいんです」
赤城「『加賀』として生きてきたんです。それを否定してしまっては、加賀さんのこれまでの人生を否定してしまうことになります」
103:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:24:31.76 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……いいんでしょうか」
加賀「『戦うこと』に生きてきた、空母としての役割を持つ『加賀』も、『私』であると」
加賀「戦いに生きる私も、これから新たな生きがいを探そうとする『私』も」
加賀「全て『私』だと」
加賀「そう思って……そう生きていいんでしょうか」
赤城「……それを決めるのは『あなた自身』です」
加賀「そう、ですね」
赤城「私に加賀さんの生き方を決める権利なんてありませんから」
加賀「……私は、私の生き方を決められるんですね」
104:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:25:07.23 ID:BgcXyfkQ0
赤城「はい……。ここは、そういう生き方が出来る場所です」
赤城「艦娘が、個人としてい生きていくことを推奨しています」
赤城「だからでしょうね。提督は『君たち艦娘に『文化的生活』を送ってもらいたい』と、いつも言うのは」
加賀「……文化的生活」
赤城「はい」
加賀「……艦娘としての『戦い』とは別に、『自分自身』のやりたいことを探す。それを通して『自分』を見つけよ、ということですかね」
赤城「なるほど。加賀さんはそう思いますか」
加賀「……赤城さんは違うんですか?」
赤城「来た当初は、『私が無能だから何かしら取り柄を見つけろ』と暗に言われているのだと思いました」
……
105:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:25:58.03 ID:BgcXyfkQ0
エピローグ
106:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:26:41.97 ID:BgcXyfkQ0
後日
食堂
加賀「ちょっ、ちょっと、提督。何をやっているんですか」
提督「いや、面白いものが見られると赤城から聞いてな」
提督「確かにコレは面白い」
加賀「赤城さん……」
提督「それで、どういう事だい? なんでこんな事に?」
鳳翔「うふふ、雷ちゃんに庇って貰ったお礼に、お弁当を作るんですよ」
提督「へぇ、だから割烹着なんか着てるわけか」
加賀「……あまり、ジロジロ見ないでください。気が散ります」
鳳翔「あらあら、ですって。提督」
提督「あー、もう少しだけ」
鳳翔「もう、仕方ないですね」
加賀「……鳳翔さんが決めないでください」
提督「いやー、でもなんだか感慨深いね」
加賀「……どういうことがかしら?」
提督「ウチに来た当初はもっと眉間に皺寄せて、気難しそうな顔してたのに」
加賀「眉間に皺なんて寄せてません」
提督「今じゃ割烹着着てお弁当作りか……」
加賀「……そうですね。ここに来なければこんな経験する事無かったでしょうね」
提督「……加賀さん」
加賀「何かしら、忙しいのだから手早くお願い」
提督「一枚、撮っていいかな」
加賀「えっ、それは」
鳳翔「どうぞどうぞ♪」
加賀「鳳翔さん!」
パシャッ
107:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:27:22.88 ID:BgcXyfkQ0
加賀「あっ」
提督「ははっ、やっぱりな」
加賀「……なに、なにか言いたいことでも?」
提督「いや」
提督「加賀さんもイイ表情をするようになったな、って」
提督「前に丘で撮った写真はキリッとしててカッコイいけど、俺はいまの写真の方が好きだな」
加賀「……別にどっちでもいいわ」
提督「ねえ、加賀さん」
提督「今の写真の加賀さんと、前の写真の加賀さん。本当の加賀さんはどっちなのかな」
加賀「……はあ」
加賀「何を言っているんですか」
加賀「どちらも、私ですよ」
108:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:29:48.49 ID:BgcXyfkQ0
おしまい
気が向いたらこの鎮守府のお話の番外編でも書きたいと思います。
お目汚し失礼しました。HTML化依頼してきます。
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1468813851/
パシャッ
加賀「……なに?」
男性「いやー、珍しいね。こんな別嬪さんがこんなところに」
加賀「……あなた、民間の方かしら。軍部施設の周辺に近づくのは誉められることじゃないわよ」
男性「え? ああ、大丈夫大丈夫、俺、ちゃんと許可貰ってる人だから」
加賀「許可を貰ってるからって……いえ、もういいわ勝手にして」
男性「……じゃああんたはどうなんだよ」
加賀「私?」
男性「あんたみたいな別嬪さんが軍部施設になんのようなんだ?」
加賀「……私は艦娘よ。今日からここに所属するの」
男性「へぇ、艦娘か。じゃあ、今日からって時に、何でそんな辛気くさい顔してんのよ」
加賀「……来たくなかったのよ、こんな所には」
男性「……へぇ」
加賀「ここの鎮守府は、ロクな戦績も残せないくらい出撃も敵勢力もいないような土地なの。艦娘にとっては左遷よ」
男性「なるほど、俺はいいとこだと思うんだけどね。ここは」
男性「緑も豊かだし、海も穏やかだし、平和だし」
加賀「民間人にとってそうかもしれないけど、艦娘として生きる私にとっては戦わなければ生きる意味すら危うい土地よ」
男性「生きる意味ねぇ」
加賀「ここで意地でも功績を上げて、また前線に戻ってやるのよ。絶対に……」
4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 12:53:44.09 ID:BgcXyfkQ0
男性「……ふぅん」
加賀「……こんなこと、あなたに話す事じゃなかったわね」
男性「いや、いいのいいの。つまり、早くこんな辺鄙な鎮守府から出て行きたいってこったろ?」
加賀「ええそうよ。……一航戦の誇りのために」
男性「……まっ、どんな気持ちにしたって今日が門出だろ。一枚撮ってもいいかい?」
加賀「……別にいいけど、悪用しないでしょうね」
男性「しないしない。じゃあ、海をバックにして撮ろうか、ポーズは何でも構わないから」
加賀「なんでもいいから撮るなら撮りなさい」
男性「……そんな仏頂面でいいの?」
加賀「いつもこんな顔よ」
男性「まぁいいか……」
パシャッ
加賀「満足かしら。じゃあ私は行くから、さようなら」スタスタ
男性「写真はどうする? 鎮守府に届けようか」
加賀「いらないわ」スタスタ…
男性「あっそ」
男性「……なるほどね、あれが加賀か。また厄介そうなのが来たもんだね」
…………
5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 12:54:47.00 ID:BgcXyfkQ0
鎮守府内
大淀「……いつもは普通に執務室にお連れしまして提督にご挨拶と業務連絡を行うのですが」
加賀「……どういうこと?」
大淀「いえ、その、なんと言いますか……」
加賀「歯切れが悪いわね。あなた秘書艦でしょう、もっとしっかりして欲しいのだけれど」
大淀「すみません。……えっと、つまり、ここの鎮守府はたぶんこれまで加賀さんがいらっしゃった鎮守府とかなり……というか全く違うというか」
加賀「鎮守府によって業務形態が異なることなんて承知しているわ」
大淀「いえ、業務形態どころか、その……ここはとにかく特殊でして、全体的に緩い……と言いますか自由といいますか……」
大淀「提督も自由な方でして……たびたびどこかにふらっと消えてしまいまして……。いまもまだ戻られていないのですが」
加賀(前の鎮守府ではここのことを『艦娘の墓場』とか呼んでいたけど、本当に相当酷いみたいね)
大淀「もちろん! お仕事はキチンとする方なんですよ! それは安心してください!」
加賀(ふらっとどこかへ消える人が『お仕事はキチンとする方』なわけがないわ)
加賀「……はあ」
加賀「ねえ、ここは本当に鎮守府として機能しているの?」
大淀「えっ! も、もちろんですよ! すこーし特殊ですが、艦娘の仲もいいですし、提督はお優しい方ですし……」
加賀「私が前にいた鎮守府は艦娘の仲はそれほど良くなかったし、提督も優しくはなかった、けど戦果はここの比にならないくらいあげていたわ」
大淀「ああ、たしか加賀さんの前の所属は前線のエリート鎮守府でしたね……」
加賀「この国のために働いているのだから、仲良くおてて繋いでというのも結構だけれど、戦果をキチンとあげることこそ鎮守府としては重要なことだと思うけれどね」
大淀「……す、すみません」
加賀「いいのよ、私は。どんなに緩くても、ここの提督が私を正当に評価してくれればまた前線へと戻れるのだろうし」
大淀「そ、そうですか」
加賀「……」
大淀「えーと……、あっ、そしたら提督を待つ間に鎮守府の中を案内しますね」
加賀「ええ、このまま待っているのも時間の無駄だし、そうするわ」
6:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 12:55:52.79 ID:BgcXyfkQ0
スタスタ
加賀「……」
大淀「……」
加賀「ねえ」
大淀「は、はい!」
加賀「……歩いていて目にはいるのだけれど、美術品が多くないかしら、ここ」
大淀「あー……、そうかもしれませんね」
加賀「額に入った立派な絵画とか、陶磁器とか……提督の趣味かしら」
大淀「提督の趣味、かもしれませんが……」
加賀「『かも』?」
大淀「提督はここの艦娘全員のことを気遣ってくれていますから、飾っているのでしょう」
加賀「……そう」
加賀(芸術鑑賞でも推進してるのかしら。……平和ボケしてるわね、艦娘も提督も)
スタスタ
大淀「この先にあるのが食堂です。調理場も食堂のものを使ってもかまいませんよ」
……
大淀「あそこが訓練場と、弓道場です。その近くには運動場もあります」
……
大淀「こちらは修理ドッグになります。隣接する大浴場は六時から二十二時までになりますので気をつけてください」
……
大淀「工廠は少し離れたところにありますので、また改めて利用する際に案内しますね」
加賀「……私はとくに工廠へ行く用はないのだけれど」
大淀「あら、そうですか? 結構たくさんの娘が使ってますから、勝手によく使う施設だと思ってしまいました。すみません」
加賀「いいけど」
加賀(工廠をたくさんの娘が使う? 明石とか夕張がたくさんいるのかしら、ここ)
……
大淀「これくらいですね。もっと細かく案内するのはまた時間があるときの方がよさそうですね」
加賀「……」
加賀(まだなにがあるって言うのよ。というか、案内された場所もそこまで重要な場所と感じないのだけれど)
大淀「それでは、提督が戻られたという連絡がありましたので、早速執務室に行きましょう」
7:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 12:56:41.08 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……」
スタスタ…
加賀(ここがどんな場所であろうと提督には好印象を与えないと。とにかく不満は漏らさないように……)
加賀(この鎮守府がどんなに糞でも、それを出してはダメ。提督に気に入られないと……私は一航戦として前線へ舞い戻るのよ)
コンコン
大淀「大淀です。加賀さんを連れてきました」
??「おっ、来たね」ガチャッ
大淀「わっ、提督! なんでそちらから開けるんですか!」
??「いやね、そろそろだと思って扉の前で待ってたんだ」
大淀「ビックリさせないでください! 加賀さんもいるんですから!」
加賀「」
大淀「……加賀さん?」
加賀「……えっ」
男性「ん? ああ、さっきぶりだね加賀さん」
加賀「な、なんで、あなたが……」
提督「私がここの鎮守府を治めています、提督です。どうぞ、今後よろしく」
………
8:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 12:57:32.71 ID:BgcXyfkQ0
執務室
提督「……連絡事項は以上だ。なにか質問はあるか?」
加賀「……なんで、先程は民間人の振りをしていたんでしょうか」
提督「いや、あれは加賀さんが勝手に勘違いしただけでしょ」
加賀「……」
提督「それに、俺はあそこで趣味の写真撮影をするって許可を大淀にとってたし、嘘は吐いてないぞ」
加賀「くっ」
提督「……『提督に悪印象を与えた、もうキャリアアップの道はない』って顔してるね」
加賀「……ええ、あの丘で正直な気持ちを話してしまいましたから」
提督「へっへっへっ、まあそうだよな」
大淀「て、提督、そんな意地悪やめてください」コソコソ
提督「おっと失礼」
提督「まあ加賀さん、実際は正直に話してくれて嬉しかったし、それで加賀さんに悪い印象を抱いたとかはないから安心してよ」
加賀「……」
提督「まったく信用してない顔だな」
加賀「……前の鎮守府でも、正直な意見をそこの提督に述べました。その結果、いまここにいます」
提督「なるほどね」
提督「なんだっけ、加賀さんは『戦いこそが艦娘の生きる意味』って考えてるんだよね」
加賀「はい。私たちは深海棲艦と戦うために生まれた兵器です。戦うことこそが生きる意味であり、義務であると考えています」
提督「……そうか」
大淀「……」
9:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:00:04.25 ID:BgcXyfkQ0
提督「まあ、その考えも否定はしないよ俺は。軍人としては正しいとも思う」
提督「でも、俺はここで、ここの鎮守府で一つの方針を持って運営させてもらってる」
提督「君たち艦娘に『文化的生活』を送ってもらいたい、ということだ」
加賀「文化的生活?」
提督「ああ。君は先程自分のことを『兵器』だと言ったけどね、俺は君たちを俺と同じ『人間』だと思ってる」
加賀「……」
提督「艦娘だって色々なことを感じて、考えて、発信する力を持っているんだ。なのに戦いだけに明け暮れてしまうというのは勿体ないと思う」
加賀「……ですが、私たちが戦わなければだれが戦うというんですか? それでは人間は深海棲艦に侵略されてしまいますよね。人間では深海棲艦に太刀打ちできない、だからこそ艦娘は戦わなければならない」
提督「もちろんそうだな」
提督「だが俺は艦娘にも、戦い以外にも生きがいを探して欲しいと考えている。そんな『戦うことこそが生きる意味』というのは、人間として悲しすぎる」
加賀「ですから、そんな甘い考えでは人間は滅びてしまうと言っているのです」
提督「それはそうだ。だから、戦うことは俺以外に任せるって言ってんだ」
加賀「……ふざけてるんですか?」
10:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:01:02.81 ID:BgcXyfkQ0
提督「いや」
提督「君が前にいた鎮守府を筆頭に、全国には深海棲艦を殲滅してやろうと躍起になっている鎮守府なんてごまんとある。だから無理して戦う仕事はそっちに任せちまう」
提督「ここの鎮守府の仕事は国を守ることじゃない。深海棲艦を滅ぼすことでもない。ただ、ここの鎮守府を守ることだけだ」
加賀「そんなの……軍としてあるまじき」
提督「だが、ここがあるおかげでここら一帯の地域は深海棲艦の脅威から守られていることになっている。だからこそ軍はここを手放さない」
提督「それに、もともとそこまで敵が多い地域でもない、だから俺は望んでここに来た。そしてここに来た艦娘の事だけを考えてる」
加賀「そんな姿勢、軍人として恥ずかしくないの?」
提督「恥ずかしくないさ。少し前までに別の場所でもう嫌と言うほど戦ったからな、いまは好きなことやらせてもらう」
提督「それに、この世の全ての艦娘を導こうなんざ考えてないさ。俺一人にそんな力はないよ」
提督「俺の手が届くだけ、この鎮守府だけ、俺は艦娘たちに戦い以外の生きがいを見つけてもらおうとしてる」
加賀「国費を犠牲にしたエゴだわそんなの、許されることじゃない」
提督「国費は国民に使うべきだろう? 俺にとっては艦娘だって国民だ」
加賀「……なるほど。だから、ここは『艦娘の墓場』なのね」
加賀「ここは戦いから逃げた、腑抜けた艦娘にお似合いの場所だわ」
大淀「加賀さんっ!!」バンッ!
提督「大淀」
大淀「っ!! ……失礼、いたしました」
提督「すまんね。加賀さん」
加賀「……いえ、私も口が過ぎました」
11:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:02:47.04 ID:BgcXyfkQ0
加賀「でも、私はここにいるべき艦娘ではない、それはわかったでしょう」
提督「ああ、そうかもしれない。だが君は現在、一年間はこの鎮守府に所属することになっている」
提督「だから一年、いや半年でもいい、実際にここにいてくれないか。それでも君の意志がいまと変わらない物だったら、その時は俺が大本営へと推薦状を書こう」
加賀「……そんなこといいのかしら」
提督「それなりに上へは顔が利く。君を再び前線へと戻れるようにしよう」
加賀「……わかったわ」
提督「よし」
加賀「でも、私がここにいる限り深海棲艦との戦いに手を抜くつもりはないから」
提督「……了解した」
提督「だが、加賀さん」
加賀「……何かしら」
提督「この鎮守府にいる限り、君もなにか戦い以外に『やりたいこと』を見つけるようにしてくれ。意識するだけでもいい」
提督「戦うためだけに生まれたなんてこと、言うな」
加賀「……善処するわ」
………
12:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:05:12.67 ID:BgcXyfkQ0
加賀「失礼します」
提督「ああ。そうだ、加賀さんの部屋まで案内しよう」
加賀「別にそんな――」
ガチャッ
パシャッ
加賀「きゃっ」
青葉「どうもー!」
提督「おお、青葉か」
青葉「新しい方が来たとのことでしたので、これは激写するしかないと思いましてね」パシャッパシャッ
加賀「な、なに。なんですか!?」
提督「青葉、加賀が困ってるぞ」
青葉「あっ、ごめんなさい。ちょっとふざけようと思っただけですので」ペコリ
提督「それにな青葉、もう俺がちゃーんと加賀さんの写真は撮ったから大丈夫だ」
青葉「えーっ、どこでですか!? ていうかどのタイミングで!?」
提督「加賀さんがここにくる前に、裏の丘のところで」
青葉「おー! いいロケーションじゃないですか! あとで見せてくださいね!」
提督「もちろんだ」
青葉「楽しみにしてますからねー。あっそうそう、はい提督、この前の写真現像したの持ってきましたよ」スッ
提督「ああ、いつもありがとうな」
青葉「いえいえ。それでは用もすみましたので、青葉失礼します」ビシッ
青葉「あっ、加賀さん、これからよろしくお願いしますね、あと先ほどは失礼いたしました」
加賀「え、ええ」
青葉「それでは!」タッタッタッタ…
……
13:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:06:06.45 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……なんだか台風みたいね」
提督「ああ、青葉な。アイツは元気だからな。いつもあっちこっち走り回って写真撮ってるんだ」
加賀「……そう」
提督「もともと俺も趣味でカメラいじってたけど、少し青葉に勧めてみたら俺よりハマりやがった」
加賀「……」
提督「ここでの行事の写真撮ったりもしてくれるけど、風景写真とかも上手でな」
提督「ふと『撮りたいっ!』って思って撮ったらしい風景写真とか……あっほら、この写真だ」
加賀「……この写真」
加賀(廊下に飾ってある写真はあの娘が撮った物だったのね……)
提督「これ、新聞社の写真コンテストに初めて出して銀賞とってよ、新聞にも小さくだけど載ったんだぜ」
加賀「……そう。別に興味ないわ」スタスタ
提督「そっか、あっじゃあこれはどうだ」スタスタ
加賀「……これ?」
提督「ああ、この絵、まるで売り物みたいだろ」
加賀「そう、ね」
加賀(高価な絵画かと思ってたのだけれど)
提督「これは駆逐艦の時雨が描いたんだ。執務室から見た海らしい」
加賀「これは、たしかに見事ね」
提督「さっき青葉に貰った写真な。先月、この絵の授賞式に出席した時のなんだ」
提督「時雨と俺と記録係の青葉とで行って、久々に晴れ着着てさ。時雨と青葉も綺麗なドレス着てな」
提督「時雨もなんか偉い美術家の人と話したりしてて、俺なんか蚊帳の外よ」
加賀「へぇ……」
提督「時雨は結構絵画コンテストの常連だったりするから、色々注目されてるらしい」
加賀「……それで、その時雨の練度はいくつなのかしら?」
提督「……絵の練度は155だ」
加賀「戦力としては?」
提督「……この間やっと20になったくらい」
……
14:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:07:11.64 ID:BgcXyfkQ0
スタスタ
加賀「確かにすごいと思うわ。私には出来ないことをしていると思う」
加賀「でも、私の物差しは戦うことなの。戦力として使い物にならなければ、艦娘としては必要ないわ」
提督「……手厳しいね、加賀さんは」
加賀「先ほどから思ってはいたけど、ここは出撃はちゃんとしているの? 遠征は?」
提督「最低限はしてるね。加賀さんには耐えられないかもしれないけど」
加賀「そう、しているという事実があるならいいわ」
提督「加賀さん、絵とか興味ある?」
加賀「あると思うの?」
提督「さあ、それはやってみなくちゃ分からないだろ」
加賀「はあ……。ないわよ、全然」
加賀「見るのは楽だけど、描きたいとは毛ほどにも思いません」
提督「残念、まあそんな簡単に生きがいが見つかるとは俺も思ってはいないけどね」
加賀「何のために生きるか、なんてあなたに決められたくないわ」
提督「俺は決めないさ。決められるように選択肢を増やしてやるのが俺の仕事」
加賀「……そう」
提督「あれ、『あなたの仕事は戦う事でしょ』とか言わないのか」
加賀「……そういうことは思っても口に出さないものよ
提督「おっと、すまない」
提督「っと、加賀。ここがお前の部屋だ」
加賀「案内、ありがとうございました」
提督「ここら一角は正規空母の部屋がだから、もし分からないことでもあればお隣さんにでもきいてくれ。それがダメなら俺とか大淀にきけ」
加賀「はい」
提督「あと、仕事してるとき以外は基本的に自由時間だから、謀反以外なら鎮守府で何してもいいからな」
加賀「はい」
提督「それじゃあ」
加賀「……提督」
提督「ん?」
加賀「半年間、よろしくお願いします」
提督「……ああ、これからよろしく」
15:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:07:55.12 ID:BgcXyfkQ0
賀の自室
加賀「……はあ」
加賀「……一人一部屋なのね」
加賀(前の鎮守府じゃ他の艦娘と相部屋だったわよね、たぶん。誰と一緒だったかは覚えてないけれど)
ポスッ
加賀「ベッドにただただ寝転がるなんて、久々な気がする……」
加賀(部屋なんて出撃と入渠の合間に使った覚えしかないわ……)
加賀「部屋というより、ただ睡眠をとる場所でしかなかったわね」
加賀「……こんな広い部屋を貰っても、どう使えばいいかも分からないわ……」
加賀「……生きがい、ってやつに使えばいいのかしら」
加賀「……」
加賀「艦載機でも置けばいいのかしら」
加賀「……」
加賀「……馬鹿らしい」
コンコンッ
加賀「誰?」
16:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:08:47.81 ID:BgcXyfkQ0
??「あ、あの! 隣の部屋の翔鶴です! 挨拶をと思いまして」
加賀「……ふぅ」
ガチャッ
翔鶴「あっ、始めまして。同じ正規空母……ですよね? 翔鶴型一番艦の翔鶴と申します。こんな所なので色々慣れないことも多くなると思いますが、分からないことがあればなんでも聞いてください!」
加賀「……加賀型一番艦の加賀よ。よろしく」
翔鶴「……」
加賀「……」
翔鶴「……えっと」
加賀「別に無理して話題を探さなくてもいいのよ」
翔鶴「そ、そんな! その、私、加賀さんとお話ししてみたいと思っていたんです!」
加賀「……はあ。それで、何を話すの」
翔鶴「えっと……あの、あっ!」
翔鶴「か、加賀さんは、甘い物は好きですか?」
加賀「ええ、嫌いではないわ」
翔鶴「よかった!」ニコ-!
翔鶴「私、お菓子づくりが好きで……これ、パウンドケーキ作ったんです! お近づきの印にどうぞ!」ニコニコ
加賀「えっ、ええ、ありがとう……。これ一個丸々……頂いていいのかしら」
翔鶴「もちろんです! 加賀さんのために作ったんですから!」
加賀(一人で食べるには多いわね……)
翔鶴「あっ、もしよろしければ今度感想を教えてくれれば嬉しいです! まだまだ修行中ですので!」
加賀「……」
加賀「ねえ、私も一つ聞きたいのだけれど」
翔鶴「? はい」
17:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:09:14.64 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……その、お菓子づくりは、あなたにとっての生きがいなのかしら」
翔鶴「えっ。んーっと、そうですね……生きがい、とまで言うのはオーバーかも知れないのですが……」
翔鶴「……でも、きっと、お菓子づくりが出来なくなったら、すごく悲しいかなと思いますね」
加賀「……そう」
翔鶴「えっと、今のでちゃんと答えになりましたか?」
加賀「ええ、十分よ」
翔鶴「ふぅ、よかった」
加賀「あと、もう一つ聞きたいのだけれど。その、赤城はこの鎮守府にいるかしら」
翔鶴「赤城さんですか? ええ、いらっしゃいますよ。お部屋はここの斜め向かいの所にありますけど」
翔鶴「いまでしたらたぶん、弓道場にいらっしゃるかと」
加賀「……そう。ありがとうね。翔鶴」
翔鶴「いえいえ」
加賀「今日からよろしく。あと、ケーキごちそうさま」
翔鶴「はい! それでは」
バタンッ
加賀「……」
加賀「何もないところからパウンドケーキが生まれたわ……」
加賀「……弓道場、行ってみましょう」
加賀(赤城さん。『ここの赤城さん』はどんな方なんでしょう)
…………
18:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:10:05.23 ID:BgcXyfkQ0
弓道場
キ-…ヒュッ パンッ!
赤城「……」
スッ
赤城「……ふぅ」
赤城「あら?」
加賀「……赤城さん」
赤城「あなたが今日着任した加賀さんね。提督から話は聞いてるわ」
加賀「はい。前線の鎮守府から転任しました」
赤城「よろしくお願いしますね、加賀さん」ニコッ
加賀「こたらこそ、よろしくお願いします」ペコリ
赤城「どうですか? この鎮守府は、面白い所でしょう? ふふっ」
加賀「……ええ、これまでの経験も殆ど役に立たなそうです」
赤城「そうですか。……ところで」クンクン
赤城「翔鶴さんのケーキですかぁ……美味しいんですよねぇ」
加賀「……食べますか?」
赤城「あらあら、なんだか催促してしまったみたいですみません」
加賀(してると思うのですが)
赤城「……私の部屋で食べましょうか。金剛さんから頂いた美味しい紅茶もありますし」
赤城「そこでお話、しましょう」ニコッ
加賀「……はい」
赤城「少し待っててください。着替えてきます」テクテクテク
加賀「……どこでもあまり変わらないわね。赤城さんは」
加賀「食いしん坊な所は」
…………
19:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:10:46.38 ID:BgcXyfkQ0
赤城の自室
パクッ モキュモキュ ゴクン
赤城「ふわぁ……、やっぱり練習後の甘い物は格別ですねぇ!」ピカー!
加賀「赤城さんが輝いている……」
赤城「それも翔鶴さんお手製が味わえるなんて、幸運ですぅ」モキュモキュ
加賀「……確かに美味しいですね。気分が高揚するのも頷けます」
赤城「そうですねぇ」モムモム ピカーッ
加賀「バナナの風味とクルミの食感……と、この香りは僅かにシナモンでしょうか」
赤城「おいひいですねぇ」モムモム
加賀「紅茶も、美味しいです」
赤城「おいしいケーキにおいしい紅茶……犯罪的です」
加賀「……ふぅ」ピカーッ
赤城「うふふ、加賀さんも食べることが好きなんですねぇ」
加賀「そうですね……補給は大切ですから」
赤城「こんな補給だったら私、いつでも大歓迎ですよ。加賀さん!」
加賀「え、ええ、そうですね」
加賀(「また貰ったら一緒に食べましょう!」という目だわ。明らかな要求と欲望の目……)
20:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:11:19.52 ID:BgcXyfkQ0
赤城「ふぅ……。それで、加賀さんは何が聞きたいんですか?」
加賀「え?」
赤城「着任してすぐに、わざわざ弓道場にまで来て……それこそ翔鶴さんにでも聞いたんですよね。私ならあそこにいるって」
加賀「……はい」
赤城「あんまり弓道場なんて使う艦娘はいませんからね」
加賀「えっと、他の空母の方は使わないんですか?」
赤城「空母の発艦訓練は大体訓練場か、演習場を使いますよ」
加賀「へぇ、そうなんで……」チラッ
加賀「……」
加賀「ああ……なるほど」
赤城「あら、わかりましたか?」
赤城「こほん」
赤城「えー、あちらに見えますのは『全日本弓道大会』成人の部、三位入賞の賞状でございます」
加賀「……」
赤城「えー、窓際に見えますのは『元日、近所の神社で流鏑馬の騎手を勤めた際に提督と撮った写真』でございます」
赤城「そしてあちらが……」
加賀「弓道、ですか」
赤城「……何がです?」
加賀「赤城さんは」
赤城「私は弓道じゃないですよ。赤城さんですよ?」
加賀「……」
赤城「……冗談ですよ?」
21:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:11:55.09 ID:BgcXyfkQ0
加賀「それで、赤城さんは弓道が『生きがい』なのかしら」
赤城「うーん、そうですねぇ。生きがい、というのも少し仰々しいですねぇ」
加賀「……でも、それは戦うことよりも大切なんですよね。その、赤城さんにとって」
赤城「そう、ですねぇ……」
赤城「……加賀さんは、何が大切なの?」
加賀「私は、ただ戦うだけです」
赤城「そう」ニコッ
赤城「……」
加賀「……」
赤城「……」
加賀「……あの」
赤城「私もね、加賀さんとたぶん同じ。他の鎮守府からここへ来て、当時は戦うことこそ全てだと思っていました」
赤城「艦娘は、戦いにこそ己あり。ってところですかね」
加賀「私と同じ、です」
赤城「ええ」ニコッ
赤城「でも、ここに……この鎮守府に来た理由はきっと、加賀さんとは違います」
加賀「それは、どういういことですか」
赤城「ふふっ……」
赤城「……不良品なんですよ、私」
22:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:12:41.18 ID:BgcXyfkQ0
加賀「そんな……。赤城さんは、私なんかよりも」
赤城「……それは、前の鎮守府にいた赤城さんですよね?」
加賀「それ、は」
赤城「加賀さん、これだけは覚えておいてください」
赤城「艦娘も十人十色、いろいろな方がいるんです。それは艦種だけではなく個性という部分で、ね」
加賀「……」
赤城「私は、確かに戦うことに存在意義を見いだしていました。ですが、それは理想、戦いたくても戦えない艦娘なんです。私」
加賀「意味がわかりません。私達には戦う術が備わっています。それに軍が兵器である私たちを使わないはずがない。そうですよね?」
加賀「弓道で、これだけ力が発揮できるんです。そんな、赤城さん……いえ、あなたが、戦えないなんて」
赤城「……私は攻撃することができないんです。敵に」
加賀「そんな」
赤城「いえ、それでは語弊がありますね」
赤城「生き物に攻撃することが、恐ろしいんです」
加賀「深海棲艦は敵です。それに、アレを生き物と言えるかどうか」
赤城「信じられないと思います」
赤城「でも、生まれてからずっとです。生き物と認識してしまうと、もう……」
赤城「手も足も……震えてしまって、頭も真っ白になって……。全く動けなくなってしまうんです」
加賀「それでは、あなたは本当に」
赤城「役立たず、ですよ」
23:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:13:26.79 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……」
赤城「……戦いこそ己の存在意義。なのに、戦うことができない。できることは一部の遠征のみです。こんな不良債権、置きたい鎮守府なんてありません」
加賀「……解体とか、考えなかったんですか?」
赤城「ふふっ、やっぱり加賀さんと私、考え方が似てるのかもしれませんね」
赤城「左遷されたとき、『なんでこんな自分を解体しないのか』『早く解体して欲しい』……そう思っていました」
赤城「戦いを求める心と、戦えない体……もうそのズレで、私の精神は参っていたんです」
加賀「では、今のあなたがあるのは……」
加賀「提督、ですか」
赤城「……はい」ニコッ
赤城「提督は、私のこの『ズレ』を個性だと仰ってくれました」
赤城「そして、どんなことがあろうと私を解体しないと」
赤城「……それに」チラッ
加賀「なるほど……それで弓道ですか」
赤城「はい」
赤城「あの方は、精神的にボロボロで、無気力だった私のために尽くしてくれました」
24:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:14:31.15 ID:BgcXyfkQ0
…………
提督『赤城、芸術系はどうだ!? なんだか惹かれるものなんか感じないか?』
赤城『……』
…
提督『そしたらゲームはどうだ! これだったら擬似的に戦うことだって』
赤城『……ごめんなさい』
提督『そっ、かぁ……まぁ、気長に探そう! お前の好きなこと』
赤城『……提督』
…
提督『赤城! スポーツだ! お前は運動神経はいいんだからスポーツだったらできるかもしれない!!』
赤城『スポーツ、ですか……?』
提督『おっ、良い反応だな。種類も沢山あるし、赤城がハマるのもあるかもしれない』
赤城『そう、でしょうか……』
提督『とりあえずやれるものからやっていこう。琴線に触れなくても、やってみることは無駄なことじゃない』
赤城『……はい』
…
赤城『てい、とく……』
提督『……凄いじゃないか、赤城』
赤城『これが、弓道ですか……』
提督『どうだ?』
赤城『わかり、ません』
赤城『でも……なんだかいい感じです』
提督『そうか……。よし! 鎮守府に弓道場を造るか』
赤城『えっ! そんな、私なんかのために。というか、まだ続けたいと思ったわけでは……』
提督『じゃあ、他のものにチャレンジすればいい。だが、弓道場は建てる』
赤城『えっ、ええっ!』
提督『これから来る娘の中にも弓道が好きな娘がいるかもしれないだろ。先行投資だよ先行投資!』
赤城『そ、それって……その弓道場って! 私も使っていいんですよね!?』
提督『ふぅん』ニヤニヤ
提督『ふっ、もちろんだよ』
赤城『……やった』
…………
25:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:16:07.47 ID:BgcXyfkQ0
赤城「弓道をやっている自分と、そんな私を楽しそうに見ている提督と……。なんだか不思議な、でも心地良い時間でした」
赤城「それにあれからずっと私は、弓道という拠り所を見つけてから生きるのが楽しいんです」
加賀「……そういう物なのでしょうか」
赤城「それは、分からない」
加賀「……」
赤城「でも私は、弓道をしている時間が好き、弓道をしているときの自分も好き、それに弓道に出会ってからの自分が好き……」
赤城「何もできないボンクラの人生を、かけがえのないものにしてくれたのは弓道と、提督なの」
加賀「……羨ましい、かもしれません」
赤城「そう?」
加賀「はい……。でも、今の私は『戦い』こそが生きがいです。その気持ちは今でも変わりません」
赤城「……ふふっ」
赤城「良いと思うわ。それでも」
赤城「だって、それは加賀さんだけの物だもの」
加賀「あの、あなたが当初持っていた『戦い』への気持ちは、どうなったのでしょうか」
赤城「んー……そうですねぇ」
加賀「……捨てる、のですか?」
赤城「……そんなことはないわ」
26:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:17:03.50 ID:BgcXyfkQ0
赤城「私だって、弓道の大会に出たいと思ったし、他の人と競いたいとも思った」
赤城「負けたくないとも思ったし、……三位で終わってしまった時は悔しいとも思ったわ」
赤城「私は『戦い』を諦めるつもりもない、その志を捨てるつもりも」
赤城「ただ『戦い』が生きる意味とは思わない」
赤城「私にとって弓道と生きる中で『戦い』があるの」
加賀「弓道と生きる中での『戦い』、ですか」
赤城「他者との戦い、自分との戦い……私は負けたくないわ」
赤城「私は、理想を抱きながらも海で戦えなかった自分に、負けない生き方をしたい」
赤城「私がどんなに艦娘として出来損ないでも、何もできない過去の自分よりも、人間として誇りを持った生き方をしていきたい」
赤城「そう、思っているわ」
加賀「……」
赤城「……ごめんなさいね。なんだか、熱くなってしまって……」
加賀「いえ……」
加賀「個人的には、あなたは良い生き方をしている、と思います」
赤城「な、なんだか恥ずかしいですけど……あ、ありがとうございます、加賀さん」
加賀「やはり、どんなに違っていても……赤城さんは、赤城さんです」
加賀「……前の鎮守府の赤城さんは、私より練度も高かったのですが」
赤城「あ、あはは……それは、許してくださいよ。加賀さん」
27:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:17:39.16 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……そろそろ部屋に戻って休むわ。貴重なお話、ありがとうございます」
赤城「いえ、いいんですよ。またいつでも来てください。部屋か弓道場にいつもいますから……えっと遠征中以外」
加賀「……ふふっ、わかりました。赤城さん」
赤城「ああっ、老婆心ながら一言アドバイスを」
加賀「はい?」
赤城「……無理して見つけなくてもいいんですよ。『戦い』が生きがいでも、それは加賀さんが決めることです。私や提督が決めることではありません」
赤城「たとえあなたがこの鎮守府を去ってしまうことになったとしても、それが間違っているわけではありません」
赤城「加賀さんは私とは違うんですから。……ここでしか生きていけない訳ではないんです」
赤城「あなたは私の生き方を羨ましいと言ってくれましたが、過去の私にとっては加賀さんのほうが羨ましかったと思います」
赤城「私は、加賀さんが納得できる選択ができることを願ってます……」ペコッ
加賀「……ありがとうございます、赤城さん」
ガチャ…
バタン
赤城「私ことを羨ましいって……」
赤城「加賀さん、あなたは……」
…………
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28:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:18:16.83 ID:BgcXyfkQ0
加賀の自室
加賀「赤城さん……。赤城さんに頼ってよかった。やはり、彼女はいつも的確なアドバイスをくれる」
加賀「……いえ、いくら同じ『赤城』でも、重ねてしまうのは良くないわ」
加賀「ここの赤城さんも優しくてよかった」
ポスッ
加賀「……ベッド、やけに柔らかい気がする」
加賀(なんでかしら。ベッドの感触なんて、これまで一度も考えたことなんてなかったのに……)
加賀「何か、変わっているのかしら。私も」
……
赤城『……無理して見つけなくてもいいんですよ。『戦い』が生きがいでも、それは加賀さんが決めることです。私や提督が決めることではありません』
赤城『私は、加賀さんが納得できる選択ができることを願ってます……』
……
加賀「……私は、艦娘です。艦娘は、戦うために生まれた。それは覆しがたい事実であり、義務なんです」ボソッ
加賀「……今日は色々なことがありすぎたわ……少し、休んで……ふわぁ」
加賀「……スー…スー…」
29:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:18:46.49 ID:BgcXyfkQ0
…………
次の日
大淀「昨日は案内できませんでしたが、ここが談話室になります」
加賀「談話室……一体、何のための場所なの?」
大淀「あれ? 他の鎮守府にはないんですか?」
加賀「たぶん。前の鎮守府には無かったか、ほとんど利用されなかったか、どちらかね」
大淀「へぇ、そうなんですか……。いい部屋だと思うんですけど」
加賀「それで、何をする場所なの?」
大淀「あっ、失礼しました」
大淀「そうですね、具体的な用途は説明し辛いのですが……あっ」
龍驤「おー、大淀さんに……えっと、だれや?」
大淀「昨日来た加賀さんです」
龍驤「ほー、加賀やんかー……。またけったいな体つきしてんなぁ」
加賀「けったい?」
龍驤「あーええのええの、気にせんといて」テクテク
龍驤「あっ、大淀さん、テレビみてもええ?」
大淀「大丈夫ですよ」
龍驤「ほな、遠慮なく」ピッ
大淀「龍驤さん、いま加賀さんに談話室の説明をしていたんですけど、その、なんて説明すれば良いか分からなくて……」
龍驤「えっ、あー、そなんや」
龍驤「えーっと、加賀やん。談話室っちゅーのは、謀反以外ならなんでもしてもええっちゅー部屋や」
龍驤「これで分かるやろ」
大淀「少し大雑把過ぎると思いますが」
30:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:19:33.83 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……昨日、提督も同じことを言ってたわ。『謀反以外なら~』と」
龍驤「あら、ウチが提督のネタパクったのバレてしもた」
大淀「まあ、えーっと、複数人でお話ししたり、テレビを見たりする場所、という認識でいいですかね」
加賀「……いつも誰かがいる場所って事ね」
大淀「まあ、そうですね。特にする事のない方は大体ここにいるという感じです」
加賀(いつも誰かが暇している鎮守府というのもどうかと思うけどね)
龍驤「そんな難しい顔すなや」
加賀「……えっ?」
龍驤「この鎮守府はよくも悪くも特殊や。それに艦娘同士のつながりも強い、って趣味仲間みたいなものも多いけどな」
龍驤「そういうのの交流の場としてここがあるんよ」
大淀「……確かに、そうですね」
龍驤「ここで『ああ、あいつあんな趣味があるんやなー』とか『あいつら仲ええんやー』とか、発見もあってつながりも増えてくって感じやな」
加賀「……作戦会議とかにも使うのかしら」
龍驤「ぷっ、加賀やん真面目すぎ」
龍驤「そんなん会議室でも使ったらええて。ここでの会話なんて世間話みたいなもんばっかや」
龍驤「……ま、そういう話をする人がおってもええと思うで。なに話してもええんやからな」
加賀「……そう」
龍驤「……ここでみーんなが仲良くする姿を見るのが、うちの生きがいや」
加賀「……」
31:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:20:49.65 ID:BgcXyfkQ0
大淀「確かに、龍驤さんは大体ここにいらっしゃいますね。いっそのこと談話室の責任者になるのはどうでしょう」
龍驤「アホ。こういうのは責任が伴わないのがええんや」
大淀「はあ、そういうものですか」
龍驤「そういうもんや」
龍驤「うちはみんなと同じ目線で、みんなと一緒に楽しみたいんや」
加賀「……龍驤、あなたは艦娘として何をしているの?」
龍驤「おっ? なんやなんや、喧嘩腰やなぁ」
加賀「艦娘なのに平和ボケして、本分を忘れているわけではないわよね」
龍驤「平和ボケって……随分な言い草やな」
加賀「でもそうでしょう? あなたは何のために存在しているというの? 私から見ると、ろくな生きがいもなくフラフラと無責任な生活を送っているように見えるのだけれど」
龍驤「うっ……本当のことやから言い返せへん」
加賀「赤城さんは生きがいを見つけて、今も自分を高め続けているわ」
加賀「あのような方のためこの鎮守府があるのだと、思っていたのだけれど」
龍驤「まー、せやな」
加賀「……ねえ、あなたは何をしているの?」
龍驤「……」
大淀「オロオロ」
大淀「あ、あの」オロオロ
大淀「か、加賀さん」ヒソヒソ
32:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:21:39.52 ID:BgcXyfkQ0
加賀「何かしら、私はいま龍驤と」
大淀「その、龍驤さんはなんですけど……」ヒソヒソ
加賀「ただの惰性で鎮守府にいるとしか思えないわ」
大淀「あの、何もしていないわけではなくてですね」ヒソヒソ
加賀「……はっきり言ったらどうなの?」
大淀「す、すみません……。それで加賀さん、龍驤さんはですね」ヒソヒソ
加賀「ええ」
大淀「提督と一緒に、一からこの鎮守府を支えてくれている方なんです」ヒソヒソ
大淀「それに他の鎮守府から艦娘をスカウトしているのも、主に龍驤さんです」
加賀「なるほど、つまり」
加賀「えっ」ピタッ
大淀「この鎮守府の艦娘事情が成り立っているのは龍驤さんのお力も大きいんです」ヒソヒソ
龍驤「……あー、なんか水戸黄門が正体を明かした時みたいやな、たははは……」
加賀「……えっと」
龍驤「はは……はぁ」
龍驤「まあ、そういうこっちゃ、加賀やん」
龍驤「加賀やんの言うとこの、ウチの『生きがい』っちゅーのは、まあ赤城みたいなどーしよもなくなってしもた艦娘をここに連れてきてやることかな」
加賀「そ、そう……」
33:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:22:42.42 ID:BgcXyfkQ0
龍驤「どや、加賀やんの思う生きがいとして立派なもんやろ?」
加賀「……ええ。うん……十分」
加賀「ごめんなさい。何も聞かずに責めてしまって」
龍驤「あー、ええんやええんや。ウチかて加賀やんと同じ艦娘や。そんな畏まらんといてぇな」
加賀「……そうね」
龍驤「切り替えはやっ!」
龍驤「もうちょい遠慮とかあってもええと思うんやけどなぁ」ボソボソ
加賀「ねえ、龍驤」
龍驤「あん? なんや?」
加賀「私は、『戦い』こそが艦娘の存在意義だと思っているわ。それに対して、あなたはどう思うかしら」
龍驤「知るかっ!」
加賀「えっ」
龍驤「そんな存在意義とか、そんなん個人の勝手や。ウチが口出しすることやない」
龍驤「別に『戦い』こそが生きがいでも、それはええと思うわ」
加賀「そう、ですか」
龍驤「……でも、一つ言っとくけどな。ウチ自身はそんなこと全く思ってへんよ」
龍驤「艦娘だって、やりたいことをやってええと思う。まあウチらの場合は最初っからやらなあかん仕事は決まってるけどな」
龍驤「それでも人間と同じ。仕事とプライベートは分けたらええんや」
龍驤「仕事人間なんて性に合わへんから、ウチはプライベートの方を大切にしとる。それだけ」
加賀「なるほど、私の考えには否定的なのね」
龍驤「加賀やんを否定するわけやないで。ウチの信条が加賀やんの考えと逆ってだけや」
34:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:23:12.52 ID:BgcXyfkQ0
加賀「龍驤、あなたはハッキリしてるのね」
龍驤「……別に、アホやから深く考えられないだけや」
龍驤「うちの考え方って、艦娘として生まれた時から変わってたみたいで」
龍驤「いつの間にか他の艦娘からハブにされてたところを、提督に引っ張り出されただけや」
龍驤「一から支えたいうても、ウチはただ最初からここにいたってだけ……」
加賀「そうかもしれないわね」
龍驤「慰めるくらいしてや、加賀やん」
加賀「ただ、あなたみたいに考え方が良くも悪くもブレないのは、いいと思うわ」
龍驤「……そうかな」
加賀「ええ」
龍驤「……って、なに新入りに励まされてんねん!!」
大淀「龍驤さん!?」
龍驤「なんか知らんけど腹立ってきたわ。ほれ、シッシッシ、これからウチのプライベートタイムや、邪魔せんといて」
大淀「えっと、行きましょうか、加賀さん」
加賀「ええ」
龍驤「あっ、加賀やん!」
加賀「……なにかしら」
龍驤「あんたのその仏頂面、この鎮守府にいる間に治るとええなぁ!」
加賀「……余計なお世話」
龍驤「アホ! ここはそんな余計なお世話でできてる鎮守府や! 逃げられると思わんようにな」
加賀「……ふふ」
大淀「ふふっ」ニコッ
龍驤「せいぜい楽しむことやな、ここの生活を」
加賀「……そうね」
…………
35:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:23:52.72 ID:BgcXyfkQ0
…………
数ヶ月後
加賀「……提督、今度の出撃の事ですけど」
提督「ん? ああ」
加賀「ここの方針として、出撃の目的は迎撃が主になっています」
加賀「しかし、それではキリがありません。少し無理をしてでも先に進めた方が」
提督「……」
加賀「? 提督?」
提督「……いや、ここに来てからしばらく経つけど、加賀さんは変わんないねぇ」
加賀「……そうかしら、それなりにここの鎮守府にも慣れたと思うのだけど」
提督「数ヶ月間、毎度毎度出撃について話をしてくる艦娘なんて、ここじゃ加賀さんだけだしなぁ」
加賀「ここの鎮守府が異常なのよ」
加賀「それに、私にとって出撃し、敵を倒すことが生きがいだから」
提督「……そう言って、他の何にもチャレンジしないじゃない」
加賀「疑いない生きがいが『戦う』ということなの」
提督「……ふぅん」
36:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:24:21.33 ID:BgcXyfkQ0
加賀(私は、逃げたのかもしれない)
加賀(自分が変わってしまう可能性から)
加賀(新たな生きがいを見つけることから)
加賀(何も考えずに戦ってさえいれば、私は前にいた前線の鎮守府へ戻れる)
加賀(あそこへ戻れば再び自分は戦うことこそが必要になる)
加賀(私を私たらしめるのは『戦うこと』)
加賀(戦い、戦果を挙げることが私の生きがいなのだ)
加賀(私の中心は戦うことでなくてはならない)
加賀(そうしないと、私は変わらなくてはいけなくなる)
加賀(変わることは、怖い)
…………
38:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:39:43.11 ID:BgcXyfkQ0
弓道場
赤城「加賀さん、肩の力を抜いて、矢と的だけに集中してください」
赤城「精神を落ち着かせて、自分の中で調和を保つんです」
加賀(赤城さんの指導はやや抽象的です)
赤城「心の中の海を凪の状態にするんです。そうすれば自ずと無駄な力が抜けます」
赤城「周囲を無視するんです。世界を自分と的以外消し去るつもりで」
赤城「息を軽く吸って……緊張しないように」
ヒュッ パンッ
赤城「わぁ、やっぱり上手です。加賀さん」
加賀「赤城さんの指導のおかげですよ」
加賀(嘘です。なんとなく発艦するときと同じ感覚でやりました)
赤城「……加賀さん嘘吐かなくていいんですよ」
加賀「えっ」
赤城「この前、第六駆逐艦隊の子達にも教えたのですけど……」
赤城「指導が抽象的すぎて分からない、と……」
加賀「……はぁ」
加賀「仕方がないですよ。赤城さんの弓道の腕は先天的なものですから」
赤城「ううっ、すみません。役立たずで」
加賀「……」
加賀(赤城さんの弓道のセンスは物凄い。一度訓練場で発艦訓練をしたときは他を抜いて圧倒的だった)
加賀(出撃にも演習にも生かせないのですが)
39:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:41:37.39 ID:BgcXyfkQ0
加賀「赤城さんはこれからどうしますか」
赤城「んーっと、そうですね……少し練習していこうと思っていたのですけど」
加賀「鳳翔さんの所に行きませんか?」
赤城「あっ、行きます!」
加賀「じゃあ、着替えてから行きましょう」
赤城「はい!」
…………
食堂
鳳翔「それで、どうですか、調子の方は」
加賀「……相変わらずです」
鳳翔「そうですか」
加賀(鳳翔さんの生きがいは料理らしい。彼女はここの鎮守府で建造され、そのままここで働いている)
加賀「食堂に来て、鳳翔さんの料理が出てくると安心します」
鳳翔「あら、ありがとうございます」
赤城「ここには優秀な調理師がいてくれてとっても嬉しいです!」モグモグ
鳳翔「そうだ、また新しい料理を作ってみたので、食べてみてくれませんか?」
加賀「……さすがです」
40:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:42:54.98 ID:BgcXyfkQ0
赤城「この前、レシピ本出版してましたよね?」
鳳翔「そうなんですが……こう、インスピレーションが止まらなくて……うふふ」
加賀「……」
赤城「凄いですねぇ。私は食べることしかできないですが、その分野に関してなら鳳翔さんのお力になりたいと常々思ってます」フンスッ
加賀「……やっぱり食いしん坊ですね」
鳳翔「クスクス、また作りすぎてしまったときは呼びますからね」
赤城「まかせてください!」
加賀(『また』?)
鳳翔「ふんふんふーん♪」トントントントン
加賀「……鳳翔さんの手際を見ていると、いつも感心してしまいます」
鳳翔「あら、ありがとうございます。でも、慣れれば加賀さんだってこれくらい出来るようになると思うわ」
加賀「……いえ、私も食べるの専門なので」
鳳翔「あらあら、それは残念」ニコニコ
加賀「……鳳翔さんは出撃するときとか、何を考えていますか?」
鳳翔「そうですね……今晩の食事はどうしようとか、ふと新しいレシピを思いついたりとか……ですかね」
加賀「ふふっ、どうなんでしょうねそれは」
鳳翔「そうですね、戦っているときは大体集中しますけど、それ以外ははもっぱらそんな感じです。不真面目ですよね」クスクス
赤城「……」モグモグ
加賀「あっ、ごめんなさい」
赤城「いえいえ、別にもう気にしてませんから」
赤城「前はそういうお話は苦手でしたけど、今は全く平気ですので」ニコッ
加賀「そう」ニコッ
鳳翔「ふふっ、仲良しですね。お二人とも」
赤城「勿論ですよ!」
加賀「あ、赤城さん……」
鳳翔「羨ましいです」
41:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:43:52.92 ID:BgcXyfkQ0
鳳翔「お二人はお酒はお飲みになりますか?」
加賀「いえ、私は」チラッ
赤城「じゃあ、私は一口だけ頂きます」
鳳翔「はい」
トポトポトポ…
赤城「ありがとうございます」
コクリ
赤城「……ふぅ」
赤城「……」
赤城「……鳳翔さん、私も聞いてみたいと思ってたことがあるんですが、いいですか?」
鳳翔「ええ、構いませんよ」
赤城「その、失礼なことを言ってしまうかもしれませんが、ただの酔っ払いの戯れ言程度に思ってください」
鳳翔「ふふっ、はい」
赤城「……ふぅ」
赤城「……鳳翔はここで建造されて、ずっとここの鎮守府ですよね」
鳳翔「はい」
赤城「正直言って、ここは特殊過ぎる場所です。海で戦うことよりも、違うことをする事を推奨しています」
加賀「……」
赤城「その中で、思ったことはありませんか? 戦うために作られたとも言える私達が、戦う機会が少ないこの鎮守府に居ることに、居心地の悪さみたいなのを」
加賀「……私たちは外から来ていますから。ここで生まれた方はどう考えているのか、興味あります」
鳳翔「う、うーん。そうですねぇ……」
42:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:44:51.80 ID:BgcXyfkQ0
鳳翔「居心地の悪さ、というのは感じたことはありませんね」
鳳翔「それに、そもそも『他の鎮守府の当たり前』が私には分かりません」
赤城「……なるほど」
鳳翔「赤城さんたちが私の考えが分からないのと同じく、私には赤城さんたちの感覚が分かりません」
鳳翔「私が血気盛んな方じゃないからかもしれないですが……」
鳳翔「私は戦うこと自体に意味を見出してはいません。ただ単にその仕事を持って生まれただけのこと」
鳳翔「赤城さんは『海で戦うこと』から『弓道』へ、生きがいと言えるものがシフトした……んですよね?」
赤城「えっと、まあ大まかに言いますと、そんな感じですね」
鳳翔「私にとっては、元々『海で戦うこと』が生きがいであった時期はないんです」
鳳翔「私の生きがいは、生まれてからずっと『美味しいものを作って、食べてくれる方に喜んで貰うこと』。それに私の喜びはあります」
加賀「……」
加賀(きっと、前の私なら鳳翔さんの考え方を批判していたかもしれないわね……)
赤城「なるほど、そうですか……」
鳳翔「あの、こんな答えでいかがでしょう? 上手く答えになったでしょうか……?」
赤城「はい! 大満足です! 不躾な質問、失礼しました」ペコッ
鳳翔「ああ、よかった」ホッ
43:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:45:35.68 ID:BgcXyfkQ0
赤城「……加賀さん」コソッ
赤城「これも、個性……なんですね」
加賀「……ええ、そうかもしれません」
加賀「赤城さん」
赤城「はい?」
加賀「ありがとうございます。私が聞きにくいことを聞いてくれて」
赤城「ふふっ、何のことです?」
鳳翔「……あと、あの、ここだけの話なのですが」
赤城「はい」
鳳翔「……提督は、私たち艦娘の本分である『戦い』をおざなりにする方針を、独りよがりなのではないかと、深く悩んだようです」
鳳翔「前に提督に、随分酔っていらっしゃった時なんですけど」
鳳翔「私たちに『戦い』という選択肢を与えなくてごめん。……と、空言で謝られたことがあります」
赤城「……そうですか」
鳳翔「あの人は、本当にお優しい方です」クスッ
赤城「……ええ、それは十分知っています」ニコッ
加賀「……」
加賀(『戦い』……。生きがい……。)
加賀(……私も、考えるときがきたのかもしれません)
…………
44:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:46:16.82 ID:BgcXyfkQ0
加賀の自室
加賀(生きがい……)
加賀(ここに来る前までは『戦う』ことが生きがい……)
加賀(いえ、艦娘はすべからく『戦う』ことを生きる意義として存在するべきだと、そう思っていた)
加賀「……そういう環境に、身を置いていたからかしら」
加賀(これまで上役も、周囲の艦娘もそう考えていたから、いつの間にか私もそれが当然だと思っていただけかもしれない)
加賀(……戦いたくとも戦えない赤城さん)
加賀(……戦うことに疑問を抱いた龍驤)
加賀(……戦いを義務としない環境に産まれた鳳翔さん)
加賀(色々な艦娘が居る、ということを、ここでは思い知らされた)
加賀「……でも、それでも、私が生きるためには……私が私として生きるためには……」
加賀(私が誇れるものは『戦う』ことだ)
加賀(『戦う』ことでしか私に誇れることはない)
…………
45:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:47:13.93 ID:BgcXyfkQ0
コンコン
加賀「どうぞ」
ガチャッ
翔鶴「し、失礼します」
加賀「何の用かしら」
翔鶴「あの、実は加賀さんに頼みたいことがあるのですけど……」
加賀「?」
46:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:48:05.31 ID:BgcXyfkQ0
……
瑞鶴「……」ムスッ
加賀「……」
翔鶴「その……瑞鶴がここで建造されてからイマイチ馴染めていないようでして」
翔鶴「そのことを赤城さんに相談したら、加賀さんならこの問題にぴったりだと」
加賀「……赤城さん」ゲンナリ
翔鶴「あ、あと、赤城さんから伝言で……」
翔鶴「『加賀さんのためにもなりますから』とのことなんですが」
加賀「はあ……分かりました」
翔鶴「そうですか! ありがとうございます!」
翔鶴「ほら、瑞鶴!」
瑞鶴「……あんがと」ムスー
加賀「イラッ」
翔鶴「では、よろしくお願いします。加賀さん」
加賀「えっ」
翔鶴「はい?」
加賀「あの、あなたはどこへ?」
翔鶴「私、これから遠征なんです。夜には帰りますので。それでは!」
タッタッタッ
加賀「あ……」
加賀「……」
瑞鶴「……」ムスッ
加賀「……よろしく」
47:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:49:16.46 ID:BgcXyfkQ0
…………
瑞鶴「だから、あたしは誰にも協力して貰わなくていいって言ってるの!」
加賀「そんなこと言っても、頼まれたのだから仕方ないでしょう」
瑞鶴「じゃあ放っておいてよ! 翔鶴姉には口裏合わせておくわ!」
瑞鶴「……私は、私一人で解決するんだから」
加賀「はあ……。そう、なら勝手にして」
瑞鶴「えーえー勝手にするわよ、一航戦の協力なんて誰が借りるもんですか!」ズンズン
ドンッ
??「おっと」
瑞鶴「きゃっ」
加賀「あら、提督」
提督「よう、加賀さんに……大丈夫か、瑞鶴」
瑞鶴「いったた……提督さん? もう、もっと気をつけなさいよ!」
提督「ああ、ごめんごめん」
加賀「今のは、あなたが私に悪態を吐いていて、前を見ていなかったからぶつかったのよ」
提督「なるほど、そうだったか。なら今度から気をつけろよ、瑞鶴」
瑞鶴「……わかったわよ……ごめんなさい」
提督「分かればいいんだ。……おっとそうだ、瑞鶴に聞きたいことがあったんだが」
瑞鶴「……何かしら」
提督「自分のやりたいことが見つからなくて焦ってる、って本当か?」
瑞鶴「なっ!?」
加賀(なるほど、そういう事)
瑞鶴「だ、誰よ! バラしたの!!」
提督「この前、翔鶴がそう話してたんだが」
48:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:50:10.63 ID:BgcXyfkQ0
提督「……反応を見る限り、本当らしいな」
瑞鶴「くっ!!」
加賀「……その相談だったわけね」
提督「ん? どういうこと?」
加賀「翔鶴が私に協力してほしい、と」
提督「……へぇ、加賀さんに、ねぇ……」
瑞鶴「そ、その事について、いま頑張って探してるわ! 提督さんは心配しないで!」
提督「……まあ、そう簡単に見つかるものじゃない、気長に探してればそのうち見つかるさ」
提督「加賀さんと一緒に、色々試してみたらどうだい」
提督「加賀さんも、結構良い経験になるんじゃないかな」
瑞鶴「ううっ」
加賀(良い経験……)
加賀「……わかりました」
提督「うん、それじゃ、よろしく頼むよ、加賀さん」
加賀「ほら、行くわよ、五航戦」
瑞鶴「ず、瑞鶴よ! ちゃんと名前で呼びなさいよ」
加賀「はいはい」
……
49:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:51:06.37 ID:BgcXyfkQ0
青葉「あれ? それで、なんで青葉の所へ真っ先に?」
加賀「あなたなら、誰が何をやっているのか把握していると思ったからよ」
青葉「うーん、そうですかねぇ」
加賀「記録係でしょ。ここに転任してから、あちこちにあなたが出現している所を見たわ」
青葉「まあ、そうですね……」
青葉「うん、せっかく加賀さんが青葉を訪ねてくれたんです。青葉、全力で協力しますね!」
加賀「ありがとうね」
瑞鶴「その……ありがとう」
青葉「いえいえ~、瑞鶴さんともあまりお話する機会がなかったので、青葉としても仲良くできてうれしいです!」
加賀「……あなた、本当に馴染めていないのね」
瑞鶴「い、忙しくて、話しかけるタイミングがなかっただけよ」
加賀「本当かしら」
青葉「まあまあ」
青葉「こほんっ、それでは! 皆さんのご趣味拝見ツアーに、レッツゴー!!」
……
50:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:52:37.54 ID:BgcXyfkQ0
鎮守府 外
畑
加賀「……畑?」
青葉「まず、扶桑さんと山城さんです」
扶桑「あら、あらあら、青葉さんに加賀さん、瑞鶴さん、ようこそいらっしゃい」
扶桑「やましろー、加賀さんたちが来てくれたわよー」
「ハーイ ネエサマー」
タッタッタッ
山城「……ふう、いらっしゃいませ!」
扶桑「ごめんなさいね、雪風は遠征で今日いないのだけれど……」
青葉「いえいえ」
加賀「あなたたちの『生きがい』について話を聞かせてほしいの」
扶桑「『生きがい』? えーっと……、それは趣味みたいなことでいいんですか?」
加賀「ええ、構いません」
加賀「この子が建造されたばかりでやりたいことっていうのがハッキリしていないらしいの」
山城「なるほど」
51:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:53:13.92 ID:BgcXyfkQ0
扶桑「そうねぇ」
山城「見れば分かるとおり、私たちはちょっとした農業をやってるわ」
瑞鶴「……ここの畑、扶桑さんたちが使ってたんだ」
扶桑「まあ元々は家庭菜園程度だったのだけど」
山城「提督が『だったら畑を作ろう』っていいだしてね。全く、管理するこっちの身にもなって欲しいわ」
扶桑「山城、提督は私たちのためにと思って作ってくれたのよ。そんなこと言ってはだめ」
山城「うっ、ごめんなさい。姉様」
扶桑「あの、勘違いしないで欲しいのだけど、私たちはこの畑を渋々管理してるわけではないですからね」
加賀「ええ、分かっているわ」
青葉「それに、たまに提督と一緒に作業していることもありますよね」
扶桑「ああ、ふふっ」
山城「……別にいいって言ってるのに、手伝いに来るんだから」
扶桑「なんとなく、半ば無理やり畑を作ったことに負い目でも感じてるんだと思うわ」
山城「……畑仕事は好きって何度も何度も言ってるのにね」
52:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:54:34.88 ID:BgcXyfkQ0
瑞鶴「あら? このトマトって」
扶桑「ええ、食堂の方で出してる物よ」
加賀「私たちの食料も作っているのね」
青葉「いつも美味しくいただいてますよ!」
山城「そ、そりゃあ、私と雪風が品種改良させたんだから、美味しいに決まってるわ!」
扶桑「私たちが愛情いっぱい育てた野菜が美味しく食べてもらえるのは、本当にやっててよかったと思うわ」
扶桑「こういう改良は家庭菜園ではできないから、そういう努力もできるし楽しいわよ」
瑞鶴「……なるほど、やりがいもあるわけね」
扶桑「あそこには私と雪風が品種改良をしたトウモロコシがあってね」
山城「あっ、じゃあ、あそこには私と雪風が育てたキュウリもあって……」
扶桑「そっちには私と雪風がいま頑張って世話をしてるジャガイモが」
山城「向こうの方に作ってるビニールハウスでは今度雪風と私とでイチゴを作ってみようとしてて」
加賀「……あの」
扶桑山城「ギクッ」
瑞鶴「なんか、雪風の携わったの多くない?」
53:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:55:18.31 ID:BgcXyfkQ0
扶桑「そ、そんな事は」
山城「ない……こともないわ」
青葉「……そういえば、雪風さんが来てくれるまで、大変そうでしたね」
扶桑「そうだったわね」ドヨーン…
山城「忘れました」ハイライトオフ
扶桑「蒔く種蒔く種全て土に帰ってしまったわ」
山城「雪風は私たちにとっての豊穣の神様よ」
加賀「なるほど」
青葉「あ、あはは」
瑞鶴「美味しい野菜の裏にそんな悲しい過去があったのね……」
扶桑「……ですが、雪風が来てくれた今は、楽しく、元気に農業生活を送っているわ」
山城「それに雪風と一緒にいると不幸なことが起こらなくて助かってるのよ」
扶桑「本当に。不幸なことが起こらないなんて、幸運だわ……」
加賀(マイナスがゼロになっただけでプラスではないわ)
青葉「では、次に行ってみましょう」
……
54:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:59:04.64 ID:BgcXyfkQ0
工廠
青葉「次は島風さんにでも会いに行きましょうか」
加賀「島風って……ここ、工廠なのだけど」
瑞鶴「どういうこと?」
加賀「他の鎮守府にいる島風は、おおよそ工廠に居るような艦娘ではないわ」
瑞鶴「へぇ、そうなの」
青葉「あー、まあ行けば分かりますよ」
テクテクテク
明石「あら? 青葉じゃない。それに加賀さんに瑞鶴さん? どういう面子よ」
青葉「島風さんに会いに来たんですけど」
明石「島風なら第一工作室に居ると思うわ」
加賀「工作室なんてあるのね」
明石「あー、馴染みありませんか」
明石「まあここは特殊ですからね」
加賀「よくわかってるわ」
ガチャッ
島風「ふぅ、疲れた~」
青葉「おっ、あちらから現れましたね」
島風「んぅ、なに~」ボヤー
青葉「おやおや、なんだかお疲れなご様子ですね」
明石「あっ、もしかして、島風昨日からずっと使ってたの?」
島風「うん、カスタマイズしだしたら熱中しちゃって」
明石「ほどほどにしてくださいね。無理して体壊したらここの責任者である私が提督に怒られるんだから」
島風「ごめんなさ~い」ボヤボヤ
55:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 13:59:56.00 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……!!」
島風「ふわあ……ん? 加賀さん?」
瑞鶴「なに驚いてんのよ」
加賀「なぜ島風が眼鏡を掛けているの……」
島風「あー、細かい作業してたから」
加賀「それに落ち着いてる……」
島風「疲れてるからねぇ」
加賀「私の知っている島風じゃない……」
青葉「おお、加賀さんがシマカゼギャップを感じている」
瑞鶴「島風は一体なにしてたの?」
島風「あれ、瑞鶴さん。お話しするの初めてね」
島風「私は、コレ、やってるんだ」
瑞鶴「これは?」
青葉「ミニ四駆、ですね」
島風「そう、速さを追究する中で出会ったの!」
瑞鶴「これは随分と趣味らしい趣味ね」
青葉「でも度々大会とかも開かれてますから、結構奥が深いみたいですよ」
56:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:01:26.86 ID:BgcXyfkQ0
島風「ミニ四駆はね、バランスを考えた造型や、重さの調整、モーターの回転速度を加味して初めて安定的に速度が出せるの」
島風「コースに適した最高のパフォーマンスが出来る機体を作ることが大事なのよ!」
島風「本当の速さを出すためはがむしゃらに速く走るだけではダメ。自分のことだけではなく、周囲の環境に目を向けて調整することで初めて最適化されたスピードが出る」
島風「ミニ四駆が私に教えてくれたの!」
加賀「私の知っている島風じゃないわ!!」
島風「昨日はそういう計算と実際にカスタマイズしてたから寝るの忘れちゃって」メガネクイッ
瑞鶴「……んー、私には向いてなさそうね」
明石「そうですか? 私もたまに弄ってますけど面白いですよ」
島風「明石さんは次の大会にでも出さないの?」
明石「島風の機体ほどガチじゃないからねぇ」
島風「んー、楽しいと思うんだけどなぁ」
青葉「今度の大会は記録係としてついて行きましょうか?」
島風「いいよ、そこまで大きな大会でもないし、軽い調整のつもりだから」
加賀「島風が技術者の顔をしているわ……。私の知っている島風より精神年齢がだいぶ高いし……」
島風「……これ馬鹿にされてるのかな?」
青葉「微妙ですね」
島風「むー、まあいいや。ふわあ……、大会のためにも明日の出撃頑張んなきゃ」
島風「私これから寝るね、おやすみ~」
テクテクテク
加賀「……なんだか凄いショッキングな出会いでした」
明石「まあ、あんな島風は他にいませんよね」
青葉「ま、気を取り直して、次行ってみましょう」
……
57:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:02:31.64 ID:BgcXyfkQ0
……
鎮守府 廊下
テクテクテク
青葉「んー……」
加賀「どうかしたの?」
青葉「……あの、青葉が言うのも嫌みとか、自慢っぽくなっちゃって嫌なんですけど」
瑞鶴「なになに」
青葉「……少し、聞いて欲しいんですが」
青葉「加賀さんの言うところの『生きがい』っていうのは、ここの鎮守府の艦娘ほとんどに有ると思います」
青葉「ですが、間違って欲しくはないんですが、『生きがい』でも『得意なこと』ではないんですよ」
加賀「……なるほど、『生きがい』が結果と必ずしも結びつくことではないと」
青葉「はい」
瑞鶴「えっ、でも赤城さんは弓道上手だし、翔鶴姉はお菓子作るの上手よ?」
青葉「赤城さんのような弓道の天才は特別です。あそこまで上手になれる人はそうそういません」
青葉「……『好き』と『得意』は、確かに結びつくものではあります」
加賀「好きこそものの上手なれ、ということね」
青葉「その通りです。好きなことであればそれこそある程度までは上達することができるでしょう」
青葉「ですが、やはり才能の壁というのは艦娘にも、人間にもあります」
58:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:03:44.00 ID:BgcXyfkQ0
青葉「先ほどの島風さんも、ミニ四駆の大きな大会で入賞したことはありません」
青葉「扶桑さんたちが作っている野菜だって、この鎮守府でおいしく食べられていますが、世間で評価されるようなものではありません」
青葉「興味のない人よりはとても上手ですが、高いレベルで見れば平凡と見なされることなんてざらです」
加賀「そう、ね」
瑞鶴「……なんか嫌ね」
加賀「嫌?」
瑞鶴「そうよ! もしやるんならトコトンやりたいし評価されたいでしょ!」
青葉「その瑞鶴さんの考え方も正しいと思います」
加賀「じゃあ、あなたは自分の得意分野を探しているのかしら?」
瑞鶴「そうよ! ……あれ? そうなのかな」
青葉「ふふっ、別に『得意だから好き』でもいいと思いますよ」
青葉「評価されないから違うことを始める艦娘だっています。周囲の評価や結果が『生きがい』のモチベーションとなることは決して悪いことじゃありません」
瑞鶴「そう……そうよね」
青葉「ですがその考えに固執して、そうではない人を否定してはいけません」
加賀「得意ではない、評価されない……でも自分がそれを好きだからやってる、という人?」
青葉「はい」
59:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:05:09.40 ID:BgcXyfkQ0
瑞鶴「そんなの当たり前じゃない! 人それぞれなんだし」
加賀(『当たり前』と、そう言えるのはここの鎮守府で生まれたからこそね)
瑞鶴「それに好きだからこそ評価されるために頑張る、っていうのもあるでしょ」
青葉「そうです」
青葉「『得意だから好き』でも『好きだから得意になりたい』でもいいし、『ただ自分がやりたい』というのでもいいんです」
青葉「周囲の評価や結果なんて、要素の一つでしかない……ということです」
青葉「……何となく、瑞鶴さんたちの『やりたいこと』を考える一つの指針になれば……と思い、言ってみた次第です」
瑞鶴「なるほどね」
瑞鶴「……うん、なんか色々考えることが出来そうだわ! ありがとう、青葉!」
青葉「ああっ、いえいえ! なんか偉そうにすみません」
加賀「……」
60:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:05:35.38 ID:BgcXyfkQ0
加賀(……私は周りに評価されたくて戦っていたの?)
加賀(いえ、違うわ。戦うことは義務であり、評価されるようなことではない)
加賀(義務……)
加賀(私は戦わなければいけなかった。だから戦っていた……)
加賀(やらなければいけないことは、『生きがい』? 生きるために戦うことは『生きがい』だったの?)
「――さん!」
「加賀さん!」
青葉「あの、加賀さん!」
加賀「……えっと、なに?」
青葉「どうしたんですか? ぼーっとして」
加賀「んっ……いいえ。なんでもないわ。少し考え事をしていただけだから」
青葉「そうですか?」
瑞鶴「そんなことより、次にいくわよ!」
加賀「……なんだか元気になったわね、あの子」
……
61:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:07:00.60 ID:BgcXyfkQ0
廊下
青葉「さて、次に訪ねるのは特に世間的に評価がされているわけではない方々です」
瑞鶴「いわゆる『好きだからやっている』人ね」
青葉「はい。ですが腕は確かで、趣味を生きがいとしてやっています」
加賀「趣味……」
瑞鶴「ここら辺は個人の部屋よね。インドアなのかしら」
青葉「まあ、会えば分かりますよ」
青葉「っと、ここの部屋だ」
コンコン
??「誰?」
青葉「青葉です」
ガチャッ
浜風「青葉さん? ……と、加賀さんに瑞鶴さん?」
浜風「大所帯で……あの、私、何かしでかしました?」
青葉「いえいえ、そういうわけでは」
加賀「あなたの趣味についてお話を聞いてみたいと思って」
浜風「私の趣味……ですか? 別にいいですよ、仲間が増えるのは嬉しいことです」
浜風「とりあえず入ってください。何もお構いできませんが」
青葉「おじゃましまーす」
瑞鶴「お、おじゃましま……す……」
加賀「……これは、また」
瑞鶴「なに、これ……竿にルアーと、大量の魚拓?」
浜風「はい。趣味で釣りをやってまして」
62:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:08:00.43 ID:BgcXyfkQ0
加賀(……これは、趣味のレベルなの?)
浜風「今度の休みには九州の方にまで行ってみようと思っています」
青葉「今は何をしていたんですか?」
浜風「道具の整備をしていました」
瑞鶴「うわぁ、凄い。これ全部釣り用具なの?」
浜風「はい。正式に提督からお給料を貰い、調達しました」
浜風「瑞鶴さんが手に持っているのはルアーですね。擬似獲という奴です」
瑞鶴「へえ、なんか聞いたことあるかも」
加賀「竿も、こうやって見ると色々種類があるのね」
浜風「川用、海用、大型や小型用などなど、場所や用途の数だけありますからね」
浜風「あっ、その竿はさわらないで!!」
加賀「えっ、あ」ビクッ
浜風「あっ……コホンッ、失礼いたしました」
浜風「その竿はこの前やっとの思いで手に入れた物で、下手に触れて欲しくないといいますか……いえ、別に加賀さんが壊すと思ったわけではなくてですね」
浜風「その、今度の九州でお披露目するまでは私もあまり触らないで眺めていようと思っていまして……」
瑞鶴「つまり最初に触るのは自分だっ! ……ってことね」
浜風「お恥ずかしながら……その通りです」
加賀「いえ、私も素人なのに不用意でした。すみません」
浜風「いえいえ」
63:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:08:57.91 ID:BgcXyfkQ0
コンコン
??「ハマちゃんいるー? 入るよー」
ガチャッ
鈴谷「ハマちゃん今度の海釣りの話だけど……って、なんだか賑やかね」
青葉「おじゃましてます」
瑞鶴「ていうか、もしかして鈴谷さんも浜風と同じ?」
鈴谷「ん? 同じって?」
加賀「あなたも釣りが生きがいなの?」
鈴谷「そだよー。ハマちゃん程ガチじゃないけどね」
浜風「スーさん、青葉さんたちは釣りについて聞きたいらしい」
鈴谷「おやおや、鈴谷さんをご指名かい? 仕方ないなぁ、それじゃあまず道具の選び方から」
加賀「いえ、私たちはそんな詳しく釣りについて聞きたい訳ではないの」
鈴谷「あれ? そうなの?」
瑞鶴「釣りのどういうところが鈴谷さんたちを魅力したのか聞きたいわ」
鈴谷「魅了したって、んー、だったらハマちゃんに聞いた方がいいかな」
64:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:09:41.58 ID:BgcXyfkQ0
浜風「やっぱり、時間ですね。釣りをしている時間」
鈴谷「あー、そうだ。鈴谷もハマちゃんにそう言われて始めてみたんだ」
瑞鶴「あれ? 鈴谷さんが釣りを始めたのは浜風の影響が強いの?」
鈴谷「うん、ハマちゃんに誘われてーどっぷりハマっちゃったんだ」
浜風「きっかけは私だったかもしれないけど、スーさんがここまで釣りを好きになってくれるとは思わなかったわ」
鈴谷「まーねー……」
鈴谷「鈴谷、ここに転任してからしばらく無気力女子だったからね」
加賀「あなたも他の鎮守府から?」
鈴谷「そう。前にいた鎮守府が解体されてね、所属してた艦娘は散り散りに他の鎮守府に飛ばされちゃったんだ」
加賀「……そう」
鈴谷「でも別にそこの鎮守府に愛着とか無かったし、ほとんど大切にされてた記憶もないしね」
鈴谷「ここに来た当初は『無理して出撃しなくていいの? ラッキー』って思って部屋でゴロゴロしてたんだ」
瑞鶴「……えっ、他の鎮守府の出撃ってそんなにハードなの」ボソッ
加賀(瑞鶴はここ以外の鎮守府ではやっていけなそうね)
65:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:10:44.90 ID:BgcXyfkQ0
鈴谷「まあでもね、それでも時間ばっかりが余ってね。ふと『あたし何やってんだろー』って思うようになって……」
鈴谷「色々手出してはやめてを繰り返しながら趣味探ししてたんだ」
鈴谷「それでも『これだ!』ってのが無くて、テンションだだ下がりで歩いてるとき、ハマちゃんに会ったんだ」
鈴谷「こうやって釣りをしている時間がいいんだ、って言われて。始めてみたらハマっちゃって。ほんと、ハマちゃんには感謝よ」
青葉「たしか、浜風さんはここを出身でしたよね」
浜風「はい。元々、気づいたら海にいて、さまよってるところをここに拾って貰ったの」
瑞鶴「浜風はなんで釣りをするようになったの?」
浜風「……特に理由はないのですけど、なんとなく、始めてみたのが釣りでしたね」
浜風「のんびり釣りをしながら考え事をしたり、水面を見たり、海では波の音を聴いてみたり……」
浜風「それでいて夢中になると色々面白くてですね。釣り上げたときの達成感とかも、やっぱり夢中になる要因でしたね」
瑞鶴「へぇ……」
浜風「釣りをしている時間、すべてが好きです」
浜風「その時間を過ごすことが、私の幸せです」
加賀「……そう」
66:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:11:25.63 ID:BgcXyfkQ0
浜風「あの……噂で聞いたのですが、加賀さんは私たちが戦うために生まれた存在だから、戦うことを第一に考えるべきだと思っているというのは本当ですか?」
加賀「……そうね」
加賀「いささか言葉は乱暴に伝わっているようだけど、概ねその通りよ」
浜風「なるほど」
鈴谷「へー、加賀さんて真面目なんだね。やっぱり」
浜風「……私、加賀さんに伝えておきたいのですが」
浜風「もしも、『戦わなくてもいい』と言われれば、私は好きなだけ趣味に時間を割きます」
浜風「ですが、『今後一切、釣りをしてはいけない』と言われたら」
浜風「私は解体されてもいいと思っています」
加賀「……」
67:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:12:31.47 ID:BgcXyfkQ0
浜風「馬鹿みたいかもしれませんが、私にとって趣味はそれだけ大きな存在なんです」
浜風「私たち艦娘が生まれた理由は『戦うこと』かもしれません。ですが、私が生きる意味は『戦うこと』にありません」
浜風「個人的な考えですが、生きる上で重要なのは『戦うこと』でも、それこそ『釣り』みたいな趣味に没頭することでもない」
浜風「ただ私が私らしく生きるということ、です」
加賀「……そういう考えも、あっていいと思うわ」
浜風「そうでしょうか?」
加賀「きっと、ここに来た当初の私ならあなたを叱咤していたかもしれないけど」
加賀「今は、そうは思わない。考えを強制するつもりはないわ」
浜風「……そうですか」
加賀「ありがとう。あなたの意見が聞けて良かったわ」
青葉「……あー……では、そろそろおいとましましょうか。鈴谷さんも浜風さんと話すこともあるでしょうし」
瑞鶴「そ、そうね」
青葉・瑞鶴(なんかシリアスな空気になっちゃったし)
………
68:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:14:31.79 ID:BgcXyfkQ0
談話室
青葉「どうですか、色々回ってみて」
瑞鶴「……うーん、なんか色々聞けたのは良かったけど、やっぱり『これだ!』っていうのはなかったかなぁ」
加賀「……」
青葉「加賀さんはどうでした?」
加賀「色々と興味深かったわ」
青葉「ほぉ、それはよかったです」
加賀「……改めて、思い知ったんだけれど」
瑞鶴「なに?」
加賀「……何も難しくはない、『人それぞれ』ということなのね」
瑞鶴「はあ? どういうことよ」
加賀「……私が生まれた……前に所属していた鎮守府ではそんなこと言ってられなかったわ」
加賀「ここではどんな事でも『人それぞれ』であることが容認される」
瑞鶴「当たり前じゃないの?」
加賀「……いいえ、そうではないの」
瑞鶴「それって……どーゆうこと?」
加賀「他と違ったことをすることは許されない。『加賀』ならば空母として決められた働きをしなければならない」
69:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:16:57.38 ID:BgcXyfkQ0
加賀「『瑞鶴』ならば『瑞鶴』の働きをしなければならない」
加賀「『私』ではない『加賀』として……『艦娘』として、ということよ」
瑞鶴「うーん、なんか難しいわね。『私』は『瑞鶴』よね?」
青葉「……青葉、なんとなくわかります。つまり、個性はあってはならない、そんな環境だったんですよね」
加賀「ええ」
瑞鶴「んー……?」
加賀「……単純に言ってしまうと」
加賀「趣味なんてものは必要ない。ただ『戦え』ということよ」
瑞鶴「えっ、厳しすぎじゃない、その鎮守府」
加賀「いえ、多くの鎮守府はこのような考え方で動いているわ」
瑞鶴「……ここの鎮守府が珍しいの?」
加賀「ええ」
瑞鶴「そう、なんだ……」
瑞鶴「そっか、私は幸せなのかな」
加賀「この環境を『幸せ』と感じるのは、あなたがここ以外知らないからかもしれないわ」
瑞鶴「……何よ。経験が足りないってことかしら」
70:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:18:00.73 ID:BgcXyfkQ0
加賀「そうではないわ。仕方のないことよ」
加賀「あなたがこの鎮守府で『幸せ』と感じるならば、ここでの生活が充実しているに他ならないのだから」
瑞鶴「ふーん、そう……」
青葉「……難しいですよね。そういう認識って、ちょっとやそっとじゃ捉えられない物ですから」
加賀「……青葉はここで生まれたの?」
青葉「はい。でも、少し前に色んな方にお話を聞く機会がありまして、聞いているうちに色々考えるところがあったといいますか」
加賀「……口振りからして他の鎮守府から来たのかと思っていたわ」
青葉「そうですね……。その、青葉も趣味探しに結構悩んだ口でしてね、てへへ」
加賀「なるほどね。今の私たちと同じ経験があったのね」
青葉「そういうことです」
瑞鶴「……ねえ、加賀さん」
加賀「何かしら」
瑞鶴「加賀さんはここの鎮守府にいて『幸せ』なの?」
加賀「え……」
71:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:19:08.51 ID:BgcXyfkQ0
瑞鶴「その『認識』ってやつ、加賀さんは他の鎮守府も知ってるんでしょ?」
瑞鶴「だったら、加賀さんにとってここでの生活は『幸せ』?」
加賀「……『幸せ』?」
加賀「どう、なのかしら」
瑞鶴「比べるのは難しい?」
加賀「そう、ね。ここも良いところもあるけど、その、前の鎮守府にもいいところがあったから……」
青葉「……」
加賀(……『幸せ』)
加賀(私は『幸せ』なのかしら)
加賀(私の『幸せ』って……)
加賀(私の『幸せ』は、何なのかしら)
加賀「……そうね」
加賀「私も、覚悟を決めないといけないわ」
……
72:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:20:17.69 ID:BgcXyfkQ0
その後・加賀と別れて
青葉「……瑞鶴さん」
瑞鶴「ん?」
青葉「趣味探しって難しいですよね。それものめり込むほどの趣味って」
青葉「突然向こうからやってきたり。自分を見つめていくうちに見つかったり。とにかくぶつかっていった末に見つかったり……」
青葉「瑞鶴さんは、なんでそんなに躍起になっているんですか?」
瑞鶴「……」
瑞鶴「それが、私がここにいる意味だから」
青葉「意味? どういうことです?」
瑞鶴「ここにいる為には何か趣味がないと、そう思ってたの」
青葉「……ふふっ、お馬鹿さんですね」
瑞鶴「な、なによ、お馬鹿さんて」
青葉「意味がなくても居ていいんですよ、ここには」
青葉「意味を探すために、ここは……この鎮守府はあるんですから」
瑞鶴「……そう、そっか」
青葉「私たちには、存在する意味があるんです。みんな、どこかに」
青葉「そんな大切なものを焦って探すなんて、勿体ないですって!」
瑞鶴「……そうよね。うん!」
青葉「いつか、見つかります。青葉たちはその意味を探すために生まれたんですよ。この鎮守府に」
………
73:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:21:33.56 ID:BgcXyfkQ0
後日
執務室
提督「……なるほどね」
加賀「よろしいでしょうか」
提督「大まかなところ、今回の作戦指揮権を加賀さんに委ねる、とそういうことだよね」
加賀「はい」
提督「……ふぅん」
加賀「……」
提督「それは加賀さんの中で必要なことなのかい」
加賀「はい」
提督「ここに残るか残らないか、というのに関係があるのかい」
加賀「……はい」
提督「なるほどね」
提督「……うん、許可しよう」
加賀「……ありがとう、ございます」ペコリ
提督「君はたぶんここで最も戦闘経験の豊富な艦娘だし、知識もあるだろうから」
提督「次の作戦、旗艦として頑張ってくれ」
加賀「ええ。私が指揮するのだから、失敗はあり得ないわ」
提督「ああ、期待してる」
加賀「では」ペコリ
74:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:22:56.78 ID:BgcXyfkQ0
スタスタ ガチャッ パタン
提督「……」
大淀「……提督、よろしかったのですか?」
提督「なにがだ?」
大淀「その、加賀さんに指揮権を与えたことです」
提督「……ああ」
提督「きっと、『必要なこと』なんだろう。彼女が『戦うため』に存在するためには」
提督「戦場で、確かめなければならないのさ」
……
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75:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:38:01.92 ID:BgcXyfkQ0
加賀「私は、『戦いたい』のか……、いえ『戦わなければいけない』……そのはず」
加賀「それを確かめなければ」
加賀「私は『戦うため』の存在であることを、海で確かめないと」
加賀「そこに、私の『幸せ』は、あるはずだから」
………
76:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:39:45.88 ID:BgcXyfkQ0
出撃前
出撃港
加賀「……」
ザザー ザザー……
龍驤「あー……随分な天気やな」
雷 「ひと雨来そうね……ちゃんと洗濯物取り込んでくれるかしら」
電 「響ちゃんがいるから大丈夫なのです」
龍驤「少しくらい暁のことも信用してやってやれや……」
榛名「雨……榛名の心も雨模様です……」
龍驤「えっと、どないしたん?」
北上「応募してたチケットが抽選で漏れたんだってさ」
龍驤「チケットォ? なんの」
北上「さあ、あたしは興味ないし」
榛名「楽しみにしていた、大好きな……大好きな女優さんの舞台だったんです……っ!」
北上「ヤフオクで買えばいいんじゃないの?」
榛名「そうなんです! そうなんですけど!」
榛名「定価の2倍3倍出さないといけないんです……また霧島に頼らないと」
龍驤「おいおい、なんや物騒な……」
77:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:44:09.52 ID:BgcXyfkQ0
ピンポンパンポーン
提督『あー、あー、聞こえるか』
提督『えーっと、本日の作戦も例のごとく近郊海域での深海棲艦の撃退です。皆さん怪我がないように頑張りましょう』
龍驤「やっぱ、緊張感のない放送やなあ」
提督『出撃する艦娘は加賀、龍驤、榛名、北上、雷、電。両隣を見て互いにきちんといるか確認してください。いない場合はすぐに知らせること』
雷「遠足みたいね」
提督『なお、今日の作戦の指揮権は旗艦である加賀さんに一任しておりますので、他の皆さんは加賀さんの指示にしたがってください』
提督『連絡は以上。改めて言うが、なるべく無理はしないように』
プツッ
龍驤「……ふぅ、さってと、ほな行こか、加賀やん」
加賀「……ええ」
加賀「出るわ」
……
78:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:45:02.30 ID:BgcXyfkQ0
加賀(ここに来てから何度目かの出撃。撃退作戦といっても、あちらからやってくるのを迎撃するだけの楽な作戦なのだけれど)
加賀(……温い。温すぎるわ)
加賀(こんなものは戦いじゃない。本当の戦いの激しさとは比べものにならない)
加賀(これは鎮守府を守るためだけの戦い。前まで私のしていた戦いは敵を殲滅する事)
加賀(だからこそ)
加賀「進撃します」
北上「ええっ」
龍驤「……はあ」
榛名「……了解です」
電「私、進撃するの初めてなのです」
雷「私も」
79:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:45:59.42 ID:BgcXyfkQ0
提督「……」
提督『……加賀、聞こえるか』
加賀「はい」
提督『進撃せずに帰還しろ、俺たちは進行してまで深海棲艦を倒す必要はない』
加賀「……進撃しなければ、深海棲艦は居なくなりません」
提督『そんな建前は別にいい』
提督『新劇の判断をしたのには、別の理由がある。そうだろ?』
加賀「……」
提督『なぜ必要にない進撃するんだ』
加賀「……戦わなければ、分からないんです」
加賀「戦うことで……私は満足できる。それを確かめたいんです」
提督『……はあ、加賀さんの考えは尊重したい』
提督『だが、自分のために他の艦娘までも危険に晒すのか?』
加賀「舐めないでください。こんな海域だったら私がいれば無傷で制圧できます」
加賀「それだけの力は、私にはありますので」
提督『……わかった。指揮権はお前にある。お前の指揮で行動しろ』
加賀「はい」
提督『ただし、一人でも沈む可能性がある場合はすぐに帰還すること。いいな』
加賀「了解です」
提督『……頼んだぞ』
加賀「……」
80:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:46:57.35 ID:BgcXyfkQ0
ポツッ ポツポツッ
龍驤「……降ってきてもうた」
加賀「陣形を崩さないよう、私が先頭を進むから付いて来て」
北上「……ちぇっ、運がなかったなぁ。今日出撃だったのは」
榛名「……」
電「こんなところまで来るのは初めてです……」
雷「雨が強くなりそうね……電、視界に気をつけて。私や加賀さんを見失わないようにしなさい」
電「うん……」
81:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:47:36.38 ID:BgcXyfkQ0
龍驤「……なあ、加賀やん」
加賀「無駄口は叩かないで」
龍驤「いや、せやけどな」
龍驤「……雨が降ってる日は、深海棲艦の動きが活発になるから、気をつけなきゃアカンで」
加賀「そんな迷信は聞いたこと無いわ」
龍驤「そりゃ、ここの鎮守府だけのことやからな」
龍驤「ここに提督と来たときにな、過去の記録を見たんやけど」
龍驤「度々居るはずのない深海棲艦との戦闘記録が残ってるんや。それも、雨の日に限って」
加賀「……そんな」
龍驤「別に加賀やんの指示に反対するっちゅうわけやない。ただ頭に入れといてな」
加賀「ええ……」
82:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:48:20.49 ID:BgcXyfkQ0
ザー! ゴロゴロ……
加賀「カミナリ……」
加賀「……さすがに帰還することも考えなくちゃダメね」
ドーンッ!!
加賀「何っ!?」
榛名「敵による雷撃を確認しました!」
雷「……潜水艦よ!!」
加賀「くっ! 隊列を組み直して、龍驤は偵察機を」
龍驤「もうやっとるわ!」
加賀「いいわ。北上と駆逐艦は潜水艦へ雷撃」
北上「おっけー」
雷「わかったわ!」
電「やるのです!」
龍驤「加賀やん! 敵艦隊を見つけたわ!」
龍驤「敵、潜水艦2艦、駆逐艦3艦確認……なんやて!?」
加賀「どうかしたの?」
龍驤「空母も1艦確認……やと」
加賀「……わかったわ」
加賀「北上、駆逐艦は潜水艦へ、龍驤と榛名は敵駆逐艦を」
龍驤「空母は」
加賀「私がやるわ」
………
83:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:49:04.35 ID:BgcXyfkQ0
ザァー……
龍驤「……一時はどうなるかと思ったけど、皆無事で万々歳や」
榛名「……榛名は大丈夫じゃないです」
北上「かすり傷でしょ。大丈夫大丈夫」
榛名「敵の駆逐艦に傷を負わされるとは、榛名の戦艦としてのプライドは中破同然です……」
電「だ、大丈夫? お姉ちゃん」
雷「電こそ!」
電「う、うん……でも、あんな戦闘は初めてだったのです」
雷「初めてで潜水艦撃破したんだから凄いわ! あとで暁や響に自慢できるわね!」
電「うん!」
龍驤「雷と電も平気そうやな……さて、あとは加賀やんやな」
電「加賀さん、やっぱり格好良かったのです!」
雷「空母を一撃で倒しちゃうんだもの!」
龍驤「ああ、せやったな。ところでその加賀やんは?」
雷「あっちにいるわ。何か考え事でもしてるのかしら……呼んでくるわ!」
84:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:49:45.84 ID:BgcXyfkQ0
ザァー……
加賀「……」
加賀(久々に、『戦った』と感じられた)
加賀(以前は毎日、出撃の度にこんな戦いばかりしていたはずなのに。それがもう懐かしく感じた)
加賀(前はそれで充実していた……そう思っていた)
加賀(何か……進行して、戦うことで何か感じることが出来る。だから今日は提督に指揮権を貰ったのに)
加賀「……何も、感じなかった」ボソッ
加賀「……戦うことが私の『幸せ』だと、思っていたはずなのに」ブツブツ
加賀「戦うことで、自分はより『戦いたい』と思うと思ったのに」ブツブツ
加賀「私には『戦うこと』しかないと思っていたのに」ブツブツ
加賀「なのに」
加賀「……戦ったところで、何も感じなかった」
加賀「……もっと戦いたいと思わなかった」
加賀「……深海棲艦を滅ぼさなければならないと思わなかった」
加賀「……居たから倒しただけ、あちらから攻撃してきたから」
加賀「……」
加賀「……私はこれまで、『幸せ』ではなかったの?」
加賀「私は、戦うことで『幸せ』にはなれない」
85:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:51:08.89 ID:BgcXyfkQ0
ザァー…… …ブゥーン ゴロゴロ… ピシャァーーーー!!
雷「加賀さーん……っ!! 加賀さん!!」
加賀「……えっ?」
ド――ン!!
86:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 14:54:03.68 ID:BgcXyfkQ0
………
『いいか? お前等は戦うために生まれたんだ』
『海へ出て、私の言われた通りに動き、深海棲艦どもを海から無くすために戦うんだ』
『そして、そのために君の役割は』
『『沈むこと』だ』
『君が敵の攻撃を引き受けることによって、他の艦への被害を最小限に保ち、より先の海域まで進めるのだ』
『君は『沈むため』に生まれたんだ。わかるね?』
「ふざけないでください」
『……なんだ、お前は』
「そんなものはあなたの力不足なだけです。沈まなければならないのは、あなたがそのような拙い作戦しか立てられないからです」
『貴様……艦娘の分際で私に意見するつもりか』
「真実を言ったまでです」
「私は……私たちは、『沈むため』に生まれたのではありません」
「私たちには、生きる理由があります。あるはずです」
………
87:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:04:00.56 ID:BgcXyfkQ0
加賀(全てが無音に感じた)
加賀(鎮守府に帰ったとき、私と榛名は小破、雷だけが大破して一人では動けない状態になっていた)
加賀(心配した提督が雷をすぐにドックへと運び入れた。電はずっと小さく泣いていた)
加賀(何もかもが遠くに見えた)
加賀(雲に紛れた敵艦載機は、最期に私に突っ込んできたようだった。直撃を免れたのはギリギリで盾になってくれた雷のおかけだった)
加賀(その場で意識を失って、私はすぐに目を覚ましましたが、雷はそのまま。鎮守府のドックに入るまで気を失ったままでした」
加賀「それから、私たちは雷を連れて帰還した次第です。今回の作戦での失態についての報告は以上になります」
提督「……なるほど」
加賀「……」
提督「加賀さんに指揮権を与えたのは俺だ。今回の『事故』の責任は俺にもある。すまなかった」
提督「それで、加賀さん。雷が大破してまで完遂させた作戦で、君はなにか見つけることができたか?」
88:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:05:23.35 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……何も見つかりませんでした」
提督「……そうか」
加賀「……」
提督「……」
加賀「……『戦い』に、私は何かを見つけることが出来ませんでした」ポロッ
加賀「わたしが、これまでやってきたことは何だったんでしょうか」ポロポロ
加賀「ヒクッ わ、わたしの、唯一の取り柄だとおもっていた戦闘でも、ヒクッ 雷に助けて貰わなければ、私が大破していたような結果です」ポロポロ
加賀「もっと冷静に考えれば、進撃する必要なんてなかった……ヒックッ 龍驤の忠告を聞いていれば、深海空母に遭遇することなんてなかった……」ポロポロ
加賀「わたし、は、ヒクッ 自信を持っていた戦いで……ヒック、生きる意味だと思っていた戦いも、ロクにできないんです」ポロポロ
加賀「私、わたしは……何のために、これまで生きてきたのか、よくわからなくなってしまいました」ポロポロ
提督「……加賀さん」
提督「疲れているんだ。今日は休んで、落ち着いたら雷の所へ行ってあげなさい」
加賀「ヒック は、はい……」
提督「それに、どんなことがあっても、加賀さんの居場所はここにある」
提督「今後のことを考えるのは、ゆっくりでいいから」
加賀「……はい」
……
89:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:07:39.39 ID:BgcXyfkQ0
次の日
ドック
雷「もー、みんな気にしないでってば」
暁「はいはい、気にしてないから、いまは大人しくしていなさい雷」
響「珍しくお姉さんしてるね、暁」
暁「め、珍しくもなにもお姉さんなんだから!」
雷「うー……、私のことは気にしないで、行ってくれて良かったのに」
電「そんなことできないです! 行くならみんな揃って、なのです!」
暁「あったりまえじゃない!」
雷「むぅ……なんだか気を使われるのは慣れないわね……」
響「慣れなくても受け入れるんだ」
雷「……はーい」
……
90:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:08:40.50 ID:BgcXyfkQ0
ドック入り口の物陰
加賀「……何と言って中に入ればいいんでしょう」
鳳翔「あら? 加賀さん。どうしたんですか、こんな所で?」
加賀「鳳翔さん……ええっと、その……」
鳳翔「? ああ、雷ちゃんのお見舞いですか」
加賀「お見舞い……いえ、まあお見舞い……でもあると思うんですが……」
鳳翔「だったら、中に入ったらどうです。そんな入り口の物陰に隠れていないで」
加賀「そ、それはそうなんですが……その」
加賀「……どんな顔して、なんと声を掛けて入るべきかと思って、それで……」
鳳翔「……謝りたいんじゃないんですか?」
加賀「それは、はい……そうなのですけど……。えっ? なぜ鳳翔さんがそのことを?」
鳳翔「知ってますよ。加賀さんが無理に進撃したせいで雷ちゃんが大破してしまったんでしょう? 提督にお聞きしたんです」
加賀「うぐっ……え、ええ、その通りです」
鳳翔「加賀さん、私少し怒っているんですよ?」ニコニコ
加賀(怖い……)
91:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:09:44.28 ID:BgcXyfkQ0
鳳翔「自分の無茶のせいであなたに従った娘が大破したこと、キチンと考えてください」
鳳翔「……加賀さんにも色々あるのは分かります。ですが、まだ未熟な娘を巻き込まないであげてくださいね」
加賀「はい……。あの作戦は完全に私の不手際でした」
鳳翔「……いえ、私の方が練度も経験も少ないのに、偉そうなことを言ってすみませんでした」
加賀「いいえ、優しくされるよりはいいわ」
鳳翔「ありがとうございます」ニコッ
加賀「鳳翔さんもお見舞いですか?」
鳳翔「ええ」
加賀「それは?」
鳳翔「これですか? これはお弁当ですよ雷ちゃんたちの」
加賀「お弁当?」
鳳翔「はい。今日、第六駆逐艦隊は時雨さんと一緒に鎮守府の裏の丘でスケッチをする予定だったので、持って行くお弁当を頼まれていたんです」
加賀「……なるほど」
鳳翔「でも雷ちゃんの入渠が長引くようなので、スケッチは中止したそうですよ」ニコニコ
加賀「うっ……ごめんなさい」
92:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:10:18.56 ID:BgcXyfkQ0
鳳翔「ふふっ、意地悪なことを言ってすみません」ニコニコ
鳳翔「それで、持って行く予定だったお弁当はもう昨日から下拵えをしてしまっていたので、どうせなら雷ちゃんたちに食べて貰おうと思って」
加賀「……なんだか、ほとほと私は周囲をかえりみずに進撃したのだと、思い知らされるわ」
鳳翔「そうお思いになれるなら、いいんですよ」
加賀「ですが、雷は許してくれるでしょうか」
加賀「なんだかそう考えていると中に入りにくいんです」
鳳翔「まあ、ふふっ。そんなに気負いしなくても大丈夫ですよ」
鳳翔「第六駆逐艦隊の娘たちはみんな優しいいい子ですから」
加賀「……そう、でしょうか」
鳳翔「そうですよ! はい」トンッ
加賀「えっ? あっ……」
……
93:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:11:01.87 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……」
加賀「あの、」
加賀「お、お見舞いと……その、謝罪と、助けて貰った感謝をといいますか」
雷「えっ? 謝罪?」
加賀「あの、ですから、あなたを大破させてしまったことで」
雷「そんなこと謝らなくってもいいのよ!」
雷「旗艦を守るなんて当然じゃない! むしろ私や電が無傷で加賀さんが大破していたら、それこそ問題よ」
加賀「そう、でしょうか」
雷「そうよ!」
電「そうなのです!」
加賀「……なら」
加賀「守ってくれて、ありがとう」ペコッ
雷「わわっ、頭も下げなくていいから」
鳳翔「まあまあ。受け取ってあげてください」
雷「えー……な、なんかくすぐったいわね」
暁「えーっと、つまりどういうことなの?」
響「一種のケジメ、ってことだね」
94:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:12:45.63 ID:BgcXyfkQ0
鳳翔「あっ、これ皆さんで食べてください。頼まれていたお弁当、持ってきました」
雷「そう! 鳳翔さん聞いて! 今日は私抜きでもスケッチ行ってきなさいって言ってるのに暁達が」
暁「雷を置いていくわけないわ」
雷「って言って聞かないの!」
鳳翔「まあ、仲良しですね」
電「気を使われたって、みんなで行かなきゃ楽しくないのです!」
響「今日は休もう。鳳翔さん、お弁当ありがとう」
暁「あとで雷と一緒に食べるわ」
電「せっかく作って貰ったのです。いただきます、なのです」
鳳翔「はい、入れ物はあとで返してくれればいいですから」
雷「洗って返すわ」
暁「……あの、鳳翔さん」
鳳翔「ん? どうかしました?」
暁「その、今度、改めてまたスケッチに行くときもお弁当作ってくれない、かしら」
鳳翔「ええ、もちろんいいですよ。……あっ」チラッ
加賀「?」
鳳翔「雷ちゃん、ちょっと……」
ゴニョゴニョ
雷「えっ、いいのかしらそんなこと」
鳳翔「大丈夫ですよ」
加賀(……何かしら)
95:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:13:25.76 ID:BgcXyfkQ0
雷「……えっと、こほん」
雷「あの、加賀さん」
加賀「はい?」
雷「えーっと、もし私達に申し訳ないと思っているなら」
雷「今度、私たちと一緒にスケッチに行くこと、いい?」
加賀「……」
雷「……」
加賀「……そんなことでいいのなら」
雷「やったぁ!」
電「加賀さんと一緒、楽しみです!」
加賀「ふふっ」
鳳翔「よかったですね」
加賀「ええ」
鳳翔「それで、ですね加賀さん」
加賀「? なにかしら」
鳳翔「私のお願いも聞いてくれませんか」
加賀「……ええ、もう何でも聞いてあげるわ。今だったら」
鳳翔「じゃあ――」
…………
96:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:14:52.38 ID:BgcXyfkQ0
夜
食堂
赤城「お弁当を作るんですか?」
加賀「……」
赤城「加賀さんが?」
鳳翔「ええ」ニコニコ
赤城「それは、なんと」
加賀「……なにか言いたいことがありますか?」
赤城「いえいえ」
鳳翔「まあ、私もお手伝いしますので……。あっ、赤城さん、シメにお茶漬けでも作りますか?」
赤城「あ、お願いします」
鳳翔「よかったです。赤城さんに食べてもらえれば残ったご飯全部無くなります」
加賀(明らかにシメのお茶漬けで食べる量じゃない……)
赤城「それで、私も食べられるんですか? 加賀さんのお料理」
加賀「残念ですが、作るのは第六駆逐艦隊のためのお弁当だけですので」
赤城「あらあら、それは残念です」
鳳翔「でも、加賀さん、どういう風の吹き回しですか? 随分快く雷ちゃんたちのお願いも聞いて」
加賀「それは、あの……お詫びですから」
97:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:16:21.92 ID:BgcXyfkQ0
鳳翔「それだけですか……? なにか心境の変化とかあったんじゃないですか?」
加賀「心境の変化……?」
赤城「……」
加賀「……そう、ですね」
加賀「……」
鳳翔「……あー、すみません。私、提督にお夜食を持って行く約束があったので、少し外します」タッタッタ
赤城「……」
加賀「……」
赤城「何かあったんですね」
加賀「……すみません。まだ上手く切り替えが出来てませんでした」
加賀「鳳翔さんにも気を使って貰って、申し訳ないですね」
赤城「……話せますか? 何があったのか」
加賀「……いえ、そんな」
赤城「切り替えが、上手くできていないんですよね。何を、どう切り替えるつもりなんですか?」
加賀「……」
赤城「……別に言いたくないなら仕方がありません」
赤城「でも、言っていただければ……少し軽くなると思いますよ」
加賀「……そう、でしょうか」
赤城「はい」
加賀「……」
98:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:17:45.92 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……昨日の出撃で、ですね。その、何と言いますか」
加賀「私はこれまで『戦うこと』が『生きがい』だと思っていたんです」
加賀「『生きがい』というものがどういうものなのか、なんとなくここの鎮守府の人たちを見て理解したつもりでした」
赤城「……どういうものだと加賀さんは思いますか?」
加賀「……出来なくても生きてはいける、でも出来なくなったら悲しいもの」
加賀「夢中になれるもの。自分自身の拠り所になれるもの。やっている自分が好きになれる、認められるもの……」
加賀「自分が『幸せ』だと感じるもの」
加賀「色々です。『生きがい』にも人それぞれの有り様がありました」
赤城「……そうですね。一概にできるような単純な物じゃないです」
加賀「……私はそれらの『生きがい』が羨ましかったのかもしれません」
加賀「だからこそ、これまでの自分がやってきた『戦うこと』こそが私の『生きがい』だと思った。そう思いたかったんです」
加賀「私にも『生きがい』があるんだと」
加賀「確固たる自分があるんだと」
加賀「思いたかったんです」
99:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:18:54.03 ID:BgcXyfkQ0
加賀「それを確認するために、昨日の出撃で進撃し、能動的に戦いの場へと自分を連れて行ったんです」
加賀「そこで、完璧に戦うことが出来たら……。戦いの中で充実した自分を見つけられたら。戦うことで自分は幸せであると感じられたら」
加賀「『戦うことこそが私の生きがいだ』と、断言できたかもしれません」
赤城「……なるほど」
赤城「逆に、加賀さんにとって『戦うことこそが生きがい』ではなかったということを、確認してしまったんですか」
加賀「……はい」
加賀「……私には『生きがい』なんて無かったんです」
加賀「私には確固たる『私』なんてなかったんです」
加賀「前の鎮守府では『加賀』としての存在でしかなかったから、ただがむしゃらに戦っていました」
加賀「だからでしょう。いつの間にか正規空母の『加賀』の持つ役割が、『私』の『生きがい』だと錯覚していたんです」
赤城「……」
100:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:21:43.67 ID:BgcXyfkQ0
加賀「でも『加賀』は『加賀』です。『私』ではない」
加賀「……私は『私』の生きる意味を見つけたい。そう思ったんです」
赤城「……なるほど」
加賀「ですから、ここで戦い以外の『生きがい』を探そうと、そう思って色々やろうと思ったんです」
赤城「……そう思ったはいいけど、上手くその意識に対応出来ないと。そういうことですか」
加賀「……はい」
加賀「で、でも大丈夫です。今はそれほど時間が無かっただけで、そのうち……この考え方に慣れるものと思いますから」
加賀「心配しないでください……」
赤城「……」
赤城「加賀さん」
加賀「……はい」
赤城「私は『赤城』です。でも、『赤城』の持っている役割を果たすことが出来ません」
加賀「……ですが、赤城さんには確固たる『自分』があります」
101:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:22:26.65 ID:BgcXyfkQ0
赤城「……そうですね。今の私に満足していない、そういうわけではありません。でも」
赤城「加賀さん、私はあなたが羨ましいんです」
加賀「……赤城さん?」
赤城「自分自身の『生きがい』を探すこと、それはいいことです。でもあなたは同時に、『加賀』としての役割をこなすこともできる」
赤城「私のようなものは、どうしても捨てなくちゃならなかった。存在できなかったんです」
赤城「私には『赤城』として生きることは、頑張ってもできなかった。だから、『私』しか存在できなかったんです」
赤城「確固たる『自分』がある、というのも現在だから言えることです」
赤城「『赤城』としての役割をこなせず、同時に『私』すらも手放そうとしていたところを助けて貰ったんです」
赤城「そこで『私』は『私』でしかないと思うしかなかった」
赤城「でも、加賀さん」
加賀「……はい」
赤城「あなたは『加賀』としての存在を捨てる必要なんて無いんですよ」
102:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:23:26.63 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……ですが」
赤城「あなたは『加賀』であり、『加賀さん』であることも出来るんです」
赤城「あなたは『加賀』であることを否定しなくていいんです」
赤城「あなたは『加賀』を否定しなくてはいけないと思っているようですが、そんなことはありません」
赤城「無理してまで『加賀』であることを否定しなくてもいいんです」
赤城「『加賀』として生きてきたんです。それを否定してしまっては、加賀さんのこれまでの人生を否定してしまうことになります」
103:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:24:31.76 ID:BgcXyfkQ0
加賀「……いいんでしょうか」
加賀「『戦うこと』に生きてきた、空母としての役割を持つ『加賀』も、『私』であると」
加賀「戦いに生きる私も、これから新たな生きがいを探そうとする『私』も」
加賀「全て『私』だと」
加賀「そう思って……そう生きていいんでしょうか」
赤城「……それを決めるのは『あなた自身』です」
加賀「そう、ですね」
赤城「私に加賀さんの生き方を決める権利なんてありませんから」
加賀「……私は、私の生き方を決められるんですね」
104:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:25:07.23 ID:BgcXyfkQ0
赤城「はい……。ここは、そういう生き方が出来る場所です」
赤城「艦娘が、個人としてい生きていくことを推奨しています」
赤城「だからでしょうね。提督は『君たち艦娘に『文化的生活』を送ってもらいたい』と、いつも言うのは」
加賀「……文化的生活」
赤城「はい」
加賀「……艦娘としての『戦い』とは別に、『自分自身』のやりたいことを探す。それを通して『自分』を見つけよ、ということですかね」
赤城「なるほど。加賀さんはそう思いますか」
加賀「……赤城さんは違うんですか?」
赤城「来た当初は、『私が無能だから何かしら取り柄を見つけろ』と暗に言われているのだと思いました」
……
105:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:25:58.03 ID:BgcXyfkQ0
エピローグ
106:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:26:41.97 ID:BgcXyfkQ0
後日
食堂
加賀「ちょっ、ちょっと、提督。何をやっているんですか」
提督「いや、面白いものが見られると赤城から聞いてな」
提督「確かにコレは面白い」
加賀「赤城さん……」
提督「それで、どういう事だい? なんでこんな事に?」
鳳翔「うふふ、雷ちゃんに庇って貰ったお礼に、お弁当を作るんですよ」
提督「へぇ、だから割烹着なんか着てるわけか」
加賀「……あまり、ジロジロ見ないでください。気が散ります」
鳳翔「あらあら、ですって。提督」
提督「あー、もう少しだけ」
鳳翔「もう、仕方ないですね」
加賀「……鳳翔さんが決めないでください」
提督「いやー、でもなんだか感慨深いね」
加賀「……どういうことがかしら?」
提督「ウチに来た当初はもっと眉間に皺寄せて、気難しそうな顔してたのに」
加賀「眉間に皺なんて寄せてません」
提督「今じゃ割烹着着てお弁当作りか……」
加賀「……そうですね。ここに来なければこんな経験する事無かったでしょうね」
提督「……加賀さん」
加賀「何かしら、忙しいのだから手早くお願い」
提督「一枚、撮っていいかな」
加賀「えっ、それは」
鳳翔「どうぞどうぞ♪」
加賀「鳳翔さん!」
パシャッ
107:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:27:22.88 ID:BgcXyfkQ0
加賀「あっ」
提督「ははっ、やっぱりな」
加賀「……なに、なにか言いたいことでも?」
提督「いや」
提督「加賀さんもイイ表情をするようになったな、って」
提督「前に丘で撮った写真はキリッとしててカッコイいけど、俺はいまの写真の方が好きだな」
加賀「……別にどっちでもいいわ」
提督「ねえ、加賀さん」
提督「今の写真の加賀さんと、前の写真の加賀さん。本当の加賀さんはどっちなのかな」
加賀「……はあ」
加賀「何を言っているんですか」
加賀「どちらも、私ですよ」
108:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/18(月) 15:29:48.49 ID:BgcXyfkQ0
おしまい
気が向いたらこの鎮守府のお話の番外編でも書きたいと思います。
お目汚し失礼しました。HTML化依頼してきます。
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1468813851/
Entry ⇒ 2016.07.18 | Category ⇒ 艦隊これくしょん | Comments (1) | Trackbacks (0)
【ガルパン】まほ「準優勝の打ち上げをしよう」
1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:16:54.14 ID:SuLGWfar0
まほ「準優勝の打ち上げだ」
みほ「…………」
エリカ「…………」
赤星「…………」
まほ「…………」
まほ「準優勝の打ち上げだ」
みほ「…………」
エリカ「…………」
赤星「…………」
まほ「…………」
2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:18:43.90 ID:SuLGWfaro
みほ「…………」
エリカ「…………」
赤星「…………」
店員「お待たせしました!馬刺しになります!」
まほ「どうも……」モグモグ
エリカ「…………」モグモグ
赤星「…………」モグモグ
みほ「美味しい……」モグモグ
3:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:20:29.56 ID:SuLGWfaro
エリカ「っ!?」モグモグ
エリカ「なにが美味しいよ!誰のせいで準優勝になったと思ってるの!!」モグモグモグモグ
みほ「ひっ……」モグモグ
赤星「うう……」モグモグ
まほ「今日はそういうのは無しにしようと言ったろ」モグモグ
まほ「それに準優勝なら立派なものさ」モグモグ
エリカ「す、すみません……」モグモグ
赤星「…………」モグモグ
みほ「…………」モグモグ
4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:21:48.20 ID:SuLGWfaro
まほ「…………」
みほ「…………」
エリカ「…………」
赤星「…………」
5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:23:05.43 ID:SuLGWfaro
まほ「…………」
みほ「…………」
エリカ「…………」
赤星「…………」
店員「お待たせしました!こちら辛子レンコンになります!」
まほ「どうも……」シャクシャク
みほ「…………」シャクシャク
赤星「…………」シャクシャク
エリカ「…………」シャクシャク
6:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:24:48.76 ID:SuLGWfaro
まほ「…………」シャクシャク
みほ「…………」シャクシャク
エリカ「…………」シャクシャク
赤星「あっ、最後のひとつ……」
エリカ「っ!?」シャクシャク
エリカ「何が最後のひとつよ!最後の最後であなたが!!」シャクシャクシャクシャクシャク
まほ「エリカ」シャクシャク
エリカ「す、すみません。ついカッとなりました……」シャク
赤星「…………」
7:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:25:52.54 ID:SuLGWfaro
まほ「…………」
みほ「…………」
赤星「…………」
エリカ「…………」
8:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:26:46.35 ID:SuLGWfaro
まほ「…………」
みほ「…………」
赤星「…………」
エリカ「…………」
店員「お待たせしました!こちら熊本ラーメンになります!えーっと……」
まほ「こっちです」
店員「どうぞ!」
まほ「どうも……」ズズッ
みほ「…………」
赤星「…………」
エリカ「…………」
9:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:27:58.03 ID:SuLGWfaro
まほ「…………」ズズッ
みほ「…………」ゴクリ
赤星「…………」ゴクリ
エリカ「……た、隊長。ひと口もらえないでしょうか?」ゴクリ
まほ「っ!?」ズズッズズ-
まほ「食べたいなら頼めば良いだろう!?なんで私のを!」ズズッズズッ-ズズッ
エリカ「一杯はいらないというか……その」
まほ「……ひと口だけだぞ」
エリカ「ありがとうございます!」ズズッズズ-
みほ「わ、わたしも……ひと口……欲しいな…なんて」
まほ「……ああ」
赤星「私もお願いします!」
まほ「……好きにしろ」
みほ・赤星「ありがとうございます!」ズズッズズ-ズズッズズッ
まほ「……もう無いじゃないか。はあ……」
10:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:28:30.65 ID:SuLGWfaro
まほ「…………」
みほ「…………」
赤星「…………」
エリカ「…………」
11:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:34:02.76 ID:SuLGWfaro
まほ「…………」
みほ「…………」
赤星「…………」
エリカ「…………」
店員「お待たせしました!こちらハンバーグになります!」
エリカ「はい!」
店員「ど、どうぞ」
エリカ「ありがとう!」パクパクパクパクパクパクパクパク
エリカ「ふう。ここのは結構美味しいわね」
まほ「っ!?」
まほ「それはないだろう!さっき、ひと口あげたんだから、ハンバーグをちょっとくれたっていいだろ!?」
エリカ「え?」
みほ「?」
赤星「?」
まほ「…………」
12:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:34:39.00 ID:SuLGWfaro
まほ「…………」
みほ「…………」
赤星「…………」
エリカ「…………」
13:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:35:11.37 ID:SuLGWfaro
まほ「…………」
みほ「…………」
赤星「…………」
エリカ「…………」
店員「お待たせしました!こちら冷酒になります!」
赤星「っ!?」
赤星「未成年!私たち未成年ですから!!誰が頼んだんですか!?」
みほ「…………」
まほ「…………」
エリカ「…………」
店員「で、ではキャンセルでよろしいでしょうか?」
赤星「すみません……」
14:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:36:37.86 ID:SuLGWfaro
まほ「…………」
みほ「…………」
赤星「…………」
エリカ「…………」
まほ「…………」
みほ「…………」
赤星「…………」
エリカ「…………」
まほ「……解散するか」
エリカ「はい……」
赤星「そうですね……」
みほ「うん……」
こうして西住みほは熊本を去ったのであった
完
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1468577813/
みほ「…………」
エリカ「…………」
赤星「…………」
店員「お待たせしました!馬刺しになります!」
まほ「どうも……」モグモグ
エリカ「…………」モグモグ
赤星「…………」モグモグ
みほ「美味しい……」モグモグ
3:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:20:29.56 ID:SuLGWfaro
エリカ「っ!?」モグモグ
エリカ「なにが美味しいよ!誰のせいで準優勝になったと思ってるの!!」モグモグモグモグ
みほ「ひっ……」モグモグ
赤星「うう……」モグモグ
まほ「今日はそういうのは無しにしようと言ったろ」モグモグ
まほ「それに準優勝なら立派なものさ」モグモグ
エリカ「す、すみません……」モグモグ
赤星「…………」モグモグ
みほ「…………」モグモグ
4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:21:48.20 ID:SuLGWfaro
まほ「…………」
みほ「…………」
エリカ「…………」
赤星「…………」
5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:23:05.43 ID:SuLGWfaro
まほ「…………」
みほ「…………」
エリカ「…………」
赤星「…………」
店員「お待たせしました!こちら辛子レンコンになります!」
まほ「どうも……」シャクシャク
みほ「…………」シャクシャク
赤星「…………」シャクシャク
エリカ「…………」シャクシャク
6:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:24:48.76 ID:SuLGWfaro
まほ「…………」シャクシャク
みほ「…………」シャクシャク
エリカ「…………」シャクシャク
赤星「あっ、最後のひとつ……」
エリカ「っ!?」シャクシャク
エリカ「何が最後のひとつよ!最後の最後であなたが!!」シャクシャクシャクシャクシャク
まほ「エリカ」シャクシャク
エリカ「す、すみません。ついカッとなりました……」シャク
赤星「…………」
7:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:25:52.54 ID:SuLGWfaro
まほ「…………」
みほ「…………」
赤星「…………」
エリカ「…………」
8:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:26:46.35 ID:SuLGWfaro
まほ「…………」
みほ「…………」
赤星「…………」
エリカ「…………」
店員「お待たせしました!こちら熊本ラーメンになります!えーっと……」
まほ「こっちです」
店員「どうぞ!」
まほ「どうも……」ズズッ
みほ「…………」
赤星「…………」
エリカ「…………」
9:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:27:58.03 ID:SuLGWfaro
まほ「…………」ズズッ
みほ「…………」ゴクリ
赤星「…………」ゴクリ
エリカ「……た、隊長。ひと口もらえないでしょうか?」ゴクリ
まほ「っ!?」ズズッズズ-
まほ「食べたいなら頼めば良いだろう!?なんで私のを!」ズズッズズッ-ズズッ
エリカ「一杯はいらないというか……その」
まほ「……ひと口だけだぞ」
エリカ「ありがとうございます!」ズズッズズ-
みほ「わ、わたしも……ひと口……欲しいな…なんて」
まほ「……ああ」
赤星「私もお願いします!」
まほ「……好きにしろ」
みほ・赤星「ありがとうございます!」ズズッズズ-ズズッズズッ
まほ「……もう無いじゃないか。はあ……」
10:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:28:30.65 ID:SuLGWfaro
まほ「…………」
みほ「…………」
赤星「…………」
エリカ「…………」
11:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:34:02.76 ID:SuLGWfaro
まほ「…………」
みほ「…………」
赤星「…………」
エリカ「…………」
店員「お待たせしました!こちらハンバーグになります!」
エリカ「はい!」
店員「ど、どうぞ」
エリカ「ありがとう!」パクパクパクパクパクパクパクパク
エリカ「ふう。ここのは結構美味しいわね」
まほ「っ!?」
まほ「それはないだろう!さっき、ひと口あげたんだから、ハンバーグをちょっとくれたっていいだろ!?」
エリカ「え?」
みほ「?」
赤星「?」
まほ「…………」
12:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:34:39.00 ID:SuLGWfaro
まほ「…………」
みほ「…………」
赤星「…………」
エリカ「…………」
13:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:35:11.37 ID:SuLGWfaro
まほ「…………」
みほ「…………」
赤星「…………」
エリカ「…………」
店員「お待たせしました!こちら冷酒になります!」
赤星「っ!?」
赤星「未成年!私たち未成年ですから!!誰が頼んだんですか!?」
みほ「…………」
まほ「…………」
エリカ「…………」
店員「で、ではキャンセルでよろしいでしょうか?」
赤星「すみません……」
14:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/15(金) 19:36:37.86 ID:SuLGWfaro
まほ「…………」
みほ「…………」
赤星「…………」
エリカ「…………」
まほ「…………」
みほ「…………」
赤星「…………」
エリカ「…………」
まほ「……解散するか」
エリカ「はい……」
赤星「そうですね……」
みほ「うん……」
こうして西住みほは熊本を去ったのであった
完
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1468577813/
Entry ⇒ 2016.07.16 | Category ⇒ ガールズ&パンツァー | Comments (1) | Trackbacks (0)
モバP「先輩の道程」
1:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 00:00:16.83 ID:9w2QCgJE0
てくてくてく・・・
アヤ「オース泰葉ー」
こずえ「おっすー…」
泰葉「おはようございます」ペコ
アヤ「仕事?」
泰葉「はい。今戻ってきたところです」
てくてくてく・・・
アヤ「オース泰葉ー」
こずえ「おっすー…」
泰葉「おはようございます」ペコ
アヤ「仕事?」
泰葉「はい。今戻ってきたところです」
2:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 00:10:39.59 ID:9w2QCgJE0
アヤ「時間空いてるか? ちょっとでいいんだけどさ」
泰葉「ええ、この後はオフなので……」
アヤ「助かった! いやあ、ちょっと服のことでさあ……」
泰葉「服、ですか?」
アヤ「そうそう! で、アタシ今度格闘誌に載せてもらえることになったんだけどな?」
泰葉「それは…おめでとうございます」ニコ
アヤ「おう! で……『格闘女子』って触れ込みで載ることになったんだよな」
アヤ「そんで『なるべくガーリーな感じでお願いしまーす』なんて言われたはいいけど、アタシそんなの分かんないし……」
アヤ「泰葉ってモデルもやってたんだよな? 相談乗ってくれ、頼む!」
泰葉「なるほど……私でよければ」
アヤ「ありがと、助かった!」
3:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 00:18:03.89 ID:9w2QCgJE0
――――
泰葉「――折角ですからここも強調していく感じで…」
アヤ「お、おおう……アタシこんなの着て大丈夫か……?」
泰葉「もちろん。アイドルなんですから」
アヤ「そ、そうか? うん、そうだよな!」
こずえ「たのしみだねー…」
アヤ「ああ。ありがとな、泰葉」
泰葉「いえ、参考になれば」
アヤ「それと誕生日おめでとさん! これプレゼントな」
泰葉「……って?」
アヤ「こずえと選んだんだ。美味いぞ!」
泰葉「あ…ありがとうございます」
アヤ「プロデューサーなら今は資料室にいるから。そんじゃあな!」
こずえ「またねー」バイバイ
泰葉「は、はあ……」フリフリ
4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 00:21:39.01 ID:9w2QCgJE0
泰葉「……?」テクテク
ギャーワー
清美「もー! いい加減出てきてくださいよ!」グイグイ
乃々「てこでも動きませんけど……!」
清美「特番に穴を開けるつもりですかぁ……!!」グイグイ
乃々「放っといてぇー……!」グググ
5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 00:27:18.69 ID:9w2QCgJE0
泰葉「どうしたんですか?」
清美「ああ助かった! ほら乃々さん、泰葉さんですよ!」
乃々「いーやぁー……」
清美「乃々さんってば、『CD収録したんだからこれ以上は勘弁して』って頑として動いてくれないんです!」
清美「CD出すからこそ仕事が増えるんでしょうが……!」グググ
乃々「一生分やり尽くしたんですけどぉ……!!」グギギ
泰葉「……」フム・・・
6:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 00:36:21.02 ID:9w2QCgJE0
泰葉「乃々さん」
乃々「うう……」チラ
泰葉「お仕事、楽しくないですか?」
乃々「い、いえ……そういうワケでは……」
乃々「ただ……いくらなんでも責任が重すぎて……」
泰葉「……たとえば、一人だけが見ているのなら頑張れる?」
乃々「そ、それくらいなら……なんとか」ゴニョゴニョ
泰葉「じゃあその誰か一人を思い浮かべて、その一人のために頑張ってみて」
泰葉「そしたら自然と、そうやってリラックスしてる乃々さんのことを、乃々さんのことを好きな皆が見てくれるから」
乃々「うぅ……」
7:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 00:42:56.04 ID:9w2QCgJE0
乃々「い、行ってきます……」ヒョコリ
清美「そ、そうですか……それならよかった」
泰葉「それに、緊張してるくらいでいいかもね。そういう所も好かれてるんだから」
乃々「あう……。あ、それと岡崎さん誕生日おめでとうございます……これ」
清美「私からも。伊達眼鏡にこだわりがあるということだったので!」
泰葉「わ、ありがとうございます……こだわり?」
清美「え? だって春菜さんが……」
泰葉「ああ、そういう……ふふっ、ありがとうございます」
清美「さ、乃々さん! ついて行ってあげますから!」
乃々「や、やっぱりもりくぼはぁ…………」
清美「ダメです行きましょうー! じゃあすみません、私達はこれで!」
泰葉「行ってらっしゃい」ニコ
清美「それと、プロデューサーさんなら資料室だと思いますよー!」
泰葉「は、はぁ……」
8:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 00:48:28.96 ID:9w2QCgJE0
泰葉「乃々さんのプレゼント……後にしておこう」テクテク
ウーンウーン
桃華「台本の通りに進んだ筈なのに……」
薫「うーんと、うーんと……」
小春「一体どうしたらいいんでしょう~?」
9:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 00:52:44.85 ID:9w2QCgJE0
泰葉「どうしたの?」
桃華「あら、泰葉さん」
薫「あのね、ももかちゃんがドラマですっごく困ってるんだってー!」
小春「小春たちでがんばって考えてるんですけど~……」
泰葉「どのシーン? 力になれるといいけど……」
桃華「いえ、どのシーンと言いますか……」
10:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 00:59:44.15 ID:9w2QCgJE0
泰葉「――どうも監督さんのイメージと違うようで」
桃華「撮影がなかなか進みませんの……」
桃華「なぜですの? 完璧にこなしたはずなのに」
薫「かおるたちもね、ももかちゃんの演技見たけど何もわるいところが見つからないんだー……」
泰葉「うーん……良いのがよくないのかな?」
桃華「と、申しますと?」
泰葉「子役に求められる演技ってね、またちょっと違うんだ」
泰葉「桃華ちゃんはしっかり者だから、もう少し子供っぽさを出してみた方がいいのかもね」
桃華「こ、子供らしさ……。なるほど、レディーであるが故の障害ですわね……」
泰葉「……それか」
桃華「?」
11:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 01:05:45.63 ID:9w2QCgJE0
泰葉「本当に全く何も言えなくなるほどの、完璧な演技を見せつけちゃうか」
泰葉「……これはとっても大変なことだけどね?」
桃華「……! わたくしならその程度、造作もありませんわ!」
泰葉「ふふっ、練習には付き合ってあげるから」
桃華「それではまた後日、スケジュールを合わせて……」
小春「小春も泰葉ちゃんの授業受けたいです~♪」
薫「かおるもー! やすはせんせぇだね!」
泰葉「せ、先生……」
12:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 01:14:00.49 ID:9w2QCgJE0
桃華「では、先のお礼を兼ねまして……はい」
泰葉「これって……?」
薫「せーのっ!」
「「「泰葉ちゃん(さん)お誕生日おめでとうございまー!」す~♪」すわ!」
薫「これ、かおるのぶん!」
小春「これは小春とヒョウくんから~」
泰葉「わっ、ありがとう……(ヒョウくん?)」
桃華「それでは、わたくし達はレッスンがあるのでここで」シャナリ
薫「あのね! L.M.B.Gにみりあちゃんとになちゃんが入ったんだー!」バイバイ
小春「たくさん頑張らなきゃ~」バイバイ
泰葉「頑張ってね」バイバイ
ヒョウくん「…………」
泰葉「……?」
ヒョウさん「プロデューサーならそろそろオフィスに戻ってるぜ」
泰葉「!?!?!?」
ノソノソ・・・
13:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 01:18:19.35 ID:9w2QCgJE0
泰葉「アレは一体……」テクテク
泰葉「紙袋からいい香り……紅茶かな?」テクテク
ペシィンッ
悠貴「こいこいですっ!」
周子「うっわ、結構チャレンジャーだね……」
悠貴「まだまだ負けませんよっ」
周子「そんじゃ、ほいっと。あがりで」
悠貴「ああ~っ!」
14:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 01:23:07.44 ID:9w2QCgJE0
泰葉「おはようございます」ヒョコッ
周子「おっつー」
悠貴「わぁ泰葉さん! おつくらさまですっ……あう」
周子「乙倉様?」
悠貴「自己紹介のクセで……」
泰葉「ふふっ……花札ですか?」
周子「お金は賭けてないよん」
悠貴「周子さんすっごく強いんですよっ!」
周子「キャシーにはメッタメタにされたけどねー」
15:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 01:26:39.52 ID:9w2QCgJE0
悠貴「泰葉さんカタキとってくださいっ!」
周子「ふふーん、元シンデレラガールのあたしに勝てるもんか」
泰葉「試してみます? 私だって芸歴[ピーー]年ですよ」
16:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 01:32:20.36 ID:9w2QCgJE0
周子「あっさり負けちった」
悠貴「やったーっ! やりましたーっ!」ピョイピョイ
泰葉「なんとかって感じですけどね」
周子「そんじゃ、勝った泰葉にはゴホービのー……ほい」
泰葉「……?(高そうな箱……)」
周子「ウチの実家のいっちばんイイやつ。誕生日祝いってことで」
悠貴「これは私からっ! 泰葉さんお誕生日おめでとうございますっ!」
泰葉「ありがとうございます……もしかしてわざと負けました?」
周子「さあ? どうだろうねー」
周子「あ、次の機会があったらダーツで勝負ね」
泰葉「わざとではないみたいですね、ふふっ」
17:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 01:35:01.50 ID:9w2QCgJE0
悠貴「それとこれも……はいっ!」
泰葉「花火……?」
悠貴「夏ですからっ!」
周子「ちょうど雨も止んだみたいだしね」
泰葉「そうですか、ありがとうございます……折角ですからこれから一緒に」
周子「プロデューサーならそろそろ仕事終わる頃じゃない?」
悠貴「あ、そうですねっ!」
泰葉「はあ……」
18:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 01:40:50.34 ID:9w2QCgJE0
――――――事務所オフィス
泰葉「Pさん」
P「ん、泰葉。お帰り」
泰葉「皆、教えてくれましたよ。Pさんの所にって」
P「はは、そうか。正確にゃ夜遅くからラジオ局に向かわなきゃならないが……」
プルル・・・
カチ
P「メール……『週末ですしお構いなく』ってさ」
泰葉「本当にそれだけですか?」
P「……花火でもするかぁ」
19:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 01:44:48.34 ID:9w2QCgJE0
――――事務所そば、公園
ボボッ・・・
パチパチパチパチ・・・
泰葉「……結構長く続きますね、線香花火」
P「そうだな」ハナゴエ
泰葉「……息止めてません?」
P「いいや」ハナゴエ
泰葉「匂い、独特ですよね」
P「あ、やっぱりそう思う?」プハッ
泰葉「包み隠さず言っていいですよ? それも、素敵なことだと思うから」
20:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 01:51:19.04 ID:9w2QCgJE0
パチパチパチ・・・
泰葉「皆さんに色々話しかけてもらって、色々頂いて……今日は素敵な日になりました」
P「桃華から凄い紅茶もらったろ?」
泰葉「はい……やっぱり紅茶だったんですね。まだ開けてなくて……」
P「アレな、俺の月収分くらいの値段するんだってさ。凄いよな」
泰葉「そ、そうなんですか? 大事に飲まないと」
P「いいや、気持ちってのはもっと豪快に受け止めてやるもんさ。な」
ボボ・・・フッ
P「おっ、消えた。完全燃焼か」
泰葉「ふふっ、Pさんらしいですね」
フッ・・・
泰葉「あ……」
P「泰葉もな」クス
21:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 01:54:30.78 ID:9w2QCgJE0
P「大したもんさ。子役やってモデルやって、ずっと忙しくて……それでもまだ、アイドルに挑んでる」
泰葉「私を引っ張ってくれたのはPさんですよ?」
P「俺はあくまで泰葉の意思に従うよ。その方が良いと思うから」
泰葉「そうですか? ……どんなお願いしちゃおうかなー」
P「マジ?」
泰葉「冗談です、ふふっ……今は」
22:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 02:02:41.61 ID:9w2QCgJE0
泰葉「アイドルって、結構何でもやるんですよね。着飾って、歌って、踊って……それだけじゃない」
P「ウチとか765さんの場合はな。専念する道もあるさ」
泰葉「いえ、いいんですそれで。今日もお芝居や服装のことを聞かれたりして……」
泰葉「これまでの私が無駄にならないのって、凄く嬉しくて」
P「そりゃよかった。俺もあれこれ仕事取ってきた甲斐がある。やっぱり、芸能活動続けてくれてるワケだしな」
泰葉「はい……。それにお友達や、姉妹みたいな存在も出来て」
23:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 02:08:42.27 ID:9w2QCgJE0
P「楽しそうでよかった……まだ、続けてくれるか?」
泰葉「もちろん、これからもずっと。毎日の喜びを分け合える限り」
P「まだまだこれからだからな! 曲も出したいし!」
P「よっしゃ! 花火開けるぞ花火! ヘビ花火出そうぜ!!」
泰葉「チョイス」
P「冗談だよう……。爆竹投げるか、長崎名物だろ?」
泰葉「長崎……そうですか」
P「精霊流しは見たことあるがありゃ凄いな! 第三次世界大戦だ」
泰葉「また物騒な……」
24:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 02:15:35.23 ID:9w2QCgJE0
ズダダダダダダダダダダダダダダ!!!!!
ナンジャァカチコミカァ!?
ジュウゲキセン!?・・・ナンダバクチクジャナイカ
イッタイナニガアッタノカオシエテチョウダイマナミドノ!
泰葉(この事務所はとっても騒がしくて)
泰葉(また怒濤のように沢山のプレゼントと、笑顔と、温かい言葉を貰いました)
泰葉(そして私も、誰かの誕生日になったら精一杯お祝いして)
泰葉(そうやって、誕生日ケーキみたいに幸せを分け合っていくんです)
泰葉(これからも……それが私の選んだ道だから)
おしまい
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1468594816/
アヤ「時間空いてるか? ちょっとでいいんだけどさ」
泰葉「ええ、この後はオフなので……」
アヤ「助かった! いやあ、ちょっと服のことでさあ……」
泰葉「服、ですか?」
アヤ「そうそう! で、アタシ今度格闘誌に載せてもらえることになったんだけどな?」
泰葉「それは…おめでとうございます」ニコ
アヤ「おう! で……『格闘女子』って触れ込みで載ることになったんだよな」
アヤ「そんで『なるべくガーリーな感じでお願いしまーす』なんて言われたはいいけど、アタシそんなの分かんないし……」
アヤ「泰葉ってモデルもやってたんだよな? 相談乗ってくれ、頼む!」
泰葉「なるほど……私でよければ」
アヤ「ありがと、助かった!」
3:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 00:18:03.89 ID:9w2QCgJE0
――――
泰葉「――折角ですからここも強調していく感じで…」
アヤ「お、おおう……アタシこんなの着て大丈夫か……?」
泰葉「もちろん。アイドルなんですから」
アヤ「そ、そうか? うん、そうだよな!」
こずえ「たのしみだねー…」
アヤ「ああ。ありがとな、泰葉」
泰葉「いえ、参考になれば」
アヤ「それと誕生日おめでとさん! これプレゼントな」
泰葉「……って?」
アヤ「こずえと選んだんだ。美味いぞ!」
泰葉「あ…ありがとうございます」
アヤ「プロデューサーなら今は資料室にいるから。そんじゃあな!」
こずえ「またねー」バイバイ
泰葉「は、はあ……」フリフリ
4:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 00:21:39.01 ID:9w2QCgJE0
泰葉「……?」テクテク
ギャーワー
清美「もー! いい加減出てきてくださいよ!」グイグイ
乃々「てこでも動きませんけど……!」
清美「特番に穴を開けるつもりですかぁ……!!」グイグイ
乃々「放っといてぇー……!」グググ
5:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 00:27:18.69 ID:9w2QCgJE0
泰葉「どうしたんですか?」
清美「ああ助かった! ほら乃々さん、泰葉さんですよ!」
乃々「いーやぁー……」
清美「乃々さんってば、『CD収録したんだからこれ以上は勘弁して』って頑として動いてくれないんです!」
清美「CD出すからこそ仕事が増えるんでしょうが……!」グググ
乃々「一生分やり尽くしたんですけどぉ……!!」グギギ
泰葉「……」フム・・・
6:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 00:36:21.02 ID:9w2QCgJE0
泰葉「乃々さん」
乃々「うう……」チラ
泰葉「お仕事、楽しくないですか?」
乃々「い、いえ……そういうワケでは……」
乃々「ただ……いくらなんでも責任が重すぎて……」
泰葉「……たとえば、一人だけが見ているのなら頑張れる?」
乃々「そ、それくらいなら……なんとか」ゴニョゴニョ
泰葉「じゃあその誰か一人を思い浮かべて、その一人のために頑張ってみて」
泰葉「そしたら自然と、そうやってリラックスしてる乃々さんのことを、乃々さんのことを好きな皆が見てくれるから」
乃々「うぅ……」
7:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 00:42:56.04 ID:9w2QCgJE0
乃々「い、行ってきます……」ヒョコリ
清美「そ、そうですか……それならよかった」
泰葉「それに、緊張してるくらいでいいかもね。そういう所も好かれてるんだから」
乃々「あう……。あ、それと岡崎さん誕生日おめでとうございます……これ」
清美「私からも。伊達眼鏡にこだわりがあるということだったので!」
泰葉「わ、ありがとうございます……こだわり?」
清美「え? だって春菜さんが……」
泰葉「ああ、そういう……ふふっ、ありがとうございます」
清美「さ、乃々さん! ついて行ってあげますから!」
乃々「や、やっぱりもりくぼはぁ…………」
清美「ダメです行きましょうー! じゃあすみません、私達はこれで!」
泰葉「行ってらっしゃい」ニコ
清美「それと、プロデューサーさんなら資料室だと思いますよー!」
泰葉「は、はぁ……」
8:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 00:48:28.96 ID:9w2QCgJE0
泰葉「乃々さんのプレゼント……後にしておこう」テクテク
ウーンウーン
桃華「台本の通りに進んだ筈なのに……」
薫「うーんと、うーんと……」
小春「一体どうしたらいいんでしょう~?」
9:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 00:52:44.85 ID:9w2QCgJE0
泰葉「どうしたの?」
桃華「あら、泰葉さん」
薫「あのね、ももかちゃんがドラマですっごく困ってるんだってー!」
小春「小春たちでがんばって考えてるんですけど~……」
泰葉「どのシーン? 力になれるといいけど……」
桃華「いえ、どのシーンと言いますか……」
10:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 00:59:44.15 ID:9w2QCgJE0
泰葉「――どうも監督さんのイメージと違うようで」
桃華「撮影がなかなか進みませんの……」
桃華「なぜですの? 完璧にこなしたはずなのに」
薫「かおるたちもね、ももかちゃんの演技見たけど何もわるいところが見つからないんだー……」
泰葉「うーん……良いのがよくないのかな?」
桃華「と、申しますと?」
泰葉「子役に求められる演技ってね、またちょっと違うんだ」
泰葉「桃華ちゃんはしっかり者だから、もう少し子供っぽさを出してみた方がいいのかもね」
桃華「こ、子供らしさ……。なるほど、レディーであるが故の障害ですわね……」
泰葉「……それか」
桃華「?」
11:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 01:05:45.63 ID:9w2QCgJE0
泰葉「本当に全く何も言えなくなるほどの、完璧な演技を見せつけちゃうか」
泰葉「……これはとっても大変なことだけどね?」
桃華「……! わたくしならその程度、造作もありませんわ!」
泰葉「ふふっ、練習には付き合ってあげるから」
桃華「それではまた後日、スケジュールを合わせて……」
小春「小春も泰葉ちゃんの授業受けたいです~♪」
薫「かおるもー! やすはせんせぇだね!」
泰葉「せ、先生……」
12:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 01:14:00.49 ID:9w2QCgJE0
桃華「では、先のお礼を兼ねまして……はい」
泰葉「これって……?」
薫「せーのっ!」
「「「泰葉ちゃん(さん)お誕生日おめでとうございまー!」す~♪」すわ!」
薫「これ、かおるのぶん!」
小春「これは小春とヒョウくんから~」
泰葉「わっ、ありがとう……(ヒョウくん?)」
桃華「それでは、わたくし達はレッスンがあるのでここで」シャナリ
薫「あのね! L.M.B.Gにみりあちゃんとになちゃんが入ったんだー!」バイバイ
小春「たくさん頑張らなきゃ~」バイバイ
泰葉「頑張ってね」バイバイ
ヒョウくん「…………」
泰葉「……?」
ヒョウさん「プロデューサーならそろそろオフィスに戻ってるぜ」
泰葉「!?!?!?」
ノソノソ・・・
13:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 01:18:19.35 ID:9w2QCgJE0
泰葉「アレは一体……」テクテク
泰葉「紙袋からいい香り……紅茶かな?」テクテク
ペシィンッ
悠貴「こいこいですっ!」
周子「うっわ、結構チャレンジャーだね……」
悠貴「まだまだ負けませんよっ」
周子「そんじゃ、ほいっと。あがりで」
悠貴「ああ~っ!」
14:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 01:23:07.44 ID:9w2QCgJE0
泰葉「おはようございます」ヒョコッ
周子「おっつー」
悠貴「わぁ泰葉さん! おつくらさまですっ……あう」
周子「乙倉様?」
悠貴「自己紹介のクセで……」
泰葉「ふふっ……花札ですか?」
周子「お金は賭けてないよん」
悠貴「周子さんすっごく強いんですよっ!」
周子「キャシーにはメッタメタにされたけどねー」
15:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 01:26:39.52 ID:9w2QCgJE0
悠貴「泰葉さんカタキとってくださいっ!」
周子「ふふーん、元シンデレラガールのあたしに勝てるもんか」
泰葉「試してみます? 私だって芸歴[ピーー]年ですよ」
16:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 01:32:20.36 ID:9w2QCgJE0
周子「あっさり負けちった」
悠貴「やったーっ! やりましたーっ!」ピョイピョイ
泰葉「なんとかって感じですけどね」
周子「そんじゃ、勝った泰葉にはゴホービのー……ほい」
泰葉「……?(高そうな箱……)」
周子「ウチの実家のいっちばんイイやつ。誕生日祝いってことで」
悠貴「これは私からっ! 泰葉さんお誕生日おめでとうございますっ!」
泰葉「ありがとうございます……もしかしてわざと負けました?」
周子「さあ? どうだろうねー」
周子「あ、次の機会があったらダーツで勝負ね」
泰葉「わざとではないみたいですね、ふふっ」
17:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 01:35:01.50 ID:9w2QCgJE0
悠貴「それとこれも……はいっ!」
泰葉「花火……?」
悠貴「夏ですからっ!」
周子「ちょうど雨も止んだみたいだしね」
泰葉「そうですか、ありがとうございます……折角ですからこれから一緒に」
周子「プロデューサーならそろそろ仕事終わる頃じゃない?」
悠貴「あ、そうですねっ!」
泰葉「はあ……」
18:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 01:40:50.34 ID:9w2QCgJE0
――――――事務所オフィス
泰葉「Pさん」
P「ん、泰葉。お帰り」
泰葉「皆、教えてくれましたよ。Pさんの所にって」
P「はは、そうか。正確にゃ夜遅くからラジオ局に向かわなきゃならないが……」
プルル・・・
カチ
P「メール……『週末ですしお構いなく』ってさ」
泰葉「本当にそれだけですか?」
P「……花火でもするかぁ」
19:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 01:44:48.34 ID:9w2QCgJE0
――――事務所そば、公園
ボボッ・・・
パチパチパチパチ・・・
泰葉「……結構長く続きますね、線香花火」
P「そうだな」ハナゴエ
泰葉「……息止めてません?」
P「いいや」ハナゴエ
泰葉「匂い、独特ですよね」
P「あ、やっぱりそう思う?」プハッ
泰葉「包み隠さず言っていいですよ? それも、素敵なことだと思うから」
20:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 01:51:19.04 ID:9w2QCgJE0
パチパチパチ・・・
泰葉「皆さんに色々話しかけてもらって、色々頂いて……今日は素敵な日になりました」
P「桃華から凄い紅茶もらったろ?」
泰葉「はい……やっぱり紅茶だったんですね。まだ開けてなくて……」
P「アレな、俺の月収分くらいの値段するんだってさ。凄いよな」
泰葉「そ、そうなんですか? 大事に飲まないと」
P「いいや、気持ちってのはもっと豪快に受け止めてやるもんさ。な」
ボボ・・・フッ
P「おっ、消えた。完全燃焼か」
泰葉「ふふっ、Pさんらしいですね」
フッ・・・
泰葉「あ……」
P「泰葉もな」クス
21:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 01:54:30.78 ID:9w2QCgJE0
P「大したもんさ。子役やってモデルやって、ずっと忙しくて……それでもまだ、アイドルに挑んでる」
泰葉「私を引っ張ってくれたのはPさんですよ?」
P「俺はあくまで泰葉の意思に従うよ。その方が良いと思うから」
泰葉「そうですか? ……どんなお願いしちゃおうかなー」
P「マジ?」
泰葉「冗談です、ふふっ……今は」
22:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 02:02:41.61 ID:9w2QCgJE0
泰葉「アイドルって、結構何でもやるんですよね。着飾って、歌って、踊って……それだけじゃない」
P「ウチとか765さんの場合はな。専念する道もあるさ」
泰葉「いえ、いいんですそれで。今日もお芝居や服装のことを聞かれたりして……」
泰葉「これまでの私が無駄にならないのって、凄く嬉しくて」
P「そりゃよかった。俺もあれこれ仕事取ってきた甲斐がある。やっぱり、芸能活動続けてくれてるワケだしな」
泰葉「はい……。それにお友達や、姉妹みたいな存在も出来て」
23:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 02:08:42.27 ID:9w2QCgJE0
P「楽しそうでよかった……まだ、続けてくれるか?」
泰葉「もちろん、これからもずっと。毎日の喜びを分け合える限り」
P「まだまだこれからだからな! 曲も出したいし!」
P「よっしゃ! 花火開けるぞ花火! ヘビ花火出そうぜ!!」
泰葉「チョイス」
P「冗談だよう……。爆竹投げるか、長崎名物だろ?」
泰葉「長崎……そうですか」
P「精霊流しは見たことあるがありゃ凄いな! 第三次世界大戦だ」
泰葉「また物騒な……」
24:以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします 2016/07/16(土) 02:15:35.23 ID:9w2QCgJE0
ズダダダダダダダダダダダダダダ!!!!!
ナンジャァカチコミカァ!?
ジュウゲキセン!?・・・ナンダバクチクジャナイカ
イッタイナニガアッタノカオシエテチョウダイマナミドノ!
泰葉(この事務所はとっても騒がしくて)
泰葉(また怒濤のように沢山のプレゼントと、笑顔と、温かい言葉を貰いました)
泰葉(そして私も、誰かの誕生日になったら精一杯お祝いして)
泰葉(そうやって、誕生日ケーキみたいに幸せを分け合っていくんです)
泰葉(これからも……それが私の選んだ道だから)
おしまい
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1468594816/
Entry ⇒ 2016.07.16 | Category ⇒ アイドルマスター | Comments (0) | Trackbacks (0)
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